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ATI Technologies RAGE FURY MAXX
~ Dual RAGE 128 PRO?搭載のATIの最新ビデオカード ~



 ATI Technologiesから非常にマニア好みのビデオカードが発売された。その名も「RAGE FURY MAXX」というカードで、なんとボード上にATIの最上位グラフィックスチップであるRAGE 128 PROを2つ搭載した贅沢仕様の製品だ。チップの使い方も豪華なら、値段も3万円後半と非常に高価な製品だ。果たしてこの製品、マニアの期待に応える製品なのだろうか?


●RAGE 128の次世代チップはいずこ?

 読者の皆さんは初代RAGE 128が発表されたのがいつだったか覚えておられるだろうか? おそらく覚えていないという方が大半だと思う。実は筆者もすぐには思い出せなかったので、PC Watchのバックナンバーでそのニュースを探してみた。すると、ATIがRAGE 128をアナウンスしたのは、実に1年半も前の'98年8月27日「ATI新世代ビデオチップ『RAGE 128ファミリー』発表」のことで、動きが非常に早いPC業界にあっては「すごく昔」に感じてしまう。それ以後、動作クロックをあげたRAGE 128 PROが登場はしたものの、大幅なアーキテクチャの変更も無く現在に至っている。実はこのRAGE 128はNVIDIAのRIVA TNTよりもさらに前にアナウンスされており、RAGE 128の登場後にNVIDIAがRIVA TNT、RIVA TNT2、GeForce 256と矢継ぎ早に新製品を展開しているのに比べると、ややのんびりしたペースに感じてしまうのは筆者だけではないだろう。

 そうした意味では、ATIにもRAGE 128から大幅にアーキテクチャを変更したグラフィックスアクセラレータの登場が望まれる。しかし、その発表の場として最適なCOMDEX/Fallでも発表はなく、RAGE 128 PROの次世代チップに関してATIは沈黙を守ったままだ。ATIに近い筋によると、ATIは昨年末までにRAGE 128の次世代チップをリリースする予定だったそうなのだが、その予定は何らかの理由でキャンセルされてしまったという。このことが本当かどうかは、今となってはわからないが、少なくともATI周辺から次世代チップに関する情報が漏れてこない。エンドユーザーの興味は、常に最新のビデオチップに向いており、特にリテール(小売り)のビデオカード市場ではGeForce 256のように最新で高い描画性能を持ったグラフィックスチップを搭載したビデオカードは注目されるが、最新ではなく描画性能も相対的に低いグラフィックスチップを搭載したビデオカードは値段がよっぽど安くない限りは注目してもらえない。

 現在ATIの置かれているポジションはまさにこの後者だ。RAGE 128やRAGE 128 PROは残念ながら最新のチップとは言い難い製品で、目新しさもなく描画性能も決してほかと比べて大幅に劣るということはないものの、それらを上回ることはないということは事実だ。しかも、ATIのカードは決して安い部類の製品ではない。そうなると、現在のままではリテールのビデオカード市場で非常に苦しい立場に立たされるのは目に見えている訳だ。それならば、何か策を講じる必要がある訳で、今回紹介するRAGE FURY MAXXはまさにそうしたリテール市場での劣勢を挽回するための製品なのだ。


●AFRテクノロジによりデュアルチップを実現

 ATIはRAGE FURY MAXXで、RAGE 128 PROでも十分な3D描画性能を発揮できるように、1つのボードに2つのRAGE 128 PROを搭載し、描画性能を上げるという手法を用いた。その基礎となる技術がATI独自のAFR(Alternate Frame Rendering)テクノロジだ。

 こうしたグラフィックスチップをパラレル(並列)に並べて描画性能を高めるアプローチは、これまでにも3dfxやMetabyteなど他ベンダーでも行なわれてきた。特に3dfxがVoodoo2を搭載した3Dビデオカードで採用したSLI(Scan Line Interleave)というアプローチは有名で、「Voodoo2の2枚差し」と言えばピンとくるユーザーは多いだろう。「Voodoo2の2枚差し」、つまりSLIでは画面の走査線を奇数と偶数に分割し、それぞれ別々のチップで描画することにより高い描画能力を実現するというアプローチだった。

