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NVIDIAの低価格GPU「GeForce2 MX」搭載ビデオカード
~廉価版GeForce2の実力を測る~



 NVIDIAが6月末に発表した最新3DビデオチップがGeForce2 MXだ。GeForce2 MXはこれまで「NV11」のコードネームで呼ばれてきたビデオチップで、GeForce2 GTSの廉価版としてGeForce 256と同程度の3D描画能力を持つビデオチップと位置づけられている。同時にGeForce2 MXは普及価格帯のビデオチップとしては初めて、ハードウェアT&Lを搭載したビデオチップでもあり、これまで価格の高さからGeForce 256やGeForce2 GTSなどを見送ってきたユーザーには待望とも言える製品だ。


●GeForce2 GTSの廉価版として登場したGeForce2 MX

 GeForce2 MXのコードネームは冒頭でも述べたように「NV11」だ。このコードネームがGeForce2 MXの位置づけをとてもよく表している。というのも、通常NVIDIAのコードネームは「5」の倍数になっている。例えば、RIVA TNT2は「NV5」だし、GeForce 256は「NV10」、GeForce2 GTSは「NV15」、さらに今年の秋頃発表される予定の次期製品は「NV20」、さらにはその次世代が「NV25」となっている。つまり、NVIDIAのハイエンドPC用製品はNV5、NV10、NV15……と上がってきており、NV11というコードネームはそれらのハイエンド製品からは、外れるということを意味しているのだ。しかも、そのNV11という数字からもわかるように、GeForce2 MX(NV11)はGeForce256(NV10)よりは進化しているが、GeForce2 GTS(NV15)よりは下位に位置する製品」ということになる。

 これまでNVIDIAは新しい世代のチップが出るたびに、前世代のチップの値段を下げるか、あるいはビデオメモリのバスを制限するなどの廉価版チップ(VantaやRIVA TNT2 m64など)を登場させ、それを普及価格帯の製品としてきた。今回のGeForce2 MXもそうした製品の延長上にある製品だが、GeForce2 MXが従来製品と大きく異なる点は、ハードウェアT&Lの機能をサポートしていることだろう。これまでのNVIDIAの普及価格帯の製品(TNT2 Pro、TNT2 m64など)がハードウェアT&Lをサポートしていなかったのに対して、GeForce2 MXはサポートしている。このため、ハードウェアT&Lをサポートしたソフトウェアでは大きなアドバンテージを獲得する可能性がある(ただし、ハードウェアT&Lをサポートしたアプリケーションはベンチマークぐらいしかないのが現実だ)。

 既にGeForce2 MXの発表会の記事「NVIDIA、メインストリーム向けGPU“NV11”ことGeForce2 MXを発表」でも述べたように、GeForce2 GTSとの最も大きな違いは、クロック当たりのテクセル数だ。GeForce2 GTSでは4つのパイプラインをダブルパンプ動作させること(つまり倍速で動作させること)で、1クロックあたり8テクセルの処理を実現している。これに対して、GeForce2 MXでは半分の2パイプラインながら、やはりダブルパンプ動作させることにより1クロックに4テクセルを実現している。このため、ポリゴンやテクセル数はGeForce2 GTSに比べると半分以下になっているが、GeForce256は上回るスペックとなっている。また、このほかにもNVIDIAのビデオチップとしては初めて1枚のビデオカードでデュアルディスプレイを実現するTwinView機能、3D画面などを明るく見せる技術のDigital Vibrance Controlなども追加されている。ビデオメモリは最大で64MBまでをサポートし、SDRAM/DDR SDRAMの両対応になっている(ただし、DDR SDRAMを利用した場合にはメモリのバス幅が64bitに制限される)。

 GeForce2 MXはパイプラインの数を半数に減らしながら、製造プロセスルールはGeForce2 GTSと同じ0.18μmとなっているため、ダイサイズはGeForce2 GTSや0.22μmのGeForce256と比較すると小さくなっている。このため、チップの製造コストもさほど大きくはなく、NVIDIAではGeForce2 MXを搭載したビデオカードの価格ターゲットは100ドル(1万円強)においていると説明している。なお、NVIDIAではGeForce2 MXでモバイル市場に食い込もうとしているが、これは難しいだろう。ノートパソコン用のグラフィックスアクセラレータの主流は、ビデオメモリを内蔵するタイプで、GeForce2 MXのようにビデオメモリを内蔵しないタイプのチップがノートパソコンで採用されることは難しい。しかも、GeForce2 MXの消費電力はチップ単体で4Wと、GeForce256の16Wに比べれば圧倒的に下がっているが、ビデオメモリ分を考えればまだまだ不十分なものだ。さらに、搭載ビデオカードのほとんどがヒートシンクを装着していることからもわかるように、発熱量も決して小さくない。こうしたことから、一部のハイエンドノートパソコンでは可能性があるが、実際にはモバイル向けとしては苦しいだろう。


