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元麻布春男の週刊PCホットライン

TV録画を保存する選択肢はDVD-RAMしかないが……


■TV番組をHDDにMPEG-2で“普通”に録画

 以前このコラムでも書いたとおり、筆者の現在の仕事マシンに入っているビデオカードは、ATIのAll In Wonder 128だ。このカード(あるいは同じソフトウェアMPEG-2エンコーダを採用したVoodoo3 3500)で一番面白いのは、ソフトウェアによるリアルタイムMPEG-2キャプチャが可能なこと。MPEG-2キャプチャはビデオ編集には向かないが、筆者は最初から編集するつもりがないので、全く問題にならない(AVIフォーマットに準拠していないため、2GBバリアも問題にならない)。普通のビデオデッキでVHSテープに録画するように、番組をハードディスクにキャプチャして、後で再生するだけで良いと思っている。もちろん、見た後はファイルを消してしまう。

 MPEG-2が優れているのは、高い圧縮率のおかげで“普通”のIDEハードディスクに、“普通”に録画できることだ。圧縮率の高さは容量の点だけでなく、書き込みに必要な帯域にも効いてくる。ハードディスクの空き容量に数時間の録画が可能だし、高速なRAIDドライブを用意する必要もない。筆者はビデオクリエイターではないのでこれで用が足りる。実際、一般コンシューマー向けの動画機能は、この程度で良いと思う。

■保存メディアはDVD-RAMしかない

 だが、しばらく使って思うようになったのは、やはりキャプチャした動画を書き出すメディアがあると良いなぁ、ということだ。いくら、キャプチャしたビデオは原則的に見たら消すといっても、たまには一部分だけでも残したいことがある。といって、ハードディスクに残していては、ハードディスクの容量がいくらあっても足りない。また、ただでさえ破綻しつつあるテープによるバックアップがいよいよ不可能になってしまう。今でも筆者の仕事マシンのハードディスクのフルバックアップはDDS-2メディア2本を要する。これに動画データが加わったらたまらない。できれば、動画ファイルは別のリムーバブルメディアに書き出しておき、DDS-2によるバックアップの対象からは外しておきたい。

 しかし、いくらMPEG-2が優れているとはいっても、その圧縮率には限度がある。品質によってファイルサイズは異なるが、640×480ドットの解像度で動画をキャプチャすると、30分で軽く1GBを超えてしまう。つまり1時間番組を録画し、そのファイルを書き出そうと思うと、2GB以上が記録できるリムーバブルメディアが必要になる。現時点でこの条件を満たすのは、DVD-RAMドライブしかない。にもかかわらず、いざ買おうと考えると、なかなか購入に踏み切れない、不安に感じる部分が多いことに気づくのだ。

■DVD-RAMの7つの不安点

  1. フォーマットに対する不安
     現時点でDVDクラスの容量を持つメディアは、DVD-RAMのほか、DVD-RW、DVD+RWがある(民生用も含めれば、NECの独自規格ディスクもある)。DVD+RWはDVDコンソーシアムの正式規格ではないが、ユーザーにとって正式規格かどうかはあまり重要ではない。一番普及した(する)規格が、買うべき規格なのである。この点において、先行している(現時点で唯一ドライブが購入できる)DVD-RAMが最も有力だと思うものの、100%確実というわけではない。

  2. メディアの互換性
     そもそもDVD-RAMメディアはカートリッジに収められており、通常のDVD-ROMドライブにロードすることができない(Type Iメディア)。カートリッジから取り出すことが可能なメディアも存在する(Type IIメディア)が、一度取り出してしまうと再度の書きこみは保証外となってしまい、DVD-Rのような使い方を余儀なくされる。

     この点を妥協しても、Type IIメディアはすべてのDVD-ROMドライブで読めるわけではない。東芝、松下、日立といったDVD-RAMフォーマットを支持しているベンダの第3世代以降のドライブでは読めるようだが、第2世代までの古いドライブでは読めないし、ソニーやパイオニアなど他のベンダのROMドライブで読めるようになるかは、現時点では不明だ。

  3. 中途半端な容量
     片面2.6GBという現在のDVD-RAMの容量は、MOの2倍に達しており、一般向けリムーバブルメディアとしては最大だが、動画用途を考えれば決して十分ではない。片面一層のDVD-ROM(4.7GB)の約55%に過ぎないし、前述のキャプチャの例で言っても1時間強しか記録できないことになる。DVD-RAMが最初に話題になった時点では、2.6GBという容量は、かなりの大容量に思えたし、DVD-RAMがハードディスクのバックアップに使える、という議論もなされたのだが、ハードディスクの急速な大容量化で、バックアップデバイスとしての魅力は大きく後退してしまったのが実情だ(実際、筆者の仕事マシンをフルバックアップするには、片面のDVD-RAMメディアが3~4枚必要になるだろう)。

  4. 低い性能
     DVDは、ハードディスクやMOのようなセクタフォーマットを採用しなかったため、どうしてもランダムアクセス性能には難がある。書き込み速度も決して速いとは言いがたい。

  5. 書き込み用ソフトウェアが必要
     現時点でDVD-RAMの書き込みには、WriteDVDと呼ばれるソフトが不可欠だ。このソフトはどのドライブにも添付されているが、だからといって問題がないわけではない。Windows以外のOSを使う場合(BeOSなど)には、DVD-RAMに書きこむことは、少なくとも今の時点ではできないと思う。

  6. ドライブの種類が限られる
     現時点で入手可能なDVD-RAMドライブは、ほとんどハーフハイトで、ノートPCや流行の薄型液晶デスクトップの内蔵に適した薄型ドライブは存在しない。インターフェイスもほとんどがSCSIであり、ATAPIタイプはようやく日立から出たばかり、という状況だ。普及の1つの目安である大手PCベンダの標準搭載を目指すには、ATAPIモデルが不可欠なのに、つい最近までそれが存在しなかったのである(ATAPIのドライブが出たからといって、即採用というわけにはいかないだろうが、なければ商談も始まらない)。

  7. メディアが高い
     現時点でDVD-RAMメディアは3,000円前後する。フォーマットすることで繰り返し使えるとはいえ、この値段ではVHSの60分テープと同じ感覚では使えない(筆者は1時間のTV放送を録っておきたいと考えている)。また、2.で述べたように、カートリッジタイプのDVD-RAMは、コストの点でも不利である。

■問題は残るが、現時点でDVD-RAMしかない

 以上の問題のうち、解決策が見えているのはごくわずかだ。この春、片面で4.7GBの容量を持つDVD-RAM 2.0が登場することで、筆者にとってDVD-RAMは120分テープと同等の容量になるが、しかし、4.7GBをもって「中途半端」が解消したと言えるかというと、微妙なところだ。日立が発表したDVD-RAM 2.0ドライブがATAPIタイプであることから、インターフェイスの問題は解消に向かうだろうが、果たして他はどうか、疑問が残る。

 おそらくDVD-RAMを取り巻く様々な問題は、すぐには解決しないだろう。すべての問題が解決しないことは承知の上で、CD-RがCDの複製能力とメディア価格の安さで、使いにくさや遅さなどの欠点を押し切ったように、一点突破型の普及を狙うしかないのだと思う。だが、コピープロテクションスキームを最初から盛り込んだDVDの場合、メディアを丸ごと複製するというアプリケーションは、たとえDVD-RAM 2.0になったところで存在しえない(クリップアート集みたいなものの中には、例外的にコピーを許すものがあるかもしれないが)。しかも、カートリッジに収められたメディアでは、CD-Rのようなメディアの低価格化は難しいだろう。ハードディスクの大容量化が今のペースで続くと、バックアップ用としての用途も限られるし、静止画程度ならわざわざリムーバブルメディアに書き出さなくても(ハードディスクに置きっぱなしにしても)、問題にはならない。

 筆者にとって、DVD-RAMのアプリケーションは、現時点では動画の保存、それもTV番組を録画したデータの保存しかない(DVD-RAMが必要なほどの動画を自分で作成できるのは、ごく限られた人だけだろう)。その目的に使うには、メディアの価格が高すぎる。VHSテープの3本980円というのは無理にしても、1枚980円程度にはなって欲しい。低価格化を考えた時、カートリッジは本当に必要だったのかと思ってしまう。

 確かに、書き込みと消去の繰り返しを考えれば、カートリッジに入っている方が保証しやすいという技術論は分かる。だが、DVD-RAMがカートリッジに入っているのは、それだけが理由ではないだろう。DVD-RAMがカートリッジに入ったのは、PDとの互換性を維持するという公約を守るためだったのではないか(だから、これに反発する一部のメーカーがしつこくDVD-RAMに賛同しないのではないか)。また、もし最初からDVD-RAMがカートリッジに入ると決めていたのであれば、すべてのDVD(DVDビデオを含む)はカートリッジに入れるべきだったのではないか。それなら、物理的な互換性を取ることは容易だったハズだ(代わりにコストが上昇するが)。

 とはいえ、こうした議論をいまさらしても、もう遅い。すでに走り出している以上、答えは市場で出すしかない。こうして文句を並べている筆者ですら、時に「DVD-RAMドライブを買おうかな」と思うのもまた事実だ。とにかく動画ファイルを手軽に保存できるメディアは、現時点でDVD-RAMしか存在しないのである。

□関連記事
【'99年11月10日】日立製作所、片面4.7GBのDVD-RAMドライブ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991110/hitachi.htm

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(2000年1月19日)

[Text by 元麻布春男]


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