昨年末ギリギリにS3のSavage2000を用いたビデオカード、Diamond Viper IIが発売された。Savage2000は、NVIDIAのGeForce256に次いで、2番目にハードウェアT&Lをサポートしたビデオチップのハズだったのだが、実際に登場したViper IIのディスプレイドライバはこの機能をサポートしていなかった。当初、ハードウェアT&Lをサポートしたドライバは、1月中旬にリリースされるとアナウンスされていたのだが、残念ながらその約束は守られなかった。待望の新ドライバ(Ver 9.01.21)がようやく2月の初旬にリリースされたものの、このドライバでもハードウェアT&Lはサポートされていないかに見えた。
だが、実はこのドライバで、ハードウェアT&Lはひっそりとサポートされていた。ハードウェアT&Lを有効にするには、レジストリエディタで、HKEY_CURRENT_CONFIG\Display\Settingsに、ICDHWTLという名称のキー(文字列)を作成し、データとしてONを設定する。このICDHWTLというキーは、初期状態には存在しないので、新規に作成する必要がある。
その効果はいかほどのものか。Ver 9.01.21ドライバで初期状態(ICDHWTLキーなし)と、ICDHWTLをONに設定した場合とで、いくつかのベンチマークを行なってみた。まずTreeMarkは、NVIDIAが自社のハードウェアT&Lサポートのデモンストレーションのために作成したOpenGLベースのベンチマークテストだ。TreeMarkでは、Savage2000のテストでも明らかな効果が見られた。ICDHWTLキーを作成し、その値にONを設定すると、ベンチマーク結果は3倍近くに跳ね上がる。
【TreeMark】
Simple | Complex | |
---|---|---|
Ver 9.01.21 Default | 8.9 | 1.9 |
ICDHWTL=On | 25.3 | 5.9 |
Ver 9.01.09 Default | 8.8 | 1.9 |
ICDHWTL=On | 8.8 | 1.9 |
残念ながら手元にGeForce256ベースのカードがないため、直接比較することができないが、以前テストした時の経験では、GeForce256ではSimpleが45前後、Complexが12前後ではなかったかと思う。それと比べると見劣りするが、Savage2000同士で比べれば、その効果は明らか。特にプロセッサパワーが低いシステムほどその効果は高いハズだ。また、将来プロセッサの性能が上がり、T&LをCPUで処理した方が高速な時代がくるとしても、CPUとビデオチップのどちらで処理するかは、ユーザーが選べた方が良いに違いない。そういった意味でも、いちいちレジストリエディタで設定するよりドライバのプロパティシートから設定可能にするべきだろう。
ちなみに、同じ設定をViper IIのパッケージに添付されていたCD-ROMに収録されているディスプレイドライバ(Ver 9.01.09)で試したところ、何の効果も見られなかった。やはりこのバージョンでは、最初からハードウェアT&Lがサポートされていなかったのだろう。
さて、次はDirectX 7ベースのベンチマークテストである3DMark 2000の結果だ。ご覧のとおり、ICDHWTLキーの設定にかかわらず、ベンチマークの結果に違いはない。キーの名前が(OpenGL)ICDのHardWare Transform & Lightingの略だけに、DirectX 7とは無縁のようだ。とはいえ、ハードウェアT&Lとは関係なく、Ver 9.01.21ドライバはVer 9.01.09ドライバに比べ明らかに性能が向上している。DirectX 7ベースのタイトルしか遊ばない、というユーザーもこの新版をダウンロードする価値はありそうだ。
【3DMark 2000】
3DMark | CPU 3DMark | |
---|---|---|
Ver 9.01.21 Default | 2,867 | 187 |
ICDHWTL=On | 2,870 | 187 |
Ver 9.01.09 Default | 2,136 | 190 |
Fill Rate (MTexels/s) | Fill Rate w/Multi Texturing(MTexels/s) | 32MB Texturing Rendering(fps) |
|
---|---|---|---|
Ver 9.01.21 Default | 226 | 492 | 126 |
ICDHWTL=On | 226 | 492 | 126 |
Ver 9.01.09 Default | 125 | 233 | 120 |
最後にSPECのViewPerf 6.1.1(OpenGL)だが、明らかな効果が見られたのはAWadvs-03だけ、という結果になった。ViewPerfに含まれる5つのView Setのうち、このAWadvs-03が(おそらく)最もポリゴン数が少ないテストである。どうやら、このあたりに(もっぱらゲームを目的に開発された)Savage2000の限界があるのかもしれない。実際、Savage2000にはWindows NT 4.0用のディスプレイドライバも用意されているのだが、そちらではT&Lどころか、OpenGLのハードウェアアクセラレーションさえサポートされていないのである。
【ViewPerf 6.1.1】
AWadvs-03 | DRV-06 | DX-05 | |
---|---|---|---|
Ver 9.01.21 Default | 10.2 | 6.9 | 7.4 |
ICDHWTL=On | 17.4 | 6.9 | 7.4 |
Light-03 | ProCDRS-02 | |
---|---|---|
Ver 9.01.21 Default | 1.6 | 6.5 |
ICDHWTL=On | 1.1 | 6.5 |
現状でSavage2000のハードウェアT&LはOpenGLに限られる。直接レジストリを操作する以外の設定方法がないなど、まだ完成度は低いと言わざるをえない。ベンチマークテスト結果でも見劣りするなど、どうしてもGeForce256と比べられると分が悪い。こうした点で気後れがあるせいか、標準のディスプレイドライバの改良を図るより、専用にカスタマイズされたQuake III Arenaの実行ファイルやLevelの提供、Unreal向けにSavageシリーズの独自APIであるMeTaLの改良を重ねたりと、ゲームの個別対応に走っている印象がある。
しかし、実際にはGeForce256に比べ、Viper IIの価格は安い。ビデオ出力付きで2万円を切っているのである。製品としてのSavage2000は、トップと互角に渡り合えるとは言わないまでも、競争力を回復しつつあるのに対し、S3はまだ自信を回復できないでいるのだろうか。
それはともかく、Savage2000にはテクスチャ圧縮(S3TC)というGeForce256にはない機能もある。当初、NVIDIAがサポートしないテクスチャ圧縮が広く普及するか? とも思われたが、ATI Technologiesや3Dfxがサポートを始めるなど、徐々に広まりつつあるのは間違いない。確かにGeForce256は良くできているビデオチップだと思うが、1社が独走してはつまらない。S3をはじめとする他社の奮起が待たれる。
(2000年2月9日)
[Text by 元麻布春男]
・レジストリの変更は自己の責任において行なってください。 ・この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびPC Watch編集部が保証するものではありません。 ・筆者およびPC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。 |