Click


第36回 : SpeedStepとCrusoe



 先週はモバイル向けプロセッサが相次いで発表された。IntelはモバイルPentium IIIの電圧とクロック周波数を同時に変化させるSpeedStepを発表、そして時同じくしてTransmetaもモバイル用途にフォーカスしたx86互換プロセッサCrusoeを発表した。新製品ではないが、AMDも同じ週に記者向けの説明会を開催し、昨年末に米国店頭市場販売されたノートPCの半分以上がAMD製プロセッサを搭載していた、という調査結果をアピールしている。
 AMD製プロセッサは、遠くない将来発表されると言われるSpeedStepライクな技術Geminiを搭載し、0.18ミクロンプロセスで製造されるモバイルK6-2+までは、消費電力の低い小型PC向けプロセッサはお預けとなる見込みだが、IntelとTransmetaのプロセッサには期待をしている読者も多いことだろう。

■ SpeedStepとCrusoeに対するさまざまな意見

 SpeedStepとCrusoeが公に発表されてから、まだ1週間ほどしか経っていないが、ふたつの新しいモバイルプロセッサに対して、各所からさまざまな意見が出ている。
 何らかの評価を下すにはまだ早すぎる段階ではある。まだ搭載機が発表されておらず、日本ではデモ用機材すら公開されていないCrusoeはもちろん、プロセッサと共に発表されたSpeedStep対応のノートPCは従来の筐体に新プロセッサを詰め込んだだけ。これらによって、何が変化するかといった話は、あくまでも推測や予測、ヨタ話の範疇でしかない。しかしそれらを検討してみることで、ぼんやりと近未来の携帯型ノートPCが見えてこないだろうか?
 ここで、各プロセッサ登場してからのさまざまな話をまとめてみよう。

 このほかにも、色々なことが言われているのだが、果たして何が正しいのだろうか。僕が判断を下す事ではないが、それぞれの技術についてわかることを意見としてまとめてみたい。


■ SpeedStepは小型PC向きではないと思う理由

モバイルPentium III 650/600MHz
 SpeedStepの登場でデスクトップPC並のパフォーマンスをモバイルプロセッサが得た……というのは、正しくもあるが、正しくはないとも言える。なぜなら、SpeedStepに対応していようといまいと、ノートPCは想定される発熱量の多い方(つまりAC駆動時)に合わせて設計しなければならないからだ。バッテリー駆動時の消費電力が7.9Wだったとしても、AC駆動時に14Wになるなら、14Wで正常に動作するようにしておかなければ最悪熱暴走の憂き目に合う。
 もちろん、14Wという消費電力はデスクトップPC向けのプロセッサと比較すれば低いのだが、小型ノートPCにフィットするような消費電力ではない。みなさんも気づいていると思うのだが、PCのサイズは放熱技術が向上しているにも関わらず、モバイルMMX Pentiumの時代と比較するとモバイルPentium II以降、サブノートPCのサイズは少しづつ大きくなっている。
 PCがプロセッサのパフォーマンスアップによって、自身の付加価値を向上させてきたことと、バッテリー技術の飛躍的な伸びを期待できないこと、などを考えると、バッテリ持続時間については、ある程度あきらめもつく(重くなる事を覚悟で大容量のバッテリを持てばいいのだから)。しかし、発熱の問題はノートPCそのもののデザインを制限してしまう。
 また冷却ファンの音も問題となるかもしれない。充分に大きな筐体であれば、14W程度のプロセッサを自然空冷、もしくは非常に小型の冷却ファンで安定動作させることも可能かもしれないが、今後0.18ミクロンプロセスのままでデスクトップPCと同じように高速化していくのであれば、少々うるさい冷却ファンが付くことになるだろう(ノートPCメーカーの技術力や冷却システムにかけるコストとのかねあいもあるはずだ)。手元で使うノートPCが、あまり大きな音を出すのは利用環境として優れているとは言いにくい。

