世界で唯一単体販売されているK6-2+
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●Socket 7ユーザーの「希望の星」だったK6-2+
そこで、AMDが昨年の夏頃から暖めていたプランが、K6-IIIのL2キャッシュ容量(256KB)を半分(128KB)にし、製造プロセスルールを0.18μmにしたK6-2+を投入することで、歩留まりや製造コストの問題を解決。バリューPC市場でCeleronに対抗していこうというものだ。自作PCユーザーにとっても、L2キャッシュの容量は半分になるとはいえ、オンダイになることで大きな性能アップを期待できるわけで、「史上最強のSocket 7用CPU」としてかなり期待されていた。
しかし、2月のCeBIT2000で公開された新しいロードマップでは、このK6-2+はモバイル向けだけに投入されるという方向転換が明らかにされ、デスクトップPC向けのSocket 7プロセッサとしては、2月に投入されたK6-2/550が事実上最後の製品となってしまった(Duronが発売された今となっては、今後も発売される可能性は低いだろう)。
そのモバイルK6-2+は、4月20日に発表された従来のK6-2との大きな違いは以下の4つ。
(1)製造プロセスルールが0.18μm
(2)L2キャッシュ(128KB)がオンダイ
(3)拡張命令のエンハンスド3DNow!テクノロジのうちDSP系の5命令に対応
(4)PowerNow!テクノロジに対応
AMDのAthlonには、従来のK6-2やK6-IIIなどの3DNow!より拡張されたエンハンスド3DNow!テクノロジという拡張命令セットを用意。モバイルK6-2+には、このエンハンスド3DNow!のうち、DSP系の5命令だけが用意されている(このため、CPUをチェックするユーティリティなどではエンハンスド3DNow!対応と表示される)。また、CPU負荷率などに応じてクロック・電圧を可変するPowerNow!テクノロジにも対応している。
既に米国では、Compaq ComputerやHewlettPackardなどがモバイルK6-2+搭載ノートパソコンを発表していたが、これは言うまでもなく完成品であり、これまでCPU単体で販売された例はなかった。しかし、今回取り上げるHK6-MD500P-NV4とHK6-MD533P-NV4は、ノートパソコン用のモバイルK6-2+/500に、メルコが自社で開発したCPUソケット(いわゆるゲタ)を装着することで、デスクトップPC用としたCPUアクセラレータだ。型番は違うものの、どちらもCPUにはモバイルK6-2+/500が採用されているが、HK6-MD533P-NV4にはメルコ側で厳選されたCPUが搭載されており533MHzでの動作が保証される。ただし基本的には、HK6-MD533P-NV4はCPUアクセラレータであり、メルコ側で動作検証したPCでしか動作は保証されていない(そのリストはメルコのホームページで公開されている)。基本的にはメーカー製PCのみの対応で、自作PCでの動作は保証されない。
本製品は、CPUアクセラレータとして動作するように、CPUソケット側に独自の工夫がしてあり、NECのValuestarシリーズや、富士通のFMV-DESKPOWERシリーズなどでも動作する。このため、マザーボード側では、システムバス(いわゆるFront Side Bus=FSB)や倍率などの変更ができない。つまり、システムバスが66MHzや60MHzなどに固定になってしまうので、既に100MHzのシステムバスに設定可能なマザーボードを持っているユーザーには、あまりメリットがないので注意したい。
●分解すればただのK6-2+に早変わり!
