アップルが、iPhoneおよびiPod touchのマーケティングプロモーションで新たな一歩を踏み出した。 それは、ゲームマシンとしてのiPhoneおよびiPod touchの利用促進である。 App Storeを通じて配信されるゲームソフトは、これまで個人が制作した「時間つぶし」的な要素が強い、簡易なゲームソフトが多かったが、ここにきてゲームソフト業界を代表するメーカーが参入を開始。いわば、本格的なゲームソフトが、iPhoneおよびiPod touchで利用できるようになってきたのだ。 アップルは、音楽や写真、あるいは通話、ウェブ、メールといった用途に加えて、ゲーム機としての新たな訴求をすることで、iPhoneおよびiPod touchの顧客層に変化をもたらすことができるのだろうか。 ●渋谷でゲームイベントを開催 3連休の初日となった3月20日、東京・渋谷の「ヤマダ電機LABI渋谷」では、1階入口において、iPod touchを活用したゲームソフトの紹介イベント「iPod touchがゲーム機に!? ~ゲームアプリ体験イベント」を行なった。 イベントスペースには、9台のiPod touchを用意。タッチ機能を活用してプレイするハドソンの「BOMBERMAN TOUCH(ボンバーマンタッチ)」、バンダイナムコゲームスの「塊魂モバイル」、セガの「ぷよぷよフィーバー TOUCH」の3つのアプリケーションを実際に利用できるようにしていた。
ヤマダ電機LABI渋谷の矢村隆店長は、「iPodといえば音楽だけの利用という認識が強かったが、ゲーム機としての利用が促進されることになることで、顧客層の広がりが期待できる。iPodは、音楽を聞くだけのツールから、ゲームもプレイできるツールへと認識が変われば、販売にもプラスになると期待している」と語る。 また続けて、同店の立場から次のようにも語る。 「渋谷としての立地を生かして、女性層や若者に対して訴求できる商品の1つとしてiPhoneおよびiPodを位置づけており、新たにゲームの観点から訴求できることは、これら顧客層に対する提案が増えるという点でも大きな意味がある」。 実際、体験イベントでは、女性やカップルのほか、家族連れで訪れた子供たちが、iPod touchを手に持ち、ゲームをプレイしていた。 「小さい子供が、iPod touchを手にすることは、これまでの一般展示ではあまり見られない光景。ゲームという観点から、iPod touchを手にとってもらえた顕著な例だといえる」(イベント担当者)と語る。 矢村店長も、すでに手応えを感じているようだ。 「ゲームで遊べるという認識が定着すれば、売り方も変わる。6階のゲームコーナーに、iPod touchを展示し、ゲームの観点から、新たな顧客層にアプローチすることも考えたい」と、新規顧客層開拓に意欲を見せる。 ニンテンドーDS、PSPと同じ場所に、iPod touchが展示される日が近いうちに訪れることになりそうだ。
同じくこの3連休には、東京・有楽町のビックカメラ有楽町でも、1階入口で、「さあ、はじめよう。新しい生活を。」をテーマに、iPodおよびマックを展示して訴求。5階フロアに開設しているAppleショップの2周年と連動させたイベントとして展開した。 iPodに関しては、発売されたばかりのiPod shuffleに注目があつまりがちだったが、3台用意されたiPod touchには、「BOMBERMAN TOUCH」、「塊魂モバイル」などのゲームソフトがインストールされており、ゲームをプレイする来店客の姿も見られていた。 ビックカメラ有楽町本館・江澤哲也主任は、「iPodは、2階、5階にも展示しているが、いまのところは音楽を聞くためのツールとしての利用。ゲームを切り口にした問い合わせはまだ少ない。だが、新たな用途として期待しており、今後のiPodの利用層を拡大することになりそうだ」と期待を寄せる。 販売店にとっても、iPhoneおよびiPod touchの新たな客層獲得の手段になると捉え、それに向けた準備を開始しはじめた段階だといえよう。
●TV CMでゲーム利用を訴求 アップル自らも、iPhoneおよびiPod touchのゲーム利用促進に余念がない。 3月6日からは、iPod touchによるゲーム利用を訴求したTV CMを開始。「ゲームが増えて、もっと楽しく。最高に遊べるiPod」のコピーとともに、iPodの新たな楽しみ方として、ゲームを位置づける。 「ゲーム機としても利用できることで、iPod touchがエンターテイメントツールとして、最強のものであるということを感じていただけるはず」と、アップルは語る。 ●コナミが虎の子の「METAL GEAR SOLID」を投入 一方で、ゲームソフトメーカーも、iPhoneおよびiPod touchの市場の可能性に期待を寄せる。 現在、App Storeは、全世界77カ国で、25,000本ものアプリケーションソフトが用意されており、これまでに8億本がダウンロードされている。そのうち、日本においては、有償、無償をあわせて、3,500本ものゲームソフトが、App Storeからダウンロードできるようになっており、そこにいよいよ大手ゲームソフトメーカーが参入してきたのだ。 コナミデジタルエンタテインメントが3月18日からApp Storeで配信を開始した「METAL GEAR SOLID TOUCH(メタルギア ソリッド タッチ)」は、PLAYSTATION 3でおなじみの人気アクションゲーム「METAL GEAR SOLID 4」のストーリーを楽しみながら、その世界観を体感できるものだ。
製作を指揮する監督の小島秀夫氏は、「メタルギアというと、濃いイメージがあるとか、名前は聞くがアクションゲームが苦手で手を出せないという声もあった。iPhoneのタッチインターフェイスを利用することで、高い操作性を実現した。これまでのゲームユーザーとは違う、ポップで、ファッショナブルなユーザーに遊んでもらいたい。いつでも、どこでも、手軽に遊べるメタルギアを実現した」と語る。 ゲームは、先行版で12ステージ、完全版で20ステージが用意されているが、1エピソード構成とすることで、ちょっとした時間にプレイできる環境を用意。電車のなかという短時間内でも、プレイしたい時に利用できるようにした。 小島監督が率いる小島プロダクションとしては、初の女性クリエイティブプロデューサーとなる渡邊靖予氏を起用。メタルギアのWEBサイトを担当したこれまでの経験を生かし、「ゲーム発のセンスとは異なる視点から開発した」(小島氏)という。 小島氏自身も、iPhoneおよびiPod touchの操作性の高さには、強い関心を寄せる。 「携帯型の端末としては、画面がきれいで、大きい。三軸のセンサーを利用することで、直感的な操作が可能で、簡単にゲームに触れてもらうことができるようになる。タッチして操作する感覚が、これだけ気持ちいいということを体感していただきたい」と語る。 19日に、東京・原宿のソフトバンク表参道で行なわれた会見では、大のメタルギアファンであるタレントの南明奈さんと、ソフトバンクモバイルのテレビCMで、白戸家のお兄さんを演じるダンテ・カーヴァーさんが来場。iPhoneでMETAL GEAR SOLID TOUCHをプレイしてみせた。 南さんは、「操作が簡単で、女性にも楽しんでもらえるゲームになっている。私自身は、これでメタルギアをどこでもプレイできるようになるのがうれしい」と語った。
コナミデジタルエンタテインメントでは、「iPhoneでメタルギアを楽しんでもらい、気に入ってもらえたら、METAL GEAR SOLID 4をプレイしてほしい」(小島氏)と、新規顧客の獲得手段としても、同製品の投入による成果を目論む。App Storeから900円で入手できるというのも、入門用ゲームソフトの価格としては、極めて妥当といえよう。 発売直後から、日本のApp Storeの有料コンテンツにおいて、1位を獲得したメタルギアだが、まず飛びついたのは、メタルギアユーザーが購入の中心と見られる。これをどこまで増やすことができるのか。 「日本の大手ゲームソフトメーカーが、看板タイトルであるメタルギアソリッドを、ニンテンドーDSでも、PSPでもなく、iPhoneおよびiPod touchで発表するということは、ゲームのプラットフォームとしても認知されたことの証。こうした動きが加速することを期待している」(アップル)。 アップル、ソフトバンクモバイルにとっても、iPhoneおよびiPod touchユーザー拡大に向けた目玉商品として、この動きに注目している。 このように、iPhoneおよびiPod touchにおいてゲームアプリケーションが増加することは、新規顧客獲得に向けた切り札の1つにもなりそうだ。そして、ここにきて、大手ゲームソフトメーカーが相次ぎ参入したことによって、ビジネスチャンスが本格化すると見ているのが、関係者に共通した意見だ。 発売当初の勢いがなくなったと言われるiPhoneだが、0円キャンペーンの実施や、企業への導入が開始されるなど、再び動きが出始めている。そのなかで、ゲーム利用の促進は、iPhone、そしてiPod touchの今後の売れ行きにどんな影響を与えるだろうか。アップルにとっては、新たな挑戦が始まったといえる。
□アップルのホームページ (2009年3月23日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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