●リファレンスデザインそのままのProLink製GeForce2 MX搭載ビデオカード

 先週末のAKIBA PC Hotline!でお伝えしたとおり、先週から秋葉原ではGeForce2 MXを搭載したビデオカードが出回っている。それがProLinkのMUCA-NVG11AMだ。MUCA-NVG11AMはビデオメモリとして32MBのSDRAMを搭載し、ブラケットの交換でロープロファイルにも対応する。コアクロックは175MHzで、ビデオメモリのクロックは166MHzで動作する。

 と、書いては見たが、実にこのカードには特徴がない。というのも、このカードのデザインはNVIDIAのリファレンスデザインと全く一緒だからだ。GeForce2 MXの発表会で配布された資料にあったNVIDIAのリファレンスボードと、ビデオメモリ、抵抗の位置などが酷似しており、基板の色が違うだけだ。今後各ビデオカードベンダからGeForce2 MXを搭載したカードが発売されるが、今後登場するカードにはぜひとも独自性を発揮したカードを希望したい。GeForce2 MXはせっかく1枚のカードでデュアルディスプレイを実現する機能(TwinView)を持っているのだから、せめて2つのRGB OUTぐらいは用意して欲しいものだ。


●パフォーマンスではGeForce256のSDRAM版とDDR SDRAM版の中間

 GeForce2 MXのパフォーマンスを計測するために、今回もいくつかのベンチマークテストを行なった。通常であれば割と高めのクロックのCPUで計測するところだが、今回は普及価格帯向けのビデオチップであるという本製品の特徴をふまえて、Pentium III 600EB MHzというこちらも普及価格帯のCPUをチョイスした。マザーボードはIntel 815Eチップセットを搭載したIntelのD815EEAを使用した。D815EEAに関しては元麻布春男氏のコラム「Intel 815/815Eチップセットは市場の期待通りの性能か?」を参照していただきたい。なお、今回比較対照として用意したのは以下の製品だ。

 OSはWindows 98 Second Edition(日本語版)にDirectX 7.0aをインストールして利用した。なお、各製品の主な仕様は以下の通り。

コアクロックメモリクロックドライバメーカードライバ日付ドライババージョン
GeForce2 MX175MHz166MHzNVIDIA5/18/20004.12.01.0512
GeForce 256120MHz166MHzNVIDIA5/18/20004.12.01.0512
GeForce 256 DDR120MHz300MHz(150MHz)NVIDIA5/18/20004.12.01.0512
GeForce2 GTS200MHz333MHz(166MHz)NVIDIA5/18/20004.12.01.0512

(1)2D描画能力

 2Dの描画能力を計測するのに利用したのはZiff-Davis,Inc.のWinBench99 Version 1.1に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99だ。16bitカラー(65,536色)と32bitカラー(1,677万色)の2つのモードでそれぞれ計測した。しかし、結論から言えば、これまでの結果と同じようにどのカードでも差はない。従って、2Dで利用する場合にはどのカードを選択しても(パフォーマンスという観点においては)変化がないと言える。

Business Graphics WinMark99High-End Graphics WinMark99
1,024×768 85Hz,16bit1,024×768 85Hz,32bit1,024×768 85Hz,16bit1,024×768 85Hz,32bit
GeForce2 MX177176504500
GeForce 256179176505505
GeForce 256 DDR179173506502
GeForce2 GTS180177507498

(2)DirectX 7対応ベンチマーク

 DirectX 7からサポートされたハードウェアT&Lの機能を利用するベンチマークが、MadOnion.comの3DMark2000とZiff-Davis,Inc.の3D WinBench2000の2つだ。結論から言えば、GeForce2 MXはGeForce256のSDRAM版とほぼ同等か若干上回り、GeForce256のDDR SDRAM版には若干遅れをとるという結果になった(むろんGeForce2 GTSには遠く及ばない)。

3D WinBench20003DMark2000
1,024×768 75Hz,32bit1,024×768 85Hz,16bit1,024×768 85Hz,32bit1,280X1,024 85Hz,16bit1,280X1,024 85Hz,32bit
GeForce2 MX50.93,5882,7802,6971,845
GeForce 25651.73,5002,5692,6001,665
GeForce 256 DDR68.43,7673,2393,0942,294
GeForce2 GTS83.44,0703,6613,8022,663

