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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelの2001年モバイル戦略
Intel、フランク・スピンドラー副社長兼事業部長インタビュー(後編)

 パフォーマンスを急激に伸ばすIntelのモバイルプロセッサ。その最新動向を、Intelのフランク・スピンドラー副社長兼事業部長(Intel Architecture Group, Mobile Platforms Group)にうかがった。そのインタビュー内容を2回にわけてレポートする。前編と併せてご覧いただきたい。


●オーバー1GHzは0.13μm技術で投入

[Q] IDFでは、来年前半に1GHz版のモバイルPentium IIIを出す計画が説明された。この製品のプロセス技術は0.18μmなのか0.13μmなのか。

[A] 我々は、どの製品でどのプロセス技術を使うかは説明しないが、0.18μmと0.13μmの両方(の製品)を見ることになるだろう。

[Q] 0.13μmは来年のいつ頃投入されるのか。

[A] モバイルへの0.13μm技術の導入は来年の中頃だ。過去2世代、新プロセス技術はモバイルで最初に導入されてきた。それを考えると、我々(モバイル部門)が先行するという可能性は高い。基本的には、GHz以上の製品はこのプロセス技術になると思ってもらってもいい。

[Q] ということは0.18μmの1GHz版は来年前半の早いうちということか。

[A] いや、時期は言えない(笑)。まあ、ありえるだろう。

[Q] モバイルPentium 4の計画はどうなっているのか。

[A] Pentium 4はモバイルユーザーにも利益をもたらすと考えている。しかし、我々はパフォーマンスのためにモビリティを犠牲にはしたくない。パフォーマンスとモビリティを両立させることが重要だと考えている。だから、この秋にPentium 4をモバイル向けに発表したりしない。モビリティが犠牲になるからだ。モバイルPentium 4は今のプロセステクノロジではないだろう、何が起こるにしても、次世代プロセステクノロジになってからだ。

[Q] Intelのグラフィックス統合CPU「Timna(ティムナ)」は消費電力も比較的小さい。モバイル向けにTimnaを投入する計画はないのか。

[A] 特定のプランはまだ発表していないが、基本的には統合化はモバイルでは非常に理にかなっている。統合化は低消費電力をもたらすから、我々にとって選択肢のひとつであることは確かだ。ただし、ノートPCに導入するには、液晶ディスプレイインターフェイスなどのモバイルに必要な機能をサポートしていることが前提になる。


●性能を上げてもノートPCのサイズは増大させない

[Q] PCメーカーからIntelのハイエンドモバイルCPUのThermal Design Power(熱設計電力:TDP)では年内に20W、来年前半には25Wに上がると聞いた。モバイルPentium IIIのTDPは今年前半は16Wだった。これでは、ノートPCはどんどん大きく厚くなってしまうのではないのか。

[A] その心配はない。我々は、ノートPCのサイズやフォームファクタを魅力的に保つことが重要だと認識している。そのため、熱設計に取り組む時は、ノートPCのサイズを増大させないことを目標としている。つまり、特定のフォームファクタの枠内で、どれだけの熱設計ができるかを考えている。

 例えば、シン&ライトノートPC(日本の薄型A4ノートPCクラス)なら、一定の薄さで、13~14インチディスプレイ、HDD、それにもう1基のドライブを備える場合もあるシステムで、熱設計はどうできるかを考える。そして、そのシステムで可能なサーマルエンベロープ(熱設計範囲)のロードマップを作っている。今、シン&ライトノートPCでは、技術的に、20Wレベルの熱設計も十分対応できるようになっている。だから、20Wをサポートするロードマップをシン&ライトノートPC用に作っている。同様に、フルサイズノートPC用に別のサーマルエンベロープを、ウルトラポータブルPC(日本のB5ノートPCクラスやそれ以下のサイズのPC)向けにはまた別のエンベロープを設定している。

 サーマルテクノロジは、相当進歩してきているので、このエンベロープは上がっている。例えば、昔はフルサイズのノートPCでさえ、5~6Wの熱設計しかできなかった。しかし、今はウルトラポータブルPCでも10W程度をサポートできる。

