発売中 価格:オープンプライス シャープの「PW-TC980」は、100コンテンツを搭載したカラー電子辞書だ。2008年秋に登場した同社電子辞書の新ブランド「Brain」の名を冠する本製品は、これまで別の筐体で展開してきたワンセグ機能が統合されたことと、手書きパッドに加えてメイン画面までもがタッチ対応になった「Wタッチパネル」の採用が、大きな変化だと言える。今回はこれらの2つの機能を中心に、従来モデルから進化したポイントを見ていきたい。 ●ワンセグ機能に対応しつつも、筐体は従来モデルとほぼ同一 まずは外観と基本スペックから見ていこう。筐体は、「Brain」ブランドの従来モデル「PW-AC880」とほぼ同一。左側面にワンセグ用のロッドアンテナが追加されているほか、タッチパネルを搭載したためか、液晶面の厚みがわずかに増しているのだが、一見した程度では区別がつかない。 筐体が一般的な電子辞書の形状に改められたことで、従来のワンセグモデルにあった、液晶画面を180度回転させて折りたためる独自機構は排除された。ちなみに本体重量は約379gと、ワンセグモジュールが搭載されたせいか、従来モデルに比べて約20g重くなった。 解像度は480×320ドット(HVGA)、画面サイズは5型。文字サイズは最大5段階で可変する。このあたりの仕様は従来モデルと同一だ。カラー液晶を採用しており、ワンセグの視聴、カラー図版の表示が可能なほか、後述するマーカー機能なども利用できる。 ファンクションキーを含むキーボードのレイアウト、スピーカーの配置についても、従来モデルと変化はない。ただしキートップのフォントがデジタルチックな書体に変更されたため、並べた際の雰囲気は大きく異なる。 電源はリチウムイオン充電池で、辞書としての連続使用時間は約80時間と、カラー液晶を採用した辞書としては非常に長い。セイコーインスツルの電子辞書にみられるUSB給電機能には対応しておらず、給電は付属のACアダプタを用いて行なう。 ●100コンテンツに加え「ブレーンライブラリー」でコンテンツの追加が可能 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。横向きタブ形式のメニュー画面は、従来モデルを踏襲した。大きく違うのは、メイン画面のタッチパネル採用によって、これらメニューがスタイラスで操作できるようになったことだ。そのため、見た目は同一ながらも、インターフェイスの使い勝手は従来モデルと大きく異なっている。詳しくは後述する。 コンテンツ数は100。対話型アプリーケーションの「書いて覚える漢検ドリル」と「デキる人はみんな英語中毒」が追加されたのが目立つ程度で、入れ替わりはほとんどない。全体的には生活総合モデルにみられる、広いターゲット層を対象にしたコンテンツ編成だ。 また本製品は、PCにインストールした専用ソフトを介し、電子辞書や書籍をネットからダウンロードできる「ブレーンライブラリー」に対応している。そのため、本体メモリーは約100MBで空き容量は95MBと、他製品と比べてもかなりの大容量を誇る。SDカードスロットによるテキストやMP3の読み込みも可能だ。
●範囲選択しての検索、読み上げ、マーカー機能が秀逸 では、本製品の目玉となる、タッチパネル対応のメイン画面について見ていこう。本製品では、横向きタブ形式のメニュー画面をはじめとして、メイン画面でのタッチ入力に対応している。メニュー選択などの基本操作はもちろんのこと、文字列や単語を範囲選択した上で、ジャンプによる検索、TTSによる読み上げ、マーカーによる着色などが行なえる。同社ではこの操作を「なぞって&タッチ」と呼称している。 実はこの「範囲指定を行なったうえでのアクション」が、競合製品と比べた際の本製品の大きなメリットである。カシオ製品の場合、始点と終点を指定するという概念そのものがなく、検索したい単語の最初の1文字を選択し、あとはうまく文節単位で検索されるか運任せになる。また、これらの操作がスタイラスだけで完結せず、キーボードを併用しながらの操作になるため、操作がそれなりに面倒。複数辞書の横断検索も行なえず、どれか1つのコンテンツを指定してからの検索しか行なえない制限もあった。 その点本製品は、スタイラスによる範囲選択が行なえ、そこからさらに音声発音、ジャンプによる複数辞書横断検索、マーカーによる着色などのアクションが行なえるようになっている。さらに画面右上に用意された「戻る」ボタンを用いてスタイラス操作で前の画面に戻ることもできるなど、スタイラスのみで直感的な操作を行なえるように工夫されている。 そもそも従来の電子辞書におけるスタイラス操作の欠点は、結果的にスタイラスだけで操作が完結せず、キーボードなどを併用しなくてはいけない点にあった。その点本製品は、こうした問題には最大限配慮がなされていると言ってよい。 1つ残念なのは、画面スクロールがやや面倒なこと。カシオ製品であれば、スタイラスで画面をドラッグすることにより容易にスクロールが行なえたわけだが、本製品の場合はそのような仕組みはなく、画面右上にある小さな「↑↓」マークをスタイラスでつつくことでしかスクロールが行なえない。この仕様では1画面ずつのスクロールしかできず、文章を目で追っていく際に視線が上へ下へと動くので、目が疲れてしまう。長文を読む際などには、これが意外とストレスになった。 もっともこれは、画面をなぞった際に文字列の範囲選択が行なえる機能とトレードオフになっており、ある意味仕方のない問題かもしれない。とはいえ、スクロールを容易にするためのインターフェイス、例えば画面右端にスクロールバーがあれば、操作性はさらに向上したのではないかと思う。 このほかの欠点として、スタイラスでメモをとれる手書きメモ機能が搭載されていないことが挙げられる。もっとも、本稿執筆中に発表された新モデルではこの手書きメモ機能をサポートしているとのことなので、メイン画面に手書きでメモを取りたいのであれば、こちらの新モデルを検討するとよいだろう。
●ワンセグ機能はほぼ従来通り。タッチ化の恩恵はあまりない もう1つの目玉機能である、ワンセグ機能についても見ていこう。タッチ対応のメイン画面でワンセグが見られる電子辞書は、本製品が初である。ハードウェア的にみると、この筐体サイズにワンセグのモジュールを搭載したということ自体、大きな進化といえるだろう。 ただし、メイン画面のタッチ対応によって電子辞書機能の使い勝手が大幅に進化したのに比べると、ワンセグ機能はほとんどタッチ化の恩恵を受けいない。音量調整はともかく、せめてタッチ画面によるチャンネル切替はできてほしかったのだが、メイン画面/子画面にそうした機能はなく、キーボードを使わなくてはならない。子画面で対応しているのは字幕表示のON/OFFと、主音声/副音声の選択のみで、音量調整とチャンネル切替ができないというのは、どうも納得がいかない。 また、これまでのモデルと同様、EPGの番組表表示やデータ放送にも対応していないなど、ワンセグ機能についてはワンセグ搭載の初代モデル「PW-TC900」以降、ほとんど進化がない状態である。デジタル放送が普及し、番組表を表示してから見たい番組を選ぶというスタイルがますます一般的になっている現在、ややつらい仕様だ。次世代モデルでは番組表の搭載と、スタイラスでの操作が可能なインターフェイスの実現を期待したいところだ。 なお、ワンセグはフル充電の状態で7時間の視聴が可能とされている。これまでのワンセグモデルの連続視聴時間が5時間だったことを考えると、若干ながら伸びた形だ。また、コンテンツにあわせて「ニュース」、「スポーツ」、「音楽」、「映画」といった4つの音響効果を選択できる機能や、2つの違う番組を1つのセグメントで同時に放送する「ワンセグ2」への対応など、細かいところでは進化の跡が見られる。
●初代モデルから大幅に進化。読書端末としてもおすすめ 「Brain」の第2世代といえる本製品は、メイン画面のタッチパネル化により、カラー液晶の価値がぐっと高まったと言える。実際に使っていて日本語コンテンツをもう少し強化してほしいと感じるのも、検索性の向上により、さまざまな検索結果が簡単に見比べられるようになったことの裏返しである。「Brain」の初代モデルに比べると、著しく進化していると断言できる。 個人的におすすめしたいのは、ブレーンライブラリーで購入した電子書籍や、SDカード経由で読み込んだ青空文庫を、辞書で意味を調べながら読むというワザだ。分からない単語の意味を辞書で引きながら電子書籍を読み進めることは、理解を深める上でこのうえなく有用であり、ケータイなどほかの電子書籍端末には絶対にできないメリットだ。ワンセグのように華やかな機能もよいが、電子辞書の機能を生かし、テクストを「深く」読むためのガジェットとしてもおすすめしたい。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2009年2月4日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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