IBM USBマルチポートHUB |
また、Eメールを含むインターネットとデジカメ写真のDPE作業だけが目的の多くの新世代パソコンユーザーも急増し、ヘビーなゲームユーザーとほんの少しのクラフトマン、そして少しでも他人と違うと感じたいユーザー以外は、組み立てパソコンやメーカー提供のデスクトップPCではなく、多少大きさの違いはあれ、モバイルPCを1台目のパソコンに選ぶ傾向が著しく増加しているのも大きな環境変化だ。
●増加する「何の変哲も無いオールインワン・モバイルPC」
本格的な普及開始から既に40年近くを迎え、広く行き渡ったテレビの年間出荷数量を越え、年間約1,000万台以上出荷される日本のパソコン市場だが、いずれその半分以上を形態的にはモバイルPCが占めるのも時間の問題だろう。
これらモバイルPCの中で実数を延ばしているのは、サブノートPCやミニノートPCだと想像する向きもあるが、現実はまったく異なり、デスクトップPCの置き換えに使える様なオールインワン・タイプのヘビーモバイルPCなのだ。小さなモバイルPCが人気だと思われている国内市場でも、実質的に台数が大きく伸びているのはごく普通のモバイルPCなのだ。この点は、やはりオールインワン・タイプの「ノン・コンプロマイズド・モバイルPC」(デスクトップPCに比較して妥協のないモバイルPC)が市場の大勢を占めている米国国内市場と結果だけを見れば良く似た構図になっている。
ただ大きく違うのは、同じオールインワン・タイプのモバイルPCを購入しても、それを実際に携行する米国人と、自宅のデスクから全く動かさない日本人の違いなのだ。サブノートPC以下の小型のモバイルPCが実数に比べ、パソコン誌を始めとするメディアの注目度が高いのは、日本のサブノートPCやミニノートPCは声の大きなユーザーがアジテートしている市場構造だからだろう。
●レガシーフリーと日米モバイル事情
デスクトップPCを始めとするパソコン全体に忍び寄るメーカー主導の「レガシーフリーの陰謀」は、一方では、モバイルPCをより軽量・コンパクトに生まれ変わらせるチャンスも増加させている。伝統的なシリアルポート(RS-232C)やパラレルポート(プリンタ)、RGBポート、PS/2キーボード、マウスポート等の拡張ポートを本体の基板から取り去ることにより、サブノートPCはユーザーインターフェイスの要であるキーボードサイズ等を犠牲にすることなく軽薄化を実現できたり、ハードウエアのダイエットで稼いだ重量を充電池容量に振り向け、よりユーザーの使い勝手の良い方向に成長させることも可能なのだ。
テクノロジーの進歩と低価格化により、オールインワンタイプのモバイルPCを自宅やオフィスのデスクトップPCの代わりに選択できる環境は既に実現したが、残念ながら徒歩と通勤電車がほとんどのビジネスマンの足である日本では、この2~3kg前後のモバイルPCを省スペースのデスクトップPCとして活用すると同時に、いつでもどこでも携帯できるPCとして活用することは限りなく不可能に近い。
米国では筆者がつい最近まで活用していたThinkPad 570のように、モバイル時は薄い本体だけを携帯し、オフィスや自宅に帰るとウルトラベースと呼ばれるドッキングステーションや拡張ポートリプリケーターに本体をドッキングして、ネットワークからCD-ROM、プリンタ、モデム、スキャナ、外部の高解像度ディスプレイ、外部キーボード、マウスまで即座にデスクトップPCのように利用できる理想の「ホットドック」(パワーオンのままの接続)機能が多くのメーカーで標準的にサポートされており、体力と機動力のあるユーザーの満足度も高い。
たまの出張や顧客先でのプレゼンテーションの時に使用するために持ち歩くなら、ThinkPad 570クラスのPCの機能や拡張性、ユーザービリティは欲しいが、やはりその外観サイズ(A4ファイル)や1.7kgの重量は、「米国人の毎日持ち歩きサイズ・重量」であり、実際に毎日の電車やバスの通勤で常時携帯することを前提に考えた場合、日本人にはヘビーだろう。昨年末に購入したばかりのThinkPad 570だが、筆者は、思い切ってより小さく軽量な弟分である1.3kg、B5ファイルサイズのThinkPad 240を毎日のモバイルPCとすることを考えた。たった400グラムの違いだが、この差は筆者には大きかった。ThinkPad 240もThinkPad 570同様全てのレガシーポートを装備し、拡張性は完璧に見えたが、唯一ThinkPad 570と異なったのは、価格的に下位機種であるからか、俗に言う「ドッキングステーション」による拡張性が全くサポートされていなかったことだ。これでは、自宅やオフィスの使用環境からモバイルPCスタイルに変身する度に、ACケーブルを始め、シリアル、パラレル、キーボード、マウス、PCカード等、数本以上のいろんなケーブルを毎回抜き差ししなければならなくなってしまう。
往年の名機である「東芝J3100GTラップトップPC」以来、既に軽く10年以上「モバイル」を実践してきた筆者は、「ドッキング・ステーション機能はより携帯性の優れたモバイルPCにこそ必要な機能だ」と考えていたが、残念ながら日本と米国に於いて、その対象パソコンサイズの基準は異なるようだ。米国では対象となるのはThinkPad 570クラスの米国人モバイルPCであり、筆者の考えでは、その対象モバイルPCはThinkPad 240クラスなのだ。
●マルチポートUSB HUBはどこまで使える!?
