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第47回 : iモードとWAP



 先週末、友人宅の庭で花見を兼ねての宴会をしているときのこと、とある大手通信機器ベンダーに勤める一人が、インターネットビジネスと携帯電話に関連した話題の中で「今現在、確かにiモードは大切。だけど大切なのはiモードじゃないって事がわかってない」と話し始めた。
 といきなり始まっても、なにがなにやらな訳だが、要はビジネスとしてiモードにコミットするのではなく、携帯電話向けのコンテンツやサービスに注目すべきということだ。iモードというのは、NTTドコモのPDC網にパケット通信サービス用の網をかぶせ、その上で独自に開発したインターネットと相互運用性のあるプロトコルでコンテンツサービスを行なっているだけに過ぎない。だから、ことさらにiモードではないだろ、というわけだ。

■ なぜiモードがウケるのか

 僕なりにEZaccess機能を持つcdmaOne端末ではなくiモード端末を選んだ理由は、以前このコラムで書いたことがあった。またユーザー側の視点で見ると、NTTドコモならみんな使っているし安心という心理が働くのも確か。電話番号のローミングのようなサービスでも開始されれば別だが、ずっと同じ番号を使っていたいし、そのためには大きな会社がイイや、という心理が働くものだ。

 しかしiモードコンテンツを制作している側にも、iモードにコミットする理由がある。それはiモードがユーザーへの少額課金機能を持っていることだ。現在、EZaccessやEZwebなどWAP系サービスもiモードも、サービスメニューそのものに大きな差はない。しかし、高品質のアプリケーションとなると、iモードに軍配が上がるだろう。それはiモードにビジネスとして成り立つための課金システムが整備されており、企業としてきちんとした収支計画を立てながらコンテンツ制作を行なえるからだと思う。
 こうした環境をサービス開始当初から揃えられたのは、料金回収を行うキャリアとコンテンツ提供のフレームワークを提供する企業が同一であるからだろうが、それにしてもWAP系のキャリアは少し出遅れ過ぎたのかもしれない。iモード、iモードともてはやされるのも無理はない。現在、携帯電話向けのコンテンツ事業を行なおうと思えば、プラットフォームとしてはiモードしかないと言っても過言ではないだろう。だから携帯電話向けのコンテンツサービスの代名詞として、iモードという言葉が使われても不思議ではない状況といえるだろう。

 しかしこの3月から、やっとWAP系サービスでも課金システムが利用されるようになった。DDIセルラーグループは3月から有料の着信メロディダウンロードサービスを開始している(現在、予想を上回るトランザクションの発生にサービスを一時中断しているそうだが)。
 これは個人的な見解だが、1パケットあたりの料金が非常に高価かつ速度も低速な現状では、コンテンツを探してネットサーフィンするという使い方はあり得ないと思う。それよりも、ある程度、妥当な料金を払っても素早く目的の情報やサービスにアクセスしたい。そうしたことも、一定料金を払ってでもコンテンツの質さえ高ければそれでいいと思える状況を作っているように思う。


■ 文字、画像コンテンツだけならば差はなくなる

 ただ、iモード対応、WAP対応といった切り分けは、(少なくとも業務として提供されているコンテンツに関しては)近い将来なくなることになるだろう。現在、多くの携帯電話向けコンテンツは、それぞれに対応するマークアップ言語で記述、もしくは何らかのデータベースから変換して作られている。変換するにしても、いずれかの技術(多くはiモード)に特化したものが多い。

 しかし近い将来、コンテンツの本体はXMLで管理されるようになる。XMLは様々なデータに意味づけをした上でデータベース化できる。もしくは既存のアプリケーションがXMLでデータを出力するようなインターフェイスを持つようになる。
 XMLで定義される各データの意味は、それぞれのXMLで異なるが、それはあまり問題ではない。W3Cから勧告されているXSLTを使えば、XMLを別のXML形式に変換するルールを作ることができるし、現在検討中で近く勧告予定のXSLを用いればXMLデータを、指定されたルールで任意のフォーマットに変換することができるようになる。
 つまり、データベースをXMLで作成もしくはXMLをインターフェイスにできるバックエンドのシステムさえあれば、間にXSL対応のミドルウェアサーバを置くことで、同じコンテンツをPCユーザー向け、WAP端末向け、PDA向けなどに最適化した上でコンテンツを発行することができる。
 年内に仕様が固定され、来年の製品に組み込まれる予定のWAP 2.0では、ユーザーカスタマイズ情報や端末の性能などユーザープロファイルを判別し、コンテンツの内容が自動的に変化する仕様が盛り込まれるという。そうなれば、WAPは携帯電話だけではなくPDAやハンドヘルドPCといったデバイスも視野に入れているため、その機器ごとにカスタマイズされたより見やすいコンテンツを作ることが可能になるはずだ。つまり、iモードかWAPかは、それほど気にするべき問題ではなくなっていると思う。
 またそのころになると、iモードもJava対応を果たし、WAPはWMLにスクリプト言語を組み込む。よりインタラクティブなコンテンツ展開も期待できるだろう。


■ それぞれの特色を生かした事業展開に期待を

 とはいえ、iモードのユーザーは、そうした理屈を越える力で伸び続けている。単に技術的な差、コンテンツプロバイダーサポートの問題ではなく、止めようもないほどに拡大しているのが現状だ。携帯電話からのインターネットアクセスは、日本でやっと立ち上がった分野であり、米国は日本の状況を見ながら、やっといくつかの企業がアイディアを出し合っているという状況だ。日本は最先端の市場であり、その中で市場をリードするiモードはどうしようもないほど巨大な市場になってしまう可能性が大きい。

 しかし、将来を見据えた時、iモードの技術が標準になることがいいとは決して言えないのではないか。iモード向けコンテンツは日本国内の携帯電話でしか利用できないのだ。将来、日本以外の市場でも携帯電話からのインターネットアクセスが根付いた時、日本だけが異なる技術だけに偏り“籠の中の鳥”になってしまうかもしれない。WAPはワールドワイドの携帯電話メーカー、キャリア、サービスベンダーなどが賛同している国際的なオープンスタンダードであるのに対し、iモードはNTTドコモが決めた仕様でしかない。
 そうなると、コンテンツプロバイダはXML化により国際展開を行なうためのフレームワークを手にできるが、ユーザーはインターネットというワールドワイドに広がるインフラの中で、国内だけのコンテンツに甘んじるしかない。

 WAPには現在、課金を行なうためのフレームワークが存在しない。課金は、WAPを採用する各キャリアが独自に導入するというスタンスだ。しかし、これではキャリア間を越えた有料コンテンツの行き来が期待できない。世界標準というメリットを生かすためにも、WAPの仕様として相互運用性のある課金システムの構築を行なうべきだ。そうすれば、国内のコンテンツプロバイダーが世界中の携帯電話ユーザーに対してコンテンツビジネスを行なえるようになり、ユーザーも世界中から優良なコンテンツを引き出すことができるようになる。

 iモードというローカルな仕様を越えるためには、グローバルなサービスが必要だ。先週行なわれたWAP Forumのマイアミ会議では、課金システムの構築に関するワーキンググループができたとのことだ。タイミング的には少々遅い気もするが、我々エンドユーザーが利益を享受できるシステムが実現することを願いたい。

[Text by 本田雅一]


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