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第55回 : “アンチ派”はPC Expoに注目、Transmetaとソニーが話題を提供!?



 「今年はもうPC Expoはいいかな」そんなセリフを複数のジャーナリストから聞いた。ほんの2カ月ほど前のことだ。毎年6月にニューヨークで開催されている情報技術関連製品の展示会PC Expoは、飛躍的にプロセッサ性能が向上し、機能も充実の一途をたどったPCの新しいトレンドを見るのに最適なイベントだった。春のCOMDEXが凋落する一方で、PC Expoに注目が集まり始めたのは'95~'96年ぐらいのことだった。

 しかしここ2年ほどは、PCの機能そのものに対する行き詰まり感(単にプロセッサが高速になっていくだけで、心躍らせる話題が少なかった)もあり、少々面白味に欠ける展示会になっていたことは確かだ。そんな中、僕は別の仕事で今年も6月27日から開催されるPC Expoへと足を運ぶことになったのだが、イベントが近づくにつれ、ここ数年のマンネリ化したPC Expoとは異なることが分かってきた。“アンチIntel派”にはTransmetaが、“アンチWindows CE派”にはソニーが、新しい話題を提供してくれそうだからだ。


●いよいよ姿を現すTransmetaの戦略

 Transmetaについては、今年1月に低消費電力のx86互換プロセッサ「Crusoe」を発表して以来、話題になりつつも具体的な戦略が見えにくい状況にあった。このベンチャー企業は、シリコンバレーに身を寄せながら、具体的な製品が出来上がる前に話題先行させて“予定は未定”な事を吹聴しない。

 それはCrusoeが5年もの歳月をかけて開発されたにも関わらず、ほとんど情報らしい情報が製品発表まで出てこなかったことからもわかるはずだ。Crusoeに関する発表前の情報は、Transmetaが取得した特許情報から類推されたものばかりだった。

 具体的な製品、インターネットアプライアンス向けの「TM3120」と、Windows PC向けの「TM5400」が発表されてからも、いくつかのベンダーがCrusoe採用の意向を発表したものの、Transmeta自身は全体的な同社の戦略について、あまり大きな風呂敷を広げて語ろうとはしない。

 ここでCrusoeについてわかっていることをまとめてみよう。

・低消費電力

 TM3120の400MHz版はスリープモード時に20mWの消費電力。アプリケーションを走らせた時は、平均で1W以下という見積もり。Windows搭載のノートPCに用いられるTM5400の700MHz版は、ディープスリープというモードで8mW以下に消費電力を抑える。アプリケーション実行時は1W以下、規模の大きなソフトウェア実行時でも2W以下の平均消費電力という。

・エミュレータソフトウェアによるx86互換

 ハードウェアをシンプルなものとし、互換性はソフトウェアで取る。x86命令はエミュレーションで実行、エミュレータのアップグレードも可能。ハードウェア部分が小さい(驚くべき事にi486よりもトランジスタ数は少ない)ためローコストに製造できる。チップはノースブリッジに相当する機能を内蔵し、チップ全体が仮想的にx86互換として見えるように作られているようだ。

・大手IT企業が出資

 日本、米国、台湾、韓国の名だたる企業が、Crusoeの発表後に出資を表明している。主だった名前を挙げると、ソニー、IBM、America Online(AOL)、Compaq、Phoenix、Samsungといったところだ。ノートPCのOEM出荷大手であるFIC、クアンタが出資企業に加わっている点も注目される。世界のノートPCは、これら台湾のベンダーが実際には設計・製造していることが多いからだ。

・S3とAOL/Gatewayが採用を表明

 S3はグラフィックベンダーから、インターネットに関連したあらゆるデジタルデバイスを提供するベンダーに転身しようとしている。Crusoeが発表されてから、S3がその採用を発表するまでの時間は非常に短かった。

 AOLとGatewayの発表は、もっと具体的なものだ。Gatewayは自社の販売するPCと、ネットワークサービスを結びつけようと、さまざまなビジネスモデルを打ち出している(プロバイダ契約をすると割引でハードウェアを購入できるなど)が、5月にはAOLとタッグを組んでCrusoe搭載のインターネット端末を開発すると発表した。

