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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Intelの社内競合が生んだWillametteの1.4GHz


●CPU開発チームを競合させて優秀な製品を産み出すIntel

 「開発チームを社内競合させて、優れた製品を作り出すというのはIntelの常套手段」

 これは、先日会ったあるIntel OBのセリフだ。実際、これまでもIntelには社内競合に負けて消え去った製品が山ほどあり、競合を勝ち抜いた製品がIntelの主力として市場でも勝ち抜いてきた。そして今回、その社内競合戦略が見事に成功したのが、「Willamette(ウイラメット)」だ。Willametteは、同じIntelの「Itanium(Merced)」に対抗するために、これだけの高クロックCPUへと進化したと思われる。

 IntelにはメインのCPU開発チームが大きく分けて2つある。1つは、IA-64チームでもう1つがWillametteチームだ。IA-64チームは、カリフォルニア州サンタクララにあり、Willametteのチームはオレゴン州にある。これは、両プロセッサの発表で登場する、Intelのスタッフの所属を見れば明らかだ。ちなみに、コードネームも同様で、Mercedがカリフォルニア州の川、Willametteがオレゴン州の川となっている。

 Intelは486以降、パソコン用CPU開発チームを2つに分け、互い違いにCPUをリリースさせることにした。両チームが担当するCPUは、つぎのようになっている。

◎サンタクララチーム
Pentium['93年]→Itanium(Merced)[2000年]
◎オレゴンチーム
P6(Pentium Pro/II/III)['95年]→Willamette[2000年]

 IntelはCPUの開発にかかる期間を4年程度と見積もっており、2チームが交互にCPUを出すことで2年に1つ新しいCPUが登場するはずだった。しかし、サンタクララチームは、当初開発していたP7ではなく、新しいアーキテクチャであるIA-64の開発に向かってしまったために、開発スケジュールがずれ込んだ。PentiumとItaniumの間はなんと8年もあり、そのためItaniumとWillametteは同じ年、つまり今年に登場することになってしまった。

 一方、オレゴンチームは、Pentium Proを予定通りリリースしたあと、同じチームでP6コアを拡張(Pentium II/III)させつつWillametteをスタートさせていた。IDFのWillametteの技術セッションでは、「Willametteの開発グループはP6と同じグループ」と説明しており、これは確実だ。

 Willametteがスタートした時点で、サンタクララとオレゴンには異なる使命が与えられていたようだ。サンタクララは命令セットアーキテクチャを一新して性能向上を図るという使命、オレゴンは命令セットアーキテクチャは既存のIA-32のままで性能向上を図るという使命だ。

 ここで両チームともIA-64アーキテクチャCPUの開発に向けなかったところが、Intelの巧みなところだ。2チームをIA-64とIA-32で分担しておけば、IA-64への移行に失敗したとしても、オレゴンチームが救ってくれることになる。また、両チームにとってみれば、CPUの最終的な性能で、どちらのアプローチが正解だったかが問われるため、必死に開発しなければならない。つまり、Intelは社内競合させることで、IA-64とIA-32の両方の開発をブーストしようとしたと思われる。


●オレゴンチームは必然的に高クロック化へ進む

 x86 CPUの世界では、命令セットアーキテクチャが既存のIA-32である限り、もう並列実行の度合い(パラレリズム)をこれ以上向上させるのが難しいと言われている。つまり、1クロックで処理できる命令数の平均を向上させることは難しいというわけだ。そこで、サンタクララチームは、IA-64により命令セットのレベルで並列実行をしやすいように変えることにした。命令セットレベルで変革してパラレリズムを高めるというわけで、IA-64では同じクロックでもIA-32より処理性能は高くなる。

 こうして、サンタクララチームがパラレリズムを根本的に高める方向を取ったため、Willametteでのオレゴンチームの方向性は必然的にクロックを徹底して高める方へ決まったと思われる。これは、IA-32という制約の中で、社内競合するサンタクララチームに対抗するには、クロックを高めてパラレリズムの不利を覆す方向しかないからだ。つまり、1クロックで処理できる命令数はIA-64より少なくても、クロック自体を上げられるようにしてしまえば性能が上がるというわけだ。IA-32でパラレリズムを追求しても、IA-64には絶対に勝てないのだから、オレゴンチームの勝機はここにしかない。そして、その結果がIDFで行なわれた1.5GHzというWillametteのデモだったというわけだ。

 Willametteは、第4四半期の登場時に最高クロック1.4GHzで登場すると言われている。それに対して2000年1四半期前に登場するItaniumのクロックは800MHz。じつに1.75倍という圧倒的な差で、パラレリズムの不利を吹き飛ばすのに十分なインパクトを持っている。もちろん、性能はアプリケーションによって異なるし、Itaniumには64ビットのアドレス空間という武器があるので簡単には比較できない。しかし、1.4GHzの衝撃でエントリレベルからミッドレンジまでのサーバーとワークステーションでは、確実にIA-64の存在感が薄くなってしまった。つまり、このラウンドでは、オレゴンチームが勝ったわけだ。


●クロック至上主義が情勢にピタリとはまった

 そもそも、オレゴンチームはP6コアの時からクロック優先の思想を取っていた。P6では、スーパーパイプラインを採用、それによってクロックで同世代のx86 CPUを引き離し、多くのRISCプロセッサとも(整数演算では)互角に戦えるようにした。今となっては古いP6コアが、Athlonなど新しい世代のx86互換CPUに対抗して5年以上も戦えたのは、クロック至上主義のP6の基本思想が、マーケットの要請に合致していたからだ。

 そして、オレゴンチームは、次世代のWillametteでは、P6をさらに発展させ、ギリギリまで高クロック化を追求した。これは、社内のライバルに対抗するだけではなく、市場もますますクロックに引っ張られるようになるという読みがあったと思われる。おそらく、競合メーカーもオレゴンチームがここまでクロック至上主義を取るとは思っていなかったに違いない。その証拠に、Athlonは、Willametteのような極端なクロック追求アーキテクチャではない。

 ところが、5年をかけたWillametteがいよいよデビューする市場は、クロックが引っ張る世界で、ちょうど1GHzを巡ってAMDと戦いを繰り広げている真っ最中だった。つまり、ここでも、オレゴンチームの読みは当たり、クロック競争のさなかに、クロックを追求した“Speed Demon(スピードデーモン)” Willametteを出すことができるという情勢になったわけだ。まさに、ドンピシャのタイミングと言っていい。

 今、Intelでいちばんホクホク顔なのは、オレゴンチームを長いこと率いていたパトリック・P・ゲルシンガー副社長兼ジェネラルマネージャ(Desktop Products Group)に違いない。


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(2000年2月25日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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