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世界で唯一単体販売されているK6-2+
~メルコ「HK6-MD500P-NV4」~



 メルコから発売されたHK6-MD500P-NV4は、Socket 7ユーザーにとって「幻のCPU」となってしまったK6-2+/500のモバイル版を利用したデスクトップPC用のCPUアクセラレータとして注目を集めている。今回はこのHK6-MD500P-NV4を取り上げてみたい。はたして、HK6-MD500P-NV4はSocket 7ユーザーが買うべき製品なのか、検証してみよう。


●Socket 7ユーザーの「希望の星」だったK6-2+

 '99年の2月に発表されたL2キャッシュがオンダイ(L2キャッシュがCPUコアに統合されてフルスピードで動作していること)となったK6-IIIは、当時としてはかなりセンセーショナルなハイパフォーマンスを実現したSocket 7用CPUとして注目を集めた。しかし、L2キャッシュをオンダイとしたために歩留まりがあまりあがらず、製造コストがかかるという理由から結局のところさほどは生産されなかった。このため、大手PCベンダで採用されることもなく、事実上自作PC向けのCPUとなり、お世辞にも成功したとは言えないCPUとなってしまった。

 そこで、AMDが昨年の夏頃から暖めていたプランが、K6-IIIのL2キャッシュ容量(256KB)を半分(128KB)にし、製造プロセスルールを0.18μmにしたK6-2+を投入することで、歩留まりや製造コストの問題を解決。バリューPC市場でCeleronに対抗していこうというものだ。自作PCユーザーにとっても、L2キャッシュの容量は半分になるとはいえ、オンダイになることで大きな性能アップを期待できるわけで、「史上最強のSocket 7用CPU」としてかなり期待されていた。

 しかし、2月のCeBIT2000で公開された新しいロードマップでは、このK6-2+はモバイル向けだけに投入されるという方向転換が明らかにされ、デスクトップPC向けのSocket 7プロセッサとしては、2月に投入されたK6-2/550が事実上最後の製品となってしまった(Duronが発売された今となっては、今後も発売される可能性は低いだろう)。

 そのモバイルK6-2+は、4月20日に発表された従来のK6-2との大きな違いは以下の4つ。

(1)製造プロセスルールが0.18μm
(2)L2キャッシュ(128KB)がオンダイ
(3)拡張命令のエンハンスド3DNow!テクノロジのうちDSP系の5命令に対応
(4)PowerNow!テクノロジに対応

 AMDのAthlonには、従来のK6-2やK6-IIIなどの3DNow!より拡張されたエンハンスド3DNow!テクノロジという拡張命令セットを用意。モバイルK6-2+には、このエンハンスド3DNow!のうち、DSP系の5命令だけが用意されている(このため、CPUをチェックするユーティリティなどではエンハンスド3DNow!対応と表示される)。また、CPU負荷率などに応じてクロック・電圧を可変するPowerNow!テクノロジにも対応している。

 既に米国では、Compaq ComputerやHewlettPackardなどがモバイルK6-2+搭載ノートパソコンを発表していたが、これは言うまでもなく完成品であり、これまでCPU単体で販売された例はなかった。しかし、今回取り上げるHK6-MD500P-NV4とHK6-MD533P-NV4は、ノートパソコン用のモバイルK6-2+/500に、メルコが自社で開発したCPUソケット(いわゆるゲタ)を装着することで、デスクトップPC用としたCPUアクセラレータだ。型番は違うものの、どちらもCPUにはモバイルK6-2+/500が採用されているが、HK6-MD533P-NV4にはメルコ側で厳選されたCPUが搭載されており533MHzでの動作が保証される。ただし基本的には、HK6-MD533P-NV4はCPUアクセラレータであり、メルコ側で動作検証したPCでしか動作は保証されていない(そのリストはメルコのホームページで公開されている)。基本的にはメーカー製PCのみの対応で、自作PCでの動作は保証されない。

 本製品は、CPUアクセラレータとして動作するように、CPUソケット側に独自の工夫がしてあり、NECのValuestarシリーズや、富士通のFMV-DESKPOWERシリーズなどでも動作する。このため、マザーボード側では、システムバス(いわゆるFront Side Bus=FSB)や倍率などの変更ができない。つまり、システムバスが66MHzや60MHzなどに固定になってしまうので、既に100MHzのシステムバスに設定可能なマザーボードを持っているユーザーには、あまりメリットがないので注意したい。


●分解すればただのK6-2+に早変わり!

