メーカー直販のみの販売形態をとっているエプソンダイレクトは、Webや電話を通じて、自分が欲しい仕様の構成を自由に選ぶことができるのが特徴。そのため、同社のPC生産体制は、それぞれの仕様に応じた一品一様に対応するものとなっている。また、全製品を対象に、注文から2日間で納品する「納期保証サービス」を実現するのも、同社ならではの生産体制を確立しているからといえよう。このほど、エプソンダイレクトのデスクトップPCの生産拠点を訪問する機会を得た。エプソンダイレクトならではのモノづくりの仕組みを追った。
エプソンダイレクトは、PCの最終生産を、すべて長野県内で行なっている。デスクトップPCは安曇野市内の生産拠点で、ノートPCは飯田市に隣接する下伊那郡喬木村の生産拠点でそれぞれ生産。例外的に、省スペースデスクトップの「Endeavor ST110」は、ノートPCの部品を利用しているため、部品在庫管理の観点からノートPCの生産ラインで生産している。11月19日から発売したネットブック「Endeavor Na01 mini」は、仕様が限定されていることもあり、中国から完成品として輸入される体制となっている。 言い方を変えれば、中国から完成品として輸入しているのは、Na01 miniが初めててで、唯一の製品。これ以外のすべての製品が、長野県で生産されている。 県内で生産される製品は、基本的にはすべて、受注後2日間でユーザーの手元に届く「2日間納期保証サービス」の対象となっている。仕様が1台ずつ異なる一品一様であるため、事前に在庫を抱えるような生産は不可能。それでありながらも、2日間で納品するというのは、エプソンダレイクトならではの特徴といっていい。 では、エプソンダイレクトは、どうやって一品一様の生産を行ない、これを2日間でユーザーのもとに届けることができるのであろうか。 エプソンダイレクトでは、電話/FAX/Webを通じて受注すると、同社の基幹システムであるEDCS(Epson Direct Computer System)経由で、生産部門に生産指示が発生。同時に、調達部門に対して、部品の発注/引き当ての指示が下りる。生産指示は、1日に2回。前日に注文したものに関しては、翌日午前中からの生産。また、午前中に受注したものは、当日午後から生産されるものもあるという。 部品はライン横に配置されており、これが生産指示にあわせて、半日分ずつラインに投入されることになる。 特徴的なのは、3工程に分けた「仮組み」、そして、仮組み後の部品を一本化する「本組み」という構成をとっている点だ。 仮組みは、筐体へCPU、マザーボード、メモリ、ビデオカード、ドライブなどを搭載する「本体主要部品取り付け工程」、HDDにデータをインストールする「インストール工程」、ケーブルやマウス、マニュアルなどをアクセサリボックスに収納する「アクセサリボックス工程」の3つがあり、これが、それぞれの生産指示に従って、並行で行なわれている。 多くのPCメーカーの場合、セル生産でも、ライン生産でも、1つ1つの工程を順番に追っていく体制としている。だが、エプソンダイレクトでは、3つの工程を同時並行に行なうことで、短時間での生産を可能としているのだ。 同社でも5年前までは、同様にライン型の生産体制としていたが、並行生産ラインへ変更することによって、従来比で1/3から約1/2というリードタイムの短縮につながっているという。 エプソンダイレクトの生産拠点では、工程内はすべてバーコードで管理され、製造番号をもとに進捗を管理。「本体主要部品取り付け工程」および「インストール工程」でそれぞれ仮組みされた半完成品を本組み工程で一本化したのちに、内観検査、安全試験を経て、ドライバやアプリケーションの自動セットアップ、機能検査やコンフィグチェック、外観検査などを行なう。 検査工程では、バーコードをもとに、ハードウェア構成に適した検査項目が自動的に選択され、自動的に実行される仕組みとなっている。
「最近では、OSやアプリケーションが肥大化したこともあり、データインストール時間が長時間化している。半日程度をこの作業に要することになる。その点でも、2日間の納期保証を実現するには、並行して生産する体制が必要となる。検査の自動化への対応を含めて、迅速性、効率化、品質の維持、向上に取り組んでいる」(エプソンダイレクト調達・技術部商品技術第1グループ・横田剛係長)という。 検査工程が完了した後に、梱包ラインにおいて、「アクセサリボックス工程」でセットされたアクセサリボックスを梱包箱に入れて、出荷されることになる。 作業者全員が、組立、インストール、梱包、アクセサリボックスの各工程での作業ができるスキルを持っている。また、作業者の約半数が検査工程まで担当できるという多能工化を進めており、これも、需要の変動や、時間ごとの作業負荷の変動に対応できるベースとなっている。 また、法人ユーザー向けには、キッティングBTOサービスを用意しており、BIOS設定やネットワーク設定、マニュアル冊数を変更するといった細かな要求にも対応している。キッティンBTOグサービスの利用件数は、2007年度は約250件。2008年度は300件を超えることになるという。 エプソンダイレクトでは、「スピード×サービス」をキーワードに、「エプソンのパソコンは、すぐに応えるサービスへ」、「私たちは、お客様をお待たせしません」をキャッチフレーズとして、迅速対応を標榜している。 スピードの言葉には、「プロダクト」、「ご注文」、「お届け」、「サポート」、「修理」の5つを掛け合わせ、それぞれの領域で、先進技術の採用や迅速な対応などを他社との差別化策と位置づける。 なかでも、「ご注文」、「プロダクト」、「お届け」の3つの領域に関しては、生産拠点が深く関与する部分であり、それに向けて、生産拠点の進化が進められている。 一方、エプソンダイレクトの製品には、保証書がない。この理由は、購入したPCの仕様やオプションなどのデータが、すべて同社のシステムに登録されているからだ。これは生産体制とも深く連動しており、生産時にどの部品を搭載し、検査工程でのそれぞれの部品の検査結果はどうだったかといった情報も蓄積されている。 品質問題が発生した際にも、このデータから瞬時に、該当部品がどのユーザーのPCに搭載されているかを掌握でき、迅速な対応が可能となる。「製造番号をもとに、PCに搭載されている約50~60品目の部品を管理しており、これがユーザーごとの部品構成確認や、サポート情報検索といった場面に有効活用できる。また、この情報を法人ユーザーにおける資産管理にも適用でき、当社ならではの付加価値として提供している」という。 エプソンダイレクトでは、一日修理体制を敷いているが、ここでも、EDCSを活用した一貫管理体制により、迅速な修理部品調達などが可能になっている点が見逃せない。 では、エプソンダイレクトのデスクトップPCの生産ラインの様子を見てみよう。 □関連記事 (2008年12月1日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|