815/815Eの3Dグラフィックス性能を30%向上させるGPAカード |
Intel 815/815Eマザーボードが秋葉原の市場に登場してから2カ月ほどが経過している。皆が待ち望んでいたPC133 SDRAMサポートのIntel純正チップセットということで搭載マザーボードの売れ行きのほうも好調で、既にソケットタイプのPentium III/Celeronを利用するための標準チップセット的な地位を獲得したと言ってもいいだろう。このIntel 815/815Eの内蔵グラフィックスの3D描画性能を向上させるために利用されるGPAカードがメルコから発売され、先週末から秋葉原で流通し始めた。今回はGPAカードの有効性を検証してみよう。
●2段階の3D描画性能アップを期待できるIntel 815/815Eチップセット
Intel 815/815EのノースブリッジであるGMCH(Graphics Memory Controller Hub)は、Intel Graphics Technology(以下IGT)と呼ばれるグラフィックスコアを内蔵している。IGTとは、'99年にIntelが一度発表はしたものの、結局出荷を停止してお蔵入りになってしまったIntel 752というビデオチップのコアのことで、Intel 810/810Eなどにも内蔵されている。Intel 752はローカルフレームバッファ(ビデオの描画に利用するデータを一時的に展開する場所のこと)として、ビデオチップに直結されたビデオメモリを利用できるようになっていた。それに対し、Intel 810/810E/815/815Eに内蔵されているIGTは、ローカルのフレームバッファとして利用できるビデオメモリをサポートしておらず、フレームバッファとしてメインメモリの一部を利用するUMA(Unified Memory Architecture)やSMA(Shared Memory Architecture)と呼ばれる仕組みが採用されている。
ローカルなビデオメモリを持つ場合に比べて、UMAの場合は性能面で不利であるというのがこれまでの定説だった。例えば2D描画時にビデオチップは画面のリフレッシュを行なうたびにフレームバッファの内容を書き換えている。このため、メインメモリのピーク時バンド幅が十分ではない場合、ビデオのリフレッシュ作業の度に、メインメモリの帯域を消費し、システム全体としてのパフォーマンスは低下することになる。3D描画時はさらに大量のデータをメインメモリへ一度に送り込むことになるため、さらにピーク時バンド幅が必要になる。例えば、Intel 815/815Eに内蔵されているIGTは、AGP 4Xモード相当のバンド幅が確保されているので、1GB/秒のバンド幅が必要となる。仮にメインメモリがPC100 SDRAMである場合は0.8GB/秒のピーク時バンド幅ということになるので、IGTのバンド幅を一杯に利用した場合、0.2GB/秒分のバンド幅が足りなくなる計算になる(実際にはCPUもメインメモリへアクセスするので、さらに足りなくなる計算になる)。
そこで、Intel 810/810E/815/815Eでは、ディスプレイキャッシュという概念を導入している。ディスプレイキャッシュは、4MBのDRAMで構成されており、IGTがサポートする3Dファンクションのうち、Zバッファのキャッシュとして利用される(このため、いわゆるフレームバッファではない)。Zバッファはビデオメモリ内にZ座標(3D画面では物体の位置はX、Y、Zの各座標で示される)の座標値を格納する領域で、ビデオチップはポリゴン(物体のこと)の描画が終わった後で、画素のZ座標値を比較して裏面に隠れるべきところを隠すといった処理を行なっている。このため、Z座標値をZバッファに格納しておくのだ。このZバッファの処理はビデオメモリのバンド幅を消費することで知られており、ディスプレイキャッシュのようなZバッファを格納しておくキャッシュを導入するだけで、ビデオメモリのバンド幅をより有効に利用できるようになる。つまり、Intel81xシリーズのようにUMA構成をとっている場合は、ディスプレイキャッシュを導入することで、メインメモリの占有率を下げることが可能になり、結果的に3D描画時のパフォーマンスの向上が可能になるのだ。ただし、これはZバッファのキャッシュにのみ有効であるため、2D描画の性能にはなんら影響を与えない。
Intel 810(正確には810-L、810、810-DC100と3種類あるうちの810-DC100)、Intel 810Eではこのディスプレイキャッシュはマザーボード上にオンボード搭載する方式しかサポートされていなかったが、Intel 815/815Eでは標準ではディスプレイキャッシュは搭載されておらず、ディスプレイキャッシュが搭載された増設カードを利用することが可能になっている。それがGPA(Graphics Performance Accelerator)カードだ(以前はAIMMという名前で呼ばれていたが、Intel 815/815Eの発表時にGPAカードに変更された)。GPAカードには4MBのDRAMが搭載されており、これがZバッファのキャッシュとして動作する。カードはAGPスロットに挿せるようになっており、Intel 815/815Eマザーボードに用意されているAGPスロットに挿して利用する。
Intel 815/815EではこのようにGPAカードを利用して、ディスプレイキャッシュを増設することができるので、以下のように2段階にビデオ周りのパワーアップを行なうことができる。
(1)標準状態(内蔵グラフィックス使用)
(2)GPAカード増設(内蔵グラフィックス+4MBディスプレイキャッシュ使用)
(3)AGPビデオカード増設(AGPビデオチップ使用)
GPAカードの値段は3,000円前後と、比較的安価になっている。AGPのビデオカードは安価なものでも1万円はするわけで、現在Intel 815/815Eを内蔵グラフィックスで利用していて、手軽に3D描画性能をアップしたいというユーザーには注目の製品なのだ。
●4MByteのDRAMを搭載するメルコのWEO-GPA4
既に秋葉原ではいくつかのGPAカードが発売されているが、今回はメルコのWEO-GPA4を取り上げる。国内メーカーということで、サポート面などで安心感があること、さらには動作確認マザーボードなどが公開されている点などは他社製品にない特徴といえる。基本的に、GPAカードはIntelの仕様書通りに作っていれば、どのマザーボードでも動作するはずなのだが、念のためやはり動作確認がされているほうが精神衛生上好ましいのは言うまでもない。メルコでは以下のマザーボードでの動作を確認しているという。
Intel D815EEA
ABIT COMPUTER SL6/SE6
CHINTECH CT-60JV
インストールなどは特に難しいことはなく、ただ単にAGPスロットに挿すだけでよい。今回はIntel D815EEAに挿してみたが、特にBIOSなどでの設定も必要なく利用することができた。
●Intelの説明通り3D描画能力は30%アップ
GPAカードの性能を探るために、Intel 815Eを搭載したIntelのD815EEAを用意し、GPAカードを使わないオリジナル状態、GPAカードを利用した状態、AGPビデオカードとしてNVIDIAのGeForce2 GTS+64MByteDDR SDRAMを搭載したABIT COMPUTERのSILURO GF256 GTS 64MB DDRを利用し、前述の
(1)標準状態(内蔵グラフィックス使用)
(2)GPAカード増設(内蔵グラフィックス+4MByteディスプレイキャッシュ使用)
(3)AGPビデオカード増設(AGPビデオチップ使用)
における差をみることにした。なお、比較に使用したベンチマークはZiff-Davis,Inc.のWinBench99 Version 1.1、3D WinBench2000 Version1.0、MadOnion.comの3DMark2000 Version 1.1の3つのテストだ。
【テスト環境】
CPU:Pentium III 800EB MHz
マザーボード:Intel D815EEA
メモリ:PC133 SDRAM(128MByte、CL=3)
ハードディスク:IBM DTLA-307030
WinBench99 Version1.1はコンポーネントごとのパフォーマンスを計測するのに適しており、今回はCPUの整数演算能力を計測するCPUmark99、浮動小数点演算能力を計測するFPU WinMark、2Dグラフィックス周りのパフォーマンスを計測するBusiness Graphics WinMark、High-End Graphics WinMarkの4つを実行した。CPU周りのテスト(CPUmark99、FPU WinMark)では、若干の差はでたもののほとんど差がない。ちょっとユニークな結果がでたのは、ビジネスアプリケーションにおける描画性能を計測するBusiness Graphics WinMarkだ。Business Graphics WinMarkではノーマルIntel 815EとIntel 815E+GPAカードで差がついたのだ。既に述べたように、GPAカードはZバッファを格納するキャッシュとして動作するので3D描画時のみにしか有効ではないが、なぜかこういう結果になった。なお、High-End Graphics WinMarkでは差がでなかった。
【WinBench 99】
CPUmark 99 | FPU WinMark | |
---|---|---|
Intel815E | 70.7 | 4,230 |
Intel815E+GPAカード | 71.1 | 4,230 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 72.6 | 4,230 |
Business Graphics WinMark 99 | High-End Graphics WinMark 99 |
|
---|---|---|
Intel815E | 158 | 675 |
Intel815E+GPAカード | 212 | 676 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 355 | 990 |
3Dのテストである3D WinBench 2000 Version1.0と3DMark2000 Version1.1では、期待通りの差がでた。Intelは'99年のIntel 810Eの発表の時に、「ディスプレイキャッシュありとなしの差は30%程度」と説明していたが、その通りの結果となった。3D WinBench 2000に含まれる描画性能を計測する3D WinMark2000ではIntel 815が15.5だったのに対して、Intel 815+GPAカードは19.6となっており、性能向上率は28%となっている。さらに、3DMark2000でも800x600ドット/16bitカラーでは27%の性能向上、1,024×768ドットでも30%の性能向上と、Intelが主張する「ディスプレイキャッシュを利用することで30%程度の性能向上」は裏付けられている。しかも、ディスプレイキャッシュを利用することにより、3DMark2000のCPU 3DMarkは若干であるが向上している。これは、ディスプレイキャッシュによりメインメモリへのバンド幅に余裕ができるため、その分CPUが利用できるようになるためだと考えられ、結果的にシステム全体のパフォーマンスを押し上げることになっている。