最初は簡単にはずれると思ったのだが、CPUアダプタにぴったり装着されていたので、はずすのは難航を極めた。結局、手元にあったCPUリムーバーを利用して、少しずつ浮かすようにしてはずしたところ、綺麗にはずすことができた。
今回利用したマザーボードはフリーウェイのFW-TI5VGFという赤色のSocket 7マザーボードだが、もともと2.0Vの設定が用意されており、2.0Vに設定し100MHz×5という設定にしたところ、最初は起動しなかった。CPUをK6-2/500に変更したところ問題なく動作したので、BIOSのバージョンが問題なのかと思い、BIOSをアップグレードしてみることにした。そこでフリーウェイのホームページにあった最新版のBIOS(ti5vgfh7.zip)にアップデートして、再度K6-2+を挿してみたところ今度は問題なく動作した。また、この新しいBIOSはK6-2+を認識しているようで、起動時には「K6-2+/500」と表示される。
これはCPUアクセラレータとして利用する際も同様で古いバージョンのBIOSでは起動すらしない場合があるようだ。このため、本製品を利用する場合には、必ず最新のBIOSにしておきたい。
●オリジナルのK6-2に比べて大きなパフォーマンスアップを確認
今回もCPUに対して行なっている7つのベンチマークテスト(Business Winstone 99、High-End Winstone 99、CPUmark99、FPU WinMark、3DMark99 MAX、3D CPUMark、MultimediaMark99)を行なった(これらの詳細に関してはバックナンバーを参照)。
まず、CPUアクセラレータとしての本製品だが、今回MMX Pentium 200MHzと比較してみることにした。マザーボードには前述のフリーウェイ FW-TI5VGFを利用し、MMX Pentium 200MHzとHK6-MD500P-NV4を交換して比較してみた。HK6-MD500P-NV4にはCPU倍率として7倍(システムバス66MHzで466MHz)、8倍(システムバス60MHzで480MHz)、10倍(システムバス50MHzで500MHz)にしか設定できない。今回はMMX Pentium 200MHz(システムバスは66MHz)を、HK6-MD500P-NV4に差し替えたので466MHz(66MHz×7)での動作となっている。また、マザーボード上のキャッシュメモリ(K6-2+ではL3キャッシュになる)をオンにした状態と、オフにした状態の両方で計測した。なお、HK6-MD500P-NV4にはBIOSレベルでK6-2+をサポートしていないPC向けにキャッシュコントロールユーティリティが付属しているが、今回は利用していない。
結果は表の通りで、CPUmark99、FPU WinMark、3DMark99 MAX、3D CPUMark、MultimediaMark99のすべてにおいて圧倒的なパフォーマンスアップを確認することができた。L3キャッシュをオフにした状態で倍、L3キャッシュをオンにした場合には3倍以上のスコアを叩き出しており、これだけの差があれば間違いなくユーザーが体感することができるだろう。メルコが動作保証しているメーカー製PCの多くは、Pentium 166MHzやMMX Pentium 200MHzなどを搭載している製品なので、CPUアクセラレータとしての効果は非常に高い。ただ、今回はマザーボードのBIOSがサポートしているという好条件であったため、実際にはL3キャッシュをオフにした状態ぐらいがメーカー製PCに装着した時のスコアだと考えた方がいいだろう。
CPUmark 99 | FPU WinMark | |
---|---|---|
MMX Pentium 200MHz | 11.4 | 782 |
K6-2+/466(L3 off) | 26.8 | 1,580 |
K6-2+/466(L3 on) | 39.8 | 1,580 |
3DMark99 Max | 3D CPUMark | MultimediaMark 99 | |
---|---|---|---|
MMX Pentium 200MHz | 1,317 | 1,456 | 377 |
K6-2+/466(L3 off) | 2,483 | 5,046 | 793 |
K6-2+/466(L3 on) | 3,196 | 5,982 | 875 |
CPU単体としての場合だが、今回は定格の500MHz(100MHz×5)と、クロックアップした550MHz(100MHz×5.5)の2つの状態を計測した(蛇足だが、既にAMDはモバイルK6-2+/550をリリースしている)。結果は表の通りで、予想通りかなり高いパフォーマンスを発揮している。K6-2+/500はK6-2/550をほとんどの項目で凌駕しており、やはりL2キャッシュがオンダイとなった効果は大きいと言える。気になるK6-IIIとの比較だが、K6-2+/500がK6-III/400MHzとほぼ同等、K6-2+/550でK6-III/450とほぼ同等という結果になっている。L2キャッシュの容量が半分になっていることが、2グレード下のK6-IIIとほぼ同等という結果を生んだと考えることができるだろう。
Business Winstone 99 | High-End Winstone 99 | CPUmark 99 | |
---|---|---|---|
K6-2+/500 | 30.7 | 23.9 | 48.1 |