一風変わった外観をしているIBMのマルチポートUSB HUBだが、黒いThinkPadにはクールに似合う。前面には1個のUSBポートと、パソコン側のUSBポートと接続するコネクターがある | 背面には4個のUSBハブとPS/2キーボードポート、PS/2マウスポート、DC電源入力ポート、シリアルポート、パラレルポートがある |
もはや、従来のThinkPad 570に戻るしか策がないと思っていたところに、IBMがオプションで発売している「IBMマルチポートUSB HUB」という製品を同社のWEB上で発見した。米国内のコンピュータ関連のショウで、大型のミニタワーサイズのモノは時折見かけていたが、比較的コンパクトでこれほど便利で現在の筆者の要求にピタリとあった製品は見たことがなかった。
「IBMマルチポートUSB HUB」はパソコンとUSBケーブル1本で接続することで、5個のUSB HUBの機能と、プリンタポート、シリアルポート、PS/2キーボードポート、PS/2マウスポートの拡張性をプラグ・アンド・プレイで提供する拡張機器だ。5個のUSBポートの内1個だけは前面に位置している。ThinkPad 240と同様のACアダプタも標準添付されており、販売価格は18,000円だ。外観は写真にあるように結構ユニークな形をしているが、操作性は極めて良く、ブラック・トランスルーセントのボディ内部で、USBポートの使用の有無やデータ転送を表示する複数の黄色と緑のLEDの点滅がなかなかファンタジックだ。
筆者は「IBMマルチポートUSB HUB」の前面にあるUSBポートにメルコのUSB 10M/100M LANアダプタ「LUA-TX」を常時接続している。背面にあるプリンタポートにはキヤノンのカラープリンタ、シリアルポートにはWorkPadのクレイドル、PS/2キーボードポートとPS/2マウスポートにはトラックポイント付きのIBMスペースセーバーキーボードII、4個のUSBポートには、IBMのウルトラポート・カメラ、NECの小型スキャナである「PetiScan」、カシオの腕時計MP3プレーヤーである「Wrist Audio Player「WMP-1V」」、IBM USB Portable CD-ROMドライブの4つを普段は接続している。この状態で、ThinkPad 240のPCカードスロットは使用していないので、いつでもデジカメで撮影したフラッシュ・メモリーカードやスマートメディア・カードは読み書き可能だ。トラックポイントIIIは慣れてしまえば、どんなに細かな作業でも全くマウスの必要性を感じないが、どうしてもマウスが、というユーザーはUSBマウスやPS/2互換マウスを接続して使用することも可能だ。昨今は、全く使用する機会が少なくなったが、必要ならUSBタイプのFDDやメモリカードリーダーなどが付属したFDコンボドライブ等も接続できる。
残念ながらRGB出力だけは技術的にUSBポートでは実現が難しく、やはりThinkPad 240のRGBポートから直接ディスプレイケーブルを引き出す必要があるが、筆者は、自宅ではThinkPad 240の10.4インチの800×600ドット液晶をそのまま使用している。ThinkPad 240のキーボードは感触、ピッチ共モバイルPCの中では秀作なので、わざわざ外付けキーボードを取り付ける必要は無いかもしれないが、それより、IBMのサーバー向けに開発された10キーのない、トラックポイント付きの「IBMスペースセーバーキーボードII」(12,500円)がデザイン的に気に入っているので、それを外付けキーボードとしてわざわざ接続している。レイアウトの関係で、多少画面が遠くなるのを防ぐために、筆者は「スパルタカマス」と呼ばれるモバイルPCを立てて使用するためのスチール製のスタンドを利用している。大昔、筆者らが「ThinkPad 220徹底活用ブック」で提唱したモノだ。当時の様に書店や文具店で売っている書見台でも応用は簡単にできるが、安定性と重量感、それになによりネーミングを気に入って活用している。常に使う訳では無いウルトラポートカメラ等は、マルチポートUSB HUBのポートを常時占有はしていない。
また最近は、筆者の常用デスクトップPCである79,800円のスリムなAptivaとThinkPad 240とのデータのやり取りに、USBプラグの形状をしたフラッシュメモリ「ThumbDrive」(16MB~128MB)を活用している。ごく一般的なメモリカードの様に、パソコンのPCカードスロットに挿入してから認識されるまでの不安な時間を過ごす必要がないのは健康的だ。パワーポイントの大きなデータファイルから高画素デジカメのデータまで、ThumbDriveはUSBポートを持つほとんどのパソコン間で快適なデータ転送を実現してくれる。筆者はThumbDriveもAptivaの前面にある2個のUSBポートと、マルチポートUSB HUBの5個あるいずれかのUSBポートとの間でいとも簡単に実現できている。
サブのデスクトップPCや家族のパソコンとのデジタル写真データや文章のやり取りは、いつまで経っても認識に不安感のあるPCカードではなく、もっぱら最近はThumbDriveの出番が多い | 最近、自宅のメインPCとなった79,800円のAptiva。HDDは15GBで、USBポートが前面×2、背面×2で快適 |
●「マイ・ファースト・モバイル」にサブノートPCを選ぶ!
前面のUSBポートからはメルコのUSB接続対応 USB 10M/100M LANアダプタ「LUA-TX」を使用してホームLANに接続。スペースセーバー・キーボードIIはこれで、オリジナルPC/AT機のような「メカニカルなクリック感」があれば世界最高のキーボードだ |
(2000年6月1日)
[Text by ゼロ・ハリ]