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第41回 : MSウォークマンを使わなくなったこれだけの理由



 Intelが携帯電話市場を狙っているという話を先週お伝えした。日本ではハードウェアプラットフォームの提供というよりは、Intelの提供する携帯電話向けコンポーネントを中心にした協業体制の発表になった。「コンテンツやソフトウェア環境を含めて各社で協力し、次世代携帯電話市場で、一緒にそれぞれの分野でトップ企業を目指しましょう」、というような話だった。

 ご存じのように、日本のデジタル携帯電話市場は世界でもっとも進んでいる。iモードやWAPなど携帯電話向けコンテンツが、世界でもっとも充実しているのも日本だ。さらに2001年4月には第3世代の携帯電話サービスが開始されると言うのだから、ベンダー側もユーザー側も期待せずにはいられない。Intelがキーアプリケーションと指名するMPEG-4で、どのようなサービスが提供されるのか。端末の機能はどこまで上がるのか。非常に興味深いところだ(Mobile Central関連記事:「インテル、IMT-2000をターゲットにした開発センタ設置」)。

 さて、このところ携帯電話の話が続いてしまったが、少し肩の力を抜いて我が家のオーディオ環境とオーディオデータの持ち出しのお話をしてみたい。昨年末、メモリースティックウォークマンが発売されてから、ずっと書きたいと思っていたのだが、なかなか機会がなかった。

 数年前からのMP3ブームに始まり、最近は単に携帯型MP3プレーヤー発売なんて話だけでは、それほどインパクトの強いニュースとは言えなくなってきた。現在のMP3プレーヤー……ではなくシリコンディスクプレーヤーは、音楽配信とセキュリティ機能がセットとなり、各社の戦略商品の一部になりつつある。

 しかし、「ちょっと待ってくれ。その前にユーザーの使いやすさも考えてくれよ」と思うのだ。


■ 圧縮音楽を使う理由、我が家の場合

 僕の場合、取材に出かけることも多いが、国内にいる限り仕事のほとんどは自宅で行なうことになる。有線放送でも引くか、FM放送でも受信すれば、仕事中のBGMには事足りるハズだが、どうも根が欲張りなのかオンデマンドで好きな曲をかけていたい。しかもCDやMDの交換で手間を取られることなく、なるべく手軽にだ。

 そんなわけで、数年前はナカミチが発売していた7連装CD-ROMドライブを購入し、全スロットに音楽CDを入れ、PC上で連装CD-ROM専用のCDプレーヤーソフトを使って音楽を聴いていたのだが、それとてたかだか7枚のCDしか入らない。好きなときに好きな音楽を聞き、しかもCDの交換をしない、そんなわがままには対応できない。

 つまり、僕にとっての圧縮音楽とは我が家のCDを交換せずに音楽を長時間楽しむための手段だったわけだ。元々、LANを導入している我が家では、サーバーに音楽専用のハードディスクを仕込んで、いつでもどのPCからでも音楽を取り出すことができるようにしてある。我が家のPC環境は圧縮音楽だらけだ。

 LANで使う場合の著作権は少し心配だったのだが、それも圧縮音楽を使いはじめてすぐに仕事がてらにJASRAC(日本音楽著作権協会)に確認したところ、問題なしとの結論に達した。以来ずっと我が家の音楽ソースはLAN上のファイルサーバーになっている。(このとき確認したのは、所有しているCD、合法レンタルショップから借りたCDをデジタル録音し、そのオーディオデータを家族でLAN共有して楽しむ事だ。ほかの利用法については判断基準が異なる可能性があるので注意してほしい)

 そんな事を始めてしばらくした頃から、ノートPCのハードディスク容量は急激に増してきた。1GB程度が2GB、3GB、6、8、12GBと増えて現在に至っている。僕の場合、ノートPCは取材時に円滑に仕事をすることが主たる目的なので、仕事に使うアプリケーション以外はほとんどインストールしていない。そこには過去に書いた記事や取材メモ、PDFなどの資料に全メールの複製などが収められているのだが、Windows 2000などをインストールして、それらを全部あわせでも2GB以下に収まってしまう。

 当然、かなりの空き領域が出来るわけで、音楽サーバーのデータは100Mbpsのネットワークを通じてコピーし、出張時の音楽環境を整えている。最大のメリットは、お手軽さだ。MP3活用ソフトが一般的になった今では、そう珍しいことではなくなってしまったが、PCを常に使わなければならない身としては、圧縮音楽によってオーディオデータの可搬性は大きく向上した。


■ 著作権保護は大切だけど、これはいくらなんでも……

 もちろん、アンダーグラウンドな面に目を向けると、圧縮音楽はインターネットを通じて違法に音楽を配布する手段としても使われている。MP3が急速に広まった背景に、そうした違法入手によって無料で音楽を手に入れられるという面があることは無視できない。

 前述のように圧縮音楽は、違法性を取り除いた使い方をしても、充分にメリットを感じることができる便利なものだ。そのメリットを生かしながら、違法な運用ができないような仕組み作りをする必要がある。著作権を無視した運用が蔓延すれば、音楽アーティストが充分な収入を対価として得られず、文化としての成長を鈍らせるからだ。また、インターネットを通じて、手軽かつ安価に音楽を入手するネットワーク流通への道も閉ざされる。