K6-2+/550 | 31.8 | 24.7 | 51.8 |
K6-III/400 | 29.9 | 22.3 | 47.3 |
K6-III/450 | 31.5 | 23.8 | 52.1 |
K6-2/500 | 26.9 | 21.1 | 32.2 |
K6-2/550 | 27.6 | 21.4 | 33.5 |
Celeron 500MHz | 28.3 | 23.2 | 35.9 |
Celeron 533MHz | 28.8 | 23.6 | 37.4 |
FPU WinMark | 3DMark99 Max | |
---|---|---|
K6-2+/500 | 1,690 | 3,987 |
K6-2+/550 | 1,860 | 4,207 |
K6-III/400 | 1,350 | 3,714 |
K6-III/450 | 1,530 | 4,041 |
K6-2/500 | 1,660 | 3,601 |
K6-2/550 | 1,820 | 3,781 |
Celeron 500MHz | 2,680 | 3,702 |
Celeron 533MHz | 2,850 | 3,839 |
3D CPUMark | MultimediaMark 99 | |
---|---|---|
K6-2+/500 | 7,226 | 987 |
K6-2+/550 | 7,737 | 1,069 |
K6-III/400 | 6,534 | 827 |
K6-III/450 | 7,188 | 909 |
K6-2/500 | 6,466 | 949 |
K6-2/550 | 6,877 | 1,011 |
Celeron 500MHz | 4,373 | 1,088 |
Celeron 533MHz | 4,557 | 1,138 |
【動作環境】
★マザーボード:
K6-2、K6-III、K6-2+:フリーウェイ FW-TI5VGF(VIA Apollo MVP3)
Celeron:ABIT COMPUTER BE6(440BX)
★メモリ:PC133 SDRAM(128MB、CL=3)
★ハードディスク:
WesternDigital WDAC29100:Winstone
WesternDigital WDAC14300:WinBench、3DMark99、MultimediaMark99
★ビデオカード:
カノープス SPECTRA5400 Premium Edition(RIVA TNT2 Ultra、32MB)
★OS:
Winstone:Windows NT 4.0英語版+ServicePack4
WinBench、3DMark99、MultimediaMark99:Windows 98 Second Edition 日本語版+DirectX 7.0
●幻ではあるが「史上最強のSocket 7プロセッサ」は間違いない
以上のように、HK6-MD500P-NV4は価格が3万円とSocket 7用CPUとしては決して安価ではないものの、マザーボードを簡単に交換できないメーカー製PCユーザーにとっては手軽にCPUをアップグレードする手段としてかなり有望な選択肢であると思う。
また、K6-2+単体での評価だが、思ったよりもK6-2との差は大きく、そのメリットは小さくない。今でもSocket 7のシステムを持っている1ユーザーとしては、ぜひとも発売してほしかったCPUだ。そういう意味で「幻の史上最強Socket 7プロセッサ」という称号をK6-2+には差し上げたい。ただし、HK6-MD500P-NV4を購入して、K6-2+/500をはずして使うことに意味があるかと言われれば、正直なところ「ない」としか言いようがない。HK6-MD500P-NV4は実売価格で3万円弱となっているが、これだけの予算があればDuron 600MHz+Socket Aマザーボードが楽々買えてしまう。HK6-MD500P-NV4を分解してまでK6-2+を使いたいというユーザーは間違いなく自作PCユーザーであろうから、マザーボードは交換可能なはずで、そう考えると全く意味がないと言わざるをえない。ただ、仮にK6-2+/500が単体で販売されれば、値段も1万円以下に収まるだろうから、CPUコア電圧2.0Vをサポートしたマザーボードを持っているユーザーには有益な選択になる可能性もある。IntelのモバイルPentium IIIが秋葉原で販売されている例もあり、モバイルK6-2+が単体で発売される可能性もないわけではない。まだSocket 7にこだわりたいユーザーはそちらに期待しよう。
□Akiba PC Hotline!関連記事
【6月17日】Mobile K6-2+/500MHzを採用したODPがメルコから登場
2次キャッシュ128KBをオンダイにしたSocket 7用CPU
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000708/k62plus.html
□関連記事
【6月29日】メルコ、533MHz動作のモバイルK6-2+搭載CPUアクセラレータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000404/hotrev57.htm
(2000年7月14日)
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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