発売中 価格:オープンプライス シャープの「PW-AC890」は、100コンテンツを搭載したカラー電子辞書だ。前回レビューした「PW-TC980」と同じく、同社の「Brain」ブランドに属する生活総合モデルだが、スーパー大辞林に替えて広辞苑を搭載したことと、新機能である手書きメモを搭載していることが大きな特徴だ。 ●筐体は従来モデルとほぼ同一。スロットはmicroSDへと変更 まずは外観と基本スペックから見ていこう。筐体は、Brainブランドの一世代前のモデルである「PW-AC880」とほぼ同一。重量は約360gと、ワンセグ搭載モデル「PW-TC980」よりは軽量だが、それでも電子辞書としてはヘビー級であることに変わりはない。 ハードウェア上の大きな変更点として、本体前面下部のSDカードスロットが、microSDスロットに変更されたことが挙げられる。これはつまり、従来SDカードにて販売されていたコンテンツカードが利用できなくなったことを意味している。同社のホームページにおいても「本機はカードスロットがマイクロSDカードタイプのため、別売のコンテンツカードは使用できません」と明記されるなど、PC経由でコンテンツをダウンロードする「ブレーンライブラリー」への移行が着々と進みつつあることが窺える。 メイン画面は5型、480×320ドット(HVGA)表示のカラー液晶で、キーボード手前の手書きパッドともどもタッチ操作に対応する。キーボードの形状は従来モデルと変わらないが、キーボード手前の左右両サイドに1基ずつ搭載されていたスピーカーが、本製品では左側の1基のみに変更された。スピーカーがステレオでなくなったのは残念だが、そもそもイヤフォンで聞く需要が多いと考えられること、また右側のスピーカーが廃止されたことで従来モデルでは小さく操作しづらかった上下左右キーが操作しやすくなったことを考えると、全体としては改善が進んだと見てよいだろう。 電源はリチウムイオン充電池で、辞書としての連続使用時間は約80時間。給電は付属のACアダプタを用いて行なう方式で、USB給電や乾電池の利用には対応していない。
●広辞苑第六版を搭載、画像からの検索も可能 続いてコンテンツについて見ていこう。本製品でもっとも大きな変化といえば、従来モデルで搭載されていたスーパー大辞林が省かれ、代わって広辞苑第六版が搭載されたことだ。広辞苑第六版を搭載する電子辞書はいまだ機種が限られているため、広辞苑の搭載を電子辞書選定の必須要件にしている人にとっては、ありがたい仕様だと言える。 この広辞苑については、画像からの検索機能が充実していることも特徴として挙げられる。「動物」、「植物」、「人物・事件」など7つの分野から、カラー画像をもとに検索できる機能だ。文字からの検索にこだわらない、電子辞書ならではのユニークな機能だと言える。特に本製品の場合、カラーによる表示と、タッチパネルを用いた直感的な操作が行なえる点で優れている。 もっとも、現状では検索軸が「分野」しかないのは少々もったいないと感じる。例えば名前の分からない植物を探す場合、まずキーになるのは「花の色」だと思うのだが、現状ではそうした見た目の特徴で絞り込むことができず、「植物」という大分類の中で写真を1枚ずつパラパラめくりながら探すしかない。元のコンテンツにも依存する問題だとは思うが、実用性という意味ではプラスアルファを望みたいところではある。せめてサムネイルで複数の画像を並べて表示するだけでもかなり違うのではないかと思う。 さらに、これらカラー図版や動画の閲覧時には、電子辞書本体の動作がかなり重くなってしまうのもやや気になる。データサイズから言ってCPUに負荷がかかるのは仕方のないことだと思うが、例えば「画像から検索」の画面では、選択方法がシングルクリックなのかダブルクリックなのか分からないほど待たされる。直感的に操作できる優れたコンテンツであることの裏返しだと思うので、今後の進化に期待したい。 ●手書き対応コンテンツの追加とともに、従来コンテンツも進化 これ以外のコンテンツについては、ワンセグモデル「PW-TC980」にも搭載されていた、「書いて覚える漢検ドリル」「デキる人はみんな 英語中毒」が収録されているほか、新たにカラー対応のコンテンツとして「いつかは行きたい 一生に一度だけの旅 BEST500」が収録されている。コンテンツ数は100と、従来モデルと変化はない。 また、コンテンツそのものは同一ながら、メイン画面の手書き対応にあわせ、一部のコンテンツではインターフェイスが刷新されている。例えば「漢字源」は、これまでキーボード手前の手書きパッドでしか手書き入力ができなかったのが、本製品からはメイン画面での手書き入力が行なえるようになった。大きなサイズの手書き画面が使えるというのはストレスフリーで実に快適である。 なお、記事冒頭でも触れたように、本製品はPCにインストールした専用ソフトを介してネットからコンテンツをダウンロード購入できる「ブレーンライブラリー」に対応している。専門的な辞書はもちろん、電子書籍も追加できる。もちろん、前回の連載で触れた、青空文庫など外部テキストデータのビューアとしての機能もしっかりとサポートしている。
●手書きで画面に書き込める「手書きメモ」機能を搭載 さて、本製品で初搭載となる「手書きメモ」機能について見ていこう。初搭載、と書いたが、この手書きメモ機能、PDAやタブレットPCユーザーにはおなじみの、スタイラスを使って画面にメモが書けるという機能である。同じシャープ製品であるザウルス(PI-3000)に搭載されていた「あの」機能と言ったほうが、わかりやすい人もいることだろう。 手書きメモの用途は大きく分けて2つある。1つは既存のコンテンツの上から手書きで注釈を入れる用途である。例えば英単語のページで重要な箇所にアンダーラインを引いたり、カラー図版の上から吹き出しを書くなど、さまざまな活用方法が可能だ。手を動かしながら覚えるという行為が習慣化している人にとっては魅力的な機能だろう。 もう1つは、完全にフリーなメモ帳としての機能である。電話番号をメモしたり、地図を描いて場所を説明したい時などに、スタイラスを使って画面に直接文字や絵を書き込めるというものだ。色は黒に加えて緑、ピンク、青の計4色、太さは太・中・細の3種類が用意されている。多機能というわけではないが、手書きメモとしては必要十分な仕様だろう。 この手のメモ機能は、起動がいかに早いかも大きなポイントである。本製品では電源投入後に[機能]→[暗記メモ]ですばやく画面が呼び出せる。メモの保存枚数によって新規作成画面のショートカットキーの番号がその都度変わってくるという難点はあるものの、慣れてくると約2秒ほどで新規作成画面を呼び出せるようになる。保存可能な手書きメモの枚数は100枚という上限もあるが、現状では必要十分だと思える。 使っていてやや不便なのは、アンドゥ機能が搭載されておらず、消す時は一括消去か、または消しゴムによる手動消去しか選べないことだ。また、ペンの太さや色を選択するパレットがキーボード手前の手書きパッドに配置されているため、メイン画面との視線の移動距離が多くなり、疲れの原因になりやすい。特に前者に関しては「あって当たり前」の機能だと思うので、使っていて違和感が大きい。次期モデルでの改善を望みたい。 ●使いやすさを重視した手堅い造り。買ってハズレのない製品 このほか本製品では、一足先に発売されたワンセグモデル「PW-TC980」に搭載されていた「なぞって&タッチ」機能も搭載している。これは、スタイラスを使ってメイン画面上の特定の単語を選択したのち、「マーカー(色をつける)」、「Sジャンプ(別の辞書で単語の意味を調べる)」、「音声(英単語の音声を再生する)」などのアクションを実行する機能だ。個人的にはこの機能があるだけでシャープの電子辞書を選ぶ価値があると思えるのだが、さらに本製品では広辞苑第六版を搭載したことで、日本語コンテンツの検索においてはさらに幅が広くなったと言える。
以上、ざっと製品の特色を見てきたが、従来モデルの細かい欠点を修正しつつ、着実に進化しつつあることが実感できる作りになっている。特に「漢字源」の手書き入力がメイン画面で利用できるようになった点など、コンテンツの使い勝手を重視する方向に進化しつつあるのは、高く評価すべきポイントだろう。かつてメーカー間でひたすら搭載コンテンツの多さを競っていた時代から脱却し、コンテンツそれぞれの使いやすさが見直されつつあるのは、利用者としては大いに歓迎したいところだ。 もっとも、メイン画面のタッチパネル対応という一大変革のあとで、インターフェイスの改善をすべてのコンテンツで平行して行なうのはやはり厳しいようだ。現状では脳トレーニング系のソフトなどで、メイン画面と手書きパッドを使い分けなくてはいけないといった面倒さが残っているのもまた事実。非常に手堅い造りで、生活総合モデルとして買ってハズレのない製品であることは間違いないが、残るコンテンツのインターフェイスの最適化も要望したいところだ。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2009年2月17日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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