しかし、GeForce2 GTSとの比較では、全く勝負にならなかった。GeForce2 GTSを利用した場合Intel 815E内蔵+GPAカードと比べると、3D WinBenchの3D WinMark2000では6倍以上、3DMark2000では800x600ドット/16bitカラーで3.8倍、1,024x768ドット/16bitカラーで実に5.1倍というスコアを叩き出した。また、Intel 815Eに内蔵のグラフィックスでは、32bitカラー(1,677万色)はサポートしていないが、GeForce2 GTSではもちろんサポートされている。最近ではほとんどの3Dゲームがより臨場感のある表示が可能な32bitカラーモードをサポートしており、必須になりつつある。また、3D WinBench2000のテストの1つで、その3Dチップがどのファンクションを持っているかを見るQuality Testでも、GeForce2 GTSはIntel 815E内蔵グラフィックスに比べて多くのファンクションをサポートしている。そういう意味では、外部AGPカードを利用した方が、3Dのクオリティ・パフォーマンス共に本当の意味でのパワーアップになるといえる。
【3D WinBench 2000】
3D WinMark 2000 (Frames/Sec) | Speedway (Frames/Sec) | Hangar (Frames/Sec) | |
---|---|---|---|
Intel815E | 15.3 | 10.7 | 12.2 |
Intel815E+GPAカード | 19.6 | 12.8 | 16.4 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 130.0 | 46.0 | 67.1 |
RustValley (Frames/Sec) | Canyon (Frames/Sec) | Chamber (Frames/Sec) | |
---|---|---|---|
Intel815E | 16.7 | 13.8 | 16.0 |
Intel815E+GPAカード | 22.7 | 16.2 | 21.4 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 197.0 | 130.0 | 179.0 |
Stations (Frames/Sec) | Islands (Frames/Sec) | RaceTrack (Frames/Sec) | Chapel (Frames/Sec) | |
---|---|---|---|---|
Intel815E | 16.6 | 16.7 | 17.2 | 17.5 |
Intel815E+GPAカード | 20.9 | 19.7 | 20.6 | 25.3 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 97.6 | 105.0 | 229.0 | 120.0 |
【3DMark2000】
800x600ドット16bit | 800x600ドット32bit | 1024x768ドット16bit | 1024x768ドット32bit | |
---|---|---|---|---|
Intel815E | 1,432 | n/a | 929 | n/a |
Intel815E+GPAカード | 1,822 | n/a | 1,210 | n/a |
Intel815E+GeForce2 GTS | 6,861 | 5,958 | 6,126 | 4,672 |
【3DMark2000:CPU 3DMark】
800x600ドット16bit | 1024x768ドット16bit | |
---|---|---|
Intel815E | 173 | 162 |
Intel815E+GPAカード | 204 | 194 |
Intel815E+GeForce2 GTS | 480 | 476 |
●メーカー製PCなどでIntel 815内蔵グラフィックスを利用している場合の安価なパワーアップ方法
以上のような結果から、3D描画のクオリティやパフォーマンスにこだわっているのであれば、そもそもIntel 815Eの内蔵グラフィックスを捨て、GeForce2 GTSのような最新のビデオチップを搭載したAGPビデオカードを追加すべきである。その方が、クオリティの面からもパフォーマンスの面からも圧倒的な性能のゲインを得ることができ、満足度は高いだろう。
ただし、AGPビデオカードはそれなりのものを買おうと思えば、それなりの出費は覚悟する必要がある。例えば、GeForce2 GTSを搭載したビデオカードは3万円以上はしており、決して安い買い物ではない。それに比べると、GPAカードはわずか3,000円程度ですむわけで、コストパフォーマンスに優れている。さらに、メーカー製PCなどでIntel 815の内蔵グラフィックスを利用しているマシンを購入した場合、他社製のAGPビデオカードをさせば、他社のドライバを入れなければいけなくなり、場合によっては正しく動作しなくなる場合もあるだろう。しかし、GPAカードであれば、ドライバなどの変更は必要なく、ただ挿すだけで30%の3D性能アップを見込むことができる。そうしたユーザーであれば、このGPAカードを買って損はないだろう。
□Akiba PC Hotline!関連記事
【9月2日】i815/i815E搭載マザー用のGPAカードがメルコなどから発売
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000902/etc_gpacard.html
□関連記事
【8月24日】メルコ、Intel 815/815E用ディスプレイキャッシュカード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000824/melco.htm
(2000年9月6日)
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]