第61回 : auが越えなければならない壁 |
そのauにも、自社の努力だけでは越えられない壁が一つだけある。それは電話番号の縛りだ。
● 大幅に進歩しつつあるau
電話番号の話の前に、なぜauに強い興味を惹かれているのか。それは米国での国際ローミングにある。これまで韓国と香港だけだった国際ローミングが、7月27日から米国でも開始されるのだ。したがって、auのcdmaOne端末を米国に持ち込んでも、そのまま利用することができる。日本から電話するときは、相手が米国にいても日本の番号のままで接続が行なわれるため、特にビジネスで米国との往復が多いユーザーにはメリットが大きい。
価格的には少々高価(日本への国際電話で毎分330円、米国内への電話で毎分250円、着信時にも毎分300円の料金がかかる)なのだが、相手からコールするときの電話番号が同じ、というのは、緊急の電話を逃さないためにもかなり重要なポイントだと思う。
前述のauへの乗り換えを考えている人というのも、やはり国際ローミングがあるからこそ、乗り換えを検討しているという。僕個人としては、価格的な面から使うかどうか微妙なところ(頻繁に利用するなら別途現地で借りた方がいいかもしれない)だが、一本の電話でビジネスが左右されるならば、そのメリットは少なくない。当初はボストン、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、サンノゼ、ハワイなど12都市でのサービスになるが、順次利用可能な都市を追加。またシドニーオリンピックまでにはオーストラリアにもサービスを拡大する予定がある。
残念なことにローミングは音声のみで、パケット通信までは対応することができない。つまりEZwebは海外から利用できないのだが、こちらも現在交渉中で、海外でEZwebを利用可能になるかもしれないというから期待したい。
また評判がイマイチだった電子メール機能も、この秋に大幅な機能アップが図られる予定だ(新メール機能の利用には秋以降に発売される新端末が必要になる)。詳細な仕掛けは教えてもらえていないが、現在、着信連絡をショートメールで受け、メール全体はサーバーに接続して閲覧する方法なのが、端末自身にメールのヘッダーが配信され、IMAP4でメールを取得するようになるのでは、と言われている。
個人的には、このメール機能の改善に注目したい。iモードメールの250文字でも、それなりに便利に使えてはいるが、ほとんどがPC向けに発信されたメールの転送なので文章の長さが考慮されておらず、後少しですべてが把握できるのに、という場面も少なくない。運用性でiモードメールに近いレベルか、それ以上になるのであれば、乗り換えるメリットはあると見ている。
元々、音声の品質や切れにくさ、ハンドオーバーのスムースさ、通信速度の速さなど、基本的な通信機としての性能はいいだけに、ネックとなっていた電子メールの使いにくさがなくなれば、iモード端末を使い続けるメリットは、僕の場合はあまりない。
● 電話番号変更が乗り換え時のネックに
しかし、auの方がいいとしても、ほとんどの人は簡単には乗り換えることができない。乗り換えを行なう意志を強く持たないと、そのままNTT DoCoMoの端末を使い続けることになるだろう。なぜなら、キャリアを変更すると携帯電話番号が変わってしまうからだ。
これは個人的にはほとんど問題ない。僕は仕事で必須の相手と家族以外には携帯電話番号をほとんど教えていないからだ。しかし、携帯電話を主なコミュニケーションツールとして使っている人にとってみれば、番号の変更には非常に大きなエネルギーが必要になる。僕も、もし電子メールのアドレスを変更しなければならないとしたら、かなりうんざりとした気持ちになるだろう。電子メールがコミュニケーションの主な手段になっているからだ。
つまり、携帯電話をヘビーに使っている人ほど、キャリアを変更することが難しいということ。電話番号を用いた囲い込みが可能なわけで、cdmaOne端末購入者のほとんどが同一キャリア内での機種変更であることも、それを物語っている。
しかし本質的ではない電話番号による囲い込みは、純粋なサービス品質での競争を阻害するものだ。実はこの問題は携帯電話だけではなく固定電話にも存在している。市内電話サービスをNTTから他社にしようと思っても、電話番号を変更しなければならない。
この問題を解決するため、固定電話では郵政省主導で電話番号ポータビリティという仕組みが提案され、サービス会社間で電話番号をやりとりする仕組みづくりが行なわれている。2001年の前半には固定電話に電話番号ポータビリティが導入される予定だ。
ところが携帯電話に関しては、まだ議論さえ始まっていない段階だ。携帯電話キャリア各社は、それぞれ将来的には検討されるべき議題としながらも、具体的な動きに関するコメントはなかった。
携帯電話で電話番号ポータビリティが導入されたからといって、NTT DoCoMoからauに人が急に流れるわけではない。むしろ既存ユーザーがiモードへと流れる可能性もあるわけで、どの会社にメリットがあって、どの会社にデメリットがあるのかはわからない。
しかし自由競争でサービス品質や料金を競争するという意味からすれば、この仕組みづくりがユーザーに対して最終的なメリットをもたらすことは間違いない。今使っているiモード端末を、この秋にauへと変更し、もしかすると来年にはNTT DoCoMoやJ-Phoneに乗り換えるかもしれない。そんな自由が手に入らなければ、一度発生したユーザー数の不均衡は、一朝一夕に解決できるものではないだろう。電話番号ではなく、サービスでキャリアを選べる時代に早くなることを望みたい。
[Text by 本田雅一]