発売中 価格:70,000円 セイコーインスツル株式会社(SII)の「SR-G9001」は、USBケーブルでPCと接続することにより、PCからも搭載コンテンツを検索できるというユニークな電子辞書だ。「PASORAMA」と銘打たれたこの機能を使えば、電子辞書の各コンテンツの説明文や例文を、PC上で作成するメールやレポートなどに簡単に引用することができる。 ●筐体やハードウェア構成は従来モデルとほぼ同一。広辞苑第六版を搭載 まずは外観と、コンテンツ周りについて見ていこう。筐体はマグネシウム合金製で、従来モデルである「SR-S9000」と同じデザインを採用している。色はシルバーとブラックのツートンで、S9000と比べるとやや重厚感がある。本体重量は約250gと、従来モデルからの変化はない。 画面はモノクロ、解像度はVGA(640×480ドット)。同社が「くっきリアル」と銘打つ高解像度液晶による表示の美しさは健在だ。パンタグラフ構造による「カイテキー」やスピーカーなど、ハードウェア構成は基本的に従来モデルを踏襲している。 音声発音機能やSDカードを用いた音楽再生機能、同社シルカカードによるコンテンツの追加に対応する点も従来モデルと同様だ。他社製品に見られるタッチパネルは非搭載となっている。 連続利用可能時間は23時間と、競合他社の製品に比べると短い部類に入るが、ACアダプタ充電やUSB給電のほか、単4電池も利用できるなど、いざという時に備えた仕様になっている。とくに本製品の場合、後述のようにPCに繋いで利用するスタイルも考えられるため、連続利用可能時間が短いと感じるケースは(もちろん使い方にもよるが)少ないかもしれない。
横向きタブ切り替えのメニュー画面についても従来モデルが踏襲されており、本製品ならではの大きな特徴はない。コンテンツ数は30で、広辞苑第六版を搭載しているほか、「英文ビジネスレター文例大辞典」など、ビジネス英語系のコンテンツが充実しているのが目立つ。
●電子辞書搭載のコンテンツをPCから直接検索し、説明文の引用が可能 さて、本製品のメイン機能であるPASORAMA機能について詳しく見ていこう。冒頭にも書いた通り、この機能を利用することにより、本製品内の各コンテンツをPC側から検索し、メールやレポートなどの文書に引用することができる。著作権に配慮してか、一度にコピー&ペーストできる文字量は最大で300字という制限はあるものの、信頼性の高い電子辞書コンテンツの説明文や例文をメールやレポートに引用できるメリットは計り知れない。 PCからの検索は、PC側にインストールしたソフトウェアPASORAMAを使用する。本製品をUSBでPCと接続した状態でPASORAMAを起動し、検索ボックスに調べたい単語を入力すると、ウィンドウ内に一覧および意味が表示される。この状態で説明文をコピー&ペーストし、他のアプリケーションに貼り付ければよいというわけだ。 検索はインクリメンタルサーチに対応しており、文字を入力するたびに候補が絞り込まれて表示されるので、必要最小限の手間で検索がおこなえる。検索速度は非常に高速でストレスも感じないが、入力を誤った際にBackSpaceで1文字ずつ消去すると、その都度候補が再検索されてしまうなど、インクリメンタルサーチが少々過敏すぎる感がある。 検索ワードは、他のアプリケーションからドラッグ&ドロップで持ってくることもできるので、手入力しなくとも一括検索ができ便利だ。もとの辞書がモノクロ表示ということもあり、図版などもすべてモノクロなのはやや残念だが、現状では致し方ないだろう。 ●全機能が使えるわけではない点は要注意 PASORAMA機能の使い勝手としては、市販の電子辞書ソフトをPCにインストールして使うのとよく似ているが、搭載されている複数のコンテンツを一括検索できることが大きなメリットとして挙げられる。PCで利用できる市販の辞書ソフトはコンテンツ単品で販売されているケースが多く、複数コンテンツを揃えようとするとそれなりの投資が必要になる。その点、本製品では、電子辞書ならではのコストパフォーマンスの高さがそのまま活きてくる格好だ。 また、ブラウザやOfficeソフトなど特定のアプリケーションに依存せず、完全に独立したアプリケーションとして動作するのもメリットだ。例えばブラウザであれば、ドラッグするだけで単語の意味をポップアップしてくれる機能拡張や、ブックマークレットを利用した翻訳、また右クリックからの訳といった機能を利用することもできる。これはこれで非常に便利であるが、いかんせんブラウザ上に表示される文字列に対してしか使えない。