 AMDのモバイル向けCPUは、IntelのようにBGA(Ball Grid Array)やμPGA(Micro Pin Grid Array)といった特殊なパッケージになっておらず、デスクトップ用のCPGA(Ceramics Pin Grid Array)と全く同じパッケージ、ピン配列になっている。CPUコア電圧は2.0Vなので、CPUコア電圧を2.0Vに設定可能なSocket 7マザーボードであれば使える可能性がある。そこで、HK6-MD500P-NV4を分解してCPUだけをはずしたみた。ただし、CPUをCPUアダプタからはずすことで、もちろんメルコの保証は受けられなくなるので、自己責任で行なっていただきたい。

 最初は簡単にはずれると思ったのだが、CPUアダプタにぴったり装着されていたので、はずすのは難航を極めた。結局、手元にあったCPUリムーバーを利用して、少しずつ浮かすようにしてはずしたところ、綺麗にはずすことができた。

 今回利用したマザーボードはフリーウェイのFW-TI5VGFという赤色のSocket 7マザーボードだが、もともと2.0Vの設定が用意されており、2.0Vに設定し100MHz×5という設定にしたところ、最初は起動しなかった。CPUをK6-2/500に変更したところ問題なく動作したので、BIOSのバージョンが問題なのかと思い、BIOSをアップグレードしてみることにした。そこでフリーウェイのホームページにあった最新版のBIOS(ti5vgfh7.zip)にアップデートして、再度K6-2+を挿してみたところ今度は問題なく動作した。また、この新しいBIOSはK6-2+を認識しているようで、起動時には「K6-2+/500」と表示される。

 これはCPUアクセラレータとして利用する際も同様で古いバージョンのBIOSでは起動すらしない場合があるようだ。このため、本製品を利用する場合には、必ず最新のBIOSにしておきたい。


●オリジナルのK6-2に比べて大きなパフォーマンスアップを確認

 今回もCPUに対して行なっている7つのベンチマークテスト(Business Winstone 99、High-End Winstone 99、CPUmark99、FPU WinMark、3DMark99 MAX、3D CPUMark、MultimediaMark99)を行なった(これらの詳細に関してはバックナンバーを参照)。

 まず、CPUアクセラレータとしての本製品だが、今回MMX Pentium 200MHzと比較してみることにした。マザーボードには前述のフリーウェイ FW-TI5VGFを利用し、MMX Pentium 200MHzとHK6-MD500P-NV4を交換して比較してみた。HK6-MD500P-NV4にはCPU倍率として7倍(システムバス66MHzで466MHz)、8倍(システムバス60MHzで480MHz)、10倍(システムバス50MHzで500MHz)にしか設定できない。今回はMMX Pentium 200MHz(システムバスは66MHz)を、HK6-MD500P-NV4に差し替えたので466MHz(66MHz×7)での動作となっている。また、マザーボード上のキャッシュメモリ(K6-2+ではL3キャッシュになる)をオンにした状態と、オフにした状態の両方で計測した。なお、HK6-MD500P-NV4にはBIOSレベルでK6-2+をサポートしていないPC向けにキャッシュコントロールユーティリティが付属しているが、今回は利用していない。

 結果は表の通りで、CPUmark99、FPU WinMark、3DMark99 MAX、3D CPUMark、MultimediaMark99のすべてにおいて圧倒的なパフォーマンスアップを確認することができた。L3キャッシュをオフにした状態で倍、L3キャッシュをオンにした場合には3倍以上のスコアを叩き出しており、これだけの差があれば間違いなくユーザーが体感することができるだろう。メルコが動作保証しているメーカー製PCの多くは、Pentium 166MHzやMMX Pentium 200MHzなどを搭載している製品なので、CPUアクセラレータとしての効果は非常に高い。ただ、今回はマザーボードのBIOSがサポートしているという好条件であったため、実際にはL3キャッシュをオフにした状態ぐらいがメーカー製PCに装着した時のスコアだと考えた方がいいだろう。

CPUmark 99FPU WinMark
MMX Pentium 200MHz11.4  782
K6-2+/466(L3 off)26.8 1,580
K6-2+/466(L3 on)39.8 1,580

3DMark99 Max3D CPUMarkMultimediaMark 99
MMX Pentium 200MHz1,317 1,456 377
K6-2+/466(L3 off)2,483 5,046 793
K6-2+/466(L3 on)3,196 5,982 875

