●AMDとIntelがプロセスとアーキテクチャを交互に移行 IntelとAMDのCPUロードマップを概観すると、2011年がカギの年で、2010年までが慣性期であることがわかる。2004年までが「シングルチップCPU時代(Single-chip CPU Era)」で、1個のCPUコアをどんどん強化し、シングルスレッド性能の向上にフォーカスして来た。それが、2004年から2010年の「チップマルチプロセッサ時代(Chip Multiprocessor Era)」には、CPUコアを複数載せた対称型のマルチコアへとCPUを発展させ、マルチスレッド性能の向上にフォーカスするようになった。だが、本当の変化は2011年頃から始まる「システムレベル統合時代(System-level Integration Era)」で、ヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)型にCPUコアや各種プロセッサとアクセラレータ群を統合、システムレベルの機能をより統合し、オンチップのリソースの高度な管理機能を備える方向へと向かう。
このように、マクロビューで見るとIntelとAMDは、ほぼ同期してCPUアーキテクチャを変えつつある。しかし、もう少し近寄ると、両社の移行には興味深いズレがあることがわかる。チップマルチプロセッサ時代の間、2社はほぼ交互に1年ずれたサイクルで移行を行なっている。 例えば、今年(2009年)は、AMDが45nmプロセスへとプロセス技術を移行させる年となっている。それに対して、今年から来年(2010年)頭のIntelは、Core i7(Nehalem:ネハーレン)アーキテクチャを浸透させる時期となる。同じ45nmプロセスで、より廉価なNehalemプラットフォームを投入し、CPUアーキテクチャを移行させる。 昨年(2008年)の場合は、これが逆だった。Intelが同じCore Microarchitecture(Core MA)で45nmプロセスへの移行を進める一方、AMDは65nmプロセスのままでK10アーキテクチャをある程度浸透させようと苦闘していた。ラフに言えば、2007年末から2008年は、Intelがプロセス移行、AMDがアーキテクチャ移行の時期だった。その前の2007年は、逆にAMDが65nmへのプロセス移行期だった。そして、Intelは2006年からの急激なCore 2アーキテクチャの浸透期にあった。 こうして見ると、ブレはあるものの両社はほぼ交互にプロセス移行とアーキテクチャ移行を繰り返していたことがわかる。それもちょうど1年のズレで交替に移行していた。これは偶然ではない。両社とも新プロセスは枯れたCPUアーキテクチャで立ち上げることが多く、新CPUアーキテクチャは枯れたプロセスで立ち上げる傾向が強い。そして、AMDとIntelはプロセス技術の移行が1年ずれており、そのために、プロセスとアーキテクチャの移行が、両社で互い違いにずれるサイクルにある。 そして、一見してわかるとおり、Intelはこのパターンでそのまま2011年にアーキテクチャの移行を行なう。それに対して、AMDはサイクルがずれて2011年にアーキテクチャとプロセスの両方を移行させるパターンとなっている。AMDの方が、2つの移行が重なる分だけ荷が重いことになる。そして、AMDは2010年がぽっかり空いてしまっている。
●伝統的に3レベルのダイサイズで構成するAMDのCPU AMDの移行サイクルをもう少し詳しく見てみよう。 今年のAMDは、45nm世代の製品ラッシュだ。Phenom系ブランドだけでなく、Athlon系ブランドの普及価格帯も含めて、45nmプロセスへと入れ替わる。すでに登場しているクアッドコアのPhenom II X4(Deneb:デネブ)とトリプルコアのPhenom II X3(Heka:ヘカ)を筆頭に、今後はPhenom II X2ブランドになると見られるデュアルコア版がラインナップされる。 また、Phenom II系からL3キャッシュを取り除き、コストを下げ歩留まりを上げた45nm世代のAthlonブランドも登場する。クアッドコアのAthlon X4(Propus:プロパス)とトリプルコアのAthlon X3(Rana:ラーナ)、そしてデュアルコアAthlon X2(Regor:リーガー)だ。 こうして見ると、数多くの製品が用意されているように見えるが、半導体的に見るとそうではない。おそらく、45nm世代のK10系CPUのダイ(半導体本体)自体は、3種類しかないからだ。AMDは、過去数世代に渡って、大半の期間、CPUのダイを3階層に構成して来た。それは、市場価格に合致するコストのダイサイズが3階層に集約されるからだ。 3年前、当時のAMD CTOだったPhil Hester(フィル・へスター)氏は次のように説明していた。 「一般的に言うと、業界には3つの異なる(ダイサイズの)スイートスポットがある。我々の過去(のCPU)を見ても、3つのダイサイズがあることがわかるはずだ。 一番小さいもの(ダイ)はエントリーレベルで、パフォーマンスは最小、コストが重要な市場向けというのが、一般的な傾向だ。中間(サイズのダイ)は、我々がプライスパフォーマンスまたはメインストリームと呼ぶものだ。最大のもの(ダイ)は、パフォーマンスオリエンテッドで、歩留まりが制約される。この3つの帯は、将来に渡っても継続されるだろう。厳密には、さまざまなバリエーションがあるが、一般的な傾向では3つのスイートスポットが続く」。 つまり、AMDはCPUコアのサイズを、ターゲット市場毎に3レベルに保ち、その中でパフォーマンスを向上させていく戦略を採っている。ダイは製造コストに直結するため、市場セグメント毎にダイサイズを変える戦略は必須だ。これはIntelと基本的には同じだ。そして、今回の45nm版K10世代では次のようになると推定される。 ●きれいな3階層になるAMDの45nm CPUダイのラインナップ
まず、ハイエンド向けが、200平方mm以上の巨大CPU。45nm世代のPhenom II X4/X3/X2系(Deneb系)がこれに当たると推測される。次が、メインストリーム向けの100平方mm台中盤のCPUで、45nmではAthlon X4/X3(Propus系)がこのクラスだと推定される。最後がバリュー市場向けの100平方mm前後かそれ以下の小型CPUで、Athlon X2(Regor系)がこのサイズにはまると見られる。 およそのダイサイズの割り出しは、精度を気にしなければ比較的簡単だ。公開されているクアッドコア+6MB L3版のK10であるShanghai(シャンハイ)のダイ写真と比較することができるからだ。Shanghaiのダイサイズは約258平方mmで、中央にシステムロジック、その両側に4個のCPUコアがあり、ダイの片側に6MBのL3キャッシュ、ダイを囲む形で2チャネルメモリインターフェイスと4リンクのHyperTransportが配置されている。 まず、このダイから1/3程度の面積を占めるL3を取り除き、HyperTransportリンクも減らしてみる。バッファを減らせばコアロジックも小さくできるだろう。すると、ダイサイズは約160平方mmになる。これが、およそのPropus系のダイの姿だと推定される。 同様にCPUコアを2個に減らし、L2を2倍にして、HyperTransportの位置を変えてみる。コアロジックもK8世代のデュアルコアと同程度の比率にする。すると、ダイサイズは約110平方mmちょっとになる。Regor系のダイは、おそらく、この程度だろう。 これらの推定はラフなもので、とても正確とは言えないが、それほど大きく外れてもいないはずだ。AMDの最近のパターンだと、設計に余裕を持たせているためもう少し大きいかもしれない。しかし、ダイサイズのおおまかなレベルを知るには役立つ。 これらの推定ダイサイズを、AMD CPUのダイサイズチャートにはめ込んでみる。見ての通り、3セグメントのダイサイズは、ほぼAMDの3セグメントに当てはまる。 もっとも、最大ダイのハイエンドCPUのダイサイズは、マルチコア時代になって、200平方mmを大きく超えて、より大型化した。これは、マルチコア化によって、CPUコアを冗長性のために使えるようになったためだ。欠陥CPUコアを使えないようにすれば、CPUコア数の少ない派生製品として出荷できる。すると、欠陥品として出荷できないダイ(半導体本体)が減るため、トータルでの歩留まりが上がる。ダイサイズを多少大きくして、1枚のウエーハから採れるダイ個数を減らしても見合うようになる。IntelもサーバーCPUではこの手を使っている。
●2010年がアーキテクチャとプロセスの空白期となるAMDのロードマップ 推定ダイサイズが示すAMDの45nmラインナップの配置の意図は明瞭だ。ローエンドのデュアルコアCPUは、従来シングルコアCPUが占めてきたバリューセグメントに到達した。これで、AMDはK10アーキテクチャを最低価格帯にまでもたらすことが可能になる。IntelのNehalemアーキテクチャがこのレンジに来るのは2010年頭の32nmプロセス世代からだ。その上の廉価版クアッドコアCPUは、従来デュアルコアCPUが占めてきたメインストリームセグメントに位置づけられる。これで、AMDはコスト面で、デュアルコアをクアッド/トリプルコアに置き換えることができるようになった。そして、高級版クアッド/トリプルコアCPUが引き続きパフォーマンスセグメントをカバーする。 しかし、AMDは45nmプロセス世代で投入する新アーキテクチャはない。もともと、次のCPUアーキテクチャ「Bulldozer(ブルドーザ)」は45nm世代で2009~2010年のレンジで登場する予定だった。つまり、AMDは45nmでもアーキテクチャ移行のサイクルを守る計画だった。ところが、AMDとATI Technologiesの統合後の混乱でスケジュールは遅れ、Bulldozerは32nm世代で2011年となった。サイクルがずれてしまったわけだ。 その結果、AMDのロードマップでは、現在2010年が空いている。サーバー向けには6コアの「Istanbul(イスタンブール)」を始め、新コアを投入していくが、デスクトップには大きな波はない。もちろん、AMDはハイエンドデスクトップにもIstanbulを投入することができるし、もしかすると32nmのK10を製造することもできる。しかし、ダイサイズマップを見ればわかる通り、6コアのIstanbulやそれ以降のハイエンドサーバーCPUは、コストカーブに合致した製品にはなりえない。また、32nmでK10を作るとしても、それは2010年の早期に持ってくることはできないだろう。つまり、AMDが2010年のデスクトップに隠し球を持っているとしても、それは大きなインパクトにはならないと推定される。 この構図が示す未来は明確だ。AMDは2009年は45nmプロセス移行で押しまくる。しかし、2010年は、次の移行期に向けて我慢の時期に入る。CPUに新要素が少ないため、チップセットやGPUといったプラットフォームや価格で攻勢をかける方向へ向かうだろう。
□関連記事 (2009年3月23日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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