Socket 7最高クロックにして最後のCPU「K6-2/550」 |
AMDは2月22日(米国時間、日本時間では2月23日)に同社のSocket 7向けCPUとしては最高クロックとなる、3DNow!テクノロジAMD-K6-2/550(以下K6-2/550)の出荷を開始したことを明らかにした。3月18日付けのAKIBA PC Hotline!によれば、秋葉原でも複数のPCショップで既に販売が開始されている。今回はこのK6-2/550が果たして「最強」のSocket 7 CPUなのか検証していきたい。
●デスクトップPC向け最後のSocket 7対応CPUとなるK6-2/550
Socket 7最後のCPUとなるK6-2/550 |
そして、その淡い期待は先月末にドイツで開催されたCeBIT 2000で見事に砕かれてしまった。AMDはCeBIT 2000の会場で同社の新しいCPUコアロードマップを公開したが、そこでK6-2+はモバイルにのみ製品展開するということをアナウンスしたのだ。確かに現状のSocket 7を続けたとしても、クロックを上げていくのも限界に来ているのだろうし(そもそも2年前に「550MHzまでK6ファミリーのクロックが上がる」なんて言っても、誰が信じただろうか……)、IntelのCeleronとのクロック・価格競争に勝ち抜かなければならないAMDにメリットはあまりないと言っていいだろう。そうした意味ではSpitfireに全力を投入していくという戦略もビジネス面から考えると理解できる。ただ、1ユーザーとしては、(アップグレードパスとして)高い処理能力を持ったK6ファミリが欲しかった訳で、そういう意味ではやや残念な展開だ。
多くのSocket 7ユーザーもそう考えているようで、AMD関連の掲示板などでは「K6-2+復活する!」などの期待を込めて「そうあって欲しい」と書き込むユーザーも見られる。Socket 7ユーザーの筆者としても、ぜひそうあって欲しいと思うが、残念ながら客観的に見てその可能性は限りなくゼロに近い。第1に、何よりもAMDが報道陣に公開しているCPUロードマップで、K6-2+とK6-III+には「Mobile Only」と注意書きされている。そして筆者自身も、CeBIT 2000の会場で同社のAMDコンピュテーションプロダクトグループプロダクトマーケティングディレクターのスティーブ・ラピンスキー氏本人から「K6-2+はリムーブされた(無くなった)」と聞いている。なお、日本AMDもこの件に関して明確にデスクトップ版K6-2+は無くなったと説明している。第2に、AMDがOEMメーカーに配布しているロードマップだ。AMDは3月上旬にOEMメーカーに対してロードマップを配布しているが、そこにはK6-2+は全く登場していない(現時点では、これがAMDがOEMメーカーに配布している資料としては最新のものだ)。以上のようなAMDの公式な発言、そしてOEMへの説明という客観的な証拠から、K6-2+が復活するということはまずあり得ないと言える。
Socket 7ユーザーとしては悲しいことだが、無くなってしまったものは仕方がない。となると、今後Socket 7ユーザー期待の星はK6-2の高クロック版ということになるが、実はK6-2も今回紹介するK6-2/550で打ち止めになってしまう可能性が高いのだ。AMDは前述した3月のロードマップで、K6-2は550MHzより上のクロックの予定はないとOEMメーカーに対して説明しており、今後のバリューPC向けCPUは5月に登場するAthlonをベースにしたSpitfireに急速に移行させていくことになる。また、Centuar Desgin、Cyrixを買収したVIA Technologiesも今後発売するCPUは、いずれもSocket 370のCPUになることを明らかにしている。となると、このK6-2/550はよほどの事態(例えばSpitfireの立ち上げに失敗するなど)が発生しない限り、「Socket 7最後のCPU」となる可能性が非常に高い。
●マザーボードの電圧・倍率設定には注意を払う必要あり
K6-2/550は従来の0.25μmプロセスのK6-2とは若干異なる部分がある。具体的にはCPUコア電圧だ。0.25μmプロセスのK6-2は2.2V駆動となっていたが、K6-2/550は2.3Vとなっているのだ。このため、定格通り利用するには以下の3つの条件を満たすSocket 7マザーボードが必要になる。
(1)100MHzのプロセッサバスをサポート
(2)5.5倍設定をサポートしている
(3)CPUコア電圧2.3Vをサポートしている
とりあえず、筆者の手元には3枚のSocket 7マザーボードがあったので、調べてみた。
★EPoX Computer EP-58MVP3C-M(Baby AT、Apollo MVP3)
EP-58MVP3C-Mは確かMVP3が秋葉原に登場してすぐに購入したマザーボードで、当時はK6-2/300と組み合わせて利用していた。ちなみにボードにはRev0.3(!)と書かれており、かなり初期(というよりRev1.0未満のボードを出荷していたのが台湾ベンダーらしい)の製品だ。このEP-58MVP3C-Mはチップセットに100MHzのプロセッサバスをサポートしたMVP3を搭載しているので、100MHzの設定が可能だ(そもそも100MHzのK6-2/300で使っていたのだから当たり前という話もあるが)。しかし、シルク上にもマニュアルにも5.5倍設定も、2.3Vの設定も書かれておらず、設定はないようだ。残念ながらこのマザーボードでは利用することができないことになる。