 そこで期待していたのが、冒頭でも上げたメモリースティックウォークマン(MSウォークマン)だった。圧縮音楽の著作権保護技術は、これまでにもさまざまな会社が取り組んできたが、今後おそらく携帯音楽デバイスの主流になるだろうシリコンオーディオデバイスに対応した技術で、かつ製品として最初に出て来たものがMSウォークマンとそれに搭載されるMagicGate技術だったからだ。

 ところが残念なことにこのMSウォークマン、今ではほとんど私の妻が家事で動きまわりながら音楽を聴くため専用の道具になってしまっている。購入する前から分かっていたことだが、とにかく不便なのだ。分かってはいたのだが、その不便さが想像以上だったため使っていないのである。

 製品個別の機能に言及し始めると、いくらでも文字が増えそうなので、ここでは運用面だけに絞って話をしよう。

 まず音楽を転送するのにとても時間がかかる。暗号化した通信を行なうためなのか、それとも著作権のキーをやりとりする手順が複雑なのか、同じUSBを使うRio 500と比べると数倍の時間がかかる。転送だけなら我慢もできるが、MSウォークマン内にあるデータの著作権情報をPCに書き戻すのにさえ1曲あたり数秒を待たされる。

 MSウォークマンと曲データの通信を行ない、音楽データと著作権の管理を行なうOpenMGは、CDから録音したデータやほかのオーディオデータを暗号化して管理する。1曲あたり携帯音楽デバイスに書き出すことができるキーの数は3個(この数はSDMI規格で規定されている)。すべてのキーを使い切ると音楽データを使用できなくなるので、MSウォークマンから削除する際にはいちいちキーを書き戻さなければならないわけだ。

 結果、外出前の忙しいときに曲データをちょっと入れ替えて……と思っても、時間が無くて間に合わないということもある。

 またOpenMGで管理するデータは、ほかのPCにコピーしても再生することはできない。デジタルでの配布を防止するためだが、これは音楽サーバーにデータを置いて家庭内でミュージックオンデマンドを実現するという我が家のささやかな楽しみには利用できないことを意味する。もちろん、ノートPCにコピーして出張時に音楽を楽しむこともできない(最初からノートPCで全てのデータを管理しなければならない)。

 さらに同じ理由から音楽データはバックアップを行なえないため、Windowsを再インストールした場合などは、それまでの音楽データは失われてしまうというのだ。バックアップツールは追って提供するとアナウンスされているが、キーデータをエクスポートする機能があればすむことではないだろうか?

 また著作権管理とは話が離れるが、MSウォークマンが採用するATRAC3は低bitレートでの音質がMP3よりも優れている。これを利用して66Kbpsでも、外出先ならば許容できる音質を実現できるのだが、一方で部屋の中ではもう少し音質を上げたい。曲転送時にオンデマンドでbitレートを変更できてもいい(MP3ソフトにはそうした機能を持つものもある)のではと思う。

 MSウォークマンの発売に合わせ、ソニーミュージックエンターテインメント(SME)はインターネットを通じた音楽配信サービスのbitmusicを開始しているが、ここで配信される音楽データは132Kbpsだ。音質には優れるが、現在のところ64MBが最高のメモリースティックに録音するには少々bitレートが高すぎる。CDから録音する場合には、bitレートを変えて複数回エンコードすることも可能だが、bitmusicから配信を受ける場合にはそれもできない。


■ 規制はどこまで必要なのだろう

 僕にとってMSウォークマンとOpenMGは、圧縮音楽が与えてくれた便利さのほとんどを奪うものだった。だから使っていないし、今のままなら今後登場する製品にも手を出そうとは思わない。今すぐにシリコンオーディオプレーヤーが欲しいという人には、ダイアモンドマルチメディアのRio 500か、WMAにも対応予定のクリエイティブメディアNomad IIをオススメしたい。データ転送も高速で、自由度も高い。自由度の高さは悪用も可能であることを意味するが、目の前に高い運用性を持つ製品があるのに、不自由な製品を使いたいという人はいないだろう。

 著作権管理は重要な技術だ。しかし、現時点ではユーザーにばかり不便を強いていると思う。たとえばOpenMGはMP3をインポートして著作権保護されたデータへと変換(VAIOミュージッククリップ用では単純なカプセル化も可能)できるが、変換後のデータは3回のデータ転送制限がかかる。元データは削除されるわけではないから、単にOpenMGでの再生とMSウォークマンへの転送が制限されるだけだ。

 従ってインターネットから違法にMP3データをダウンロードして利用するユーザーに対しては(変換の手間を別にすると)無力なのだ。その効力の範囲はインターネットで音楽配信される有料データの管理のみと言っていい。

 将来的にはインターネットでの配信が音楽流通の中心になってくるだろうが、現時点ではCDもしくは合法レンタルを利用している人がほとんどだ。そしてその人たちにとって、今のOpenMGは単に足枷となっているだけのように思える。

 ソニーと同じような試みは、昨今ますます活性化してきている。三洋電機は日立製作所や富士通と共にMMCにセキュリティ機能を付加したセキュアマルチメディアカードを用い、東芝や松下電器産業もSDカードを利用したキオスク端末による配信実験を始めている。さらに来年以降の次世代携帯電話サービスによる高速通信を睨み、携帯電話による音楽配信サービスも各社計画を進めている。

 最終的に、どんな配信方法、セキュリティ技術が主流になっていくのか、あるいは乱立状態のままで相互運用性を探ることになるのかはわからないが、ユーザーの運用性にばかりしわ寄せが来るものではないことを祈りたい。すでに我々はMP3の運用性の良さを体験済みなのだ。もう不便な世界には戻れない。

[Text by 本田雅一]


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