[Q] Intelは、増えた熱設計の余裕を全てパフォーマンスアップに使ってしまう。エンドユーザーにとってノートPCでこれからもパフォーマンスが重要になり続けると考えているのか。

[A] この質問は昔からある。私は、18年Intelにつとめているが、「286で十分早いのに386が必要なのか」といった具合に、CPUの世代が交代するたびに同じ質問が繰り返されて来た。しかし、CPUのパフォーマンスがどんどん発達すると、ソフトウェアはそれにつれて進化する。暗号処理、画像圧縮、音声認識、手書き認識、リッチコンテンツ……、CPUが進化すると、ユーザーの欲求は上昇する。だから、もっとパフォーマンスが必要だ。

 我々は、何年もマーケットリサーチやサーベイを重ねて、フィードバックを得て来た。それによれば、ノートPCでもパフォーマンスが問題という意見が多かった。これまでは、ノートPCのパフォーマンスはデスクトップPCに数年遅れていたからだ。我々は、人々はノートPCでもデスクトップPCと同じ能力が欲しいのだと考えている。私自身が、386ノートと486デスクトップを持っていった時は、ノートPCを使うのはいらいらするものだった。しかし、今は(ノートPCの性能が上がったので)、ユーザーはノートPCだけで、デスクトップPCと同じ環境を得ることができる。

 たぶん、3年後にはあなたは1GHzは必要だが、2GHzまでは必要ないと言っているだろう(笑)。


●ノートPCの消費電力でCPUが占める割合は10%以下

[Q] CPUの低消費電力化だけでなく、周辺デバイスを含めた消費電力化が必要だとIDFでは言っていたが、具体的にはどう活動しているのか。

[A] 我々は、APMやACPIなどのスペックの策定で活動してきた。また、'97年以来、Mobile Power Initiativeを主催しており、ノートPCのそれぞれのサブシステムごとに消費電力の目標を決めて働きかけてきた。例えば、グラフィックスサブシステムについては、グラフィックスチップベンダーに、モビリティの重要性を訴え、最新のプロセス技術の採用や、電力消費の効率化のテクニックなどで助けてきた。その結果、現在、多くのデバイスがすでに消費電力を上げずに、性能を上げることを達成している。

 我々は、こうした活動を続けてゆく。それは、多くのノートPCでは、すでにCPUの平均消費電力(Average Power Consumption:一般的なアプリケーションを使っている場合の消費電力の平均値)は、システム全体の平均消費電力の10%以下に過ぎないからだ。つまり、CPUの消費電力をゼロにしても、バッテリ駆動時間はもう10%以下しか伸びないのだ。

 とはいえ、ノートPC全体の平均消費電力を下げるには、まだまだかなりの努力が必要だ。例えば、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアにも効率のよい電力消費を意識してもらう必要がある。そのために、パワーモニタリングツールを開発して、ソフトウェアベンダーに提供している。また、バッテリ技術の進歩も必要だ。バッテリは年10%程度づつ改善されている。今回のIDFでは、バッテリの残量を正確に探知する技術を発表した。これにより、充電量がまだ30%も残っているのに、シャットダウンしてしまうようなロスをなくす。

 このようにやることは、まだいろいろあり、成果は上がってきている。ここ数年でバッテリ駆動時間は改善されている。例えば、ソニーは5時間駆動が可能なノートPCを発表している。

[Q] PCメーカーの間にはCeleronでもSpeedStepを望む声がある。実際にAMDはモバイルDuronでSpeedStepと似たような電圧制御の技術を導入している。CeleronにSpeedStepの計画はないのか。

[A] 今のところそのような計画はない。モバイルCeleronは、(Pentium IIIと同様に)、非常に電力消費が低い。平均消費電力は、多くが2W程度だ。

[Q] モバイルCeleronで1.1V駆動のウルトラ低消費電力版は出さないのか。

[A] 我々にはいろんな選択肢がある。それについては、次に来日したときにまた話をしよう。


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(2000年9月11日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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