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不定期連載 ゼロ・ハリのホームノマドへの道
~カシオのウエアラブル・デジタル・カメラはどこまで使える~


 「ケータイ Watch」で連載中の「モバイル一宿一飯」などでおなじみのゼロ・ハリ氏による不定期連載です。今回は、カシオのデジカメ一体型腕時計「リストカメラ」をご紹介します。(編集部)


WAP(Wrist Audio Player)に比較して確実に2まわりは小さなリストカメラ。毎朝どちらをして行くか悩んでいる。最後の手段は両腕に時計しかないか……
 G-Shock旋風で停滞気味だった腕時計市場を活性化させたカシオから、今年の春にMP3の再生機能を持った「リストオーディオプレーヤー」(WAP)と同時に発表され、電器街やディスカウントショップでは、発売開始時には売り切れ続出した「リストカメラ」(WQV-1JR)を穴場の東急ハンズの時計売り場で定価で早速ゲットした。小さなモノは何でも購入する自称「ガジェットキング」の筆者がその使い勝手と楽しさをご紹介したい。筆者の購入したものはシンプルなブラックカラーのものだが、今後、ナイロンベルトのカラフルなものや、金属ベルトのものなど商品に幅が増えてくるようだ。

 小さなデジカメや小さなMP3プレイヤー、小さなモバイルPCの必然性は一体どこにあるのだろうか。人間の手の大きさや、見える文字のサイズ、聞こえる音の大小は、多少の個人差があっても、過去から現在まで、国や人種を越えても同じ人類である限り大差は無い。しかし、国土の大きさや、気候、生活習慣、移動の手段などの違いは人間のライフスタイルに少なからず影響を与え、国によって自然と求めるサイズや機能が異なってくるのが普通だ。


一見、ごく普通のデジタル腕時計だ。アラームやストップウオッチ機能もある
 カシオが他社に先駆けて発表したデジタル腕時計にMP3プレーヤー機能を内蔵したWAPや、デジタルカメラを内蔵したリストカメラを初めて見たアメリカ人は、きっと両目を大きく見開いて、「アメージング!」とか「インクレディブル!」と言って大感激しても、いざ購入する段になると躊躇してしまうのが相場だろう。これは、彼らのライフスタイルには必要ない小さなサイズと一人前の価格がそうさせるのだ。これは過去、日本では売れ筋の「ミニノートPC」の類が北米大陸ではまったく鳴かず飛ばずの状況であるのと同じ理屈なのだ。

 しかし、我々日本人は多少事情が異なる。平均的に小さく器用な手を持ち、多くのビジネスピープルは車では無く電車やバスで移動し、ほとんどの場合、それらの交通機関は混み合っている。ケータイ電話にしろ、ポータブルMDプレーヤーにしろ、デジタルカメラにせよ、小さなモノが大好きだ。また男性、女性を問わず、ある程度の年齢になってもポストペットやポケットボード等が好きで、見方によれば「欧米人に比較して成人度が低い」と考えられてもしかたがない要素がある。筆者もご多分に漏れず小さなガジェットが大好きな方だ。だからWAPもリストカメラも発売日にゲットしたのは言うまでもない。


画面の半分づつシャッターを切れるツーショット撮影など面白い機能も満載だ
 WAPの方は、これも発売日にゲットしたソニーの「メモリースティック・ウオークマン」を早々と押し除け、筆者の毎日の「通勤の友」として大活躍している。惜しむべきは、標準搭載のMMC(内蔵フラッシュメモリーカード)のサイズを32MBではなく、2倍の64MBにしておいて欲しかった。いずれ後続のWAPは間違いなく64MB以上を登載出来るスペックで出て来るだろう。そこそこサイズの大きなG-Shockのような腕時計を身に付けることに違和感の無い人なら、WAPもそれと同じコンセプトのリストカメラもそんなに大きなためらいはないだろう。リストカメラは、WAPと比較しても一回り小さく、昨今の衝動買い狙いのファッショナブル腕時計と大差無い大きさだ。毎日時計を換えても2ヵ月以上同じ腕時計をしなくてもよい筆者の安物コレクションの中でもリストカメラは特にサイズの大きい方ではない。既に多くの販売店では19,800円のベストバイ・プライスになっている。


撮影レンズ(左側)と赤外線ポート(右側)が並んで配置されている。まさにディックトレーシーの世界だ
 リストカメラは重さたったの43グラム、内蔵メモリ1MB、撮影素子として総画素数28,000画素の白黒CMOSセンサーを採用している。F2.8固定焦点、30cm~無限遠を電子式シャッターで撮影する。普段はカレンダー+時刻表示になっている液晶画面を撮影時のリアルタイムモニターやプレイバック画面として使用する。モニター解像度は約2cm平方で、120×120ドット、白黒16階調表示となる。撮影された写真は1MBの内蔵メモリに100枚収納可能だ。リストカメラは内蔵赤外線ポートを標準登載しており、別売の「リストカメラ用PC接続キット」を購入する事で、撮影済み画像を115Kbpsのスピードでパソコン側に転送可能だ。転送時に特殊フォーマットでリストカメラ内に保存されていた撮影データは標準的なBMPやJPEG画像に自動変換される。


モバイルPCの内蔵赤外線ポートはサポートされない。そのため、オプションの赤外線通信アダプターが必要となる
 既に、デジカメの世界では理論値で400万画素を越える時代となり、これらの高画素デジタルカメラとリストカメラをスペックだけで比較すること自体に意味があるとは思えない。街を歩いていたり、喫茶店や駅で何かをスナップショットしたいという経験は比較的よくあることだ。その度にデジタルカメラを鞄から取り出して、時には更にケースから取り出して撮影するには余りにも多くの準備時間が必要だ。また、いつも持ち歩く候補商品の多いホームノマドやモバイルキングでも、そこそこ大きさのあるデジタルカメラを毎日持ち歩く鞄に常時入れているとは限らない。こんな時に役に立つのがリストカメラだろう。比較的近距離にあるバスや電車の時刻表や、カタログなどの小さな文字、名刺などの文字も、液晶を見ながらの撮影手法に多少慣れれば、撮影結果を本体やパソコン上で見ても認識判別は可能だ。「リストカメラ」は撮影経験を積んだユーザーなら、何とか「メモ&スナップショット」専用機として使える最低レベルのクオリティーはクリアしていると言っていいだろう。


ワイアレスでアップロードされた写真は順次画面に表示される サムネイル表示は3サイズあり、BMP、JPG画像をハンドルできる。一般的な画像整理ブラウザーと考えても、シンプルながら良くできている

 リストカメラWQV-1は、通常のデジタル腕時計として、カレンダー、時刻表示やアラーム機能、ストップウオッチ機能を標準搭載し、カメラとしての撮影モードには、ごく普通に撮影する「ノーマルモード」以外に、画面を2分割し連続して撮影した左右の2枚を一枚に合成する「ツーショットモード」、画像を撮影時からモノクロ2値で撮影する劇画風の「アートモード」など、何れか任意の撮影モードを選択出来る。また、撮影済みの写真画像に、被写体の名前や電話番号など、最大24文字までの撮影データやメモ等を入力してビジュアルデータバンクとして活用することも可能だ。


任意の画像にコメントを付け加えたり、明るさやコントラスト、シャープネス、色相、彩度を変更できる

 撮影画像をパソコンに転送するには、リストカメラの撮影レンズのすぐ脇にある内蔵赤外線ポートを使用する。転送レートは標準の115Kbpsではあるが、なぜかWindows 98でサポートされ、ごく一般的なモバイルPCに標準搭載されている赤外線ポートを利用することができない。そのため、赤外線ポートが標準でサポートされているモバイルPCでさえ、オプションの「リストカメラ用PC接続キット」(7,000円)を別途購入し、PC内蔵の赤外線ポートではなく、わざわざシリアルポート接続の「赤外線通信アダプター」を経由してデータ転送することとなる。オプションキットの7,000円という出費はなんとか我慢できるとしても、本来、赤外線ポートを搭載しているモバイルPCでも、それを使用せずに、新たに別の「赤外線通信アダプター」を必要とするのは理解に苦しむところだ。

他のデジタルカメラで撮影した画像等をエディット、最適化してリストカメラ側に送り出すことも出来る


WQV-Linkの設定画面には「ラップトップ、デスクトップPCのビルトイン赤外線ポート」という項目もあるのだが……

 本来ならモバイル環境で、リストカメラの撮影データを即座に携帯しているモバイルPCに転送可能なのだが、そういう活用を前提にするならば、普段からモバイルPCとは別に「赤外線通信アダプター」も常時携帯しなければならない。9ピンのレガシーなシリアルポートを標準で搭載しているモバイルPCもどんどん減り、最悪の場合は、「USB→シリアル変換アダプター」の準備も考慮しなければならない。

 しかし、何故かオプションの接続キットに含まれるリンクソフト「WQV-Link」のオプション設定画面には、同社の専用赤外線アダプター以外にも、「エクステンドシステムのJetEye」等と並んで「ラップトップ、デスクトップPCのビルトイン赤外線ポート」など全部で5種類の外部連携ポートをサポートしているかの様な設定画面がある。しかし実際に「ラップトップ、デスクトップPCのビルトイン赤外線ポート」を選択しても、撮影データの転送は不可能であった。メーカー保証では無いが、実際には動作する場合などに、ユーザーの使い勝手を優先考慮してこのような手段が取られるケースは他社でもよく見受けられるが、今回のケースはどうも例外らしい。

 既に、カシオでは、リストカメラの次機種の製品企画などに入っている頃だろう。次機種は、まずカラー対応の、今より少し高画素なリストカメラだとは思うが、間違いなくモバイルPC内蔵の標準的な赤外線ポートのサポートと、Palm、WorkPad等PDAへのデータ転送サポートを確実に行なってほしいものだ。「リストカメラ WQV-1」は実用一点張りで面白い商品の少ない昨今、アイデア満載でとても面白い商品だと思うが、最後の詰めが甘く感じられるのが残念でならない。


□カシオ計算機のホームページ
http://www.casio.co.jp/
□製品情報
http://www.casio.co.jp/ww/WAP/index.html
□関連記事
【1月6日】カシオ、世界初の腕時計型デジタルカメラと腕時計型MP3プレーヤー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000106/casio.htm

(2000年6月26日)

[Text by ゼロ・ハリ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp