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元麻布春男の週刊PCホットライン

2HD FDに32MB記録できる新スーパーディスクドライブ


●初めてのビッグサイト

 正直に言おう。筆者は東京ビッグサイトに行ったのはこれが初めてだ。幕張メッセには、たぶんこの5年くらい行ったことがない。カンファレンスのような説明を聞くイベントには参加するものの、こうした大規模な展示場で行なわれる展示会には、あまり足が向かなくなってしまった。もちろん、それは展示会が意味がないと考えているからではない。実際、大きな展示会に行けば、何かしら原稿のネタになるような目新しいものは必ずあるのだが、人の多さで疲れてしまうこと、あまりに人が多くてブースの担当者にゆっくり話を聞くこともできないことから、ついさぼってしまいがちになる。

 にもかかわらず、今回WORLD PC EXPO 2000に出かけることにしたのは、事前に話を聞く約束ができたから。それは新しいスーパーディスクドライブに関する話だ。このコラムを読んでいる人なら、筆者がスーパーディスクのヘビーユーザーであることはご存知だろう。筆者の周りにあるPCのほとんどに、第2世代のスーパーディスクドライブがインストールされている。だが筆者自身は、ドライブの製造・開発元である松下寿電子工業の方とは、これまで全く面識がなかった。今回、WORLD PC EXPO 2000に合わせて上京されるということで、会場でお話をうかがう、ということになったのである。

●240MB記録の新スーパーディスクドライブ

 新しいスーパーディスク(今のところ“スーパーディスク 240MB”というミもフタもないような名称で呼ばれているようだ)の特徴は、レーザーサーボを用いた専用メディアの記録容量を、これまでの倍の240MBに引き上げたこと、2HDメディア(通常フォーマット容量1.44MB)に32MBの記録を可能にする技術(「FD32MB」と呼ばれる)を採用すること、の2点だ。スーパーディスクメディアの容量増大は、現在ほとんどのハードディスクに搭載されているPRMLリードチャネルを用いることで実現した。したがって、トラック密度、トラック数等は既存の120MBメディアと同じ。線記録密度のみが向上することになる。

 一方FD32MBの方は、発想を転換し、いくつかの工夫をすることで実現した。最もキーとなるアイデアは、「重ね書き」によるトラック密度の向上だ。従来の1.44MBフロッピーは、187.5μmのトラックピッチで、80本のトラックをフォーマットする。FD32MBでは、幅125μmの2HD用のヘッドで書き込むことは同じだが、トラックを18.8μmづつずらしながら書き込むことで、777トラックを実現する。もちろん、125μmのヘッドを18.8μmしかずらさないということは、すでに書き込んだトラックは、18.8μmを残して上書きされてしまう、ということになる(それでも前のトラックは18.8μmだけは残る)。

 普通のフロッピーディスクドライブ(2HDのドライブ)では、18.8μmのトラックを正常に読み出すことはできない。しかし、スーパーディスクドライブには、120MB/240MBメディアの読出しに使う幅8μmのヘッドがある。つまり、2HDメディアにずらし書きで生成された18.8μmのトラックを、本来は2HDメディアには用いない120MB/240MBメディア用のヘッドで読もう、というのがFD32MBのコアとなるアイデアだ。

重ね書きの原理

 これに、240MB対応ドライブに搭載されるPRMLリードチャネルと、これまたハードディスクでは当たり前になっているゾーン記録(内周と外周でトラックあたりのセクタ数を変えることで、効率的に記録する方式)を組み合わせるというのが、1.44MBのメディアに32MBを詰め込める秘密である(スーパーディスク側のヘッドやリードチャネルを使うため、一般のFDDのCRCエラーチェックではなく、スーパーディスクに使用されているECCによるエラー訂正が採用できるというメリットもある)。もう1つFD32MBでは、信頼性を向上させるために、最外周に偏芯量を検出するサーボトラックを用いる(120MB/240MBメディアで利用できるレーザーサーボは、2HDメディアでは使えない)。これにより、フォーマットしたドライブとは異なるドライブでの利用についても、互換性が保証されるとのことだ。

●FD32MBは追記のみ

 これまで1.44MBしか書き込めなかったメディアに32MB書き込めるというのだから、FD32MBは何だか魔法のような技術のように思えてくるが、もちろんトレードオフが存在する。まず当たり前だが、FD32MBを用いたメディアは、既存のフロッピードライブでは読み出せない。それどころか、逆に何の工夫もしなければ、未フォーマットのメディアとしか認識されない。これでは誤ってフォーマットしてしまう事故が起こってしまう。