 サイズ問題の解決策として、SpeedStepの搭載をIntelが発表してから言われていたのが、ドッキングステーションに冷却システムを搭載し、切り離して利用するときのみ速度を遅くするという手段。しかし冷却ファンの問題は解決しそうにない。
 今後、より低電圧での動作が可能となれば、こうした問題を考える必要はなくなるかもしれないが、かつてのように熱設計電力を5W以下に設定してノートPCを作ることはできないかもしれない。もちろん、ノートPCは常に携帯して使うモデルばかりではないし、PC向けのプロセッサとして、パフォーマンスが向上することは悪いことではない。高速なノートPCは、省スペースデスクトップ的にノートPCを利用しているユーザーにとって重要なファクターなのだから。
 しかし、サブノートPCを道具として愛用する身としては、今ひとつ魅力を感じられないというのが正直な感想だ。


■ Crusoe、これはすばらしい! だが、静観しなければならないポイントも

TM 3120/TM5200
 一方、TransmetaのCrusoeは、スペックシートを見る限り、モバイル向けとして理想的な性能を備えている。なにしろソフトウェアDVD再生やMP3再生といったアプリケーションを動作させた時の消費電力が、1~1.8W程度というのだから、同じような条件で5~9Wを消費するモバイルPentium IIIの1/5程度しか電力を消費しないことになる。

 巷で8時間使えるノートPCが作れると言われている根拠は、Transmetaが配布している資料にそのような事が書いているからだと思われる。
 Transmetaによると、バッテリに最適化した小型のノートPCでは、プロセッサとノースブリッジ(Crusoeはプロセッサとノースブリッジの機能が一体になっている)を除いた部分の消費電力がおよそ4W程度になるだろうとのこと。この数字とCrusoeの消費電力から、最大で8時間という数字が導き出されている(ただしプロセッサへの負荷が少ない時のみ)。
 またCrusoeの中でも、Windows機向けとされるTM5400には、動作電圧とクロック周波数をダイナミックに変化させるLongRunという機能が組み込まれている。LongRunは1秒間に数100回も、繰り返しプロセッサへの負荷を測定し、負荷に合わせて瞬時に電圧とクロック周波数を最適化する機能だ。この機能により、10%のパフォーマンスダウンで30%の電力をカットできるという。
 Intelの熱設計電力に相当する数字が、Crusoeのスペックシート上のどこに相当するのか(もしくは相当する数字は公開されていないのか)わからないため、TM5400を使ってどの程度コンパクトなノートPCが作れるのかは予想できない。しかし、かつてモバイルMMX PentiumがサブノートPCを大流行に押し上げた時、プロセッサの消費電力は2W台だったのを憶えている。そのときと同じような、もしくはそれ以下の消費電力とするなら、これは期待せずにいられない。

 ただし過度の期待は禁物だ。Crusoeのパフォーマンスレベルがどの程度なのか。僕らはまだ体験していないのだから。すでに報道されているように、CrusoeはOSよりも下位で動くCode Morphing Software(CMS)という一種のエミュレータ上でx86ソフトウェアを動作させる。
 Transmetaによると、700MHz動作のTM5400はモバイルPentium III/500MHzに相当するという。これが本当ならば、携帯型ノートPC向けとして充分に満足できる性能だ。しかし、話はそう簡単ではない。同じ処理の繰り返しが続くアプリケーションではアナウンス通りの性能を発揮しそうだが、Office 2000のような複雑なアプリケーションでは性能が多少落ち、消費電力が増える傾向にある。
 Transmetaが配布しているベンチマークレポートによると、処理時間と消費された電力から計算した消費電力とプロセッサパワーのバランスを示す指標が、DVD再生やMP3再生ではCrusoeがモバイルPentium IIIの5倍程度の効率であることを示しているのに対し、Office 2000では2.5倍程度にまで落ち込んでいる。
 それでも2.5倍なのだから、充分に高性能であるとは言えよう。が、CMSの性質を考えると、実際にさまざまなアプリケーションの同時に使うような場面では、モバイルPentium IIIなどでは経験することのないパフォーマンスの変化を感じることになるかもしれない。

 いずれもただの推測だが、Crusoeが常に携帯することが可能なノートPCに対して、良い性能を発揮することは間違いないと思われるものの、絶対的なパフォーマンスでPentium IIIに相当するのかは実物が出てから判断したい。
 Transmetaの日本担当は、2月中にもCrusoeを搭載したデモ機を日本に持ち込み、そのパフォーマンスを披露したいという。実際に動作するCrusoeがどのようなパフォーマンスを発揮するのかは、そのときに再度レポートすることにしたい。

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp