第40回 : IDFからの話題 |
と、モバイルと関係のない話から始まって申し訳ないが、その異常なまでの過熱ぶりを誰かに伝えずにはいられない。そんな気分になるほど、ベイエリアの空気は不景気な日本の空気とは違っていたのだ。
話は……そうそう、IDFだ。今回のIDF、目玉はなんと言ってもWillamette。しかしWillametteとモバイルが関連するのは、数年後のことになるだろう。昨年、様々なモバイル向けプロセッサの戦略を発表したIntelは、少しばかり小休止しているようだ(もちろんクロック周波数の点では相変わらず向上を続けているが)。
とはいえ、モバイルx86プロセッサの新しい話題こそないものの、2つほどモバイル関連の話題を見つけた。Intelの携帯電話戦略とソニーとの提携話だ。
■ 広帯域化をきっかけに携帯電話プラットフォームに食い込もうとするIntel
Intelと携帯電話の2つは接点がないように思えるが、Intelはこの分野に進出するための重要な技術を保有している。ひとつは高性能で低消費電力の組み込みプロセッサStrongARM、もうひとつはフラッシュメモリだ。そして先日、通信用DSPベンダとして高いシェアを持つDSP Comunicationを買収したことで、情報端末機能を備える次世代携帯電話のキーコンポーネントをほぼ手中に収めている。
もっとも、いくら高性能なコンポーネントを持っていたとしても、それだけで既存ベンダが溢れている携帯電話市場で成功するとは限らない。実際、9,600~14,400bpsの帯域しかない現在の携帯電話市場では、それほど高性能な端末は必要ないだろう。
しかし通信速度が大幅に上昇する次世代の携帯電話ともなれば話は変わってくる。2001年以降に開始される第3世代の携帯電話では384Kbpsの速度を実現、さらに2004年以降には1.5Mbpsまで帯域が広がる見込みだからだ。すでにiモードなどは、単なる音声サービスから音声+データ通信サービスへの脱却を果たそうとしているが、その動きは今後どんどん加速されていくだろう。
Intelは帯域増加によって携帯電話に求められる機能が高くなり、プロセッサパフォーマンス、フラッシュメモリ容量の両面で要求が急激に高くなっていくと読んでいるようだ。急激に要求される性能が高くなるとき、ハードウェアは世代替わりを要求される。そこにキーコンポーネントすべてを投入し、市場に食い込むことで安定した足場を築こうというのがIntelのねらいだろう。
IntelはStrongARM、通信DSP、フラッシュメモリに加えて携帯電話向けのコアロジックチップを開発し、それらハードウェアインフラの上で動作するOSやアプリケーションソフトウェアを提供する。ベンダはIntelからそれら基本となる部分を購入し、独自の付加価値を加えながら自社の製品を開発することになる。
日本の携帯電話ベンダが、果たしてそのようなものを使うのか? という疑問を、多くの読者が持つだろう。僕自身も同じ事を思った。しかしIntelには膨大な投資で最先端のマイクロプロセッサを支える製造技術がある。携帯電話は、軽量でなければならず、軽快に動作しなければならず、低消費電力でなければならない。要求されるパフォーマンスや機能が高くなるほど、内蔵されるチップに対する要求もきつくなる。
ところが日本のベンダは不景気な折り、半導体事業への投資が鈍ったことによるボディブローが徐々に効き始めている段階だ。機能的には同じものが作れても、同じパフォーマンスのチップを作ろうとするとより高い電圧でしか動作しない、といった状況なのだという。Intelが得意の製造面と統合的なプラットフォームサポートで売り込みをかけたとき、果たしてどういう結果が出るのか。
今すぐ何かが変化するというわけではない。しかし数年後、もしかすると携帯電話のCMに“Intel、はいってる?”なんてサウンドロゴが入ることになるのかもしれない(まぁ、携帯電話端末は通信事業者が販売するので、実際にはそんなことにはならないはずだが)。
■ ソニーとの提携であこがれのデジタル家電への足がかりを手に入れた?
もうひとつ、IDFの基調講演でIntel副社長のパット・ゲルシンガー氏が、ソニーとの協力体制を発表したことも大きなニュースだ。両社はPCによりネットワーク化された家庭環境「e-Home」を実現するために協力していく。
この提携は、要素を拾い上げると非常に多岐にわたることが予想されるが、そのうちの1要素としてメモリースティックがある。両社はネットワークに接続されていないオフライン時の情報交換媒体として、メモリースティックをPCの標準にすべく業界に働きかけていく。
メモリースティックは著作権保護機能を持ち、少ない端子数、高い挿抜耐久性などの特徴を持っているが、フラッシュメモリ媒体としては後発なこと、メモリースティックに対応するためにはソニーにライセンス料の支払いが発生することなどから、ソニー製品でデジタル生活を送る人以外にはあまりメリットのない媒体だった。
しかし、Intelからはメモリースティックを標準へと押し上げる努力をする代わりに、ライセンス料を無料にする働きかけなどがあったようだ。この話が事実ならば、今後あらゆるソニー製デジタル機器で利用可能になっていくメモリースティックが、ほかの製品を押しのけて標準となってしまう可能性は高いだろう。
先日発表されたIntelとソニーの提携に関する話は、ほんの触りしか書かれていないが、コンテンツ保護技術のMagicGateをソフトウェアで実装したOpenMGとIntelのIntel Software Integrity Systemの相互利用に関する内容も盛り込まれた。推測の範囲は出ないが、PCへのコンテンツ保護ハードウェア内蔵(たとえばIntelチップセットにMagicGate、もしくはそれに類するハードウェアを内蔵させる)などに発展する可能性もある。
著作権保護も含んだ情報交換の手法という意味では、まだまだ色々と改良してもらわなければならない事(たとえばメモリースティックウォークマンを購入してみたが、全く使いにくくてお話にならない。気軽に音楽を持ち出せるのがウォークマンなのに、音楽を持ち出すのが面倒なデバイスはちょっと使う気にならないと思う)もあるが、クオリティの高いコンテンツ事業を根付かせ、ユーザーベースを広げる意味でも両社に努力を続けて欲しいと思う。
フラッシュメモリのフォークファクタが決まる過程では、ユーザーの一部が不利益を被り、別の一部は利益を得ることになるだろう。これはベンダにも言えることで、メモリースティックと同様にコンテンツ保護技術に対応し実装ライセンスフリーの方針を打ち出していたサンディスクのMMCなどは、今回の提携で一番不利益を被っていると思う。
しかし長期的に見れば、どこかで標準が決まらなければ、マルチメディアデータの交換手法も定まってこない。フラッシュメモリが有効と思われる全てのデバイス(音楽プレーヤーだけではなく携帯電話やデジタルカメラ、ノートPCなどあらゆるモバイルデバイスが関連する)に良い影響が出ることを願いたい。
先週の記事でPメールDXが全角1,000時しか受信できないとの記述がありましたが、正しくは半角5,000文字までの受信と半角2,000字までの送信をサポートしています(本文修正済み)。訂正するとともに関係者にお詫びを申し上げます。
[Text by 本田雅一]