発売中 価格:47,250円 学習用途を中心としたラインナップを展開しているキヤノンの電子辞書の中で、持ち歩きを前提としたコンパクトサイズの筐体を採用しているのが「wordtank M」シリーズだ。今回紹介する「wordtank M600」はその最新モデルであり、キヤノンの電子辞書としては唯一の「生活総合モデル」に位置づけられている製品だ。 ●持ち歩きに便利なコンパクト筐体。打鍵はややしづらい まずは外観から見ていこう。 本体はフルサイズの電子辞書に比べると2回りほど小さく、日々ポケットに入れて持ち歩くのに適したサイズだ。過去に本連載で取り上げた製品の中では、アイリバーのD5や、SIIの「SR-G7000M」と同程度だ。ただ、フットプリントこそ小さめながら、厚みはそこそこあり、全体的にずんぐりした印象だ。重量は188gと、300gに近づきつつあるフルサイズの電子辞書に比べるとかなり軽い。
モノクロ液晶を採用し、画面サイズは3.78型、解像度は320×240ドットと、今日の電子辞書としてはやや地味めの仕様だ。他社の電子辞書から乗り換えた場合は、物足りなさを感じるかもしれない。ただしバックライト機能など、画面まわりで押さえるべき付加機能はきちんと押さえてある印象だ。
キーボードは一般的なQWERTY形式。筐体が小さいこともあり、キーサイズ、ピッチともに小さく、お世辞にも打鍵しやすいとは言い難い。タッチパネル入力などの機能も搭載していないため、文字入力を多用するユーザ、中でも男性など手が大きな人にとってはやや厳しいインターフェイスだ。 キー配置は他社製品とおおむね変わらないが、キー押下時の挙動や割付はやや特殊に感じる場合もある。例えば、メニューキーを複数回押した際にSDカードの内容を表示する画面に移行するといった挙動は、他社の電子辞書に長く親しんだユーザであれば、やや違和感を感じるかもしれない。このあたりは、優れているいないの問題ではなく、各メニューのプライオリティそのものが他社と異なっている印象だ。 電源は単4電池×2本。連続駆動時間は100時間とされている。電池以外にUSBバスパワーでも駆動するほか、別売ながらUSBポートに接続して使用するタイプのACアダプターも用意されるなど、電源供給方法の多彩さでは群を抜いている。 拡張機能としてSDカードスロットを搭載しており、オプションのコンテンツカードを利用できるほか、SDカードに保存したMP3ファイルの再生にも対応する。本機能については後述する。
●マイメニューを中心に、使い込むほど便利な工夫を多数搭載 次にメニュー周りについて見ていこう。 メニュー構成は一般的な横型タブ切り替え。特徴的なのは、多くの電子辞書では右端にレイアウトされているマイメニューのタブが、本製品ではいちばん左にレイアウトされていることだ。 一般的に、マイメニューの利用頻度は、電子辞書を使い込むにつれ増えてくる。利用頻度が上がってくると、今度は右端のタブにフォーカスを持っていくのが面倒に感じられるようになる。その点、選択しやすい左端にマイメニューがレイアウトされているのは、キー操作の手間を減らすという意味でよく考えられていると感じる。逆にマイメニューを使わないユーザにとっては、存在がわずらわしく感じられるかもしれない。
個人的に便利だと思うのは履歴機能だ。すべての検索履歴はもちろんのこと、コンテンツ単位でも履歴を表示できるので、過去に検索したことがある単語を効率的に探すことができる。電子辞書の機能の中ではなにげに利用頻度の高い機能だと考えられるため、こうした基本機能をしっかりと押さえている点は評価できる。
また、本製品ではカスタマイズしたメニューや単語帳などをSDカードに保存しておける機能を装備している。そのため、故障や買い替えなどの際でも、従来のカスタム内容を簡単に復元することができる。基本的に同一型番のモデルにしか利用できないのが残念だが、前述のマイメニューの配置と合わせ、電子辞書はカスタマイズしてユーザが使いやすくしていくもの、といった設計思想を感じさせる。 ●コンテンツは少なめ。他社にはないユニークな機能多し 次にコンテンツおよび機能について見ていこう。 搭載コンテンツ数は28。「ブルーガイドわがまま歩き旅行会話」8コンテンツを搭載しているほかは、一般的なコンテンツを広く浅く網羅しているという印象。複数辞書検索機能なども備えるが、重複するコンテンツ自体があまりないため、いざ複数検索をしても複数のコンテンツが表示されない場合が多い。特に英語系の弱さは気になるところだ。 業界初とされる搭載コンテンツが多いのも特徴の1つだ。タイ語の会話集である「ブルーガイド わがまま歩き旅行会話 タイ語+英語」のほかにも、「現代俳句歳時記」「暮らしのことば語源辞典」「忘れかけた日本語辞典」「辞世千人一首」など、他社であまり見ないニッチな顔ぶれが並ぶ。 機能に目を向けると、ユニークなものが多い。例えば、最大5つの単語を同時に検索する「一括検索機能」。語句検索を同時に5つ行なえるという、他社製品にはない機能だ。英単語の日本語訳について、具体的な用例などは不要なので、とにかく短時間で多くの単語の訳を調べたいというニーズには便利だろう。 また、シャープ「PW-AC880」にも搭載されていた、任意の位置にマーキングできる「マーカー機能」も装備している。ただ、「PW-AC880」と違いモノクロ液晶であるため、訴求力はやや劣る。ちなみに反転表示ではなくアンダーラインによる表示だ。
このほか、USBを利用した機能として「USB辞書機能」も面白い。これは、PCで選択した語句を電子辞書に転送して意味を調べるという機能だ。PCを利用してネットで意味を探すのではなく、著名な辞書コンテンツ、例えばスーパー大辞林で語句の意味を参照したいという場合には便利だろう。 ただこの場合、転送にかかる手間がどうしてもネックになってしまう上、搭載コンテンツが少ないことから、複数辞書で意味を見比べるといったことも困難であるなど、付加価値がないのは残念だ。今後の進化に期待したい。 ●充実のMP3プレーヤー機能。上蓋を閉じた状態での操作も可能 本製品に興味を持つユーザの中には、本製品が持つMP3プレーヤー機能に強く惹かれる人も多いことだろう。閉じた状態でMP3ファイルの操作が行なえる本製品は、MP3プレーヤーとして本格的な利用に耐えうる出来となっている。ざっと紹介しておこう。 本製品では、SDカード内に保存されたMP3ファイルを再生することができる。一般的な電子辞書にも語学学習を前提としたMP3再生機能が付属している場合があるが、本製品のそれはイコライザ機能が付属していることからも分かるように、音楽再生を前提とした、音楽プレーヤーとして常用に耐えうる本格的な機能だ。
特筆すべきなのは、上蓋を閉じた状態での操作が行なえることだ。本製品では、本体右側面にレイアウトされている操作ボタンにより、本体を閉じた状態でも再生/一時停止、また早送り/巻き戻しなどの操作が行なえる。特に早送り/巻き戻しはジョグを利用できるため、直感的な操作が可能だ。 画面に表示されるプレーヤーもなかなか本格的。トラック番号や曲タイトル、時間の一覧表示の上に、現在再生中の曲タイトルやアーティスト名が表示されるなど充実している。また、コンテンツを使用しながらの再生にも対応するため、辞書を使いながら音楽を聴くことも可能だ。 ざっと利用した限りでは、マルチメディア再生機能を持ったアイリバーのD5を除けば、本製品のMP3プレーヤー機能は現行の電子辞書としては最強だと言える。電子辞書に加えてMP3プレーヤーを探しているユーザにとっては、本製品は有力な選択肢となるだろう。海外旅行などの際に、荷物をなるべく減らす目的で本製品のMP3プレーヤー機能を使うというのもありだろう。
●パーソナルユース向き。海外旅行向け+MP3プレーヤーとしての利用が最適? ざっと使ってみて感じたのは、生活総合モデルと銘打たれているものの、他社の生活総合モデルとは異なり、かなりパーソナルユース向きのモデルだということだ。他社の生活総合モデルは、家庭に常備していて家族誰もが使えることを前提に数十~百近い豊富なコンテンツが収録されているが、本製品はコンテンツ数はそれほど多くなく、MP3プレーヤー機能に代表されるように、屋外に持ち出しての利用が前提になっている。 具体的に考えられる用途は、やはり海外旅行だろう。音声機能つき8カ国語対応の会話集はもちろん、海外旅行で持ち物をなるべく増やしたくない場合、本製品のMP3プレーヤー機能は十分に実用的だからだ。海外旅行をきっかけに購入し、その後はMP3プレーヤー機能を中心に生活の中で使い続けるといったパターンが考えられそうだ。 逆に、家庭内で家族と共有するために購入するには、画面の小ささやコンテンツの少なさがネックになる。それほど豊富な辞書コンテンツを必要とせず、携帯性および音楽再生機能、海外旅行会話集に魅力を感じるユーザにとっては、有力な選択肢となるだろう。
【表】主な仕様
□キヤノンのホームページ (2008年11月12日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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