 これを防止するためFD32MBでは、OSが2HDメディアのFATやディレクトリエントリを読む部分に、2HD互換のMFM記録のトラックを残してある。そこには「FD32MB」というボリュームネームが書かれており、実際の記録量にかかわらず、すべてのセクタが記録済みという情報が書かれている。つまり、FD32MBのメディアを既存のフロッピードライブで読ませると、読み出せるデータは何も存在しないにもかかわらず、FD32MBというボリューム名が認識され、書きこもうとすると、ディスクフルのエラーが返ってくる(これをオーバーライドして、1.44MBでフォーマットしてしまうのはユーザーの責任、あるいは自由である)。

 もう1つ、FD32MBを使う上で知っていなければならないのは、記録は追記のみ可能である、ということだ。これは書き込みに幅125μm、読み出しに幅8μmのヘッドを使う以上はやむを得ないこと。以前に書き込んだデータを消去したり、書き換えたりすると、目的のセクタがある部分以外のトラック(書き換えてはならないデータ)まで書き換えられてしまう。したがって、データを追加していくことは可能だし、すべてのデータを破棄すること(再フォーマットすること)は可能だが、すでに書き込んだデータの一部だけ消去することはできない(パケットライトのCD-Rのように、消したことにすることは可能。つまりデータを消去してもメディアの空き容量は増えない)。こうした管理を行なうため、FD32MBの利用にはハード(ドライブ)に加え書き込み用ソフトウェアおよびデバイスドライバが必要になる(現時点でサポートされる予定なのはWindows 95/98/Me/2000およびMac OS)。

 今までのフロッピーに32MB書けると聞いたのに追記だけか、と思った人もいるかもしれない。確かにそれはその通りだ。何事もそううまい話ばかりではない。が、追記だけというのは、それほど大きなマイナスだろうか。追記方式のCD-Rがこれだけ普及している、ということは別にしても、筆者は追記のみということは、それほど大きなマイナスではないと考える。

 その理由の1つは、現在のフロッピーディスクの使われ方だ。昔は、ハードディスクを内蔵しないパソコンというものが存在した。この当時は、フロッピーディスクに対して、ランダムに書き込めることは重要だった。しかし、今やハードディスクを内蔵しないPCなど考えられない。フロッピーディスクに書き込むデータは、基本的にハードディスク上にあるデータのコピーである。1度フロッピーに書き込んだデータを、プログラム(エディタ等)から直接書きかえるということは、意外と少ないものだ(例外は起動ディスクだろうが、それには120MB/240MBメディアを使えば良い)。書き換えるのはハードディスク上のデータであり、フロッピーにはそのデータをまたコピーする、という使い方が多いハズだ。それなら追記でも大きな問題はない。

 しかも、2HDフロッピーディスクというメディアは極めて安価なメディアだ。場合によっては、引き出し等に眠っているメディアのリサイクルで用が足りるかもしれない。これならメディアはタダということになる。これもコマゴマとした書き換えの減少につながっているのではないだろうか。

 もう1つは、データの質だ。一般のユーザーにとって2HDフロッピーの容量を超えるようなデータは、画像、音楽、動画、中でも音楽や動画のようなストリーミングデータが大半ではなかろうか。連載100回をはるかに超えるこのコラムにしても、テキストデータだけなら全部合わせても1MBにも満たない。たかだか740KB程度である。32MBというサイズは、本格的な動画には全く不足するが、静止画や音楽、特にMP3ファイル等を書き込んで持ち運ぶには、まぁ使えるサイズだといえる。容量の点から、再利用の用途がなく、引き出しに眠っているメディアの再利用なら文句はないと思う。

●サンプル出荷は11月から

 この新しいスーパーディスクドライブは、今年の11月からOEM向けにサンプル出荷が始まる予定だ。これはATA/ATAPIインターフェイスに準拠したもの(LKM-FH34-5)で、薄型タイプ(12.7mm厚)のみが用意される(一般的なPCの内蔵用にはマウントアダプタ等で対応することになる)。スピンドル回転数はすべてのメディアについて1,500rpmで、第2世代スーパーディスクの1,440rpmに対し、わずかに高速になっているだけだが、既存のフロッピーとの互換性を考えると、これが限界のようだ。気になるドライブ価格は従来のものとほぼ同等になるものと見られている。

 この他、インターフェイスにUSBを採用した外付ユニットの販売も予定されている。低価格化のために、ドライブ基板上にATA/ATAPIインターフェイスをUSBに変換するブリッジチップ(テールゲート)を実装するため、用いるドライブユニットはLKM-FH34-5とは多少異なるものになるようだ。また、インターフェイスの最大データ転送速度の制限から、240MBメディアについてのみ、回転数を750rpmに落とすことになる(そうしないと回転待ちでかえって遅くなる)ようだが、この制約はUSB 2.0対応をする時点で解消されるだろう。外付タイプの価格は、現行製品と同じか、若干安くなる見こみとのことであった。

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【10月16日】松下、2HD FDで32MB記録できる次世代スーパーディスクドライブ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001016/pana.htm

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(2000年10月18日)

[Text by 元麻布春男]


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