 CPU単体としての場合だが、今回は定格の500MHz(100MHz×5)と、クロックアップした550MHz(100MHz×5.5)の2つの状態を計測した(蛇足だが、既にAMDはモバイルK6-2+/550をリリースしている)。結果は表の通りで、予想通りかなり高いパフォーマンスを発揮している。K6-2+/500はK6-2/550をほとんどの項目で凌駕しており、やはりL2キャッシュがオンダイとなった効果は大きいと言える。気になるK6-IIIとの比較だが、K6-2+/500がK6-III/400MHzとほぼ同等、K6-2+/550でK6-III/450とほぼ同等という結果になっている。L2キャッシュの容量が半分になっていることが、2グレード下のK6-IIIとほぼ同等という結果を生んだと考えることができるだろう。

Business Winstone 99High-End Winstone 99CPUmark 99
K6-2+/50030.7 23.9 48.1
K6-2+/55031.8 24.7 51.8
K6-III/40029.9 22.3 47.3
K6-III/45031.5 23.8 52.1
K6-2/50026.9 21.1 32.2
K6-2/55027.6 21.4 33.5
Celeron 500MHz28.3 23.2 35.9
Celeron 533MHz28.8 23.6 37.4

FPU WinMark3DMark99 Max
K6-2+/5001,690 3,987
K6-2+/5501,860 4,207
K6-III/4001,350 3,714
K6-III/4501,530 4,041
K6-2/5001,660 3,601
K6-2/5501,820 3,781
Celeron 500MHz2,680 3,702
Celeron 533MHz2,850 3,839

3D CPUMarkMultimediaMark 99
K6-2+/5007,226  987
K6-2+/5507,737 1,069
K6-III/4006,534  827
K6-III/4507,188  909
K6-2/5006,466  949
K6-2/5506,877 1,011
Celeron 500MHz4,373 1,088
Celeron 533MHz4,557 1,138

【動作環境】
★マザーボード:
 K6-2、K6-III、K6-2+:フリーウェイ FW-TI5VGF(VIA Apollo MVP3)
 Celeron:ABIT COMPUTER BE6(440BX)
★メモリ:PC133 SDRAM(128MB、CL=3)
★ハードディスク:
 WesternDigital WDAC29100:Winstone
 WesternDigital WDAC14300:WinBench、3DMark99、MultimediaMark99
★ビデオカード:
 カノープス SPECTRA5400 Premium Edition(RIVA TNT2 Ultra、32MB)
★OS:
 Winstone:Windows NT 4.0英語版+ServicePack4
 WinBench、3DMark99、MultimediaMark99:Windows 98 Second Edition 日本語版+DirectX 7.0


●幻ではあるが「史上最強のSocket 7プロセッサ」は間違いない

 以上のように、HK6-MD500P-NV4は価格が3万円とSocket 7用CPUとしては決して安価ではないものの、マザーボードを簡単に交換できないメーカー製PCユーザーにとっては手軽にCPUをアップグレードする手段としてかなり有望な選択肢であると思う。

 また、K6-2+単体での評価だが、思ったよりもK6-2との差は大きく、そのメリットは小さくない。今でもSocket 7のシステムを持っている1ユーザーとしては、ぜひとも発売してほしかったCPUだ。そういう意味で「幻の史上最強Socket 7プロセッサ」という称号をK6-2+には差し上げたい。ただし、HK6-MD500P-NV4を購入して、K6-2+/500をはずして使うことに意味があるかと言われれば、正直なところ「ない」としか言いようがない。HK6-MD500P-NV4は実売価格で3万円弱となっているが、これだけの予算があればDuron 600MHz+Socket Aマザーボードが楽々買えてしまう。HK6-MD500P-NV4を分解してまでK6-2+を使いたいというユーザーは間違いなく自作PCユーザーであろうから、マザーボードは交換可能なはずで、そう考えると全く意味がないと言わざるをえない。ただ、仮にK6-2+/500が単体で販売されれば、値段も1万円以下に収まるだろうから、CPUコア電圧2.0Vをサポートしたマザーボードを持っているユーザーには有益な選択になる可能性もある。IntelのモバイルPentium IIIが秋葉原で販売されている例もあり、モバイルK6-2+が単体で発売される可能性もないわけではない。まだSocket 7にこだわりたいユーザーはそちらに期待しよう。

□Akiba PC Hotline!関連記事
【6月17日】Mobile K6-2+/500MHzを採用したODPがメルコから登場
2次キャッシュ128KBをオンダイにしたSocket 7用CPU
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000708/k62plus.html
□関連記事
【6月29日】メルコ、533MHz動作のモバイルK6-2+搭載CPUアクセラレータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000404/hotrev57.htm

バックナンバー

(2000年7月14日)

[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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