(3)OpenGL対応ゲームベンチ

 OpenGLに対応した3Dゲームの代表格としてはid SoftwareのQuake III Arenaを利用した。Quake III Arenaは3Dシューティングゲームだが、フレームレート(1秒間に何フレーム表示できたか)を計測するテストとしても利用することが可能だ。

 結論から言えば、ここでもGeForce2 MXはGeForce256のSDRAM版とほぼ同等か、それを上回り、GeForce256のDDR SDRAM版には劣るという結果になった。特に、高解像度・多色モードでの性能低下は顕著で、1,280×1,024ドット/32bitカラーではDDR SDRAMを搭載したGeForce256 DDR SDRAM版、GeForce2 GTSと比べてかなり落ちている。GeForce256のSDRAM版も同様の傾向を示していることからもわかるように、この原因はメモリのバンド幅の違いである可能性が高い。GeForce256とGeForce2 MXの166MHzで動作しているSDRAMのピーク時のバンド幅は2.6GB/秒だが、GeForce256とGeForce2 GTSの333MHz動作のDDR SDRAMは倍である5.2GB/秒となっている。高解像度・多色モードではビデオメモリに送り込むデータ量が膨大な量になるため、ビデオメモリのバンド幅は広ければ広いほどよい。そのあたりの差が如実に現われている結果と考えることができるだろう。

1,024×768 16bit1,024×768 32bit1,280×1,024 16bit1,280×1,024 32bit
GeForce2 MX66.341.546.724.1
GeForce 25664.843.843.524.9
GeForce 256 DDR71.260.552.134.5
GeForce2 GTS73.667.369.743.0

【テスト環境】
CPU:Intel Pentium III 600EB MHz
マザーボード:Intel D815EEA
メモリ:PC133 SDRAM(128MB、CL=3)
ハードディスク:IBM DTLA-307030(30GB、Ultra ATA/100)
OS:Windows 98 Second Edition+DirectX 7.0a


●コストパフォーマンスは間違いなく高いが、大手メーカー製を待つのが得策

 以上のように、ベンチマーク結果から考えるとGeForce2 MX/SDRAMは、GeForce256/SDRAMとGeForce256/DDR SDRAMの中間に位置するパフォーマンスといえる。しかし、Quake IIIの項でも述べたように、GeForce2 MX/SDRAMの描画能力が、GeForce256/DDR SDRAMに及ばないのは、GeForce2 MX本来の描画性能がGeForce256に比べて劣っているからではなくビデオメモリがSDRAMであるためだ。仮に、ビデオメモリがDDR SDRAMでビデオメモリのバス幅がGeForce256と同じ128bitであったとしたら、GeForce256/DDR SDRAMを上回りGeForce2 GTSに迫る性能を発揮するだろう。

 しかし、GeForce2 MXでDDR SDRAMを採用した場合、ビデオメモリのバス幅は64bitに制限されており、333MHzのDDR SDRAMを利用した場合のピーク時バンド幅は2.6GB/秒と、166MHzのSDRAM/128bitバスの場合の2.6GB/秒と変わらなくなってしまう。となれば、GeForce2 MXにDDR SDRAMを利用したとしても、今回のSDRAM版と同じような結果になってしまう可能性が高く、わざわざ高価なDDR SDRAMを採用する理由はなくなってしまう。NVIDIAがDDR SDRAMの場合を64bit幅に制限した本当の理由はわからないが、おそらく128bitにした場合にGeForce2 GTSとの差別化が難しくなり、より利益がでるGeForce2 GTSが売れなくなるというマーケティング的な理由だと思われる。ユーザーという立場から言わせていただければ、実に残念な選択であり、よりよい物を安価に手に入れられるようにするという意味でも、是非ともDDR SDRAMでも128bitバスをサポートできるようにしていただきたいものだ。

 しかし、これまでやや高嶺の花であったハードウェアT&Lをサポートしたビデオカードが、1万円半ばで購入できるようになったという事実は歓迎できる。これまで価格が理由でGeForce256やGeForce2 GTSを採用したビデオカードを購入できなかったユーザーには優れた選択となることは間違いない。ただ、今回取り上げたProLinkのカードはほとんどバルクに近いような製品で、マニュアルなども最低限のものしか付属していない。また、これといった特徴もなく、製品としてはやや寂しい印象を受ける。そうしたことから考えて、今後続々と登場するであろう大手メーカー製のカードを待って購入するというのが最もお奨めと言えるだろう。

□Akiba PC Hotline!関連記事
【7月22日】GeForce2 MXを搭載したビデオカードが発売される
第1弾はPROLINKから、価格は32MBで16,000円前後
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000722/geforce2mx.html

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(2000年7月28日)

[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp