NVIDIAは、同社のGeForce向けドライバをRelease 180へとバージョンアップし、その正式版を公開した。すでにベータ版が10月末から公開されているが、バージョン番号の変化からも想像できる通り、Release 170世代のドライバに比べて大幅な機能追加がなされている。ここでは、その新機能とパフォーマンスをチェックしてみたい。 ●Release 180の新機能をチェック
まずは、簡単にGeForce Release 180の特徴を確認しておきたい。図1はNVIDIAの資料に記されたRelease 180の主な強化点である。 第1の特徴は“主要なゲームでパフォーマンス強化を図った”ことである。具体的には、「3DMark Vantage」、「Far Cry 2」、「Assassin's Creed」、「GRID」、「Half-Life 2:Episode 2」、「Unreal Tournament 3」、「World in Conflict」といったタイトルが挙げられている。このパフォーマンスアップについては、ベンチマークテストで確認することにしたい。 2つ目のポイントは“Intel X58上でのSLIをサポート”した点だ。このサポートについては、8月に行なわれたNVIDIA08において表明されていたものである。図2、3で示したように、さまざまなPCI Expressインターフェイスの構成に対応できるようになっている。 ただし、これも既報であるが、Intel X58でSLIを利用するには、NVIDIAからライセンスを受けた認定マザーボードである必要がある。原稿執筆時点でSLI認定を受けているIntel X58搭載マザーは表1の通り。Intel X58であれば、原則として3-way SLIに対応していると考えて良いが、一部の製品はPCI Express x16スロットの物理的な問題で3-way SLIを利用できないものもある。 【表1】SLI認証取得済みのIntel X58搭載マザーボード
今回、テストにあたって、ASUSTeKの「P6T Deluxe OC Palm Edition」とGeForce GTX 280を2枚を用意している(写真1~6)。表1にもある通り、P6T Deluxeは3-way SLIをサポートしていないが、これは、3基あるPCI Express x16スロットのうち、2基が隣接しているためだ。3-way SLIに対応した製品はいずれも2スロットを占有するクーラーを採用しているため、物理的に3枚のビデオカードを装着できないことになる。こうした問題は製品を見れば分かることなので、導入を検討している人は慎重に確認するようにしたい。 3つ目のポイントは“SLI時にマルチディスプレイをサポート”した点である。これまで、SLIを有効にした状態ではマルチディスプレイを使用することができず、複数のディスプレイを持つユーザーは、状況に応じてSLIの有効/無効を切り替えて利用せざるを得なかった。 今回、マルチディスプレイを有効にしたまま、ドライバ側でシングルディスプレイ状態へ切り替えたり、複数のディスプレイを利用してゲームをプレイできる仕組みが用意された(図4~7)。これに合わせてドライバの画面も変更されている(画面1、2)。 4つ目のポイントは“PhysX処理を特定のGPUに専任させられる”ようになったことである。これまでシングルビデオカード時、SLI時ともに、グラフィックレンダリングモードとPhysXモードをGPU内部でコンテキストスイッチして利用されていた。今回追加されたのは、異なるGPUのビデオカードを接続した際に、どちらかをPhysXに専任させることができるようになるというもの(図8)。 先に示した画面1で気が付かれた方もいるかも知れないが、Release 180ではGeForce PhysXの有効/無効設定がNVIDIA Control Panelに統合されている。異なるGPUの複数のビデオカードを搭載した環境(もちろんPhysX対応GPUであることは条件)では、ここで、どちらのGPUにPhysXを担当させるかを選択するようになる(画面3)。ここで担当させたGPUがディスプレイに接続されていない場合は専任状態となるわけだ。ただし、同じGPUを搭載したビデオカードを2枚搭載した場合には、このGPUの選択メニューは表示されない。 ところで、以前のドライバには、PhysXとして動作させるGPUがディスプレイに接続されている必要があるという制限事項があった。画面3に示したのは、GeForce GTX 280とGeForce 9800 GTX+の2枚を装着した環境である。GeForce GTX 280からディスプレイ出力し、GeForce 9800 GTX+にはディスプレイを接続していない状態だ。 この状態で3DMark VantageのCPUテストを試したみたところ、GeForce GTX 280を指定した場合のPhysics Testのフレームレートは「143.83fps」で、GeForce 9800 GTX+を指定した場合には「141.59fps」となる。さらに、GeForce 9800 GTX+をGeForce GTX 280に差し替えSLIを構築せずに同様のテストすると「152.68fps」になる。 このことから、いくつかのことが見えてくる。1つは、ディスプレイを接続していないGPUを指定しても、そちらのGPUでPhysX処理が行なわれる様子であることから、上述の制限は解消されていると判断してよい点。また、ディスプレイ出力とPhysX処理を兼用させた状態よりも、GeForce 9800 GTX+や2枚目のGeForce GTX 280を用意したほうが全般にスコアが良好になる。余裕があれば専任GPUを用意するのが好ましいということになるだろう。なお、NVIDIAでは、PhysX専用GPUについて、現在のゲームであればGeForce 9500 GT~9600 GTあたりで十分だとしている。