 開発する端末はWebパッド、デスクトップ、カウンタートップの3種類。手軽にインターネットを使えるアプライアンス端末になる予定。

・インターネットアプライアンス向けに専用Linuxを用意

 TM3120は、より小型で扱いやすく、低価格なデバイス向けにデザインされており、専用のモバイルLinuxも用意されている。開発にはLinuxカーネルの開発者Linus氏が取り組んでいる。Crusoeに最適な電源管理と、ディスクレスで動作するコンパクトなコンポーネントセット、Webブラウザなどの基本機能が組み込まれ、プロセッサと共に提供される予定。ベンダーはこれをカスタマイズして、製品に組み込むことができる。

 Transmeta関係者の話を総合すると、同社がもっとも期待している市場はインターネットアプライアンス市場のようだ。Intelと直接競合しないことを毎度強調している(Intelと直接競合することで標的にされることを恐れているようにも見える)Transmetaだけに、どこまでが本気の話なのかは分からないが、モバイルに特化したプロセッサとして、Crusoeはインターネットアプライアンスを主戦場として見ているようだ。

 先日開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2000では、National SemiconductorのMedia GXを搭載するWebパッドなど、インターネットアプライアンスが多く展示されたが、その中に混じってFICがTM3210と、モバイルLinuxを搭載したAQUAと呼ばれる製品を展示した。

 さらにここでは名を伏せさせてもらうが、ある大手ベンダーのモバイルコンピュータシリーズに、Crusoe搭載機が計画されているようだ。こちらはWindowsが動作するノートPCになるようだ。PC Expoへの展示が行なわれると明言されたわけではないが、出展の可能性は低くないという。登場すれば、初のTM5400採用機となるだろう。

 Transmeta自身は、出展は行なわないが、Crusoeを採用するのではないかと見られる企業はPC Expoに出展を予定している。具体的な製品が登場することにより、Transmetaがどのような戦略を持つのか、採用製品はどの程度の性能を持つのかが明らかになるだろう。

 うまくいけば、今年の後半には1日中、バッテリで運用できる軽量なノートPCを入手できるようになるかもしれない。


●ソニーが秘密のベールに隠されたPalm OS採用製品を展示予定

 ソニーはPalm Computingと提携し、Palm OSを採用したモバイル機器を開発すると'99年末に発表。これまで「エンターテイメント指向の」製品であることは明らかにされているものの、どのような製品になるかはわかっていない。カラー液晶の採用やワイヤレスアクセス機能の搭載などは、さまざまなニュースサイトで報道されてきたが、カラー化とワイヤレスアクセス機能の搭載は、すでにパームコンピューティング自身が行なっており、別のなんらかの要素が含まれることになるだろう。

 それはハードウェア面での新機軸かもしれないし、ネットワークサービスやPC用ソフトウェアと組み合わせたソリューションかもしれない。この辺りは情報が少ないのだが、そのヒントとなる展示がPC Expoでは行なわれるようだ。米Sonyの社長に就任した西田不二夫氏が、米国でのイベントでPC Expoへの出展を明らかにしている。

 事の詳細を日本のソニー広報に問い合わせてみると「今のところモックアップに近い形で展示を行なうだけで、実際の動作を確認してもらうことはできないと思う」とのことだが、パームデバイスのファンならずとも、その姿は気になるところだろう。

 個人的に現状のパームデバイスは、シンプルで使いやすく情報を持ち歩くには便利だが、コンシューマが手軽にインターネットにアクセスするツールとしては、まだ欠けている機能が多いと感じている。

 ソニーが様々なアプリケーションを追加インストールしなければメールを読めないデバイスを発売するとは考えにくい。PC Expoでは具体的な動作を確認できない可能性も高いが、ソニーがどのような方向で開発しているかを見る良いチャンスではあるだろう。

□PC Expoのホームページ
http://www.pcexpo.com/

[Text by 本田雅一]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp