ジャストシステムが、例年通り同社の新しい統合ソフト「JUST Suite 2009」をリリースすることを発表した。個人的にも、文字の入力に欠かせない存在となっているATOKも2009バージョンとなり刷新される。今回は、ATOK 2009がもたらす日本語入力環境のパワーアップについて考えてみる。 ●感動変換、ATOK 新しいATOKのキャッチフレーズは「感動変換、ATOK」なんだそうだ。日本語だけではなく、日本語入力システムの先をいく存在として、日本語変換精度向上、英語入力支援、Web連携の3本柱をテーマに掲げ、そのポテンシャルが大きく高められたということだ。 さっそく配布されたベータ版を、いつもの環境に入れて使って見た。 まず、日本語入力精度の向上は、今ひとつ、何が変わったのか実感することができない。もともと、個人的にはかなり細切れの変換で日本語を入力するクセがあり、あまり、その恩恵を受けられないのかもしれない。 進化事例によれば、 1. 「だいさんちょうしゃにむかった」がATOK 2008の「第三兆社に向かった」から、2009では「第三庁舎に向かった」に、 などと進化しているはずなのだが、特に3はうまく変換されず、2008と同じ結果になってしまった。1~3の事例ともに、一度学習させてやれば、次回以降は2008でも正しい変換結果が得られる。似たような事例として、「とうきょうだいにぱそこんきょうかい」などというのを変換させてみたが、最初は「東京大にパソコン協会」となり、文節の区切り直しで「東京第二パソコン協会」となり、正しく学習した。どうも「に」が数字の「二」や「2」ではなく、方向性を持つ助詞として扱われやすい傾向にあまり違いはないように感じた。 辞書の語彙は、トレンド用語や時事関連を考慮して拡充され、「アラフォー」といった単語まで入っているという。これまた、長年の習慣で「あらふぉー」と入力したところで、反射的にカタカナにダイレクト変換してしまうクセがあり、その恩恵が得られない。 20年以上もかな漢字変換とつきあってしまっていると、あらかじめ誤変換を回避するリスク管理を体が覚えてしまっているようだ。ずいぶん貧しいクセがついてしまったものだと思う。これからは、細切れでも、せめて名詞に助詞をつけて変換するように心がけることにしよう。 このほかの強化点としては、四字熟語の誤り指摘の精度向上や、文語モードの強化などで、日本語入力については、びっくりするほどの違いはないが、順当な進化を果たしたといえる。 ●ATOK 4Eで英語入力支援 2番目のキャッチフレーズは英語入力支援だ。ジャストシステムでは、この機能をATOK 4Eと呼んでいる。英語の入力に際しては、日本語入力をオフにして入力するユーザーが多いそうだが、今後は、日本語入力モードでの入力を勧めるという。標準では、「英数」キーを押すことで、このモードに移行するが、たとえば、Shiftキーを押しながら英字を押す、つまり英大文字を入力し始めることでも、自動的にこのモードにはいる。 このモードに入ると、入力される文字が半角英数となり前方一致変換で、1文字入力するたびに候補が絞り込まれ、長い単語でも最初の数文字を入力すれば入力ができるようになる。また、リアルタイムでスペルチェック機能が働き、候補が存在する場合は、Shift+Tabで、スペルチェックタブに切り替わる。 また、統計的処理により、Iの次のamや、Theyの次のareなど、ある単語の次にきやすい単語を推測し、候補として表示する。 スペルがわからなかったり、単語そのものを思い出せない場合は、日本語をローマ字入力すれば、和英タブで英単語の候補が表示される。たとえば「bennri」と入れれば、「convenient」や「convenience」が候補として表示される。でも、「take」と入れても候補は表示されず、和英モードに強制切り替えすることもできない。本当は「bamboo」が出てきてほしいところだ。候補が並んでも、どれを選べばいいのかいまひとつわからない場合は、その候補を選択してEndキーを押せば、電子辞典の検索モードに入る機能も用意されている。 実際に使ってみて、推測される候補を選択するために、下向き方向キーを使わなければならない点にわずらわしさを感じた。方向キーを押すためには、ホームポジションから大きく手を離す必要があり、入力のリズムがとだえてしまう。ここでは、Tabキーを使うことで、推測から省入力候補に切り替わり、結果としては同じ候補からの選択ができるので、こちらの方法を使った方がよさそうだ。 本当は、スペースキーをうまく使って候補選択ができるのがよかったと思うが、スペースそのものの入力に際して、不便を強いられることになりそうなので、こうした既定設定になっているのだろう。ぜひ、英語を母国語にしている人も使いたくなるほどの機能に成長してほしい。少なくとも、発売は2009年の2月なので、まだ、まだ洗練されていくのだろう。 ●文字から文字へを超えて 2つ目のキャッチフレーズとしては、Web連携がある。ATOKダイレクトの機能を強化したもので、2008版でも「ATOKダイレクト for LogoVista辞典検索」、「ATOKダイレクト for Yahoo! JAPAN」、「ATOKダイレクト for はてな」、「ATOKダイレクト for goo」、「ATOKダイレクト for 乗換案内」として提供されているが、その機能が強化され、HTMLによる解説表示が可能になった。提携先としては「はてな」、「goo」、「Yahoo! JAPAN」が予定されていて、入力した単語を元に、これらのサイトのサービスを呼び出すことができる。また、ATOKダイレクトに関しては、そのAPIが10月に公開され、ユーザーがオリジナルのプラグインを開発できるようになっている。今後は、ATOKから多岐にわたるサイトが利用できるようになるかもしれない。 ATOKはその前身であるKTIS以降、個人的にずっとお世話になっている日本語入力システムで、基本的に浮気をすることなく、長年使い続けてきた。かつては、辞書の学習に気を使い、大量の単語を登録したりもしたのだが、近年は、特に学習に気遣いしなくても、十分に実用に耐える語彙を持つようになったため、新たにPCを使い始めるときにも、過去の辞書をどうこうすることなく、単純にセットアップしただけで、そのまま使うようになってしまっている。 ATOKのライセンス体系は、きわめてリーズナブルなもので、パッケージ版は1人のユーザーが同時に製品を使用しないという条件で、他のPCにセットアップしてもかまわない。また、ATOKは月額300円で最新版が使える「ATOK定額制」サービスを提供しているが、こちらも、1人のユーザーが同時に使わない限り、10台までのPCにセットアップして使ってもかまわないとされている。 定額制サービスは、2009年版のリリースとともに新しいバージョンが使えるようになるので、ATOKを使ったことがないユーザーは、今からこのサービスを利用してATOKを使い始めるというのもいいかもしれない。1日10円で得られる幸せとしては、かなりコストパフォーマンスが高いと思う。 ATOKが新たなステージに入ったと感じたのは、推測変換や省入力変換がサポートされるようになった2006版のころだ。携帯電話の日本語入力ではおなじみの推測変換だが、入力中に候補が推測されて表示されるようになり、すべての読みを入力しなくてもよくなった。 ただ、推測変換は、その候補が現れるタイミングが特定できないという難点があったのだが、Ctrl+変換で、省入力変換をオンにしておけば、Tabキーで候補モードに入り、ほぼ同じ候補の一覧が得られるようになる。 こうして原稿を書くようなときには、候補など無視しながら読みの入力と変換を繰り返していくが、たとえば、電車の中で立ったままメールの返事を書かなければならないようなときには、人差し指の雨だれタイプでも、十分に高速に入力ができるので、本当に便利だ。 ともあれ、そろそろATOKは、入力をしないでも目的の情報が得られるモードに向けてさらなる進化をしてもいいのではないか。ATOKに限った話ではないが、IMEはその宿命として、どのようなアプリケーションからもその機能を利用できるというメリットを持つ反面、そのアプリケーションがユーザーからの入力を許すものでなければならないという縛りを持つ。 ATOKはすでに、Office連携ツール for ATOKを組み込むことで、インターネットエクスプローラ等の表示文字列をトリガーに、電子辞書を検索したりすることができるようになっている。 PCをユーザーが使っている際に、文字を入力している時間と、他人が入力した文字を読んでいる時間ではどちらが長いだろうか。 インターネット前夜は、PCは生産の道具であったから、もしかしたら入力している時間がかなり長かったかもしれない。でも、ネットワーク接続が当たり前となり、多くの時間をウェブブラウズに費やすようになった今、必ずしも、PCがゼロから何かを作り出すための道具ではなくなりつつある。 ATOKのトリガーは、読みの入力と変換キーの打鍵だ。それによって、辞書をはじめとしたデータベースを検索し、その結果を表示する。広い意味で、これは、Googleのめざすものと変わらないともいえる。 Internet Explorer 8で実装されたアクセラレータの機能は、ページ内の文字列を選択し、それをトリガにして各種のサービスを利用する。きわめて便利な機能だが、これもまた、ATOKと変わらない。 時代はようやくATOKに追いつこうとしているともいえる。 □関連記事
(2008年12月12日)
[Reported by 山田祥平]
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