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後藤貴子の 米国ハイテク事情

個人サイトもあぶない!? 日本でも訴訟合戦を引き起こすビジネスモデル特許


●じつは日本でも成立するビジネスモデル特許

 “ワンクリックで買い物ができる”といった商売方法のアイデアに下りる特許、ビジネスモデル特許。米国では今、この特許がどんどん増殖していて、特許を取ったドットコム(インターネット企業)がほかのドットコムを特許侵害で訴えたりと、大騒ぎ。でも、これは米国だけの“専売特許”ではない。日本でも成立する特許なのだ。
 そのため、今まさに日本のサイトにも、ビジネスモデル特許競争が飛び火し始めている。これは日本が訴訟合戦の嵐に巻き込まれる前兆かもしれない。
 では、日本でもビジネスモデル特許が成立する理由は何か、米国の特許と違うのか、日本にどんな変化をもたらすのかを見てみよう。


●コンピュータをどう使うか説明すれば特許は成立可能

 日本でもビジネスモデル特許が成立する理由。それは、特許庁の解釈によれば、ビジネスモデル特許も、従来の特許のカテゴリーの中に収まるからだ。一見ニュータイプの特許に見えるが、そうではないというわけだ。
 特許庁サイトには、「ある課題を解決するために、コンピュータのハードウエア資源を用いて処理を行なうなどの要件を満たすものであれば、ビジネス関連発明(= ビジネスモデルの発明/注釈筆者・以下同)か否かに関わらず、ソフトウエア関連発明として特許の対象になり得ます」とはっきり書いてある(『ビジネス関連発明に関する審査における取扱いについて』)。
 ただし、この文では、わかりにくい。そこでちょっと特許の制度を説明しよう。

 日本の特許は、新規性、進歩性がある、産業上利用できる発明に与えられる。そして発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであること」と定義されている。
 自然法則というのは、リンゴは下に落ちるとかエネルギーは保存されるとかいった法則のことで、この規定によって、自然法則に無関係である計算方法やプログラミング言語は特許にならないとされている。

 ……ここまでだと、商売方法のアイデアであるビジネスモデルは、引力とかに縁もゆかりもないからダメなんじゃないの、という気がする。

 ところが、特許を申請するとき、コンピュータという具体的・現実的なモノをこう使ってそのアイデアを実現する、と書けば、一転、これは自然法則を利用したことになる。これが、上に書いた「コンピュータのハードウエア資源を用いて処理を行なうなどの要件を満たすものであれば」という言葉の意味。だから、“ワンクリックで買い物ができる”というアイデアも、インターネットのクッキーをこうやって利用して……、と説明すると、特許になるわけだ。


●米国の特許は日本で成立するか

 じゃあ、米国で成立しているようなビジネスモデル特許は日本でも成立するのだろうか。
 一概には言えないが、その可能性はけっこうある。日米で特許条件や審査に違いはあるものの、要件さえ合えばビジネスモデル特許を認めていこうという方向は同じだからだ。

 例えば、米国の特許の規定に沿うと、日本のように「ハードウエア資源を用いて処理を行なう」ことにこだわらなくてもいい。でも、米国でもビジネスモデルが特許として成立するためには「有用で、具体的で、かつ、現実的な結果(useful, concrete and tangible results)」をもたらすことが必要とされており、アイデアそのものだけでは特許にならない点では、日本と考え方は同じだ。そのため、特許庁でも、両国とも「目指しているのは抽象的なアイデアだけではだめで、具体化がされていればいいということだと思う」、「そういう点では話題になるようなもの(=おもなビジネスモデル発明)ではおおむね判断が変わらないと思う」(調整課審査基準室・稲葉和生氏)という解釈をしている。


●増えている日本でのビジネスモデル特許申請

 ということは、これからは日本でも米国並みにビジネスモデル特許は増えるかもしれない。実際、日本のドットコムも米国のドットコムも、日本での申請を急いでいる。

 その様子がわかるのが、特許庁サイトの統計(『電子商取引における仲介処理に関する特許の動向』、『電子商取引における決済処理に関する特許の動向』)だ。ビジネスモデル特許と見られる出願数は'96、'97年頃から増えている。そしてその21~24%が米国人による出願なのだ。つまり米国のドットコム企業の出願だろう。

 日本には米国のようなサブマリン制度(特許取得まで出願内容が公開されない制度)はなく、出願18カ月後、出願の内容が公開される。だが、それでも1年半は潜っているわけなので、その間のぶんは統計には出てこない。おそらく米国でビジネスモデル特許が話題になり始めた'98年以降は、もっとずっと出願が増えているはずだ。

 そして、特許が増えるということは、特許を持つドットコム企業が持たないところを提訴したり、ライセンス料を取るといったことが、日本でも増えるかもしれないことを意味する。個人や小さな企業のサイトだって訴えられる可能性は十分あるし、アイデアに元手はいらないから、逆に個人が特許を取って大企業を訴えることもありうる。現に米国ではそういう例が起きている。


●米国の特許を根拠に訴えられる可能性も……

 さらに言えば、訴訟は、日本での特許成立数以上に増えるかもしれない。国境のないインターネットでは特許の及ぶ範囲はあいまいだからだ。

 特許権は本来、特許が下りた国でしか通用しないのが原則だ。だから輸出などで外国との関わりができる場合や、海外に類似商品を作る企業が現われそうな場合は、その国に出願(国際出願といって各国にまとめて出願するケースもあるが)して特許を取らない限り、特許は守られない。言い換えると、例えば米国企業は日本で特許を取っていない限り、日本国内で売られている商品が自分のところのマネだと思っても何もできない、というのが本来の考え方だ。

 ところが、インターネットではそうはいかない。日本のドットコム企業が外国にサーバを持っていたり、日本にサーバがあっても外国のユーザが利用したりと、簡単に国境を越えてしまう。物品の販売などなら、海外への発送はしないなどの方法で線引きはできるかもしれないが、音楽や画像のダウンロードでは海外との線引きは難しいだろう。この問題についてはまだ法整備が追いついていないのだ。

 法律の専門家ではないから断言はできないが、ということは、あるビジネスモデルに日本では特許が下りていないが米国では下りていた場合、そっくりのモデルを使う日本のドットコム企業が米国の特許を理由に訴えられる可能性もなくはない。「判例は出ていないし、裁判所の管轄すら議論がある」(特許庁・稲葉氏)が、だからこそ逆に、「そのサイトをアメリカ人も使えれば訴えられる可能性も否定はできない」(稲葉氏)のだ。


●米国にもある特許への批判

 もっともこの国境の問題のように、インターネットのビジネスモデル特許についてはまだ固まっていない点がたくさんある。
 ビジネスモデル特許は、インターネット時代になってアイデアの具体化が容易になったことで増えてきた特許だ。だが皮肉なことに、このようにインターネット時代にそぐわない点も見える。このため、米国にさえも、「ワンクリックオーダーみたいな単純なビジネスメソッドに特許が下りるのか」という批判が存在する。

 批判が起きるひとつの理由は、米国の特許の有効期間17年が、インターネットでは永遠と同意語だということもある。それでAmazon.com(ワンクリックオーダー特許の持ち主)のCEO、Jeff Bezos氏などは、反発をかわすためか、ビジネスモデルの場合は特許を3~5年にしようと提案(「AN OPEN LETTER FROM JEFF BEZOS ON THE SUBJECT OF PATENTS」)している。でも、3~5年にしても、その間ワンクリックオーダーというモデルが独占されることには変わりない。

 5月初めに開かれる先進国特許庁長官の非公式会合でも、ビジネスモデル特許の問題は議題に上る予定だ。しかしそれで何か変わることがあるのかは不明だ。

 ビジネスモデル特許が、インターネットを各企業に囲い込まれた権利だらけの不自由な世界にするのか、それとも新しいモデルの発明を促してもっと便利な世界にするのかは、まだわからない。

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp