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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Emotion Engineをシュリンクしてベイを搭載した第2世代PlayStation 2


●PlayStation 2はゲームの未来ではない

 「PlayStation 2はビデオゲームの未来ではない。エンターテインメント時代の未来となる」

 先週、ロサンゼルスでE3に合わせて行なわれたSony Computer Entertainment America(SCEA)のプレスカンファレンスで、SCEAのKazuo Hirai社長兼COOはこのように宣言した。この発言は、PlayStation 2(PS2)の方向性を端的に示している。つまり、PS2はゲーム機を超えた、家庭のエンターテンメントセンターになるということだ。米国でのアナウンスでは、「eDistribution」とSCEIが呼ぶコンテンツ配信がより強く打ち出され、従来のゲーム機を超える部分がより鮮明になった。

 実際、10月26日に発売予定の北米仕様のPS2は、eDistributionを意識した仕様になっている。先週のE3レポートにあった通り、北米版PS2には新たにeDistributionのための拡張ベイ「Device Bay」が設けられた。公開されたモックでは、本体背面の左下のPCカードスロットがなくなり、そこにベイがつけられていた。このベイは、写真の通りファンの横までを占めている。じつは、ファン自体も現行のPS2よりやや小さめになっており、ベイの寸法は目算で幅12~13cm、厚みは3cm弱といったところだ。Hirai社長は、ここに3.5インチHDDをインターフェイスを横にして差し込んでみせた。そのため、このベイは、奥行きもPS2の奥行きいっぱいまであると思われる。


●Emotion Engineをシュリンクしコストを削減

 デバイスベイのスペースは、ちょうどDVD-ROMドライブの下になる部分で、現行のPS2ではPCカードアダプタや、ディスクリート群やサウンドチップなどがある。もともと比較的空いているエリアだが、ベイを設けるためには実装面積を減らしてマザーボードを小さくする必要がある。これをSCEIは、半導体プロセス技術の進歩で実現するという。

 具体的には、北米版PS2ではEmotion Engine(EE)の製造プロセス技術を、現行の0.25μmから0.18μmへ移行する。これは、東芝との合弁で大分に設立したFabでの生産が立ち上がったためと見られる。0.18μmへ移行することで、セーブできる実装面積は、実際はそれほどではない。しかし、発熱量が少なくなるため現行PS2の巨大なヒートシンクをかなり小さくし、スペースを空けることが容易になると見られる。

 ちなみに、EEのダイ(半導体本体)サイズは、現在220平方mm程度(0.35μm版Pentium II以上)だが、これが0.18μm版では計算上130~150平方mm程度になると推測される。その分、EEの生産性がアップし、世界展開するだけの数量の確保できる。またチップの製造コストとPS2の冷却システムのコストを下げることで、299ドルの価格(製造コストは500ドル以下?)も実現できるというわけだ。

 また、EEはこの後、同じ大分Fabで0.15μmにマイグレートする予定で、PS2のライフサイクルの最後の2年はさらに0.13μmに移行すると思われる。ダイサイズは、90平方mmを軽く下回るだろう。PS2のグラフィックスチップ「Graphics Synthesizer(GS)」もこのペースでシュリンクすると見られるので、PS2は最終段階では99ドルで小売りする(製造コストで300ドルを切る)ことが可能になると思われる。

 北米版PS2だけでなく、日本版PS2も0.18μmに移行するだろう。それは、0.18μmでの製造量が世界需要に見合うレベルに上がれば実現されるが、それまでは北米仕様と日本仕様が異なるという状態になるかもしれない。ただし、PS2はPCではないので、製造プロセス技術が向上しても、スペックは据え置きだ。そのため、発熱と消費電力とデバイスベイを別にすれば、新プロセスを待つ必要はない。逆を言えば、300MHz以上で動作するチップが採れても300MHzでしか使わないので、PC畑の人間にはもったいないように感じられる。


●HDDとネットワークをモジュールで提供

 さて、北米版PS2のデバイスベイのサイズはHDD用としては大きすぎるが、SCEAはHDDを裸で入れるつもりではない。SCEAによると、HDDと広帯域通信機器とのインターフェイスをワンパックにしたモジュールで提供するという。実際にはHDDとインターフェイス部分は分離可能になる可能性が高い(多様なインフラへの対応などのため)が、提供形態はモジュール単位になる。ネットワーク機器向けインターフェイスは、昨年秋のアナウンス通りEthernetになるようだ。HDDのインターフェイスは未公開だが、特殊なコントローラチップを起こすとコストがかかるので、ATAかIEEE-1394のどちらかになる可能性が高い。

 このeDistributionモジュールは、PS2の北米でのデビューからはやや遅れて、2001年頃に発売されることになるという。モジュールの価格はまだ明らかにされていない。月々の料金を払い、モジュール自体は無料で提供されるというサブスクリプションモデルもありうるかもしれない。

 SCEIは、これまでPCカード経由でネットワークと外付けHDDへの接続を提供するとしていた。それをベイに内蔵する形に切り替えたのは、モジュールをあらかじめ内蔵したeDistributionレディモデルも予定した動きかもしれない。家電として普及させるには、内蔵化は重要な要素だからだ。例えば、2001年秋には店頭でスタンダードのPS2が229ドル、eDistribution対応版PS2が329ドル、eDistributionモジュールが99ドルで売られるようになっているかもしれない。


●広帯域インフラのパートナーは?

 eDistributionの中身に関しては、じつは今回もそれほど突っ込んだ発表はなかった。PS2のゲームコンテンツや、アドオンのシナリオ、デモ、それから映画や音楽コンテンツの配信といった説明にとどまった。つまり、eDistributionのカギとなる、コンテンツやインフラでのパートナー企業のアナウンスなどはなかった。

 もっとも、これは不思議ではない。PS2デビュー前にeDistributionを大きくぶち上げてしまうのは得策ではないからだ。PS2は、第1ステップとしてはゲームコンテンツで立ち上げ、第2ステップでネットワーク経由での配信を付加する方向へ進む。そのため、最初はあくまでもゲーム機として盛り上げ、タイトルの充実とハードウェアの普及を促す必要がある。

 もう1つ重要なのは、広帯域を前提としたeDistributionではネットワークインフラのパートナーが重要で、その提携と発表のタイミングが難しいことだ。SCEAは、ネットワークインフラとしてADSL、ケーブルモデム、無線接続などを挙げた。しかし、米国を考えた場合、本命はCATVになる可能性が高い。実際に、SCEIの久夛良木社長も、昨年のMicroprocessor ForumではCATVインフラを強調していた。

 米国でのTV向け広帯域サービスでCATVインフラが有望と考えられる理由はいくつかある。1つは、米国ではリビングルームに電話のコネクタがなく(キッチンにある)、代わりにCATVの同軸ケーブルが来ているケースが多いことだ。つまり、リビングに置くPS2に近いコネクタは、ADSLではなくCATVなのだ。それから、米国のCATVプロバイダは、広帯域/デジタル化を急ピッチで進めている。CATVプロバイダの方も、そのためのキラーアプリケーションを求めているという事情がある。

 では、SCEAと組むCATVプロバイダはどこになるのだろう。米国のCATVプロバイダの最大手はTCIを吸収したAT&Tと、America Onlineと合併するTime Warnerの2社だ。このうち、AT&TはMicrosoftとデジタルCATV用STB(セットトップボックス)で協力関係にあり、Time WarnerはAOLのインターネットSTBのインフラを提供すると見られる。つまり、両方ともすでにCATV網にぶらさがるデバイスの計画はあるわけだ。しかし、AT&TはMicrosoftとべったりという関係ではないし、AOLもCATV網をほかのサービスにも解放することを表明している。しかも、SCEIの本体のソニーはCATV向けSTBメーカーと提携するなど、この分野にも地歩を築いているのだ。


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(2000年5月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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