●Release 170からのパフォーマンス変化をチェック 本稿ではGeForce Release 180にちなんだベンチマークテストを2種類実施したい。1つは、GeForce Release 170からのパフォーマンスアップが、どの程度をチェックするものだ。テスト環境は表2に示した通りで、原稿執筆時点で最新のWHQLドライバであるGeForce Release 178.24と、NVIDIAより提供された同180.44βを比較する。 【表2】テスト環境
なお、ビデオカード検証用のベンチマークソフトを、今回いくつか入れ替えたので、簡単に触れておきたい。まず、やや古いアプリケーションとなった「F.E.A.R.」を取りやめ、代わりに「Far Cry 2」、「S.T.A.L.K.E.R.:Clear Sky」を追加。また、「Crysis」を「Crysis Warhead」、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」を「LOST PLANET COLONIES」へと、それぞれ変更している。 なお、普段からテストに使っている「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」については、GeForce Release 178.24使用環境において、ゲーム起動時にハングアップする現象が発生したためテストを割愛している。GeForce Release 180.44βにおける本ゲームの結果は、後述のSLIのテストで参照できる。 「3DMark Vantage」(グラフ1~2)は、今回から少しテスト方法を変更した。これまでは、テスト対象製品の性能に適した、3DMark Vantageが持つプリセットを3つ試すようにしていたが、今回から各種クオリティ設定を統一した条件で、解像度を3種類とアンチエイリアス/異方性フィルタを適用した、計6条件をテストする。今回はクオリティ設定をすべてExtremeに設定した。 結果は180.44で安定してスコアを伸ばす結果となっている。Feature Testの結果から、Pixel Shaderのパフォーマンスのみが大きく改善されていることが分かるが、ドライバチューニングの成果が大きく出たアプリケーションになっている。
「3DMark06」(グラフ3~5)、「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ6)は、ドライバアップデートがいずれも結果に大きな影響がないアプリケーションといえる。いずれも誤差程度のスコア差であり、180.44で何も手を入れられていないアプリケーションと考えるのが妥当だろう。
「Crysis Warhead」(グラフ7)は、クオリティ設定をすべて「Enthusiast」(従来のVery Highに相当)に指定してテストしている。178.24で、UXGA/フィルタ適用の条件が何度やってもフリーズしてしまうため、テストを割愛した。 判断が非常に難しい結果となっているが、誤差が非常に小さいアプリケーションにも関わらず、フィルタ適用時にわずかなフレームレート向上が見られる。改良が加えられた可能性はあるが、確信は持てないタイトルという判断になってしまう。
「Enemy Territory: Quake Wars」(グラフ8)も、誤差があまり大きくないアプリケーションであるが、180.44でわずかにスコアが下がる結果も見られる。とはいえ、Crysis Warheadとは、そもそも発揮できるフレームレートが大きく異なる。100fps前後の結果から発生する差としては極めて小さい差で、誤差と見ていいと考えている。
「Far Cry 2」(グラフ9)は、Ultra Highプリセットを使用。本アプリケーションは異方性フィルタ設定をゲーム側が強制的に施すようになっており、ソフト側で設定変更ができないうえに、NVIDIA Control Panelの設定もキャンセルされてしまう。ここでは、解像度別に、アンチエイリアスなしと4xマルチサンプルアンチエイリアスの条件でテストを実施している。 結果は非常に面白いものとなった。NVIDIAの資料にも、パフォーマンスが改善するアプリケーションとして挙げられていたタイトルであるが、アンチエイリアスを適用しない場合では178.24、アンチエイリアスを適用した場合には180.44が、それぞれ明確に良好なパフォーマンスを示す。アンチエイリアス時のパフォーマンスダウンが小さいのは好ましいが、まだまだチューニングの余地がありそうな印象を残している。
「Half-Life 2: Episode Two」(グラフ10)も、NVIDIAの資料でパフォーマンス改善が明確にアピールされたタイトルである。結果は確かに180.44で安定して良い結果を残す傾向が見られるが、明確にアップしたという印象は受けない程度である。過度の期待はできない結果といえる。
「LOST PLANET COLONIES」(グラフ11)は、影/モーションブラー/フィルター/Furの品質を「DX10」に指定。ほかは、いずれの設定も「高」に指定してテストしている。このタイトルは、180.44によるパフォーマンス改善が得られている。5%前後ではあるが、解像度、フィルタの条件によらず安定したフレームレート向上が得られており、導入効果が期待できるだろう。
「S.T.A.L.K.E.R.:Clear Sky」(グラフ12)は、ライティング設定を「Enhanced Full Dynamic Lighting DX10」、クオリティ設定を「Maximum」プリセットにしたうえで、詳細設定からアンチエイリアスと異方性フィルタのみを調整している。ただし、アンチエイリアスが一切適用されず、描画にも性能にも影響が出ない状況だったので、テストはフィルタ適用なしの状態のみで行なっている。 かなりの高負荷を感じさせる結果になっているが、180.44により多少改善されている。とくに1,920×1,200ドットの結果で7%程度のフレームレート向上が見られており、好印象を残している。
「World in Conflict」(グラフ13)は、低負荷の設定ではボトルネックがCPU側にあるためスコア差はない。負荷が高い条件、ここでは1,600×1,200/1,920×1,200ドットのフィルタ適用時に、大幅なスコア向上が見てとれる。はっきりとした性能改善がなされていると判断していいだろう。
「Unreal Tournament 3」(グラフ14)は、今回よりビデオカードのテストではbot表示をさせた場合の結果を省くことにした。ビデオカード側の性能判断にはFlyThroughだけで十分と考えたからである。結果は180.44で安定して良いスコアは出ているものの、そもそものフレームレート高い状況であるうえ、誤差も出やすいタイトルであることを考えると、ドライバによる性能改善とは明確に判断しかねる結果になっている。
●Intel X58上でのパフォーマンスをチェック 続いては、Intel X58チップセット上でSLIを動作させた際のパフォーマンスをチェックしてみたい。環境は先述と同じ。こちらは、どの程度のパフォーマンスアップがあるか、という話が中心であるため、全体の中から気に留まった部分をピックアップして言及したい。テストは次の通りである。 全般に非常に高い効果を得られているが、効果が得られなかったタイトルとして、「Enemy Territory: Quake Wars」が挙げられる。SLIを使うとはっきりとパフォーマンスが低下する傾向が見て取れるのだ。このアプリケーション自体はSLIによる性能アップがある、とされているタイトルであり、現在のドライバに依存する結果と思われる。改善に期待したい。 「Half-Life 2: Episode Two」も、パフォーマンスアップは限定的だが、これは負荷が軽いためであろう。高負荷の条件ではしっかりスコアを伸ばしており、効果がないわけではない。 一方でWorld in Conflictは、低負荷でCPUがボトルネックになりやすいが、低負荷からきっちりスコアを伸ばしており、こちらは伸びこそ小さいものの、印象の良い結果を残している。 ほかのアプリケーションはSLIを構築することで、おおむね良好な結果が得られている。負荷の高いアプリケーションは90%程度のスコア向上が見られる部分もあり、これまでのSLI環境のなかでも、そのスコアの伸びは際だって良い印象を受ける。Call of Duty 4やUnreal Tournament 3で(その意義はともかく)平均300fpsを超えるような凄まじいスコアを発揮しているあたりから、それは感じるだろう。 ●ハイエンドユーザーは導入の価値がある 以上の通り、GeForce Release 180をチェックしてきた。機能面では、明らかにハイエンドゲーマーを対象にしたものとなっているが、SLIのマルチディスプレイ対応などは待望されてきた機能なだけに、嬉しく思うユーザーも少なくないだろう。 また、パフォーマンス面では、178.24から5~10%の性能向上が見られるタイトルがある。パフォーマンスが明確に下がった部分は見られない。また、今回の環境に依存する問題かも知れないが、一部タイトルが動作しなかったり、条件によってフリーズが起こるといった問題が、180.44βで発生しなかったことも付記しておく。最近のゲームを楽しんでいるゲーマーならば、とりあえずの導入をお勧めできるドライバだ。 Intel X58でサポートされたSLIについては、効果のあるアプリケーションでは非常に高い性能を示しており、低解像度からでも高い伸びを示す傾向にある。Core i7が登場したばかりの現時点から、すでに導入できる体制が整っているというのも好ましい。Intel X58でSLIがサポートされたことは、今後、SLIのさらなるイメージアップにもつながりそうだ。 □関連記事 (2008年11月18日) [Text by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
|