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第48回 : 今のPalmにカラーは必要ない?



 僕のPDAの利用スタイルからすると、僕にとってはどうやらPalmは必要なさそうだ……なんてことを第44回にPalm Computing日本法人設立のタイミングで書いていたのだが、そう言っている割に、今手元にはPalm IIIcとPalm Vxが2台づつあったりする。
 たまたま仕事で試用が重なってしまったからなのだが、今回はこの新製品で感じたことを少し書いてみたい。この連載では、何度かPalmが名前として登場しているが、製品そのもののレビューとなると、実は初回に行なってから2度目。すでにインターネットコミュニティではユーザーからのレビュー報告が相次いでいるが、僕なりに海外での人気の秘密を確認してみたい。

■ Palmの基本は変わらない

 今回のPalm は、Palm Computing日本法人設立と共に発表された期待の新製品だ。とはいえ、その基本が大きく変化しているわけではない。中でもPalm Vxは見た目通り、Palm Vのメモリ強化版だから、OSがPalm OS 3.5になっている以外は全く差が無いと言っても過言ではない。USB接続のキットも別途購入の必要があり、標準で添付されるクレイドルはシリアルポート用のものだ。

 ではPalmシリーズとして、初めてカラー化を達成したPalm IIIcの方はどうだろうか? ハードウェアの細かなスペックはPalm Computingのホームページを参照してもらうとして、こちらも本質的な変化はあまり感じない。モノクロのPalm IIIと比較すると、カラー化の代わりに少し大きく重くなり、バッテリーもリチウムイオン電池になってしまった(乾電池不可)など物理的な違いはあるにせよ、画面がカラーになって使いやすさがアップしたといった運用上の違いはないように感じる。
 Palm Computingは、Palm IIIcの発表時に「Palm IIIcに標準で組み込まれているアプリケーションは、カラーを情報の見やすさ(たとえば重要なポイントのアクセント付けや、操作性向上のための色分けなど)に使っている」と説明していた。なるほど、確かにスケジュールなどは色付きの方が見やすい。が、圧倒的に使いやすくなったかというと疑問が残る。

 Palmシリーズの基本は、“シンプルに素早く情報を引き出すための道具であること”だと思う。情報の引き出し方は、PCとのデータ同期だったり、ワイヤレスデバイス経由でアクセスするインターネットのリソースだったり、あるいは企業内のデータベースから抜き出した情報だったりする。が、どこからどう引っ張ってくるか(同期技術の優劣など)は本質的ではなく、なによりも手軽でストレスを感じさせずに使える道具足り得るところが、Palmの本質だと僕は思う。
 Windows CEベースのPalm-size PCが、イマイチ受けなかったのは高機能だが複雑でサイズも大きいという理由もあるが、なにより細かな心配りのない操作性とストレスを感じるレスポンスの悪さだった。Palm-size PCのカラー化は、カラー機器の王道を行くもので、モノクロノートPCがカラーノートPCになったときのように、カラーを自在に扱うソフトが揃いカラーを堪能できたものの、一方でさらにレスポンス面などで不便を感じるようになった。

 Palm IIIcはそれに比べると、かなり控えめとも言えるカラーの使い方であり、Palmとしての本質を外すほどに、カラーという機能にこだわる製品にはなっていない。


■ 本当に持ち歩くなら

 Palmとしてのシンプルさや軽快さを損なわない範疇でカラー化を果たしているのなら、Palm IIIcはなかなか良い製品なのかな? と考えるかもしれない。実際、悪いわけではないのだが、新製品を2つ並べてどちらを買うか(価格はPalm Vxの方が8,000円安い)と訊かれれば、僕は迷わずPalm Vxを選ぶだろう。別に安いからではない。必要性を感じないからだ。

 すでにカラーに対応したアプリケーションは、ゲームを中心にいくつかが発表されているものの、画像閲覧やWebブラウザを除けば必須と言えるほどの機能差を感じることがない。標準のアプリケーションも、スケジューラやTo-Doなどで、遅延や重複など要注意のデータに対して警告を発するような色による強調が行なわれてもいいと思うが、今のところそうした色の使われ方がされていないのだ。
 バックライト付きのカラー液晶はコントラストも高く、とても見やすいのだが、それを活用する手段が画像の表示だけならば魅力を感じないというのが正直な感想だ。もちろん、コダックのPalm IIIc対応デジタルカメラを組み合わせるなどすれば、カラーの意味も出てくるのだろうが、現時点では使われ方はかなり限定されている。

 また、Palmの本分が情報を持ち出すことにあるなら、屋外での快適性も当然重要になるはずだ。しかし、バックライトが必須の透過型カラー液晶パネルは、日中晴れの屋外では非常に見にくい。いつでもどこでも持ち歩いて情報を閲覧するのが目的なら、コントラストの高い反射型モノクロ液晶パネルのPalm Vxの方がずっと使いやすい。
 実用云々を別にすれば、“カラー”の誘惑は確かに強い。過去の例を見ても、同じような機能でカラーモデルとモノクロモデルがあれば、多少高くてもカラーモデルが売れている。しかしPalmの場合に限っては、カラーモデルを購入するには時期尚早ではないだろうか。
 少なくともワイシャツの胸ポケットに入れて邪魔にならない程度(今のPalm Vxのサイズ)まで小型化されるまでは、モノクロモデルを選ぶ方がいいと思う。おそらく、そのころまでにはカラーのPalm環境も充実しているだろうし、カラーを使う理由もできているはずだ。しかし、それは今ではないと思う。


■ スナップコネクトが使えない?

 ところでPalmの欠点として、何回かこの連載で通信環境の貧弱さについて話をしてきた。通信機器との接続性やアダプタ使用による携帯性の低下、標準でインターネットにアクセスするアプリケーションを持たないといった点である。iモードをはじめとしたインターネットなどに接続できる携帯電話を別に持ち歩くのであれば、Palmでインターネットに接続する必要性は感じないため、僕自身はこの問題に目をつぶることができる。シンプルなブラウザとしてのみ利用すればいいのだから。

 しかし、Palmで通信を行ないたいという要求も当然ながらあるわけで、これまでにもモデムが純正品で用意されていた他、アイ・オー・データ機器からPHS/携帯電話に接続するスナップコネクトが販売されていた。シェアウェアのIrCOM対応赤外線シリアル接続ソフトを使えば、IrCOM対応の携帯電話(日本ではノキアしか発売していない)を使って通信することもできる。
 赤外線接続による携帯電話経由の通信は、実際にやってみると配置に苦労する(特に机の無い場所では赤外線ポート同士を向き合わせるため、かなり四苦八苦する)。ので、Palmで通信を行なうならばスナップコネクトを利用する方法が一番無難だ。スナップコネクトは単4乾電池で動作するためPalm本体の電池を消費しないというメリットがあるが、一方でサイズが大きめという不満点もある。しかし携帯電話とPHSの両方で利用できるのだから機能面では良しとするべきだ。

 ところが……アイ・オー・データ機器によると、今回の新製品では現行のスナップコネクトが利用できないというのだ。もし現在、旧型Palmを所有していて、新機種に乗り換えようと考えているスナップコネクトユーザーなら、その対応状況をよく確認すべきだろう。筆者が訊いた限りでは、新しい製品として対応機種を新たにラインナップするという。

■ アプリケーションの充実を

 現在、日本語版として販売されているPalmシリーズには、体験版のサードパーティソフトが収められたCDが付属するなど、Palmシリーズの基本機能を補うための工夫をパッケージに見ることができる。残念ながら試用機にはそのCDが含まれていなかったので、実際の中身まではわからないが、電子メールやWebブラウザを標準で持たないPalmの欠点を補うという意味ではパッケージングの努力は感じる。

 Palmシリーズの標準アプリケーションは小回りが利いて使いやすく、また3.5へのアップデートでスケジューラの機能が充実したのだが、Palmを使いこなしている人を見ると、ほとんどの人は豊富なフリー/シェアウェアによる機能アップを行なっている。標準アプリケーションを置き換えて、より強力な機能を使えるのはありがたいのだが、そうしたソフトをインストールしたり、シェアウェアであれば購入しなければならないわけで、そうしたコストが馬鹿にならないだけではなく、初心者に対して敷居を高くしているように思う。
 Palmシリーズの価格は決して安くない。モノクロ機のPalm Vxでさえ、4万円を超えるプライスタグがぶら下がっているのだ。もう少し標準状態で完成された製品になれば、価格なりの価値を見いだせるのだが……。
 定番といえるようなシェアウェアをプリインストールし、シェアウェア料金も支払い済みにするとか、PCやMac上でアプリケーションの組み合わせをグラフィカルに選ぶと、自動的にシンクロ時に最適なアプリケーションをインストールし、ついでに本体側の設定(ボタン割り当てなど)も変更してくれるような仕組みを提供してくれれば、敷居がかなり低くなると思う。

 もちろん、これらの感想は僕がPalmを同期情報ブラウザとしてしか見ていないからだと思う。Palmに魅せられた人たちは、もっと幅広い分野でPalmを使っていることだろう。しかし、色々なことをするためにはお金と、さらに最適な環境を構築する時間がかかる。もし現状を打破する手段が今現在ないのであれば、もう少し価格が抑えられてもいいように思う。

□Palm Computingのホームページ
http://www.palm-japan.com/
□Palm Vxの製品ページ
http://www.palm-japan.com/catalog/P5/P5-3C80401U.html
□Palm IIIcの製品ページ
http://www.palm-japan.com/catalog/P3/P3c-3C80600U.html

[Text by 本田雅一]


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