久々にフライングで登場したIntel製CPU
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Celeron 667MHz(左)とCeleron 633MHz(右) |
Intelがまだ発表していないCeleron 633MHz、667MHzが秋葉原での販売が開始された。最近ではAMDとの競争が激化しているためか、リリース日(つまりプレスリリースが出される日)が実際の出荷よりも前に設定されるため、製品発表からしばらくしないと実際の製品が登場しないという状況が続いていたが、今回の633MHz、667MHzの2製品は久々の「フライング」販売が実現した製品となった。その背景なども含めてこの2製品のパフォーマンスについて探っていこう。
●実は4月末出荷が予定されていたCeleron 633MHz、667MHz
今回販売されているCeleron 633MHz、667MHzの2製品は化粧箱に入っていないいわゆる「バルク品」で、CPUクーラーなどは付属していない。このことから、今回のCeleron 633MHz、667MHzの2製品がOEMメーカー向けの製品が何らかの形で市場に流れた製品であることがわかる。ということは、Intelからは公式に発表はされていないものの、この2製品がOEMメーカーに対しては何らかの形で出荷されていると言っていいだろう。最近では、プレスリリースが先に出て出荷が後ということが多かったIntelとしては、久々にOEMメーカーに製品が行き渡ってからのリリースということになる(かつては全てこうだったのだが……)。
久々にこうした順序になっている背景には、おそらくCeleron 633MHz、667MHzが一度は出荷が延期された製品であるということがある。ただ、この出荷延期に関してIntelは公式に否定している。4月に来日したパットリック・R・ゲルシンガー副社長は報道陣の「Celeronの出荷が遅れているのでは」という質問に「この四半期に予定されている新しいCeleronは、633/667/700MHzの3機種だが、予定通りにこの四半期中に発表される。これらの製品は四半期のはじめに登場するとレポートされていたため、四半期の終わりに発表となることで、遅れたとされてしまっているようだ。我々はこの四半期に発表するとのみ明らかにしており、当初の予定通りである」と答えており、公式に遅れはないとしている。
しかし、情報筋やOEMメーカー関係者によると、どうやら3月の段階ではCeleron 633MHz、667MHzの発表が4月末に予定されていたという。これが、何らかの事情で6月の末にリリースされる予定と言われているCeleron 700MHzと同じタイミングになったというのだ。どうも、その延期の理由はCoppermineコアの不足にあるようだ。既にこのコラムでもたびたび触れているように、現行のCeleronに使われているCoppermine-128Kは、Pentium IIIに利用されているCoppermine-256KのL2キャッシュを半分に制限したもので、基本的には全く同一のコアであるといってもよい。
当然、Coppermine-256K(つまりPentium III)の方がCoppermine-128K(つまりCeleron)よりも高く売ることができる。そうした中で、仮にCoppermineコアが全体で足りないのであれば、わざわざ安くしか売れないCoppermine-128Kにしないでも、Coppermine-256Kのまま売った方が高く売れる(つまり儲かる)わけだから、当然の事ながらCoppermine-256Kのまま出荷したほうがよいということになる。
このため、Celeron(つまりはCoppermine-128K)が足りなくなっており、物がないのに発表だけしても……ということで4月末の発表が延期されたというのが背景であるようなのだ。もともと4月末にリリースが予定されていたものであれば、この時期にOEMメーカーに対して製品が行き渡っていてもおかしくはなく、そのうちの一部が秋葉原に出回ったというのが真相なのだろう。
●電圧と配線パターンが変更に
今回編集部で入手したCeleron 633MHz、667MHzの2製品は、従来のCeleron 600MHzと比較して、2点で異なる部分がある。1つは電圧だ。従来のCeleron 600MHzは電圧が1.5Vと低電圧になっていたのだが、Celeron 633MHzと667MHzの2製品は1.65Vとなっている。つまり、SECC2のPentium IIIなどと同じ電圧になっている。いきなり電圧が0.15Vも上がっているのだ。また、裏側の配線パターンにも変更があり、従来はほとんどなかった配線パターンが、Pentium IIIと同じようになっている。
Celeron 633MHz(左)とCeleron 600MHz(右)。633MHzでは電圧は1.65Vとなっている | Pentium III 550MHz(左)、Celeron 633MHz(中央)、Celeron 600MHz |
どうしてこのような仕様になったのかは、Intelから公式な発表がされていない現時点では確かめようがない。ただ、電圧に関しては推測することが可能だろう。もっともしっくりくる理由は、高い電圧をかけることでCPUの動作を安定させるためという理由だ。1GHzのPentium IIIも動作を安定させるため、通常のPentium III(1.6Vないしは1.65V)に比べてやや高めな1.7Vという電圧がかけられている。これは半導体が、高い電圧をかければかけるほど安定して動作するという特性を利用した手法で、ユーザーがクロックアップするときなどにも利用される。もともとCoppermine-256Kは1.1V~1.7Vあたりの電圧をターゲットに設計がされており、このあたりまでは十分耐えうるようになっている。ただし、電圧を上げれば上げるほど消費電力は増えるので、安定する範囲であれば電圧は低い方がOEMメーカーが熱設計(CPUがだす熱をどう排出するかに関する設計)が容易になる。
特にCeleronのようなバリューPCでは、ケースが非常にコンパクトで、熱設計に関する要求がシビアであることも少なくないので、電圧は低ければ低いほどよい。にもかかわらず、電圧が上げられたということは、そちらを多少犠牲にしても上げざるを得なかった(つまり、そうしないと安定しなかった)ということなのだろう。
●Pentium III 600EB MHzにも及ばないCeleron 667MHz
今回はCeleron 633MHz、667MHzの2製品を入手したので、実際にベンチマークを走らせてそのパフォーマンスを探っていくことにした。両製品ともシステムバス(FSB)は66MHzのままで、それぞれ66MHz×9.5倍(633MHz)、66MHz×10倍(667MHz)で動作している。今回利用したベンチマークは、Ziff-Davis,Inc.のWinBench99 Version 1.1に含まれるCPUmark99、FPU WinMark、MadOnion.comの3DMark99 MAXに含まれる3DMarkとCPU 3DMark、さらには同じくMadOnion.comのMultimediaMark99の5つのテストだ。それぞれのテストの詳細に関しては、バックナンバーを参照していただきたい。なお、WinStoneについては、ベンチマーク途中でハングアップしてしまい、計測不能だったため、今回は掲載していない。
【動作環境】
★マザーボード
Pentium III(FSB133MHz):SOLTEK Computer SL-67KV(Apollo Pro133A)
Pentium III(FSB100MHz)、Celeron:ABIT Computer BE6(440BX)
Athlon 700MHz:AMD FESTER(AMD-750)
Athlon 600~650MHz:MSI MS-6167(AMD-750)
★メモリ(容量はいずれも128MB)
Pentium III(FSB133MHz):PC133 SDRAM
Pentium III、Celeron、Athlon、K6-2、K6-III:PC100 SDRAM(Celeronは66MHzで動作)
★ビデオカード
カノープス SPECTRA5400 Premium Edition(RIVA TNT2、32MB)
★ハードディスク
WesternDigital WDAC14300
★OS
Windows 98 Second Edition 日本語版+DirectX 7.0
CPUmark 99 | FPU WinMark | |
---|---|---|
Athlon 600MHz | 55.7 | 3,260 |
Athlon 650MHz | 59.4 | 3,530 |
Athlon 700MHz | 65.0 | 3,800 |
Celeron 533MHz | 37.4 | 2,850 |
Celeron 533A MHz | 37.4 | 2,840 |
Celeron 600MHz | 40.2 | 3,120 |
Celeron 633MHz | 43.3 | 3,300 |
Celeron 667MHz | 44.9 | 3,550 |
Pentium III 600E MHz | 54.9 | 3,220 |
Pentium III 600EB MHz | 55.7 | 3,210 |
Pentium III 650 MHz | 58.4 | 3,490 |
Pentium III 667 MHz | 60.9 | 3,570 |
Pentium III 700 MHz | 62.4 | 3,760 |
3DMark99 Max | 3D CPUMark | MultimediaMark 99 | |
---|---|---|---|
Athlon 600MHz | 5,602 | 10,227 | 1,527 |
Athlon 650MHz | 5,756 | 10,876 | 1,626 |
Athlon 700MHz | 6,114 | 12,164 | 1,826 |
Celeron 533MHz | 3,839 | 4,557 | 1,138 |
Celeron 533A MHz | 4,385 | 7,081 | 1,399 |
Celeron 600MHz | 4,636 | 7,794 | 1,535 |
Celeron 633MHz | 4,996 | 8,209 | 1,633 |
Celeron 667MHz | 5,066 | 8,481 | 1,699 |
Pentium III 600E MHz | 5,846 | 9,255 | 1,736 |
Pentium III 600EB MHz | 5,912 | 9,404 | 1,742 |
Pentium III 650MHz | 6,088 | 9,807 | 1,821 |
Pentium III 667MHz | 6,263 | 10,286 | 1,897 |
Pentium III 700MHz | 6,345 | 10,420 | 1,960 |
結論から言えば、今回行なったベンチマークテストのうち、FPU WinMarkを除く4つのテストで、Celeron 667MHzはPentium III 600EB MHzに及ばないという結果になった。CeleronとPentium IIIの差はL2キャッシュとシステムバス(FSB)のクロックの容量だけであると言ってよく、その分で大きな差がついていると考えざるを得ない。特に、3DMark99 MAXのような3Dアプリケーションでは、大量のデータの転送がメモリ、CPU、グラフィックスチップ間で行なわれるため、その通り道であるシステムバスのバンド幅はパフォーマンスに大きな影響を与える。Celeronのシステムバスは66MHzであり、計算上は533MB/秒のバンド幅となる。例えば、Pentium III 667MHzはシステムバスは133MHzなので、1GB/秒のバンド幅となり、実に倍近いデータを一度に転送することが可能になっている。この部分の差が3Dアプリケーションやマルチメディアアプリケーションなどでは出ていると考えることができる。
●結論はDuron待ちだが、バリューPC向けCPUとしては魅力的
以上のように、性能面で考えれば残念ながらPentium IIIと比べるべくもないCeleron 633MHz、667MHzだが、現時点では初物価格ということもあり、あまりお買い得な値段でもない。例えば、Celeron 667MHzの先週末時点での平均価格は25,153円で、Pentium III 600E MHzの26,654円と比べてもあまり変わらない。これだったらコストパフォーマンスという観点から考えれば、Pentium III 600E MHzを買った方がお得である。ただ、今後実際にリリースされてリテールパッケージなどが登場すれば状況は変わる可能性があり、その点では十分注目に値する製品だと言える。クロックアップに関してだが、筆者も667MHz(66MHz×10)で、FSBを100MHz、つまり1GHzに設定してみたが実際のところBIOS画面まで起動したものの、それ以上は動作しなかった(CPUクーラーはPentium III 600E MHzのリテールパッケージに付属してきたものを利用)。やはり倍率がかなり上がってきているので、あまりクロックアップには向いていないと言えるだろう。
さて、問題はこの高クロック版のCeleronがAthlonコアのバリューPC向けCPUであるDuronと比べてどうかだが、Duronが入手できていない現時点では全くわからない。現行のL2キャッシュがオフダイのAthlonとの比較では、Celeronの方がややAthlonに比べて不利になっている。ただ、現行のAthlonのL2キャッシュは512KBだが、Duronでは64KBとかなり少なくなる。その代わりL2がオンダイになるわけで、L2キャッシュ容量が少なくなる分をオンダイ化することでどの程度補えているのかに注目される。
現時点では、Duronのデビューの時期には、いくつかの説があるようだが、筆者は6月5日から台北で開催されるCOMPUTEX TAIPEIか、6月27日からニューヨークで開催されるPC EXPOのどちらかで発表されると予想している(つまりいずれによせ、6月中ということだ)。L2は64KBと少ない代わりに、L1キャッシュが128KB(Celeronは32KB)、システムバスは200MHz(Celeronは66MHz)のDuronが、Celeronを上回るのか、あるいは下回るのか、その勝負の行方が今から楽しみだ。
□Akiba PC Hotline!関連記事
【5月20日】Celeron 633MHzと667MHzがフライング販売、仕様に変化あり
電圧と配線パターンがPentium IIIと同一に
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000520/celeron667.html
(2000年5月26日)
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
・CPU動作周波数やコア電圧の変更は、CPUやマザーボードおよび関連機器を破損したり、寿命を縮める可能性があります。その損害について、筆者およびPC Watch 編集部、またマザーボードメーカー、購入したショップもその責を負いません。規定以外への電圧の変更は自己の責任において行なってください。 ・この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびPC Watch編集部が保証するものではありません。 ・筆者およびPC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。 |