 これに対してAFRでは2つのチップが奇数フレーム担当、偶数フレーム担当となり、各フレームを交互に描画する仕組みになっている(図参照)。1つのチップは本来描画すべきフレームのうち半分ですむわけだからチップ単位で負荷を下げることが可能になっている。このため、トータルでの描画性能を向上させたり、表示品質を上げるということが可能になる訳だ。なお、RAGE FURY MAXXでは64MBのビデオメモリを搭載しているが、基本的に各チップに付き32MBずつ利用することができる。このため、3D表示可能な解像度は従来のRAGE 128 PROを搭載したRAGE FURY PROなどと同じになっている。

【SLI】
第1フレーム第2フレーム第3フレーム第4フレーム第5フレーム
     
     
     
     
     
     

【AFR】
第1フレーム第2フレーム第3フレーム第4フレーム第5フレーム
     
     
     
     
     
     

(1)1つめのチップが描画    
(2)2つめのチップが描画    


●高解像度・多色モードで威力を発揮

 今回も本コーナーで標準的に行なっているベンチマークを利用してRAGE FURY MAXXの描画性能を計測した。テスト環境は表1の通りだ。利用したドライバは製品に添付されていた物を利用したが、きちんと日本語に対応しており、ドライバのプロパティの表示なども日本語表示されていたことを付け加えておきたい。

(1)2D描画性能

 2Dの描画性能についてはZiff-Davis,Inc.のWinBench99 Version1.1に含まれるBusiness Graphics WinMark99とHigh-End Graphics WinMark99の2つのテストを利用した。NVIDIAのGeForce 256やRIVA TNT2を搭載したカードやMatrox GraphicsのMillennium G400などと比較して遜色無い結果を残した。なお、AFRテクノロジは3Dのフルスクリーン描画でのみ有効なので、2Dの描画性能には全く影響しない。このため、この結果はRAGE 128 PROの2D描画性能を示していると考えていいだろう。

【WinBench 99】
1,024x768 16bpp1,024x768 32bpp
Business Graphics WinMark 99High-End Graphics WinMark 99Business Graphics WinMark 99High-End Graphics WinMark 99
RAGE FURY MAXX292829276812
3DBlaster GeForce Pro295838293830
3DBlaster GeForce294835285827
SPECTRA 5400 PE294835286824
Millennium G400296848287831
RAGE MAGNUM249785211755
Viper II262580235659

(2)DirectX 7対応3Dゲームにおける描画性能

 ハードウェアT&Lなど新しい機能に対応しているDirectX 7環境に対応した3Dアプリケーションでの3D描画性能を計測するMadOnion.comの3DMark2000とZiff-Davis,Inc.の3D WinBench 2000の2つのベンチマークテストを行なうことにした。どちらもDirectX 7の最も大きな特徴と言えるハードウェアT&Lに対応しており、ハードウェアT&Lには対応していないRAGE 128コアをベースに作られている本製品にとってはあまりよい結果が期待できないテストだと言える。

 最初に3DMark2000だが、1,024×768ドット/16bitカラーなどではRIVA TNT2と同クラスといった結果だったRAGE FURY MAXXだが、32bitカラーや1,280×1,024ドット/16bitカラーの高解像度モードではGeForce 256を搭載した3D Blaster GeForceなどと肩を並べる結果を残した。さらに、1,280×1,024/32bitカラーではDDR SGRAMを搭載した3D Blaster GeForce Proをも上回っている。

 さらに3DWinBenchの結果だが、こちらも高解像度・多色モードになればなるほど3D Blaster GeForce Proや3D Blaster GeForceとの差が縮まっており、1,280×1,024ドット/32bitカラーではやはりやはり3D Blaster GeForceを逆転している。ここでも「高解像度・多色モード」になればなるほどRAGE FURY MAXXのアドバンテージが明らかになるという傾向が指摘できるだろう。

【3DMark2000/3DMark】
1,024x768 16bpp1,024x768 32bpp1,280x1,024 16bpp1,280x1,024 32bpp
RAGE FURY MAXX3,5113,1312,5992,190
3DBlaster GeForce Pro4,5393,4813,2472,188
3DBlaster GeForce3,9182,6512,7231,619
SPECTRA 5400 PE3,2562,4202,2261,389
Millennium G4002,7182,2871,8641,369
RAGE MAGNUM1,4321,104 895 654
Viper II2,2101,8861,4271,136

