●IntelはノートPCと非PCデバイスの両方に向けて低消費電力CPUを研究
[Q] IDFでアルバート・ユー副社長は「プロセッサの消費電力を下げるための、新しいグループを編成した」と語った。このグループについてもう少し教えて欲しい。
[A] まず、Intel Architectureグループの中に、ローパワー(低消費電力)グループが存在する。このグループは、どうやってIntelアーキテクチャとIntel製品を、アプライアンス的なデバイスに適用できるかを研究するのが役目だ。アプライアンス的というのは、PCではないカテゴリのデバイスで、低消費電力でバッテリ駆動時間が重要となるタイプのデバイスを含む。例えば、携帯インターネット端末やポータブルウエアのようなものだ。これらのデバイスはPCの機能こそ持たないが、Intelアーキテクチャが意味を持つ。それは、インターネット上での(ストリーミングなどの)プレーヤー技術は、Intelアーキテクチャでよく動くからだ。ローパワーグループは、こうしたカテゴリのデバイス向けの、Intelプロセッサの派生品を研究するだけでなく、新しいプロセッサに関するもっと長期的な開発も行なっている。
それとは別に、われわれは、モバイルグループの中で、モビリティセグメント(モバイル利用が主体のノートPC)をターゲットにした新しいプログラムを始めている。このプログラムでは、われわれは、PCの機能を持ったデバイスにフォーカスしている。ウルトラポータブルPC(日本のB5ノートPCクラスやそれ以下のサイズのPC)のようなノートも、このプログラムのターゲットに含まれている。モバイルグループは、Intel Architectureグループの中で、モバイル製品の開発から、プラットフォーム設計や熱設計、マーケティングやビジネスも行なっている。
[Q] では、今後、IntelはノートPC向けの低消費電力製品に注力すると考えていいのか
[A] 低消費電力は、Intelにとって重要だと受け止めている。それは、何年もモバイルPCがPC全体より早く成長しているからだ。とくにここ2年は非常に急成長した。そこで、モビリティを犠牲にしないで機能とパフォーマンスのコンビネーションを提供するのが重要と考えている。より性能が高く多機能な製品が、最小のノートPCにも入れられるように、低消費電力の製品を開発し続ける必要があると感じている。
Intelは、この10年間、低消費電力化について業界のイニシアチブを取ってきた。部品レベルだけでなく、システムレベルで消費電力を下げる努力をしている。SpeedStepのように、CPUを低消費電力にするテクニックをいくつも開発してきた。その結果、今では平均消費電力(Average Power Consumption:一般的なアプリケーションを使っている場合の消費電力の平均値)で1W以下を達成している。我々のプロセッサの消費電力は、そこまで下がっているのだ。Intelは、低消費電力化は非常に重要だし、特にこれからはますます重要になっていくと認識している。だから、開発もそこにフォーカスしている。
モバイル市場では、製品の多様化も重要だ。現在の状況は、モバイル市場が成長するとともに、様々なタイプのデバイスが出てきている。その中にはフルサイズのノートPCもあるしA4タイプのノートPCもあるが、Thin and LightノートPC(日本の薄型A4ノートPCクラス)もウルトラポータブルPCも成長している。そのため、我々の製品ラインや製品開発でも、異なる製品カテゴリにあわせて異なるロードマップを用意している。1kgや1.5kgのデバイスにも製品を最適化する。各ノートPCのセグメントで、パフォーマンスや機能とモビリティとの間にベストバランスを提供しようとしている。
●IntelモバイルCPUでファンレスの設計も可能
[Q] IntelがCPUの平均消費電力を下げてきたことはよくわかっている。しかし、今の問題は平均消費電力よりむしろThermal Design Power(熱設計電力:TDP)ではないのか。例えば、低電圧版モバイルPentium III 600MHzは,バッテリ駆動時にはTDPが5.4W(典型値)だが、AC電源時にはTDPが9.5Wにまで上がってしまう。そのため、PCメーカーは、熱設計で苦労しなければならない。薄型でファンのないノートPCを作りにくくなっている。1.1V駆動だけのバージョンを出す予定はないのか。
[A] B5サイズのノートPCでは、(ノートPCメーカーの)熱設計技術がここ数年向上してきたために、最小のノートPCでも10W程度のTDPに対応できるようになっている。我々は、それにあわせてプロセッサを提供している。その上で、平均消費電力を急激に減らしている。だから、最小のタイプのデバイスでも、快適な利用ができるはずだ。
冷却ファンについてだが、これは、(低電圧版Pentium IIIの)バッテリオプティマイズモードでは不要にできる。技術的に難しいことではない。AC電源時にはファンが動いていても、バッテリ駆動時には動かない設計にすることができる。また、メーカーによっては、ファンのないノートPCを我々のプロセッサを使って開発しているようだ。これは、技術的に十分可能だ。
あなたが言ったようなタイプ(1.1V駆動だけのCPU)は、われわれも検討はしている。将来のロードマップではあるかもしれない。というのは、(1.1V駆動だけにするのは)我々にとって何も技術的には問題がないからだ。すでに1.1Vでプロセッサが動作しているのだから。我々はそうした選択肢も持っていおり、常に異なるセグメントの異なる要求を検討して、そのニーズに答えられるようにしていく。
[Q] Intelは低TDPが必要な分野へもモバイルCPUを伸ばしていくと考えていいのか。
[A] まだ詳細を話せる段階にはないが、技術的には簡単にサポートできる。
●Crusoeに対しては性能とモビリティの両立で勝る
[Q] ノートPCメーカーの中には、TransmetaのCrusoeを使ったノートPCを出そうとしているところがかなりある。この動きはどう受け止めるのか。
[A] これまでのPCの歴史を振り返ると、ユーザーはたとえウルトラポータブルであっても最新のパフォーマンスレベルを欲しがってきた。実際、モバイルPentium IIIを出したら、多くのメーカーがウルトラポータブルに搭載してきた。パフォーマンスとモビリティの両方を提供することが重要だ。
我々は、ウルトラポータブルのカテゴリを含めてすべてのセグメントでベストなテクノロジを提供している。なぜなら、われわれのプロセッサの平均消費電力は1W以下なので、消費電力なら他のどの製品とも完全に競争力を持っている。そして、Intelのプロセッサを使えば、その低消費電力と500MHz以上のPentium IIIのパフォーマンスを同時に得ることができる。我々の製品がベストソリューションを提供できているのは明らかだが、他の(メーカーの)製品がベストソリューションを提供できているわけではない。
[Q] Crusoeでは、CPUの負荷に応じて電圧とクロックを動的に多段階に切り替えるLongRunという技術を使っている。対するIntelのSpeedStepは、2つのモードを切り替えられるだけだ。なぜSpeedStepでは多段階の周波数の切り替えをサポートしないのか。
[A] まず、パフォーマンスを見て欲しい。我々の技術は最低の電圧は1.1Vで、この電圧で500MHzで動作させることができる。ところが、他の技術ではこの程度の電圧にまで落とすと、プロセッサを劇的に低速にしなければならない。同じ低電圧駆動でも、その際の性能は異なる。
それから、重要なのは、どうやって平均消費電力を下げるかということだ。我々のプロセッサは、非常に電力消費が小さいQuickStartモードを持っている。QuickStartモードへの切り替えは高速なので、パワーマネージメントでプロセッサが使われていない時は自動的にQuickStartに移行して消費電力をどんどん下げることができる。我々は、これが消費電力を最適化する最上の方法だと思っている。
つまり、1W以下の平均消費電力と500MHzのパフォーマンスの両方を、我々はすでに提供している。ここからCPUをさらにスローダウンさせても、バッテリ駆動時間を伸ばすうえではあまり利益がないと判断した。非常に重要なのは、ユーザーが機能やレスポンスを犠牲にしないですむことだ。
[Q] だがXScaleではLongRunと同じような、CPUの負荷に応じてクロックと電圧を他段階に変えるテクノロジを採用している。
[A] Intelは、業界で最初にダイナミックにプロセッサの電圧とクロックを変える技術を開発した。SpeedStepはその最初のインプリメンテーションで、StrongARMグループはXScaleであなたが言うような別なインプリメンテーションを計画した。両グループのアプローチが異なるのは、OSの問題を初め、いくつかの異なるファクタがあるからだ。Pentium IIIでは1.1Vで500MHz駆動できるので、これ以上クロックを落としても利点はないと判断した。
(2000年9月8日)
[Reported by 後藤 弘茂]