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笠原一輝のISSCC2000レポート

IntelはPentium III 1GHzを技術発表
AMDはAthlon 1.1GHzを公開

会場:San Francisco Marriott
会期:2月7~9日(現地時間)

 2月7日(現地時間)より3日間に渡り、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が主催する半導体関連の学会であるISSCC2000(International Solid State Circuits Conference)が米国カリフォルニア州サンフランシスコのSan Francisco Marriottホテルで開催されている。初日となる今回は、7日の午後に開催された米Intelのペーター・グリーン氏による1GHzのPentium IIIに関する技術発表および、AMDが報道陣に公開したAthlon 1.1GHzについてレポートする。


●実際に製品化の目処が立ったPentium III 1GHz

'99年2月のIDFで行なわれたPentium III(0.25μm)の1GHz動作デモ
 ISSCCはCOMDEXやCeBITのように製品ベースの発表を行なうところではなく、研究室(ラボ)で実現できた成果を発表する、いわば学会である。従って、今回発表された内容も、「Intelの研究室でこうした製品を実際に作ることが可能になった」ということであって、即実際の製品に反映される訳ではない。

 今回Intelが発表した内容は、「“室温で”動作する0.18μmルールのPentium III 1GHzの製造を可能にした」というものだ。重要なのはこの“室温で”という部分だ。実はIntelは1GHzで動作するPentium IIIを聴衆の面前で公開したことがある。言うまでもなく、'99年の2月にパームスプリングスで開催されたIntel Developer Forum(IDF)の「アルバート・ユウ副社長の基調講演」においてだ。この時公開されたPentium III 1GHzは、0.25μmの製造プロセスルールに基づいたコア(つまりKatmaiコア)に、特殊な冷却装置(通常のCPUクーラーではなく、強制的に冷却する装置)を利用したシステムで、実際に製品化できるようなものではなかった。

 しかし今回発表された研究成果では“室温で”、言い換えれば通常のCPUクーラーを利用した状態で1GHzを実現することができたという内容であり、「技術的に1GHzのPentium IIIを実際に製品化することが可能になった」という意味の発表である。どの段階で1GHzのPentium IIIを出荷するかは、製品計画を担当するマーケティング担当者の判断次第となったわけで、Intelにとってこの発表の意味は非常に重い。

 既に後藤氏のコラムIntelの次世代CPU「Willamette」は第4四半期に1.4GHzで登場!!--Pentium III 1GHzは9月か」でも触れられているように、Intelは2000年の後半にPentium III 1GHzを製品化するとOEMメーカーなどに説明している。いくらマーケティング側がこうした製品展開を計画したとしても、技術的にPentium III 1GHzを製造できなければ意味が無いわけで、いよいよ1GHzのプロセッサの実現に向け1つのハードルを越えたということだ。


●「アルミ配線でも1GHzは十分実現可能」とグリーン氏

Intelロジックテクノロジ部門デザインマネージャのペーター・グリーン氏
 今回の発表で注目を集めたのは、IBM、MotorolaやAMDなどが銅配線技術を利用して1GHz動作のプロセッサを実現しているのに対して、Intelはアルミ配線技術を利用してPentium III 1GHzを実現していることだろう。これまでも主にアルミが素材として利用されることが多かったのだが、次世代の素材として銅が注目されており、銅を利用したほうが高いクロックにも耐えやすいと言われている。このため、IBMやMotorolaでは銅配線を利用したプロセッサを作っている。しかし、Intelは1GHzのPentium IIIでもアルミ配線を利用している。

 この点に関してIntelロジックテクノロジ部門デザインマネージャのペーター・グリーン氏によれば「銅配線を利用することでより高いクロックのCPUを実現しやすいというのは事実だ。0.18μmプロセスのCPUコアで1GHzのプロセッサでは銅配線は必要ではない」と述べ、銅配線の技術的なアドバンテージに関しては認めたものの、現状の0.18μmのCPUコアではアルミ配線で十分であるという認識を明らかにした。その理由としてグリーン氏は「銅配線を導入するには何らかの設計上のリスクを負うことも考えられるし、大量のプロセッサを作るのに適しているか実証できない」と述べ、銅配線を導入することが必ずしもメリットばかりではないことを指摘。そうした銅配線のメリット、デメリットを検討した結果Intelが「アルミ配線で十分」と結論づけたことを明らかにした。確かに同氏が述べたように、アルミ配線でも実現に問題がないのであれば、これまでも利用されてきたアルミ配線の方が、大量生産時に問題が少ない可能性は高い。さらに、同氏は「少なくとも当社がターゲットにしているクロックよりも200MHzは上のクロックで動作することがシミュレーションで確認されている」とし、かなり先のクロックまで現在のアルミ配線を利用したプロセス技術で対応可能であるということも併せて強調した。


●1GHzのPentium IIIは733MHzに比べて20%程度のパフォーマンスアップが見込まれる

 今回は実際の製品などが発表された訳ではなく、あくまで1GHzの技術発表であるため、実際にPentium III 1GHzが会場に展示されていた訳ではない。しかし、今回の発表の中にPentium III 1GHzの性能を示唆する内容があったので紹介しておこう。

 それによると、SPECfp(浮動小数点演算の性能を計測するベンチマーク)では733MHzの20%近い向上、SPECint(整数演算を計測するベンチマーク)では20%以上の性能の向上が見られるという。残念ながら具体的な数値は示されなかったが、現在のPentium IIIに比べてどの程度伸びているかを考えるのには参考になるだろう。

SPECintによる性能比較 SPECfpによる性能比較


●AMDはIntelの上を行く銅配線のAthlon 1.1GHz実働マシンを公開

 Intelが1GHzのPentium IIIについて発表を行なったとあっては、AMDも黙っている訳にはいかない。AMDは同じくSan Francisco Marriottホテルで記者説明会を行ない、なんと1GHzを越える1.1GHzのAthlonが搭載されているマシンを公開した。しかも、そのAthlonは単なるAthlonではない。皮肉にもIntelが1GHzでは必要ないとした銅配線のCPUコアを採用しており、しかもL2キャッシュはオンダイだという(AMDはL2キャッシュの容量は明らかにしなかった)。AMD関係者は明言しなかったが、これは明らかに11月にAMDが公開したロードマップでL2オンダイとなっているThunderbirdコアに基づいたAthlonだ。しかも初めて公の場で公開されたドレスデンのFab30の製品ということになる。

 Intelが「アルミ配線で1GHzを実現!」と高らかに発表したその同じ会場で、AMDが銅配線でIntelの発表を上回る1.1GHzのAthlonを公開するというのは実に見事な広報戦略だと言える。AMDはこうしたセッションがあることを事前には公表しておらず、当日プレスルームでいきなり発表するという手段に出た(それを狙ったのか、それとも直前になって決めたのかはわからない)。それだけにインパクトは大きく、以前より1GHzプロセッサの発表をIEEEのプログラムなどで公表していたIntelに比べて報道陣へのアピール度が高かったのは言うまでもない。もし、「ISSCC PR大賞」という賞があるのであれば、筆者はAMDの広報担当者に差し上げたい。

 とりあえず、「ギガヘルツプロセッサ春の陣」はAMDの土俵際でのうっちゃりによる作戦勝ち(?)といって良さそうだが、来週はIntel自身が主催するIntel Developer Forum(IDF)も開催される。ちなみに、筆者がグリーン氏に「IDFではPentium IIIの1GHzが見られますか?」と聞いたところ、「おそらくそうだと思いますよ」という答えが返ってきた。米国メディアの中にはAMDがIDFの会場があるパームスプリングスで何らかの発表を行なうのでは? という報道をしているところもあり、来週もまた「ギガヘルツプロセッサ春の陣 第二幕」の熱い戦いが続きそうだ。

□ニュースリリース(英文)
http://www.amd.com/news/prodpr/20054.html
□ニュースリリース(和訳)
http://www.amd.com/japan/news/prodpr/nr20054.html

(2000年2月8日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp