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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelが2GHz版Pentium 4を大幅繰り上げで来春リリースへ


●2GHzを半年前倒しで投入

 先月の「Intel Developer Forum(IDF)」で、IntelはPentium 4(Willamette:ウイラメット)を2GHzで動作させるデモを行なった。デモ後のQ&Aセッションで、2GHz版の出荷時期を質問されたアルバート・ユー上級副社長兼ジェネラルマネージャ(Intel Architecture Group)は、「わからない」と答え2GHzはあくまで技術デモであることを強調した。ところが、それから3週間、Intelは2GHzを一気に前倒しして来春にリリースすると発表した。Pentium 4は1.5GHzで登場後、わずか半年で2GHzにまで駆け上ることになる。

 IntelのOEMメーカーからの情報によると、IntelはPentium 4のロードマップを顧客に説明、その中で来年第2四半期には2GHz以上のPentium 4をリリースすることを明らかにしたという。Pentium 4は、年内に1.4/1.5GHzで登場するが、2001年第1四半期には1.7GHzまでクロックが引き上げられ、第2四半期には2GHzを超えるらしい。

 このあいだPentium IIIで1GHzを達成したばかりなのにもう2GHz。なんだか頭がクラクラする話だが、Pentium 4は高クロック駆動に特化したアーキテクチャを持つので、2GHzのハードルも無理ではない。クリティカルパスを順調につぶし、ステッピングを上げてゆけば、0.18μm世代のWillametteで十分2GHzを達成できると思われる。なんと言っても、パイプラインの段数はPentium IIIの2倍なのだから、1ステージ当たりのゲートディレイの合計は半分になる。だったら、Pentium IIIの2倍のクロックを実現しても不思議はない。Pentium IIIは現時点で1GHzだから、1GHz×2=2GHzというわけだ。

 だが技術的に不可能ではなくても、やはりこの唐突な2GHzにはクエスチョンマークがつく。そもそもIntelは、オリジナルにはPentium 4のクロックを徐々に引き上げ、2001年第4四半期頃までに2GHzにするつもりだったと見られる。今年2月の「Intel Developer Forum(IDF)」で、IntelはWillametteの消費電力の推移チャートを示したが、そのデータからクロックを逆算すると年末までに1.9~2GHzとなっていた。PC開発者にこうした図を示しているのだから、Intelがこんなに早くPentium 4 2GHzを投入するつもりがなかったのは明らかだ。

 ところが、フタを開けてみたらいきなりの来春2GHz。2四半期はたっぷりスケジュールが繰り上がっている。さすがにPentium 4といえども半年で1.5GHzから2GHzへの引き上げは大変で、おそらく最初の2GHzは限定生産(=それほど個数が採れない)だろう。また、こうして一気にクロックを上げるより、段階的にクロックを引き上げた方が利益も上げやすい。Intelは、なにを焦っているのだろう?


●迫るPalominoに対抗か

 Intelが2GHzを急ぐのは、もちろんAthlonが迫っているからだ。AMDは、Athlonを現在の「Thunderbird(サンダーバード)」から、「Palomino(パロミノ)」へと世代交代させて性能向上を継続するつもりでいる。AMDは年内に1.3GHz台を達成すると説明しているが、そのペースでクロックが上がり続けるなら、2001年第1四半期には1.4GHz台、第2四半期には1.5GHz台を達成できることになる。実際、AMDのジェリー・サンダース会長は2001年頭に1.5GHzと宣言しているし、業界筋の情報でも来年前半に1.5GHzとAMDから説明を受けたと伝えている。Intelは、2GHzでこのAthlonの脅威に対抗しようとしていると推測される。

 Intelが、2GHz版Pentium 4を投入しようとしている理由は、数字のインパクトとAthlonを引き離すことだと思われる。1GHzレースではAMDに事実上敗北したIntelだが、2GHzなら当面AMDは追従できない。Athlonは、クロックの向上と、クロック当たりの性能の向上のバランスを取ったアーキテクチャだからだ。そのためIntelは、圧倒的なクロックの優位を顧客やエンドユーザーにアピールできる。

 また、Athlonとクロックのギャップを開くことで、IntelはクロックだけでなくパフォーマンスでもAthlonに対する優位を確実にできる。それは、Pentium 4とAthlonを比較すると、Pentium 4の方がクロック当たりの性能が低い可能性が高いからだ。Pentium 4は、高クロックにチューンされたアーキテクチャの性格上、どうしてもクロック当たりの性能は低くなってしまう。そのため、性能の優位を作るにはクロックで差を開かないとならない。Athlonとのクロック差が小さいと、ベンチマークテストでAthlonに迫られてしまう可能性があるのだ。もし、Pentium 4が来年前半に1.7GHzしか行かなかったとすると、Athlonとのクロックの差は200MHzになってしまう。しかし、2GHzなら500MHzまで差を広げられるからパフォーマンスでも楽勝だ。


●メインストリームでは依然としてAthlon対Pentium III

 Intelは常に全力で競争をする。今回の2GHz計画も、Intelがライバルに追いまくられて黙っている企業ではないことを明確に示している。どんな状況でも、攻められるポイント(今回はクロック)を見つけて、必ず攻めに出る。このあたりのバイタリティがIntelの強さの秘密だ。

 もっとも、IntelがPentium 4のクロックを引き上げる裏には、“それしか打つ手がない”という事情もある。それは、しばらくの間Pentium 4がデスクトップ市場のハイエンドに貼り付いてしまい、普及価格帯へ落とし込めないからだ。Pentium 4デスクトップは、おそらく2001年前半までは米国で2,000ドル以上の価格帯からほとんど降りてこないだろう。それは、低価格化が進んだ今のPC市場では、普通のエンドユーザーとは無縁の世界にとどまるということを意味する。

 Pentium 4システムの低価格化のカギは、2001年後半に登場するSDRAM系チップセット「Brookdale(ブルックデール)」と、0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)になる。Brookdaleによってメモリやマザーボードのコストが低減され、NorthwoodによってCPUコストと冷却機構などのコストが低減される。逆を言えば、Brookdale+Northwoodまでは、IntelはメインストリームPC市場をPentium IIIで戦わなければならない。これはきつい。

 というのは、AMDがPalominoの導入で、先ほど説明したようなAthlonの高クロック化を進めるからだ。0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)は、1.13GHz~1.2GHz程度が高クロックの限界だと見られる。だとすると、来年前半、IntelはメインストリームPC市場で、AMDに数百MHzのクロック差をつけられてしまう。Intelがハイエンドで2GHzを謳い、性能優位を見せつけなければならないのはこのためだ。


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(2000年9月5日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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