「Peer-to-Peer技術」に関しての基調講演を行なうIntelアーキテクチャグループ 副社長兼CTO(最高技術責任者)のPatrick Gelsinger氏 |
会期:8月22日~24日(現地時間)
会場:San Jose Convention Center
8月22日~24日の3日間にわたりIntelの開発者向け会議であるIntel Developer Forum Fall 2000が、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼにあるSan Jose Convention Centerなどで開催された。最終日となる本日は、初日に行なわれたCraig Barrett社長兼CEOにより基調講演で告知されて話題になっていた、IntelのPeer-To-Peer技術に関するに関する戦略が明らかになった。Napsterの裁判などで大きな注目を集めつつあるPeer-to-PeerテクノロジをIntelがどのようにビジネスにつなげていくかに大きな注目が集まった。
●Peer-to-Peer技術がインターネット時代を変革する
Intelのソリューションビジネスについて語ったWilliam Swope副社長に引き続き、壇上に登場したIntelアーキテクチャグループ副社長兼CTO(最高技術責任者)のPatrick Gelsinger氏は「Peer-to-Peer技術はとても強力なパワーを秘めている。その影響力はMosaicが登場してインターネットが世界中に瞬く間に普及したのと同じぐらいのものとなるだろう」とのべ、Peer-to-Peer技術が、今後のコンピュータ環境を変えてしまうぐらいの力を秘めているという見通しを述べ、「Intelは今後Peer-to-Peer技術の普及に尽力し、さらに投資も行なう」(Gelsinger氏)と、Intelが今後Peer-to-Peer技術の普及に大きな役割を果たしていくという意向を明らかにした。
インターネットの起源がARPAネットという、'50年代に開始された軍事目的のネットだったことはよく知られているが、実際にインターネットがこれだけ多くの人に利用され始めたのは'90年代に入ってからだ。そのインターネット普及に最も貢献したのは'93年に登場したMosaic(WWWブラウザ)だといわれている。Mosaicにより、多くのユーザーがWWW(World Wide Web)で文字、イラスト、音声などの情報を入手するサービスを利用できるようになり、それが起爆剤となりインターネットは大きく普及した。つまり、Mosaicの登場があればこそ、インターネットの普及は加速的に進んだのだ。
Gelsinger氏によれば、それと同じ事がPeer-To-Peer技術によってももたらされるという。Peer-to-Peerとは、ネットワークに接続されているコンピュータ同士が相互に余っているリソースを提供しあい、それをネットワーク全体で1つのコンピュータのように使うという技術で、PCが現在のように普及する前には当たり前のように使われていた技術だ。
なお、Peer-to-Peer技術が再び注目されてきた理由としてGelsinger氏は「NapsterがPeer-to-Peer技術の引き金になった」とのべ、現在多くの話題を呼んでいるNapsterのような技術への注目の高まりがその背景にあることを認めた。しかし、Gelsinger氏は、Napsterが利用しているPeer-to-Peer型の技術そのものは認めるものの、「Intelは自社はもちろんのこと他人の知的所有権保護に関して大変注意を払っている」と述べ、さらに「IntelはNapsterに関しては何の意見も持っていない。目下問題になっている件に関しては裁判所が判断することだ」とのべ、Napster問題とこのIntelのPeer-to-Peer構想が混同されないように慎重な意見を付け加えるのを忘れなかった。
●Peer-to-Peer型モデルの採用で開発期間を8週間も短縮
実際のPeer-to-Peer技術のメリットとして、「Peer-to-Peer型の分散モデルを採用し、個々のコンピュータ間で相互にタスクのやりとりを行ない、処理を分散する事で、今後はネットワークで接続されたコンピュータ全体としての負荷を下げ、さらには大きなコストの削減ができる」(Gelsinger氏)と述べ、実際にIntelが新プロセッサの開発にこのPeer-to-Peer技術を利用したところ、開発期間を8週間も短縮し、さらに開発コストを5億ドルも抑えることができたという。「このように、企業はPeer-to-Peer技術を採用することにより、コストの削減や開発の効率化を実現することができる」とのべ、ビジネスにもPeer-to-Peerを導入することで、企業は多くのメリットを享受できることを強調した。
このPeer-to-Peer技術をビジネスに導入していく、具体的な方法についてだが、今回のGelsinger氏の講演ではあまり明確になっていない。唯一明らかになったのは、これからIntelが業界の音頭をとって、Peer-to-Peer技術の普及に勤めていくというこだ。その手始めとして、Gelsinger氏は「"Peer-to-Peer Working Groups"を結成し、業界全体としてこの問題に取り組んでいきたい。Intelはその手助けをしたい」と述べ、IntelだけでなくIBM、HewlettPackardなど多くの業界関係の会社でワーキンググループが結成したことを明らかにした。なお、Peer-to-Peer Working Groupsは9月26日にサンタクララで第1回のミーティングを開催し、さらに細かな話を詰めていくこととなっている。
●背景には「余るプロセッサパワー」の行き先が
今回CTO(最高技術責任者)というポジションに就いてから始めてのIDF基調講演をこなしたGelsinger氏だが、これまでの同氏の基調講演(基本的にはマイクロプロセッサ関連)の内容から考えると、ソフトウェアの今後というような内容で、やや突拍子のない印象を受ける。しかし、今回のPeer-to-Peer構想は、実はマイクロプロセッサのビジネスと密接な関連がある。
Peer-to-Peer技術をインターネット上で実現する場合に最も問題となるのはセキュリティだ。仮に、マイクロプロセッサの処理能力にせよ、ハードディスクの空きスペースにせよ、侵入者に利用されてしまったのでは本末転倒になってしまう。そのためには、かなり厳重なセキュリティの機能を実現する必要があるが、それには膨大なプロセッサパワーが必要になる。さらに、Peer-to-Peer技術を利用した場合、ネットワークに接続されているコンピュータを全体として見たときの負荷は下がるが、個々のコンピュータではPeer-to-Peerの処理プロセスを常に動かす必要があり、マイクロプロセッサの負荷率は上昇する。
こうした事実は何につながるだろう? 言うまでもなく、より高速なマイクロプロセッサへの需要喚起だ。これまで、Intelの成長を支えてきたのは、顧客の「高速なマイクロプロセッサへの飢餓感」だった。つまり、
しかし、今回のPeer-to-Peer技術が多くのビジネスで採用されて、さらにはコンシューマユーザーにもサービスとして提供されるようになれば、マイクロプロセッサ負荷率は再び上昇し、再び高速なCPUへの飢餓感が生じる可能性がある。つまり、Peer-to-Peer技術が(1)の代わりとしてキラーアプリケーションになるのだ。そう考えれば、Intelアーキテクチャグループというマイクロプロセッサを担当する事業部の重役であり、事業部としての技術的な戦略を練る立場にあるGelsinger氏が提案するというも理解できる話だと言える。
これまでIntelはPentium III 1.13GHzを出荷したり、テクノロジーデモながら2GHzで動かして見せたPentium 4など高速なマイクロプロセッサを出してきたが、「その高速なCPUを何に使うの?」という疑問には答えることができていなかった。そうした疑問の声に答えるという意味で、今回のGelsinger氏の基調講演は重要な意味を持っていると言える。もし、この先もIntelの時代が続いていたとしたら、その「戦略転換点」はこの基調講演だったということもあるかもしれない。
□IDF Fall 2000のホームページ(英文)
http://www.intel.com/design/idf/index.htm?iid=update+000818&
(2000年8月25日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]