大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

RFID活用、生産ライン再編で、競争力のある国内PC生産へ
~NECパーソナルプロダクツ米沢事業場を見る




 NECパーソナルプロダクツは、ノートPCおよびデスクトップPCの生産を行なう米沢事業場において、RFIDを活用した生産革新に取り組んでいる。

 2004年にPC生産ラインの一部に導入して以来、徐々に対応範囲を拡大。現在では、米沢事業場のPC生産工程のみらず、マザーボード製造工程でも採用するとともに、サプライヤーを巻き込んだ取り組みへと対象を広げている。

 一方、米沢事業場に加えて、近隣の施設にも配置していたPC生産ラインを、すべて米沢事業場の内部に一本化するための生産ラインの再編を開始しており、来年早々にも、PC生産ラインが米沢事業場内の1カ所に集約されることになる。これにより、効率化した生産管理が可能になり、コスト削減への効果も期待される。

 このほど、NECパーソナルプロダクツ米沢事業場を取材する機会を得たので、同工場におけるRFIDへの取り組み、そして、PC生産ラインにおける効率化への取り組みなどについて紹介する。

 NECパーソナルプロダクツが、RFIDを生産ラインに導入したのは2004年のことだ。

NECパーソナルプロダクツプロセス改革推進部・須田修グループマネージャー

 「PC生産の効率化、トレーサビリティの向上を目指し、生産領域におけるプロセス改革を加速してきた。これまでのRFIDの取り組み成果としては、生産性が10%以上向上し、生産リードタイムを半減することができた」と、NECパーソナルプロダクツプロセス改革推進部・須田修グループマネージャーは語る。

 同社では、トヨタ生産方式を導入し、調達、生産、物流といった観点から、プロセス革新を図ってきたが、RFIDの導入は、この革新を加速する取り組みの1つと位置づけられよう。

 もともと同事業場では、バーコードによって工程を管理していた。

 生産ラインでは、1日約1万枚が発行される生産指示書に印刷されたバーコードを読みとり、それぞれの仕様に応じた組立作業を行なっていた。また、カンバン方式による部品調達指示なども、同様にバーコードで管理していた。

NECパーソナルプロダクツ米沢事業場(下花沢工場) 部品納品時の数量検品。ゲートを通過するだけで、検品ができる 部品は小分けにしてストックされる。箱の前側に挟まれているのがRFIDによる電子カンバン。
ライン横の部材ストア。緑の線の範囲が従来の部品スペース。半減していることがわかる。デスクトップで約1,000点、ノートPCで約1,600点の部品がストックされている 梱包用のダンボールも小分けで納品。これもRFID導入による効果が大きい CPUなどの部品エリアは、静電気防止用に棚、床を工夫している

NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部・中土井一光事業部長

 「事業場内で1日に読みとる回数は約10万回。それを一度で読みとれればいいが、一度で読みとれない場合にはもう一度読みとるという作業が発生する。しかも、バーコードを読むという作業はまったく価値を発揮しない作業。この改善に向けてRFIDは最適のツールといえた」と、NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部・中土井一光事業部長は、導入の背景を説明する。

 生産工程では、RFIDを搭載したカードを使用。これを各作業者の前に置かれた読みとり機の前にかざすだけで、上部に設置されたモニターに仕様が表示され、同時に目の前の部品棚の必要な部品スペースにランプが点り、そこから部品を取り出して、組み立てるという仕組みだ。

 米沢事業場では、個人向けPCに加えて、カスタマイズによる受注が多い企業向けPC製品の生産も同時に行なっている。企業向けPCでは、受注モデル数では2万モデル以上、そのうち1台受注の比率が約50%、10台未満の受注比率が約80%というように、多品種生産が前提となる。つまり、個別の製品仕様に対応したモノづくりに対応するために、RFIDによる生産指示は、極めて効率的であり、ミスを無くすという意味でも大きなメリットがあるのだ。

 現在、生産ラインでは、HDD、LCD、マザーボードなどモジュール部品については、シリアル番号までトレースできる体制をとっており、部品点数にして、約9割の部品がシリアル番号での管理を実現している。また、残りのほとんどの部品もロット番号でのトレースが可能だ。

ノートPCの生産ライン。3人によるセル生産方式となっている これが生産ラインで使用されているRFID内蔵のカード。 RFIDを読みとると、作業指示書の内容が画面に表示される
読みとると同時に、必要な部品棚のランプが点灯する 液晶パネル部の組み立て。独自に制作した装置で自動的にネジ締めを行なう
各種検査やエージングもこのラインの中で行なわれる 梱包箱は自動で組みあがるようになっている

 一方、マザーボードの製造工程においても、RFIDの導入を開始している。

 ノートPC用の一部マザーボードは、NECパーソナルプロダクツの子会社であるエヌワイデータ(山形県南陽市)で生産されている。ここで生産されるマザーボードに関しては、完成時に切り外す基板部分にRFIDを搭載。LSI、コンデンサ、抵抗などの半導体部品に関してもロット番号までトレースすることができるようになっている。ここでは約8割の部品がロット番号管理の対象となっている。

 中国のODMで生産しているベースユニットに関しても、昨年暮れに実証実験を行なっており、現在では2~3割の製品が対象となっている。今後、中国のODMにおいても、RFIDを活用した生産体制の本格稼働に向けて準備を進めていくことになる。

デスクトップの生産ライン。6人で生産している このように社員が制作した装置が随所にある
ラインのあちこちで検査を行ないながら、組立を行なっている
エージングの様子。生産ラインの裏側で行なわれ、インライン化している 水冷PCは、ライン横で異音検査を行なう。センサーを本体に貼り、振動から異音を判定するため、工場内の騒音下でも検査可能 最終梱包ライン。梱包されるとあとは出荷口に運ばれる

 さらに、部品の調達、物流に関しても、RFIDを活用している。

 従来は、生産ラインに部品が投入されると、カンバンが回収され、サプライヤーの部品搬入業者が、そのカンバンを持ち帰り、サプライヤの倉庫で、次の部品をピックアップし、それを納品するという仕組みだった。カンバンを回収してから、サプライヤの倉庫で部品がピックアップされるまで、約1.5時間を要していた。だか、このカンバンをRFIDとしたことで、生産ラインに部品が投入された段階で、RFIDを自動的に読みとり、そのままサプライヤーに情報が伝送され、リアルタイムで新たなカンバンが発行されるとい仕組みが構築された。

 現在、米沢事業場では、30分ごとに生産ラインへの部品供給が行なわれる体制となっているが、RFIDの導入によるリアルタイム方式でのカンバン発行によって、生産ライン横に在庫する部品数は半減させることに成功。さらに、部品の納品数検品も、従来の目視による検品から、RFIDで読みとる一括検品が可能になり、効率化と作業品質の向上という2つのメリットを実現した。

生産ラインに部品が投入されると、ここでRFIDが読みとられ、そのままサプライヤーに発注がかかる カスタマイズセンター。ここでは、ユーザー企業ごとの要求にあわせた仕様にする。入退出は厳重に管理

 また、製品出荷に関しても、実証実験段階ではあるものの、パレット単位でのRFID管理を行なっており、これにより輸送中や、同社内での在庫ストックにおいて、問題が発生した際にもすぐに対応できる体制の確立を目指す。

 さらに、中土井事業部長はこうも語る。「実は、RFIDの導入効果は、こうした調達、生産、物流の効率化だけに留まらない。これまで取得できなかったデータが、自然に取得できるようになるメリットは大きい。このデータをいかに活用し、効率化、生産性向上につなげるかは、我々の知恵の使いどころといえる」。

 例えば、生産ラインごとの進捗状況、品質状況なども、より細かいデータとして取得できる。1つの作業時間にかかる時間やその変動、また、ラインあるいは作業者ごとの品質評価なども行なえる。何時何分に誰が、どの部品を使用して、どんなPCを生産したかということも、RFIDによって、特別な操作をすることなくデータ収集することができる。これをもとにした生産ラインの再構成や課題解決が可能になるのだ。

完成した企業向けデスクトップPC こちらはコンシューマ向けノートPC。目的地別に積み上げられる
今年の秋冬モデルからノートPCの梱包箱を左のものに変更した。従来の横幅は20cm。これを15cmにすることで、1パレットあたりの搭載数は60箱から80箱に トラックに詰め込まれる完成品。出荷も30分ごとのサイクルで行なわれている

 NECパーソナルプロダクツでは、さらにRFIDの適用範囲を拡大していきたいと考えている。

 サプライヤーでの部品の生産、出荷から、PCの生産、完成品の出荷後の物流センターでの管理までの領域に加えて、販売店での仕入れ、在庫、販売管理への適用、エンドユーザーの利用シーンでの各種サービス、さらには、製品寿命が終わった際の引き取り、解体、再生といったところまで広げていくのが将来構想だ。

 ライフサイクル全般にRFIDを使用することで、販売店での在庫管理のほか、ユーザーが所有する製品仕様にあわせて、必要な情報を提供するといったこともできるほか、企業ユーザーでは資産管理にも活用することができるだろう。また、回収・再生時には、RFIDの情報をもとに使用されている材料別に適切なリサイクルを行なうといったことも可能になる。もちろん、NECが展開している中古PCである「リフレッシュPC」にも、応用することもできる。

 「リフレッシュPCでは、法人ユーザーから使用済みPCを買い取る際に、RFID付きの授受管理伝票を使用済みPCに添付。リフレッシュPCの再生作業を行なっている群馬事業場での搬出入管理、進捗管理を行ないたい。将来的には、PCの関わる調達から生産、出荷、保守サービス、リサイクルまでをトレースできる、ライフサイクル全般に渡ってマネジメントができる体制を目指したい」(NECパーソナルプロダクツプロセス改革推進部・須田修グループマネージャー)という。

 だが、RFIDチップのさらなる低価格化が必要であること、PC本体内にRFIDを配置した際に金属部を通り越して読みとることができるのかといった技術的課題のほか、ユーザーの手元に渡った際に、個人情報管理をどうするかといった課題もある。

 こうした課題を解決していくことが、ライフサイクル全般に渡るマネジメント体制の確立には必須条件となりそうだ。

 NECは、東京・平和島にRIC(RFIDイノベーションセンター)を開設しており、ここでは実際の利用環境に近い環境での検証を行なえる体制をとっている。同センターとの協業も、米沢事業場でのRFIDの導入促進に寄与することになるだろう。

テープストレージの生産ラインを移設することで空いたスペース。ここにPCの生産ラインが新設される

 一方、米沢事業場の生産ラインの体制も、大がかりな変更を開始した。

 米沢事業場の体制は、生産拠点および開発拠点となっている下花沢工場と、パーツセンターとしてスタートした八幡原工場の2つの工場で構成される。ともに車で10分程度で移動できる距離だ。

 これまでPC生産に関しては、下花沢工場の2階フロアでノートPCを、1階フロアではデスクトップPCを生産していたほかに、協力会社におけるPC生産体制を敷いていた。

 今回の変更では、協力会社におけるPC生産ラインを下花沢工場に移設。下花沢工場で生産していたテープストレージの生産を、八幡原工場へと移動する。すでに、八幡原工場には、プリンタの生産ラインを下花沢工場から移設した経緯があり、今回の変更により、下花沢工場はPC生産の専門工場となり、八幡原工場は、周辺機器の生産ラインとして、切り分けた形の生産体制を敷くことになる。

 下花沢工場のPC生産ラインはセル生産方式を採用。再編によって、同工場内の生産ラインは、従来の1.3倍となる約65ラインの体制となる。さらに、作業者の多能工化を進め、これまでノートPC、デスクトップPCに分かれていた生産ラインを、ミックス生産できる体制へと進化させ、所要変動にあわせた生産が行なえるようにする。

 また、八幡原工場には、PC生産のための各種在庫がストックされていたが、これも下花沢工場に移設し、同じ建屋のなかから供給できる部品の点数を増やす。

 PCの生産ラインを米沢事業場下花沢工場内に一本化できたのは、RFIDによる効率化によって、在庫量を削減でき、空きスペースができたことも寄与している。

 同社では、引き続き、RFIDの活用とともに、生産ラインの再編によって、効率化および生産性向上を実現。よりコスト競争力の高い製品づくりに取り組むことになる。

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【2006年11月15日】【大河原】NECパーソナルプロダクツ米沢事業場を訪問
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【2005年11月21日】【大河原】国内生産比率を85%まで引き上げるNEC
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【2004年2月17日】【大河原】NEC米沢事業所はどう変化したか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0217/gyokai87.htm

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(2008年11月25日)

[Text by 大河原克行]


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