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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

AMDはThunderbirdで1.1GHzを投入へ
-AMDロードマップ解説-


●Thunderbirdで1.1GHzを投入

 AMDは、1GHzレースの勝利に乗って大攻勢に出る。22日に公開した「AMD MPUロードマップ」で示した通り、第2四半期はAMDにとってCPUラインナップをがらっと入れ替える変化の時になる。

 まず、次世代Athlon「Thunderbird(サンダーバード:オンダイ2次キャッシュ版Athlon)」から。業界関係筋の情報によると、AMDは5月頃に一気に700MHzから900MHzまでのAthlonを出荷し、Thunderbirdに置き換え始めるという。ただし、1GHz版と950MHz版だけは約1カ月間ほどは現行のAthlonのままで行くつもりらしい。この理由はわからないが、顧客メーカーに不要な混乱を与えないためかもしれない。いずれにせよ、それも5月までの話で、6月頃には1GHzと950MHzも最終的にThunderbirdに移行するようだ。Thunderbirdになるとプロダクトミックスも高クロックへシフトしているように見えるので、1GHz品も現在より採りやすくなるかもしれない。また、このあたりでThunderbirdのSocket A対応PGAパッケージ(462ピン)も投入してくる。

 そして、お待ちかねの1.1GHzは、現在の予定では秋頃となっているという。これが本当なら、1GHz発表からは半年も間が空くことになる。どうやら、1GHzを超えたら、もう焦らないということにしたらしい。現実問題として、十分な量を採れるようになるまで待つとしたらこのタイミングになるのだろう。


●Thunderbirdの2次キャッシュは320KB?

 Thunderbirdに関しては、まだ、オンダイで載せるキャッシュSRAMの容量は正確にはわかっていない。しかし、ヒントは出てきた。関係筋によると、AMDはThunderbirdのキャッシュ容量はPentium IIIの50%増しだと優位性をうたっているという。現行のPentium III(Coppermine:カッパーマイン)のキャッシュ容量は1次2次合わせて288KB。その50%増しとなると432KBとなる。AMDはThunderbirdが大容量1次キャッシュを搭載するとしていることから、1次キャッシュ容量は128KBのまま変わらないと思われる。とすると、この数字に合う2次キャッシュの容量は320KBということになる。256KBだと少なすぎるが512KBだと大きすぎて載せにくいAMDの事情を考えると、半端な数だが320KBはありうるかもしれない。

 また、容量が減ったとしても、性能面では利点がある。現在のAthlon 1GHz版では、2次キャッシュSRAMがCPUコアの1/3のクロックに設定されている。これは、SRAMチップのアベイラビリティの問題があるためだが、800/850MHz版の2/5クロック、750MHzまでの1/2クロックよりも倍率は低く、パフォーマンスの足かせになっている。しかし、Thunderbirdでは、2次キャッシュSRAMにCPUコアと同クロックでアクセスできるため2次キャッシュ帯域が広がり、アクセスのレイテンシも大幅に減少すると見られる。そのため、Thunderbirdは同クロックでも、現在のAthlonより性能が伸びる(特に1GHzの場合)可能性がある。


●Spitfireは夏モデルPCに間に合わせるため繰り上げか

 AMDは、5月にはもうひとつCPUを投入する。それは、バリューPC市場に向けて繰り出すAthlonコア派生CPU「Spitfire(スピットファイア)」だ。Spitfireは、Thunderbird同様にオンダイ2次キャッシュだが、容量を大幅に減らす。関係者によると、AMDは、Spitfireのキャッシュ容量が192KBになると伝えてきたという。これは、1次キャッシュが64KB、2次キャッシュが128KBの構成である可能性が高い。AMDは、SpitfireにはAthlonと別ブランド名をつける模様だ。以前はSpitfireのポジションにあるCPUはAthlon Selectと呼ばれていたが、Athlonを冠さない全く別なブランド名になる可能性もある。

 ところで、AMDは今年1月のカンファレンス「Platform 2000」の時まではSpitfireの投入時期はThunderbirdの後ろになるとしていた。ところが、2月のCeBITまでの間にAMDは計画を変更、Thunderbirdと同時期にSpitfireを突っ込んでくることにした。少し繰り上げたのだ。

 この理由は、おそらくAMDが今年の夏モデルのバリューPCで、大きくシェアを失う可能性が強まってきたからだ。PCは季節商品で、大きなモデルチェンジは、大体年3回、春モデル、夏モデル、冬(秋冬)モデルという形で行なわれる。現在PCメーカーは、春モデルを生産しており、次の夏モデル(米国ではBack to school)の仕込み中だ。Intelは、おそらく、この夏モデルに間に合うタイミングで、0.18μm版Celeron(Coppermine-128k)を発表してくる。OEMメーカーによると、Intelは一気に700MHzまでのCeleronを第2四半期中に投入するという。Celeronのクロックは、いきなりブーストしてしまうわけだ。

 ところが、それに対抗するAMDのK6-2は550MHz止まり。これでは勝負にならない。このままだと、バリューPCはCeleronに雪崩を打って移行、AMDはせっかく築いたシェアを一気に失ってしまう可能性がある。これを防ぐ手としては、Athlonの低クロック品を安値で提供するという手もあるが、それなら無理をしてもSpitfireを前に持ってきた方がいいと判断したのではないだろうか。

 Spitfireと対応チップセットを夏モデルに間に合うタイミングで提供できれば、AMDはK6-2のシェアをそのままSpitfireに移行させ、さらにCeleronのシェアを浸食できる可能性も出てくる。ところが提供できなければ、PCメーカーは競争力のあるCeleronの方へと向かってしまう。つまり、Celeronの猛攻の前に、AMDは何がなんでもSpitfireを前倒ししなければならなくなったと考えられる。


●Spitfireはクロックアップが容易?

 ロードマップ図を見ればわかる通り、AMDはSpitfireをAthlon系列よりも低いクロックで提供する。これは、バリューPC向けのSpitfireがAthlonを追い抜いては、価格体系が崩れて都合が悪いからだ。だが、これはAMDにとって皮肉な結果を招くかもしれない。というのは、SpitfireもThunderbirdも、CPUの基本部分は同じで、同じ製造プロセスで作られるため、クロック耐性も似てくるからだ。

 そのため、700MHzまでのSpitfireとして出荷されるチップのなかには、Thunderbird同様に900MHzや1GHzで動作させることができるチップが含まれる可能性が高い。つまり、原理的にはオーバークロッキングがしやすいというわけだ。もっとも、現実にオーバークロッキングができるかどうかは、CPUだけの問題ではないのでわからない。

 このほか、AMDは、今年中にAthlonコアを改良した「Mustang(マスタング)」を投入すると発表している。昨年秋にAMDが米国で行なったアナリストカンファレンスの説明では、MustangはFab30の0.18μm銅配線に最適化されたCPUで、最大2MBの2次キャッシュをオンダイで載せるという。しかし、PC業界関係者によると、AMDの年内の量産出荷計画の中に、Mustangはないという。これが本当だとすると、Mustangはアナウンスは年内かもしれないが本格出荷は来年ということになりそうだ。


●Thunderbirdのダイサイズは初代Athlonより小さい

 Thunderbirdの2次キャッシュ容量が、このコラムで推測した通り320KBだとしたら、製造コストに影響するダイサイズ(半導体本体の面積)はどの程度になるのだろう。現在の0.18μm版Athlonコアのダイサイズは128KBの1次キャッシュも入れて102平方mmだ。0.25μm版Athlonのダイ写真を分析すると、1次キャッシュはTagも含めて22%程度を占めているように見える。もし、0.18μm版でもこの比率がそれほど変わらなければ(かつ1次と2次のSRAMのセル構造が同じなら)、320KBのSRAMは単純計算で50平方mm程度のダイ面積を占めることになる。その場合、Thunderbirdのダイサイズは約150平方mmということになる。これは、Coppermineの106平方mmよりかなり大きく、その分製造コストは高くつく。しかし、それでもこの数字は0.25μm版Athlonの184平方mmよりかなり小さく(しかも外付けSRAMチップが不要)、量産CPUとしては十分戦えるサイズだ。

 一方、Spitfireは総キャッシュSRAM量が192KBだとすると、増えるSRAMの量は64KBだけとなる。先ほどの計算式に当てはめるとダイサイズは110平方mm台ということになる。これなら、Coppermineの106平方mmと十分戦うことができる。逆を言えば、Coppermineと戦えるダイサイズまで、1次2次キャッシュの容量を減らしたということだ。

 Spitfireの場合、このキャッシュ容量の大幅な削減が性能にかなり響く可能性がある。Athlonのパフォーマンスの比較的大きな部分は、大容量1次キャッシュによってもたらされていた可能性があるからだ。しかし、バリューPC市場で戦うには、性能よりもコストだと割り切ったのだろう。


●銅配線チップの数は極めて少ない

 このほか、AMDはFab30で製造した銅配線版Thunderbirdも投入してくると見られる。しかし、2000年中は、銅配線版Athlonの数は極めて限られると見られる。下の図はPlatform 2000でAMDが明らかにした、同社の製造キャパシティの予定だが、年内は銅配線のウエーハの生産数はアルミ配線のウエーハの1/5以下であることがわかる。しかも、銅配線の方が最初は歩留まりが悪くなるはずで、さらに採るCPUはダイサイズが大きいものになるため、生産される銅配線CPUの比率は1/5よりさらにずっと少なくなる。こうした事情を考えると、年内は、銅配線CPUはそれほど数を期待しない方がいいかもしれない。

 そもそも、銅配線のパフォーマンスを活かすには、CPUの物理設計は銅配線に最適化しないとならない。銅配線に最適化すればCPUコアは小さくなりパスのディレイが減って高クロックになるはずだ。しかし、Athlonの場合、それが行なわれるのはMustangからになる可能性が高い。

 ただし、昨年のアナリストカンファレンスでの発表によると、Fab30の銅配線プロセスHiP6Lのゲート長は0.10μmで、Fab25のアルミ配線プロセスCS50の0.12μmと比べて短い。そのため、同じ0.18μmでも、ゲートディレイは減るはずで、その分は高クロック化が可能になるかもしれない。ちなみに、Intelのアルミ配線0.18μmプロセスのP858は「Notched」と呼ぶ技術で、すでにゲート長を0.10μmにしている。

□関連記事
【3月22日】AMD MPUロードマップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/amd/roadmap.htm


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(2000年3月24日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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