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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Spitfireは700MHzで打倒Celeronを目指す


●Thunderbirdは最初はSlot Aで登場

 AMDは、第2四半期からAthlonでの攻勢に拍車をかけようとしている。1GHzを突破したAMDの今後の製品計画はどうなっているのか、OEMからの情報やCeBITなどでメディアに公開された情報などをもとに分析してみよう。

 まず、Athlonに関しては、次のフェイズで次世代Athlon(Thunderbird:サンダーバード)への移行を進める。AMDはOEMに、全クロック帯のAthlonを、第2四半期中にThunderbirdに置き換えるという計画を示したという。これは、第1四半期末までに、Athlonのウエーハ投入がすべてThunderbirdになることを意味する。

 AMDがThunderbird化を進めるのは、パフォーマンスとコストのためだ。Thunderbirdでは、2次キャッシュアクセスのレイテンシが減り、帯域も向上するため、キャッシュ性能が向上する。また、Thunderbirdの方が最終的にAMDの製造コストが安くなる。これは、SRAMチップが不要になり、さらに、PGAパッケージに移行することで、現在のSlot A対応の仰々しいカートリッジと基板が不要になるからだ。コストが減る分、AMDのマージンは増えるので、AMDとしてはできる限り急いでThunderbirdに移行を進めたいはずだ。

 とはいえ、現行のAthlon用チップセットはSlot Aにしか対応しておらず、PGAパッケージ用のSocket Aには対応していないので、PGAパッケージのインフラはまだできていない。そのため、チップセットの世代交代が進むまでは、ThunderbirdはSlot AとSocket Aを併存される様子だ。現実には、最初のThunderbirdはすべてSlot Aになるだろう。AMDでは、秋頃までになんとかSlot A→Socket Aの移行を済ませようとしていると言われる。


●Spitfireは0.18μm版Celeronに挑む

 また、AMDはThunderbirdと同時期にローコスト版Athlonである「Spitfire(スピットファイア)」も投入する。SpitfireはThunderbirdよりスケジュールが遅れていたのが、ここへ来て繰り上がっている。AMDの予定では、5月出荷になっているという。

 Spitfireは、ThunderbirdとCPUコアは同じだが統合しているキャッシュSRAMの量が少なく、駆動電圧も低い。搭載SRAMの量が少ないということは、ダイサイズ(半導体本体の面積)が小さく製造コストが低いことを意味している。電圧は、Thunderbirdは1.7Vで駆動するのに対して、Spitfireは1.5Vで駆動すると言われている。これは、Spitfireの方がターゲットとしているクロックが低いからだ。そのため、Spitfireの方が消費電力がぐっと少ない。PC業界関係者によるとSpitfireの熱設計電力は37W程度に設定されているというが、これは、初代Athlonの500MHzよりも低い。発熱量が少ないということは、冷却も簡略化してPCのコストを下げられるということだ。

 AMDは、このSpitfireを600/650/700MHzでスタートさせ、今年後半には750MHzクラスも投入してくると言われている。これは、IntelのCeleronにピタリと照準を合わせたクロックだ。そのかわり、K6-2+のデスクトップ計画は取りやめになった。それは、IntelがCeleronを一気に高クロック化してくるため、K6コアでは勝負にならなくなってしまったからだ。AMDがSpitfireを繰り上げたのは、K6-2+が抜けたために繰り上げざるをえなかったといった方が正しいだろう。

 ただし、Spitfireは、ダイサイズが小さいといっても、102平方mmの0.18μm版Athlonコアに2次キャッシュSRAMをプラスしているため、2次キャッシュSRAMを載せて106mm2の0.18μm版Celeron(Coppermine-128K)よりは確実にダイサイズが大きくなる。そのため、Celeronのローエンドでコスト競争はできないと思われる。それよりは、ある程度利幅の取れるCeleron高クロック対抗で戦ってゆく方を選ぶだろう。


●今年第4四半期にはAMD CPUの半分をSpitfireに

 AMDは、今年の製品の配分を左のグラフのように計画していると思われる。これは、AMDのOEMメーカーからの情報をベースに、推測も交えて作成したAMDの出荷量のグラフだ。

 これを見るとわかる通り、AMDは今年後半にSpitfireの出荷量は一気に拡大しようとしている。現在の推測では、今年第4四半期には、AMDはSpitfireを同社の全CPUの50%以上に持っていこうとしていると思われる。これは、Spitfireの狙う1,000ドル以下のコンシューマPCの市場が、AMDにとってもっとも得意な市場だからだ。Pentium III対抗のハイエンド市場は、AMDブランドでは、まだ、切り開くのに時間がかかる。それよりも、AMDブランドが浸透しているローコストPC市場で、Spitfireによりシェアを拡大しようと目指しているというわけだ。

 この戦略は、マーケティング的には正解だ。しかし、AMDはこのSpitfire戦略を成功させるためには、チップセットを含めたインフラをきちんと準備しなければならない。この部分で、AMDは完全に後手に回ってしまっている。この状態で、はたして、Spitfireを無事に第2四半期中に離陸させることができるのか、まだわからない。

 もっとも、AMDもSpitfireだけに注力するわけではなく、Athlon(Thunderbirdも含む)の生産量も徐々に増やす。こちらの方が高マージンなので、利益の多くはAthlonが稼ぐことになるだろう。

 また、このグラフを見ると、第4四半期になるとAMD全体のCPU生産個数がぐんと増えているのがわかる。それも、K6よりダイサイズが大きなSpitfireが増えて、ウエーハ当たりの生産個数がぐっと減っているにも関わらずだ。この生産力の増加分、これが意味するのは、おそらく、Fab 30の生産力だ。だとすると、第3四半期のFab 30の生産量はそれほど大きくないが、第4四半期になると急増するということになる。つまり、銅配線Athlonが本格的に大量に出てくるのは、第4四半期頃になるのではないだろうか。


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(2000年3月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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