■割安なFSB 133MHz対応プロセッサ
現在、秋葉原で売られているPentium IIIの価格を見ていると、1つ奇妙なことがある。それは、100MHzのFSBに対応したプロセッサの方が、133MHzのFSBに対応したものより高い、ということだ。プロセッサコアの動作速度さえ同じなら、同じプロセッサコアを用いたPentium IIIの性能に大差はない。たとえば600MHz(FSB 100MHz)と600B MHz(同133MHz)のKatmaiの間、あるいは600E MHz(同100MHz)と600EB MHz(同133MHz)のCoppermineの間の性能差は、ほとんど存在しない。だが理屈からいって、同一プロセッサコアである限り、コアの動作周波数さえ同じなら、FSBクロックが高速な方が性能面で優位であることに疑う余地はない。なのに市場での価格は逆転しているのである(ちなみに、この現象は米国ではほとんど見かけない)。
もちろんその理由は分かっている。133MHzのFSBをサポート可能なチップセットの選択肢が限られているからだ。いや、限られているという言い方は正しくない。FSB 133MHzをサポート可能なチップセットは複数存在するものの、どれも帯に短しタスキに長し、というところで決め手に欠けるのである。FSB 100MHzのプロセッサをサポートするチップセットに、多少古くなったとはいえ(むしろ、それだからこそ)、豊富な実績を持ち、枯れて安定したIntel純正の440BXチップセットが存在するのと好対照だ。もし440BXが133MHzのFSBをサポート可能なら、このような価格の逆転は起こらなかったに違いない。
しかしこれは同時に、うまく折り合いさえつければ、高性能なプロセッサを安価に手に入れるチャンスでもある。すなわち、600MHzのPentium IIIプロセッサの代わりに600B MHzのPentium IIIプロセッサを選ぶことで、平均価格で約5,000円、最低価格同士の比較なら約8,000円(いずれもAkiba PC Hotline! 1月8日調べ)もお得なのである。この価格差は最新のCoppermine(600E MHzと600EB MHz)にも、ほぼ当てはまる。
ただし、この議論を成り立たせるためには、1つの前提が必要だ。すでに133MHzのFSBに対応したマザーボードを持っているか、これからマザーボードを新規購入するかの、どちらかの条件をクリアしている必要がある。すでに133MHz FSBに対応したマザーボードを持っているユーザーなら、とっくに割安なB MHzプロセッサを利用していることだろうから、ここでは新規購入について考えてみることにしたい。
■FSB 133MHz対応チップセットの比較
133MHzのFSBを正式サポートしたチップセットとしては、Intelの810Eおよび820、VIAのApollo Pro 133Aの3種類がある(市場にはほかにVIAのApollo Pro 133を用いたマザーボードもあるが、Apollo Pro 133AがAGP 4Xサポートであるのに対し、AGP 2Xサポートである以外は基本的に同じなので、ここでは区別しないことにする)。
810Eベースのマザーボードを購入する最大のメリットは、メモリに安価な(普及している440BXと同じ)PC100 SDRAMが使えることにある。PC100 SDRAMはスペック上、最も性能が低いが、P6テクノロジベースのプロセッサを用いる限り、メインメモリデバイスの違いによる性能差は、それほど顕著に現れるわけではない。逆に問題は、810Eがグラフィックスコアを内蔵しており、後から変更できない、ということにある。
810Eのグラフィックス性能は、スタンドアローンで売られるビデオチップに比べれば、決して高いとは言えないし、サポートする解像度という点でも決して十分ではない。3Dゲームには興味がなくても高解像度への対応が十分でないという点で、ためらうユーザーもいることだろう。また、高解像度が不要というユーザーであっても、アナログインターフェイスの液晶ディスプレイの中には、ビデオカード/回路との相性がシビアなものがある。ビデオカードを交換できないということには、こうした点での不安もある。こうした問題が気にならない(15~17インチのCRTで、800×600ドットあるいは1,024×768ドット解像度を利用する非ゲームユーザー)というのであれば、810Eを選んでも大きな問題はないハズだ。
820は、IntelがPerformance PC用のチップセットとして用意した最新のものだけに、AGP 4XやUltra ATA/66のサポートなど、440BXではサポートされていない新しいフィーチャーを備える。問題はメモリだ。820が本来サポートするのはDirect RDRAMだが、この価格が高い。128MBのモジュールに8万円以上払っては、133MHz FSBのプロセッサを選んで8,000円節約したことが無駄になってしまう。金に糸目をつけず、800MHzのPentium IIIで最速のシステムを手に入れたいのならともかく、筆者には到底受け入れられない値段だ。
それで、というわけではないのだろうが、820にはもう1つのメモリオプションが用意されている。MTH(Memory Transfer Hub)と呼ばれるチップを併用することで、RambusチャネルにPC100 SDRAMを接続可能にするのである。この場合の問題は、MTHを介したことによるメモリアクセス性能の低下が、システム性能の低下として数字に現れることだ。820+MTH+PC100 SDRAMの性能は、820+Direct RDRAMを下回るのはもちろんのこと、440BX+PC100 SDRAMをも下回る。性能低下の度合いは、オフィスアプリケーションを使ってもハッキリ分かるようなものではなく、ほとんど体感できないものではあるのだが、せっかくの新しいシステムにケチがついたようで、嬉しくはない。
加えて個人的には、820のシステムはどうも440BXベースのシステムに比べて、安定度が足りないという印象が否めない。RDRAMベースのシステムの場合も、MTHを併用したSDRAMベースのシステムの場合も、Windows 98 Second Editionのインストールがスムーズにいかなかった経験がある(できなかったわけではない)。不思議なことにWinodws 2000のベータ(RCを含む)ではあまり嫌な目に会っておらず、ちゃんとACPIシステムとしてセットアップできたことからすると、Windows NT/2000向きなのかもしれない。とはいえ、これは筆者が扱ったIntel純正マザーボード(VC820およびCC820)に基づく感想であり、サードパーティ製マザーボードでも同じことが言えるかどうかは不明だ。
筆者の限られた経験を元にする限り、ApolloPro 133Aはなかなか悪くない。フィーチャー的にもAGP 4XモードおよびUltra DMA/66のサポート、PC133 SDRAM対応など、かなり充実している。筆者は、Super 7プラットフォームで、VIA製チップセット(MVP3)とALi製チップセット(Alladin V)の両方で辛酸をなめた経験があり、決してサードパーティ製チップセットの熱心な支持者ではないのだが、不思議とApolloPro 133Aでは、それほど嫌な目には会っていない。せいぜいエンジニアリングサンプルのビデオカードが動かないとか、Windows 2000のベータがどうしてもACPIシステムにならない(APMシステムとしてちゃんと動作するし、インストール作業そのものに問題はない)といった程度だ(いずれも、製品版のカードやOSでは解決する可能性がある)。
過去の実績からいって、OSが大きく変わる際、サードパーティ製チップセットはサポートが遅れる傾向があるので、Windows 2000を考えているユーザーにはとりあえずお勧めしないが、Windows 9xを使うユーザーなら、820ベースのシステムよりベターかもしれない。サードパーティ製チップセットは、性能的に見劣りすることも珍しくなかったが、PC133 SDRAMを用いる限り、少なくとも440BX+PC100 SDRAMに性能でヒケをとることはない(つまり820+MTH+PC100 SDRAMより上)。現在PC133 SDRAMとPC100 SDRAMの価格差はほとんどなくなっており、この点でも問題はなくなった。
(2000年1月12日)
[Text by 元麻布春男]