★MSI MS-5169(ATX、Aladdin V)
MSIのMS-5169は登場してから1年弱ぐらいしてから購入したマザーボードで、リビジョンはVER 2.0となっている。MS-5169はリビジョンがVER 1.XのものとVER 2.X、VER 3.Xのものなどがあり、VER 1.XのものはBIOSのバージョンアップが'98年頃で止まっており、最新のBIOSはリリースされていない。このため、VER 1.Xのマザーボードでは最新のCPUは(BIOSの制限のために)利用できない可能性もある。今回はVER 2.0を使用したので、BIOSを最新版にしたところ問題なく利用できた。なお、マザーボードのシルクには2.3V、5.5倍の設定は用意されていなかったが、マニュアルには記述がありその通りに設定したところ利用できた。
★FREEWAY FW-TI5VGF(ATX、Apollo MVP3)
FREEWAYのFW-TI5VGFはApollo MVP3が登場してから1年ぐらい経って登場したこともあり、BIOSを最新版にアップデートしただけで問題なく利用できた(リビジョンは1.00)。マニュアルには2.3Vの設定が書いてあったし、5.5倍の設定も用意されている。
以上のように、プロセッサバス100MHzをサポートするチップセット(Apollo MVP3、Aladdin V)が登場後、1年程度経ってから購入したマザーボードに関しては、問題なく利用できた。しかし、初期のマザーボードに関してはそうした設定が用意されていない可能性もあり、要チェックと言える。
正直なところ、ほとんどの場合は2.3V設定は(決してお奨めする訳ではないし、もし実行するのであればご自分のリスクでやっていただきたいが)2.2Vで代替えする事が可能だろうし、逆に2.4V設定が用意されている場合は、若干オーバー気味だが、それでもほとんど動作してしまうだろう。しかし、5.5倍の設定に関しては無ければどうしようも無いわけで、この場合はSocket 7用のCPUアダプタ(いわゆる下駄)を利用することになる。もし既存のSocket 7マザーボードユーザーがK6-2/550を購入する場合には、自分のマザーボードが以上の点をクリアしているかを確認できてからにした方がいいだろう。
●やはりパフォーマンスはK6-III/450が上
今回も本誌がCPUの性能評価に利用している4つのベンチマークテストを利用し、評価を行なった。テストに利用したのはZiff-Davis Inc.のWinstone99とWinBench99、MadOnion.comの3DMark99 MAXとMultimediaMark99だ(これらのベンチマークの詳細に関してはバックナンバーを参照していただきたい)。
Business Winstone 99 | High-End Winstone 99 | |
---|---|---|
K6-2/450 | 26.1 | 20.2 |
K6-2/475 | 25.9 | 20.2 |
K6-2/500 | 26.9 | 21.1 |
K6-2/550 | 27.6 | 21.4 |
K6-III/400 | 29.9 | 22.3 |
K6-III/450 | 31.5 | 23.8 |
Athlon 500MHz | 31.9 | 26.1 |
Athlon 550MHz | 33.5 | 27.6 |
Celeron 466MHz | 27.9 | 22.8 |
Celeron 500MHz | 28.3 | 23.2 |
Celeron 533MHz | 28.8 | 23.6 |
Pentium III 500E MHz | 33.2 | 27.1 |
Pentium III 533EB MHz(SDRAM) | 33.9 | 26.5 |
Pentium III 533EB MHz(RDRAM) | 33.9 | 27.7 |
Pentium III 550MHz | 32.4 | 27.2 |
Pentium III 550E MHz | 34.6 | 28.2 |
CPUmark 99 | FPU WinMark | 3DMark99 Max | |
---|---|---|---|
K6-2/450 | 30.8 | 1,490 | 3,385 |
K6-2/475 | 30.6 | 1,580 | 3,406 |
K6-2/500 | 32.2 | 1,660 | 3,601 |
K6-2/550 | 33.5 | 1,820 | 3,781 |
K6-III/400 | 47.3 | 1,350 | 3,714 |
K6-III/450 | 52.1 | 1,530 | 4,041 |
Athlon 500MHz | 47.7 | 2,710 | 5,182 |
Athlon 550MHz | 51.7 | 2,980 | 5,425 |
Celeron 466MHz | 34.2 | 2,500 | 3,555 |
Celeron 500MHz | 35.9 | 2,680 | 3,702 |
Celeron 533MHz | 37.4 | 2,850 | 3,839 |
Pentium III 500E MHz | 46.9 | 2,680 | 5,265 |
Pentium III 533EB MHz(SDRAM) | 50.3 | 2,850 | 5,529 |
Pentium III 533EB MHz(RDRAM) | 50.2 | 2,850 | 5,494 |
Pentium III 550MHz | 40.7 | 2,790 | 5,333 |
Pentium III 550E MHz | 50.9 | 2,950 | 5,580 |
3D CPUMark | MultimediaMark 99 | |
---|---|---|
K6-2/450 | 6,154 | 875 |
K6-2/475 | 6,267 | 903 |
K6-2/500 | 6,466 | 949 |
K6-2/550 | 6,877 | 1,011 |
K6-III/400 | 6,534 | 827 |
K6-III/450 | 7,188 | 909 |
Athlon 500MHz | 9,181 | 1,319 |
Athlon 550MHz | 9,834 | 1,424 |
Celeron 466MHz | 4,142 | 1,028 |
Celeron 500MHz | 4,373 | 1,088 |
Celeron 533MHz | 4,557 | 1,138 |
Pentium III 500E MHz | 7,940 | 1,501 |
Pentium III 533EB MHz(SDRAM) | 8,535 | 1,586 |
Pentium III 533EB MHz(RDRAM) | 8,512 | 1,647 |
Pentium III 550MHz | 8,393 | 1,648 |
Pentium III 550E MHz | 8,620 | 1,625 |
結論から言えば、残念ながらK6-2/550はSocket 7最強のCPUとはなり得なかった。多くのテスト項目でK6-III/450に負けてしまっているからだ。K6-2/550がK6-III/450に勝ったのは、FPUWinMarkとMultimediaMarkの2つの項目だけで、それ以外の項目(両Winstone、CPUmark99、3DMark99 MAXなど)ではK6-III/450がK6-2/550を凌駕してしまっている。
これは言うまでもなく、K6-III/450に内蔵されているオンダイキャッシュのためだろう。K6-III/450では、L2キャッシュはCPUコアに内蔵されている。このため、L2キャッシュはフルスピード、つまりCPUコアと同クロックで動作し、K6-III/450の場合は450MHzとなる。これに対してK6-2/550はマザーボード上に搭載されているL2キャッシュを利用する。このL2キャッシュはプロセッサバスに接続されており、動作クロックはプロセッサバスと同等になる。このため、K6-2/550の場合はプロセッサバスのクロックは100MHzなのでL2キャッシュの動作クロックは100MHzということになる。まとめると次のようになる。
動作クロック L2キャッシュクロック
K6-2/550 550MHz 100MHz
K6-III/450 450MHz 450MHz
既にこの連載でも繰り返し指摘しているように、L2キャッシュがオンダイとなりフルスピードになることの性能面でのメリットは決して小さくない。そう考えると、ある意味K6-III/450がK6-2/550を上回ったことは当然とも言えなくはない。なお、Athlon 550MHz、Pentium III 550MHz、Pentium III 550E MHzとの比較でもK6-2/550は正直言って歯が立たないという結果だった。やはり、処理能力を重視するのであれば、マザーボードごとAthlonなりPentium IIIに交換するというのが正しいアプローチであると言えるだろう。
●「最強」ではないが「最高クロック」と「最後」は確実か?
このように、少なくともK6-III/450に勝てなかったこともあり、「Socket 7最強」という冠をつけることはできない。ただ、既に述べたようにこのK6-2/550がSocket 7のCPUとして「最高クロック」かつ「最後の」CPUとなることはほぼ確実と言ってよい情勢で、野球で言えば三冠王は逃したものの二冠王は達成というところだろうか。
思えばSocket 7も長い道のりを歩いてきたものだ。Socket 7の前身とも言えるSocket 5が登場したのが、IntelがPentium 100/90/75MHzをリリースした'94年になるので、実に6年に渡り生き残ってきたことになる(振り返ってみると実に長い)。K6-2/550は性能面では正直あまりパッとしないものの、そうしたSocket 7最後のCPUとして記憶されるCPUとなるだろう。
□Akiba PC Hotline!関連記事
【3月18日】K6-2/550発売、クロックでCeleronを追い抜く
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000318/etc_k62550.html
(2000年3月24日)
[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
・CPUコア電圧の変更は、CPUやマザーボードおよび関連機器を破損したり、寿命を縮める可能性があります。その損害について、筆者およびPC Watch 編集部、またマザーボードメーカー、購入したショップもその責を負いません。規定以外への電圧の変更は自己の責任において行なってください。 ・この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびPC Watch編集部が保証するものではありません。 ・筆者およびPC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。 |