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第37回 : ASPで変わるモバイル環境



 偶然が重なって世の中狭いものだと感じることはよくあることだが、ネットワークサービスが今後、アプリケーションを提供する手段として主流になる、なんて話がIT業界では当たり前のように語られるようになってくると、偶然会った人物がASP事業を計画しているということも多くなってくる。もうこれは確率の低い偶然ではなくて、多くの人が次のビジネスとしてネットワークサービスを真剣に検討しているということだろう。
 ところが、エンドユーザーから見ると、今ひとつピンとこない。そう思う人も少なくないようだ。「僕の使っているサブノートと、どういう関係があるのかな?」という質問が出てくるのは、モバイルコンピューティングという言葉が出始めたころ、小型のデバイスやサブノートなど、ハードウェアスペックに偏った記事を書きすぎたマスコミの責任かもしれない。

 しかしネットワークサービスが充実した環境では、ハードウェアスペックよりも、どのようなアプリケーションをサービスとして利用できるのか、といった実際の利用方法や使い勝手の方が重要になってくる。今回は、ネットワークサービスに関して、これまでよりも掘り下げて話をしてみたい。

■ 話題のASPとはどんなものか

 ASPという略語が、IT業界をにぎわしている。この略語はApplication Service Provider、つまりアプリケーションをサービスとして提供する新しい事業のことを指している。アプリケーションというと、ワープロや表計算などのオフィススイートを思い浮かべるかもしれないが、ここではコンピュータを応用して何らかの用途に使うもの全てを指す言葉としてのニュアンスが強い。

 たとえばカスタマイズ可能なポータルページも、Webを通じて提供されるアプリケーションだし、Webメールサービスもアプリケーションだ。さらにユーザーインターフェイスとなるクライアントソフトウェアは必要だが、POPメールサーバーやネットニュースサーバーだってネットワークで提供されているアプリケーションの一種である。
 従来のPCの概念ではアプリケーションとはソフトウェアとして提供されているものだった。地図検索や路線経路検索などのソフトウェアを使ったことがある人は多いだろう。しかし、いずれも現在はWeb上でのサービスが主流になっている。いちいちインターネットに接続するのが面倒と思うのは、まだインターネットへの接続環境が整っていないから。携帯電話のiモードやWAPでも地図検索などのサービスが提供されているが、常時インターネットの情報を参照できる環境さえできれば、必ずしもアプリケーションソフトウェアを手元で動作させる必要はない。

 こうしたサービスは、メールサーバーの例でもわかるように、なにもWeb上でユーザーインターフェイスを持っている必要はない。インターネットを通じてなんらかのサービスが提供できるのであれば、どんなソフトウェアでもサービスに転化することができる。
 これまではそうしたサービスをネットワーク上で提供したくても、異なるシステムを接続するための標準的な手段がWebとブラウザの組み合わせしかなかった。しかし、XMLを用いることで情報交換の標準化を行なうことが容易になったことや、各種インターネットプロトコルが一般化し、インターネットのインフラが整備されてきたことで、ASPは現実的なビジネスになってきた。


■ 幅広いアプリケーションと意外にリッチな機能

WebOS
WebOS画面
 ふだん、Webを閲覧して電子メールをチェックするだけ、というシンプルなインターネット生活を送っていると、アプリケーションと言われても幅の広がりを感じられないかもしれない。しかし、フォトレタッチやビデオ編集など、リッチメディアを編集するクリエイティブな作業以外のほとんどは、インターネットでサービスされるようになるだろう。

 Webブラウザのスクリプト機能やJava、XHTMLなどを用いれば、インタラクティブなアプリケーションをWebブラウザ上で実現できる。テクノロジデモに近い内容だが、http://www.MyWebOS.comにアクセスしてみると、Webベースでここまでできるのかと驚くのではないだろうか。WebOSでは、サーバー上に20MBのディスクスペースが与えられ、Webブラウザ上でWindowsライクな操作環境を実現する(なおWebOSは現在Internet Explorer 5.0のみをサポートしている)。
 WebOSは高機能ブラウザを前提にした典型的なサービスだが、もちろんもっと機能が制限された中で提供されるサービスもある。IDO/セルラーの提供するEZaccessは、Bタイプサービスを選択することで、アドレス帳やスケジュール、タスクリストといったPIMの基本的機能を提供するEZ PIMをサービスしている。EZ PIMにはPCからWebブラウザを通しても、携帯電話からでも、同じデータにそれぞれの端末に最適化した形でアクセス可能だ。

 WAPをベースとするEZaccessは、電子メールもホスティングされた情報を参照する形で実装されており(プロトコルは明言されていないが、おそらくIMAP4と思われる)、端末側に大きなメモリが無くとも数多くの電子メールやPIM情報を扱える。
 業務向けのアプリケーション開発も、どんどん進んでいる。今やExchange、Notesといった企業向けグループウェアにWebブラウザからアクセスできるのは当たり前。近い将来、これらシステムの機能をカスタマイズしてインターネット経由でサービスされるようになるだろう。カイエンシステム開発が開発したSFAマジックは、JavaベースのSFAシステムだ。Webブラウザからアクセスできるのはもちろん、C-HTML/iモード、HDML/WAPをサポートするため、携帯電話からSFAにアクセスできる。SFAマジック自身はシステム製品だが、インターネット上で同じような機能がサービスされる様子は容易に想像できる。

 パーソナル向けのビジネスサービスが欲しい? もちろん、そうしたサービスも多く提供されるようになるはずだ。日本でもいくつかの企業が、ビジネスパーソナルあるいは中小企業向けのASP事業を発表している。Studio EllipseはJavaベースのグループウェアiClueを、ネットワーク上でサービスすることを発表している。Webサーバ上でサーブレットとして動作し、クライアントにもJavaで書かれたものが利用可能。さらにJavaアプレットとHTMLの組み合わせ、HTMLのみ、C-HTML/i-mode、HDML/WAPにも対応しており、さまざまなタイプの端末をサポートしている。同じ情報に別々のパフォーマンスを持つ、異なる種類の端末から、同じ情報にアクセスできる。


■ モバイルとASP

 ところでこの連載はモバイルのお話のハズだ。何が関係あるの?と思うかもしれない。しかし、ASPによってもっとも機能の改善が見込めるのはモバイル端末だ。サーバー側で、どこまでの範囲をサービスするかにもよるが、アプリケーションの設計次第で端末側の機能を軽くすることができる。
 これは携帯電話などの小型デバイスに機能を実装する時に非常に有効だ。前述のEZaccessの場合、パケット通信サービスが開始される前は、接続開始からサービスへのアクセスまでのタイムラグが大きく、使用感を大きく損ねている印象を持ったが、PacketOne対応機種ではそのようなことはない。現在は、サーバーホスティングによってリッチなサービスを受けられるというメリットが生きている。
 またサービスのコアとなるロジックを、XMLベースで作っておき、インターフェイスとなるサービスを各種端末向けにカスタマイズしたモジュールにしておけば、端末の種類を問わず、同じサービスを端末ごとに最適化した形で提供することが可能なのもASPがモバイル向きなところ。

 Internet Explorer向け、Netscape Navigator向け、Palmシリーズ向け、H/PC向け、C-HTML/iモード向け、HDML/WAP向けなどなど、各種端末向けのインターフェイスモジュールがあれば、普段はWebブラウザで作業を行ない、外出先では各々好きな端末でアクセスすることができるからだ。ハードウェアは好みのものを使えばいい。いずれにしろ、同じ情報にアクセスできるのだから。
 またサーバーで情報を管理することが可能になるため、数年前から流行のデータ同期を行なう必要すらない。同期を行なうのではなく、インターネット上の元データにアクセスできればいいのだから。実際にはオフライン時のために同期機能も活躍するだろうが、基本的にはデータを抜き取っておく必要はない。だから、自宅で作業した結果を外出先で、異なるタイプの端末から参照したり編集したり、またその逆のことが簡単にできる。

 などと難しく書いているが、非常に身近なところにASPの実例はある。手元にEZaccessやiモード対応の端末はあるだろうか? それらで提供されているアプリケーションは、すべてASPによって提供されているのだから。
 ということで、近日中にiモード、EZaccessそれぞれのアプリケーションについて、色々と比較してみることにしたい。特にパケット対応になったことで、EZaccessがどの程度使いやすくなったのかが興味深い。

[Text by 本田雅一]


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