その点本製品であれば、どのようなアプリケーションとも組み合わせて利用できる。 また、電子辞書本体ごと持ち運ぶことで、複数のPCで利用できるのも大きなメリットだ。この場合、それぞれのPCにドライバならびにPASORAMAをインストールする必要があるが、これらのファイルはすべて本製品内のROM領域に書き込まれているため、別途インストールディスクを持ち歩く必要がない。つまり、電子辞書本体とUSBケーブルさえあれば、外出先のPCでPASORAMA機能を利用することができるのだ。インストールのウィザードはややクセがあり、慣れが必要だが、この簡便さは高く評価されるべきだろう。 注意したいのは、ライセンスの関係か、本製品に搭載されている全コンテンツがPASORAMA機能に対応しているわけではなく、一部利用できないコンテンツがあることだ。確認したところ、30コンテンツのうち25コンテンツまでは利用できるものの、利用できない5コンテンツの中に「日本語大シソーラス 類語検索大辞典」が含まれているのはなんとも痛い。本製品をチョイスするユーザにとって致命傷になりかねない問題だけに、非対応コンテンツはカタログやホームページで積極的に開示してほしいところだ。なお、残りの4コンテンツは、「見出し語での検索」はできないが、「例文検索」および「日本語例文検索」でキーワードを入力して検索できる。このほか、MP3再生やテキストビューアといった検索以外の機能や、表示関係の機能は基本的に利用できないことも、知っておいたほうがよいだろう。 ※編集部注:PASORAMA非対応コンテンツについては、同社ホームページに情報が掲載されました。 ●かなり“使える”製品。PC中心の利用スタイルを持つユーザにおすすめ 画面解像度やキーの使い勝手に制約がある電子辞書と違い、PCの大型ディスプレイやフルキーボードを利用できるため、PCをメインに使っているユーザにとっては本製品は親和性が高い。感覚的には、電子辞書コンテンツがインストールされたUSB HDDをPCに接続して使うというイメージだろうか。逆に、電子辞書を中心に使っていたユーザからすると、PC用のディスプレイ及びフルキーボードで電子辞書を利用できる点が重宝しそうだ。 1カ月ほど試用したが、個人的にはかなり“使える”製品だと感じた。使い続けていると、PCに接続した状態が「主」で、電子辞書単体で持ち歩く状態が「従」という、従来の電子辞書とは異なる使い方に落ち着いてくる。つまり、通常は繋いだままで、必要な時だけ持ち出すというスタイルだ。これまでの電子辞書は言わば「モバイル向け」だったということを、あらためて気づかせてくれる製品である。 もちろん、これまでなかった新機軸の製品ということもあり、まだまだブラッシュアップを必要とする箇所があるのも事実。例えば、PCと接続して利用を開始する際、電源をオンにするためにいちいち上蓋を開かなくてはいけない点が挙げられる。電源ボタンを筐体の外周に配置すれば解決する話だが、従来モデルの筐体を流用しているために、このような仕様になってしまっているのだろう。一方、PCとUSBケーブルで接続したままPCを再起動した際は、こうした操作を必要とせず、そのまま継続して利用できるなど、ユーザの負担をきちんと考慮したとみられる設計も多いだけに、次期モデルでの改良に期待したい。 また、PASORAMAについても、使い続けていると、多少の不満が出てくる。例えば、このPASORAMA画面が、PCの画面上でそこそこの表示面積を必要とすることだ。現状のPASORAMAの画面は3ペイン構成であるため、ブラウザなど他のアプリケーションと併用しようとすると、ウィンドウを切り替えながら使うことになってしまう。サイドバーに合ったコンパクトな画面サイズであれば、画面を切り替えなくて済むほか、また画面サイズが小さいノートPCでも難なく利用できるようになるのではないかと感じた。 ともあれ、これまでの電子辞書の概念を覆す画期的な製品であることは間違いなく、PCを使った学習/研究用途に強くお勧めできる。やや高価な価格がネックといえばネックだが、これまで電子辞書という製品にあまり縁がなかった、PC中心の利用スタイルを持つユーザにこそ、ぜひその便利さを体験してほしい製品だ。
【表】主な仕様
□SIIのホームページ (2009年1月19日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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