【3D WinBench 2000/3D WinMark 2000(fps)】
1,024x768 16bpp1,024x768 32bpp1,280x1,024 16bpp1,280x1,024 32bpp
RAGE FURY MAXX60.351.142.234.2
3DBlaster GeForce Pro92.370.763.142.5
3DBlaster GeForce78.952.352.531.0
SPECTRA 5400 PE59.741.538.923.5
Millennium G40046.433.231.120.0
RAGE MAGNUM26.419.417.911.6
Viper II61.350.141.430.8

(3)DirectX 6.1ベースの3Dゲームにおける描画性能

 DirectX 6.1ベースの3Dゲームソフトでの描画パフォーマンスは「Turok2:Seeds of Evil」を利用して計測した。現在発売されているゲームの多くはDirectX 6.1ベースのものが多く、こうしたTurok2のようなフレームレートが計測できるゲームの結果は参考になるだろう。

【TUROK2】
1,024x768 16bpp 1,024x768 32bpp1,280x1,024 16bpp1,280x1,024 32bpp
RAGE FURY MAXX 80.080.074.362.5
3DBlaster GeForce Pro80.378.977.560.1
3DBlaster GeForce 79.170.073.341.9
SPECTRA 5400 PE 78.465.164.737.0
Millennium G400 72.768.658.943.9
RAGE MAGNUM 55.441.833.422.0
Viper II 正常動作せず正常動作せず正常動作せず正常動作せず

 結論から言えば、このテストでも「高解像度・多色モード」になるにつれ、GeForce 256搭載カードを上回るという傾向を見せた。

(4)OpenGLベース3Dゲームにおける描画性能

 OpenGLベースのゲームソフト、Quake III Arenaの最新デモ版「Quake III Arena Demo 1.09」を利用して、APIにOpenGLを利用した3Dゲームにおける描画性能を計測してみた。

 結論から言えば、このテストでも「高解像度・多色モード」になるにつれ、GeForce 256搭載カードを上回るという傾向を見せた。

【Quake III Arena Demo 1.09】
1,024x768 16bpp1,024x768 32bpp1,280x1,024 16bpp1,280x1,024 32bpp
RAGE FURY MAXX59.852.340.433.2
3DBlaster GeForce Pro82.960.752.532.6
3DBlaster GeForce70.140.938.723.0
SPECTRA 5400 PE46.634.228.919.4
Millennium G40039.732.924.918.8
RAGE MAGNUM23.717.814.9
 9.7
Viper II56.448.535.928.6


●万人にはお勧めできないが、条件が整えば最強環境の構築も可能

 以上のように、高解像度・多色モードに設定した時、RAGE FURY PROは3Dの描画性能でGeForce 256を搭載した3D Blaster GeForce Proや3D Blaster GeForceを上回ってみせた。ただ、これについては今回利用したCPUがPentium III 700MHzという、高速なCPUであることを考慮に入れる必要があるだろう。仮にCPUがもっと遅い場合、ジオメトリ演算の速度は低下するため、トータルの3D処理能力が低下する可能性があるからだ(ハードウェアT&Lのエンジンでジオメトリ演算を行なうGeForce 256であれば、CPUのクロックには依存しない)。このため、今回のRAGE FURY PROの高パフォーマンスに関しては「処理能力の高いCPUと共に利用した場合」という但し書きをつけておきたい。しかし、それでも高解像度・多色モードで現在最強といわれるGeForce 256+DDR SGRAMという3D Blaster GeForce Proを上回って見せたことは紛れもない事実だ。

 ただ、本製品単体で4万円弱というコストパフォーマンスの悪さに加え、高価な高クロックのCPUとの組み合わせでないと真価が発揮できないことを考えると、万人にお勧めするのは難しそうだ。となると、700MHz以上の高速なCPUを所有するユーザーなどが本製品を選び、「高解像度・多色モード」に限定はされるが最強環境を構築するという方向性が考えられる。また、今後は「高解像度・多色モード」に対応したゲームは増える一方だろうし、何よりも高解像度・多色モードでプレイする方が臨場感が豊かになるのは言うまでもない。そうした意味からも、本製品は「ハードウェアT&L礼賛」という風潮に一石を投じる製品と言え、描画性能とともに描画品質にもこだわるユーザーであれば検討して頂きたい。

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[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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