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ハードウェアMPEG-2エンコーダ搭載
低価格ビデオキャプチャカード「NAVIS」



 これまでMPEG-2フォーマットのハードウェアエンコード機能を搭載したビデオキャプチャカードは、プロユースのものがほとんどで価格が非常に高かったこともあり、一部のメーカー製パソコンを除き、個人レベルで利用されることはほとんどなかった。しかし、個人レベルでも気軽に購入できる低価格リアルタイムMPEG-2ビデオキャプチャカードがこのほど秋葉原で発売され人気を集めている。そのカードとは、韓国PentaMediaが開発した「NAVIS」という製品だ。今回は、この低価格MPEG-2ビデオキャプチャカードを取り上げ、この製品の特徴や性能などを検証してみよう。


■3万円を切る価格で販売される超低価格MPEG-2キャプチャカード

カード上には、メーカー製および型番不明(シールの下は表面が削られている)のMPEG-2エンコードチップと、PhilipsのD/AコンバーターSAA7114H、ワーク用のメモリとしてHYUNDAI製の16Mbit SDRAM(HY57V161610DTC-8)が6個搭載されている
 冒頭にも書いたように、ハードウェアMPEG-2エンコーダを搭載するビデオキャプチャカードは、これまでプロユースのものしか存在していなかった。もちろん、個人レベルでMPEG-2フォーマットでのリアルタイムビデオキャプチャが全く行なえなかったわけではない。一部のビデオキャプチャカードやビデオキャプチャ機能付きビデオカードでは、ソフトウェアエンコーダを利用したMPEG-2フォーマットでのリアルタイムキャプチャを可能とする製品が実際に存在している。ただし、ソフトウェアエンコーダを利用してMPEG-2リアルタイムキャプチャを行なう場合、MPEG-2エンコード作業をCPUで行なわなければならないため、かなり高いCPUパワーを必要としたり、対応する画像フォーマットが限られているといった問題があった。つまり、本格的なMPEG-2フォーマットでのリアルタイムキャプチャを行ないたい人にとっては、性能的にも機能的にもかなり物足りなかったのである。

 それに対し、このほど発売されたMPEG-2ビデオキャプチャカード「NAVIS」には、ハードウェアMPEG-2エンコーダが搭載されているため、パソコンのパフォーマンスに関わらずMPEG-2フォーマットでのリアルタイムキャプチャを可能としている。

 ソフトウェアエンコーダを利用したMPEG-2キャプチャの場合、その多くがPentium IIIクラスのCPUパワーを必要としているのに対し、NAVISではエンコード作業にCPUがほとんど使用されないため、MMX PentiumクラスのCPUを搭載するようなパソコンを利用したとしてもMPEG-2フォーマットでの本格的なリアルタイムキャプチャが可能だ。ちなみに、最低限の動作スペックは、CPUがMMX Pentium 200MHz、メインメモリ32MB、ハードディスクの空き容量が50MB以上で、Windows 98上での動作がサポートされている。

 また、ソフトウェアエンコーダを利用したリアルタイムキャプチャと比較した場合、対応する映像フォーマットが豊富に用意されているという点も特徴の1つだろう。

 MPEG-2は、CD-ROMやDVDなどの記録メディアだけでなく、通信や放送などで利用されることも視野に入れて開発されていることもあり、符号化や画像サイズの違いにより複数の画像フォーマットが用意されている。表1に示したのがその一覧であるが、このうちNAVISがサポートしている画像フォーマットはMP@ML、MP@LL、SP@MLの3種類だ。エンコード時のbitレートは1Mbps~8Mbpsまでをサポートし、固定bitレートだけでなく可変bitレートもサポートしている。

【表1:MPEG-2の映像フォーマット】
プロファイル
SimpleMainSNR ScalableSpatial ScalableHigh
レベルLow
 352X288 29fps
MP@LLSNP@LL
Main
 720X480 29fps
 720X576 25fps
SP@MLMP@MLSNP@MLHP@ML
High-1440
 1,440X1,080 30fps
 1,440X1,152 25fps
MP@H1440SSP@H1440HP@H1440
High
 1,920X1,080 30fps
 1,920X1,152 25fps
MP@HLHP@HL
※空欄は現在定義されていない

 ハイビジョンクラスの画質を誇るハイレベルの画像フォーマットはサポートしていないものの、DVDビデオやデジタルCS放送などで採用されている最も標準的なフォーマットであるMP@MLをサポートしているため、機能的には十分満足できるだろう。また、DVDビデオのbitレートが平均4.7Mbpsほどであることを考えると、NAVISでキャプチャした映像の画質も十分に満足できるものになるといっていいだろう。

 さらにNAVISは映像のキャプチャだけでなく、音声のキャプチャもサポートしている。カードにはコンポジットとSビデオの2系統の画像入力端子に加え、ステレオの音声入力端子も用意されており、画像のキャプチャと同時に音声もキャプチャできる。対応する音声フォーマットはMPEG-1 Audio Layer-2で、サンプリングレート44.1KHz、bitレート192~384kbpsでのキャプチャをサポートしている。

 以上のように、機能的にはプロユースのMPEG-2キャプチャカードと大きく変わるものではなく、かなり本格的なMPEG-2リアルタイムキャプチャが可能であるといっていいだろう。これが3万円を切る価格で販売されているのだから、人気になるのも十分頷ける。ちなみに、現在のところこのNAVISは秋葉原のパーツショップとしておなじみの「ツートップ」でのみ取り扱われている。

【表2:NAVISがサポートする映像および音声フォーマット】
・映像
 フォーマット:MPEG-1、MPEG-2(MP@ML、MP@LL、SP@ML)
 bitレート:1Mbps~8Mbps
 ビデオ:NTSC、PAL、CCIR-656
 キャプチャサイズ:最大720×480ドット(NTSC)
・音声
 フォーマット:MPEG-1 Audio Layer2
 サンプリングレート:44.1kHz
 bitレート:192kbps,224kbps,384kbps


■かなり良好なMPEG-2リアルタイムキャプチャが可能

付属品は、接続ケーブルとドライバディスクおよびアプリケーションディスク、ソフトウェアDVDプレーヤーの「WinDVD 2000」のみで、編集ソフトは付属しない
 では、実際にNAVISを利用してMPEG-2キャプチャを試してみることにしよう。ちなみに、NAVISにはビデオ編集ソフトが付属していないため、今回はキャプチャのみを試すことにした。使用したマシンの環境は次の通りである。

【テスト環境】
CPU:Pentium III 600E MHz
マザーボード:ABIT BE6
メモリ:128MB SDRAM(PC100 CL=2)
ビデオカード:カノープス SPECTRA 5400 Premium Edition
ハードディスク:Western Digital Caviar AC14300
OS:Windows 98 Second Edition

 まず、付属のキャプチャソフトの機能を紹介しておこう。付属のキャプチャソフトは、純粋にキャプチャすることのみに特化されていると言ってもいいほどシンプルなものだ。用意されている機能は、キャプチャと再生のみとなっている。

NAVIS付属のキャプチャソフト。画面には録画時間やハードディスクの残量から計算された残り録画時間が表示され、キャプチャに必要となる最低限のコントロールボタンが用意されている
 起動画面には、中央部分に現在の動作状況や撮影時間などを表示する円形のディスプレイが用意され、その下に録画や再生などをコントロールするボタンが配置されている。そして、録画ボタンを押せばキャプチャが始まり、ストップボタンでキャプチャ終了、再生ボタンでキャプチャしたファイルの再生が始まる。ただし、プレビュー機能は用意されていない。キャプチャする画像は外部のテレビモニタなどを利用して確認する必要がある。一応、キャプチャと同時にキャプチャしたファイルの再生を行なうことでプレビュー機能とほぼ同等の機能を実現するようになっているようだ。

 ところで、付属ソフトに用意されているキャプチャファイルの再生機能だがかなり不安定のようだ。今回筆者が試した環境では、再生を行なおうと思っても、DirectShow関連のエラーメッセージが表示されたり、ソフト自体がハングアップしてしまったりして、うまく再生できなかった。DirectShowのバージョンが古いのかと思ったものの、キャプチャしたファイルをメディアプレーヤーを利用して問題なく再生可能であったため、DirectShowのバージョンが悪いというわけでもなさそうだ。インターネットの掲示板などでの報告によると、問題なく再生可能という人も存在している。どうやら、キャプチャソフトの不具合か、ビデオカードとの相性などが問題のようだ。

 ちなみに、付属のキャプチャソフトはまだ開発途上といった感じで、ハードウェア側がサポートしている機能全てが利用できるようになっていない。例えば、MPEG-2キャプチャを行なう場合、Iフレームのみ、IPフレーム、IBPフレームでのキャプチャをサポートしているものの、実際にはIBPフレームでのキャプチャしか選択できなかったり、音声キャプチャもサンプリングレートに44.1KHzしか選択できないようになっている。今後のソフトのバージョンアップでこのあたりの機能も順次サポートされていくものと思われるが、おそらく先ほどの再生に関する問題も、ソフトが開発途上であることによる不具合と考えた方が自然だろう。

 キャプチャに関する設定だが、映像部分と音声部分を独立して設定できるようになっている。映像部分の設定は、キャプチャサイズはもちろん、bitレートの設定(1Mbps~8Mbpsの間で、4Mbps以下は0.5Mbps刻み、それ以上は1Mbps刻みで設定可能)やGOPサイズの設定、可変bitレート時の圧縮比率設定などが行なえる。音声部分は、エンコードの種類やサンプリングレート、bitレートを指定できるようになっている。ただし、既に書いたように、一部実装されていない設定項目があるため、現状ではそれぞれの設定の幅はあまり多くない。

映像フォーマットにNTSCを選択した場合、キャプチャ解像度は最大720×480ドットとなる 映像関連の設定では、入力ソースの選択だけでなく、bitレートの設定やGOPの設定が可能だ

 キャプチャソフトの機能がやや乏しく、動作も不安定ではあるものの、MPEG-2形式でのキャプチャに関して大きな問題はないようだ。録画ボタンを押して、実際に録画が始まるまでのタイムラグは1秒とかかっていないため、外部モニターで映像を確認しながらでも十分思い通りのキャプチャが可能と言える。ちなみに、キャプチャしたファイルは指定したフォルダに指定したファイル名で保存されるが、デフォルトのままではCドライブのルートに作られる「MPEG2Record」というフォルダの中に「Rec.mpg」というファイル名で保存される。

音声関連の設定は、現在のバージョンではbitレート以外変更不可能となっている 右下「Record File Name」で、キャプチャファイルの保存先とファイル名を指定する

 キャプチャした映像だが、さすがにMPEG-2形式でキャプチャしているだけのことはありかなり高画質だ。キャプチャ画像にノイズが乗ったり、発色が悪くなるといったようなこともほとんど感じなかった。もちろん、bitレートを変更させるとかなり画質に差が生じるものの、4Mbps以上のbitレートでキャプチャするようにしておけば、十分満足できる画質を実現できるといっていいだろう。実際にキャプチャしたファイルを掲載しておくので、どの程度の画質か参考にしてもらいたい。

 ただ、キャプチャした画面の最上部が乱れるという現象は気になった。これは、入力された映像信号の全領域をキャプチャするようになっているために起こるものと思われるが、この領域をマスクする機能は用意されておらず、現状ではビデオキャプチャを行なうと必ず最上部に乱れが発生してしまう。もちろんソフトウェア側が対応すれば解消されるものと思われるため、早急な改善を期待したい。

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

キャプチャテスト映像
1mbps.mpg:約1.8MB
映像bitレート1Mbps
(CBR)
4mbps.mpg:約4.3MB
映像bitレート4Mbps
(CBR)
8mbps.mpg:約7.5MB
映像bitレート8Mbps
(CBR)
※音声フォーマットは全てMPEG-1 Audio Layer2、44.1kHz、192kbps

使用した映像機器:松下電器産業 NV-DS5
カードとの接続:コンポジットビデオ経由


■アナログ映像機材を利用しているユーザーに最適

 NAVISを利用することで、プロユースのMPEG-2オーサリングツールに太刀打ちできるリアルタイムMPEG-2キャプチャ環境を非常に安価に構築できるということは、実際に利用してみて十分に実感できた。ただ、ビデオキャプチャを楽しみたいユーザー全てに利用価値があるかどうかはやや疑問だ。

 まず、日本では映像撮影機材として、DV形式のデジタルビデオカメラがかなり普及している点。もちろん、8mmビデオなどのアナログ機材を利用している人もまだかなりいると思うが、パソコンを利用したノンリニア編集を視野に入れているユーザーの多くはすでにDV方式のデジタルビデオカメラに移行していると思われる。デジタルビデオカメラを利用しているのであれば、撮影した映像をi.LinkまたはIEEE-1394ポート経由で直接DV形式のままパソコンに取り込んで編集作業を行なうのが普通だろう。編集後にはDV形式のまま外部に書き出せるだけでなく、MPEG-2形式に変換することも可能なので、MPEG-2キャプチャカードが必要になるとことはない。つまり、デジタルビデオカメラを利用している人にとっては、あまり魅力のある製品ではない可能性が高い。

 また、NAVISにはビデオ編集ソフトが付属していないという点も大きな問題だ。通常ビデオキャプチャカードなどには編集ソフトが付属している場合がほとんどだが、NAVISには付属していないため、MPEG-2に対応した編集ソフトを別途用意しなければならない。既に編集ソフトを持っているのであればいいが、持っていなければさらに出費を強いられることになる。

 もともとMPEG形式の映像ファイルはフレーム間圧縮が行なわれているため、フレーム単位での編集作業には向いておらず、MPEG形式での編集作業はあまり行なわれないことが多い。おそらく、NAVISは既に編集された映像ソースをキャプチャするという目的を主眼にしている製品なのであろう。とはいっても、アナログの編集機材を持っているユーザーは少なく、編集ソフトの必要性は高いと考えられる。そういった意味では、編集ソフトが付属していないという点はかなり残念だ。

 さらに、付属のキャプチャソフトの完成度が低いという点も気になる。一応キャプチャ自体は可能だが、お伝えしたようにいろいろな点で問題があり、早急なバージョンアップが必要だろう。

 とはいっても、ハードウェアMPEG-2エンコーダを搭載するビデオキャプチャカードが3万円を切る価格で発売されているという点は特筆すべきであろう。NAVISはMPEG-2を扱いたいと思っていた一般ユーザーにとって、性能や価格の面でかなり理想に近い製品であることは間違いなく、MPEG-2に対する敷居が一気に下がることは確実だ。アナログのビデオカメラを利用しているユーザーで、高画質のビデオキャプチャを行ないたいと考えている人ならば、十分購入する価値のある製品といっていいだろう。

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(2000年5月12日)

[Text by 平澤寿康@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp