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IntelがAMDのx86ライセンス違反を警告




●Intelの攻勢で次のラウンドに突入

 米国時間の3月16日、IntelはAMDに対し、同社が2001年に締結したクロスライセンスを侵害していると通告したことを明らかにした。Intelは、AMDが製造部門を分離して設立した「Global Foundries」(これまでThe Foundry Companyという仮称で呼ばれていたAMDの旧製造部門)は、クロスライセンス契約で定められるAMDの完全子会社ではなく、したがって2001年のクロスライセンスによる技術ライセンスの対象と成り得ないとしている。

 それどころか、AMDがATICと共同出資でGlobal Foundriesを設立したこと自体が、クロスライセンスの守秘義務違反であると述べている。さらにIntelは、クロスライセンスのうち、この問題に関連した部分について公開することをAMDに提案したが、AMD側がそれを拒否しているとも述べている。今回のライセンス違反は、2001年の合意に基づくライセンスの失効につながるとIntelは警告している。

 というわけで、ちょっと前に取り上げたIntelとAMD間のライセンス問題、あるいは分離されたGlobal Foundriesのライセンス問題が動き始めた。筆者は、AMDの出資比率が34.2%であろうと議決権の半分を持ち、AMDの決算にGlobal Foundriesが連結されている現状であれば、Global FoundriesがAMDのプロセッサを製造することは不可能ではない、と考えている。

 もちろんこれはあくまでも筆者の考えるところであり、法的判断があおがれた場合に、どのような結論が導き出されるのかは分からない。少なくともIntelは、出資比率が34.2%に過ぎないGlobal Foundriesは、AMDの完全子会社ではなく、クロスライセンスをGlobal Foundriesが行使するのはライセンス違反であるという立場であることを示している。AMDがクロスライセンスの当該部分の公開を拒否しているということは、そこにAMDに有利なことは書かれていそうにない、と容易に想像がつく(しかしそれはAMDが合意したことでもある)。

 このクロスライセンスを巡る両社の争いは、おそらく法廷にその場を移して戦われることになるだろう。両者間の話し合いで決着できるほど、両社の関係が友好的であるとは思えない。もしそうなら、AMDが製造部門を分離する前に、ライセンスに関する話し合いをIntelとの間に持ったハズだ。

 ただ、最終的に裁判所の判断でライセンス問題の決着がつくかというと、それにも疑問が残る。裁判所の最終判断が出るにはあまりに多くの時間が必要で、IntelとAMDの間の係争が長期化することをAMDの顧客が望まない。言うまでもなく、AMDの顧客とはHPやIBM、Dellといった大手PC/サーバーベンダであり、同時にIntelの顧客でもある。裁判所で係争しつつ、政治的な決着を図るというのが一番現実的な解ではないかと思う。

●ニューヨークの新工場がカギ

 以前にも述べたように、現状ではAMD/Global Foundries側に政治的な駆け引きの材料が少ない。アラブ資本が6割を越え、主力工場はドイツのドレスデンにある。AMD製CPUのシェアが上がることは、相対的にIntelのシェアが下がることであり、それは雇用や資本の輸出につながる、という主張が説得力を持ち得るからだ。特に、経済状況が悪く、保護主義的な機運が高まっている今はなおさらだ。

 考えられるAMD/Global Foundries側の戦略は、とりあえず法廷闘争に持ち込み、時間を稼ぎつつ、ニューヨークの新工場の建設と立ち上げを急ぐことだ。日米貿易摩擦(自動車摩擦)の際に、トヨタがテネシーに進出し、現地生産を急いだのと同じ理屈である。

 そう考えると、ニューヨークというのはなかなか良い立地だ。まず東海岸のニューヨークは、比較的Intelの影響力が小さい。すでにIntelが進出しているカリフォルニア、オレゴン、アリゾナ、ニューメキシコといった州では、どうしても雇用の数や投下資本の累計を比べられてしまうが、ニューヨークならその心配はない。

 次にニューヨーク州は人口が多い。人口が多いということは、地元選出の議員が多いということでもある。さらに州内のニューヨーク市はメディアの中心地でもある。これらをうまく味方につけることができれば、自社に有利な世論を形成するという点でメリットが大きい。

 またニューヨークというと大都会というイメージだが、それはあくまでも南端のニューヨーク市のことであり、州北部は経済の縮小に悩んでいる。そこに進出しようというAMDに地元世論は好意的になるだろうし、州政府は多額の資金援助を含む支援策を用意している。これは州民が支払った税金による支援を受けている、ということでもある。ニューヨーク州民や州選出議員はAMDの成功を願ってくれるハズだ。これらをテコに、Intelからライセンスを勝ち取る、あるいは条件闘争に持ち込むというのがAMD/Global Foundriesの基本戦略ではないだろうか。

 ニューヨーク州というと、AMDの技術パートナーであるIBM Microelectronicsが州内のイーストフィッシュキルに拠点を持つことでも知られる。が、今時、工場間の地理的な近さが、技術の共同開発に大きな意味を持つとは思えない。そんなことを言い出したら、ドレスデンは失敗だったのか、ということにもなる。強いて言えば、州内にイーストフィッシュキルがあることで、AMDの政治的意図を若干でもカモフラージュする効果はあったかもしれない。

 いずれにせよ、AMDの望む方向性が、製造部門の完全な分離、いわゆるファブレス化である以上、Intelとのライセンス問題に何らかの決着をつけることは不可欠だ。それなしにはファブレス化を実現することは不可能だといっても過言ではない。

 今後考えられる進行は、Intelが裁判所にクロスライセンスの無効と、AMDによるx86互換プロセッサの製造・販売の禁止を求める。AMDがクロスライセンスの有効性確認と、Intelの訴えが独占禁止法違反であることの反訴を行なう。Intelが起こした訴訟とAMDの反訴を1つの裁判にまとめる作業が行なわれる。1つにまとめられた裁判の審理が行なわれる、といった具合だ。そして、この動きと並行して、さまざまな形で政治決着を図る試みが繰り広げられるだろう。その過程において、議員の仲介やひょっとすると政府筋の介入もあるかもしれない。どのような形であれ、政治的決着は図られるであろうし、Intelが米国内に拠点を持つ競合企業を完全にブロックすることは難しいだろう。

 AMDとしては、ライセンスの対象をGlobal Foundriesに振り替え、ライセンス料の負担からも逃れられる形に持ち込みたい。Global FoundriesはIntelからのライセンスを得て、x86互換プロセッサのファウンダリ事業(その最も有力な対象がNVIDIAだろう)を展開したい。Intelはライセンス料の実質的な引き上げと、Global Foundriesのライセンス事業に一定の歯止めをかける権利の確保を目指したいところだ。

□関連記事
【3月17日】Intel、AMDに対しクロスライセンス違反を主張
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0317/intel.htm
【3月5日】【元麻布】NVIDIAのx86参入がAMD完全再生の条件
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0305/hot600.htm
【2001年5月7日】Intel、AMDとのクロスライセンス契約を更新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010507/intel.htm

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(2009年3月17日)

[Reported by 元麻布春男]


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