山口真弘の電子辞書最前線

第24回 シャープ「PW-AC880」
コンテンツダウンロードに対応したカラー液晶モデル


 



「PW-AC880」。同時発売のPW-AT830との違いは、コンテンツの数と筐体色の違いのみ」

発売中

価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-AC880」は、5型のカラー液晶を搭載した生活総合タイプの電子辞書だ。専用サイト「ブレーンライブラリー」と連携してインターネット経由でコンテンツを追加できるほか、キーワードから英語・中国語の会話文を検索できる「会話アシスト機能」にも対応している。

 本連載の第1回で取り上げた電子辞書は、カラー液晶を搭載したシャープの電子辞書「PW-N8100」であった。あれから丸2年、ワンセグ電子辞書を除いてしばらくラインナップから姿を消していたカラー電子辞書が「Brain(ブレーン)」という新ブランド名を引っさげ、華々しく再登場した。

 今回のモデルでは、コンテンツをWebからダウンロードできる専用サイト「ブレーンライブラリー」と連携し、購入後にインターネット経由でコンテンツを追加できることが大きなウリとなっている。電子辞書ユーザーの悩みの1つとして、進学や就職に伴い、利用するコンテンツが入れ替わっていくことが挙げられる。ハードウェアの進化が早いこともあり、現在は電子辞書そのものを買い換えることで対応する形となっているが、本来は内部のコンテンツを入れ替えられるのが望ましいわけだ。

 その点、今回の「ブレーンライブラリー」というソリューションは非常に興味深い。ビジネスモデル的にはハードルは低くはないだろうが、ハードウェアだけを安価に販売したのち、コンテンツはWebからダウンロードし、ユーザーがオリジナルの電子辞書を作り上げていくというソリューションも見えてくる。

 既存の電子辞書ブランド「Papyrus」とは違ったラインで展開されるこの「Brain」。今回は上位モデルである「PW-AC880」を取り上げたい。

●ずっしり重い筐体。約80時間の長時間駆動を実現

 まずは外観から見ていこう。

 カラー液晶を採用した筐体は、従来モデル「PW-AT780」に比べやや厚めではあるものの、底面積は従来モデルとほぼ同一。もっとも、重量が70g、つまり全体の約20%も増加したため、実際に手に持ってみるとズッシリ重く感じる。350mlのドリンク缶1本分と考えれば、どのくらいの重さかご想像いただけるだろう。

 筐体は、PW-AT780までの直線的なカットを多用したデザインではなく、随所に曲線を取り入れたデザインに変更された。質感は非常に高く、電子辞書としては最高峰に相当するだろう。筐体の重量もプラスに働いている格好だ。

 カラーについても、今回試用したワインレッドをはじめ、どの色も高級感がある。ただ、上蓋およびスクリーン部分は異様に指紋がつきやすく、クリーニングクロスは欠かせない。

上蓋を閉じたところ。質感は非常に高い 重量は約360gと、300g弱だった従来の電子辞書と比べてズッシリ重い 左側面。イヤホン端子とストラップホールを備える
右側面。USB端子とACジャック、スタイラス挿入口を備える SDカードは本体正面から抜き差しする ややデザインが特徴的な背面

 ボタン形状は一般的な角型で、キーサイズ、キーピッチともに十分。決定キーが異様に大きいこと、また上下左右キーが小さく、角張っているために打鍵していると痛く感じる以外は、特に違和感は感じない。色分けなどはされていないが、タッチタイプも問題なく行なえる。

 画面は5型のカラー液晶を採用しており、表現力はモノクロの電子辞書を圧倒している。ただし解像度は480×320ドットと、VGAサイズを採用したSIIの電子辞書などと比べるとやや後れを取る。文字サイズは最大5段階で可変する。

 上段に一列に並ぶファンクションキーは、二度押しをすると別のコンテンツに切り替わるキーと、1つのコンテンツしか割り当てられていないキーが混在しており、直感的に利用しづらいと感じる。そのため、しばらく使っていると、これらのファンクションキーを使わずに右端のメニューキーから探す癖がついてくる。このあたりはキー数や並び順も含め、改善の余地がありそうだ。

リチウムイオン充電池を採用。本体のヘビー化に関係していると推測される キーボード盤面。一般的なQWERTYキーの手前に、手書きパッドを装備。スピーカーは両端に装備されている キートップは従来モデルPW-AT780までのフォントを踏襲している
見出しの前後送り、音量の大小、文字サイズの大小と、似たキーが並ぶ左前部 上下左右キーが小さく、角張っているのが特徴の右前部 従来モデルPW-AT770(右)と並べたところ。設置面積はほとんど変わらない

 メニューは横向きタブ形式。国語系、英語系といった各カテゴリを表示した際に左右に表示されるアニメーション画面は、液晶の美しさを印象付ける効果がある反面、毎回同じムービーが再生されることから、少々わずらわしく感じる。Flashの黎明期に、Webページを読み込むたびにムービーが再生されたのを鬱陶しく感じた、あの感覚と同じだ。メインメニューを「フォトメニュー」形式に切り替えればOFFになるので、わずらわしく感じる人は切り替えておくとよいだろう。

メインメニュー画面。左右キーで上部のカテゴリを選び、上下キーでコンテンツを決定する。左右のアニメーション表示はややわずらわしい 各種設定から「フォトメニュー」に切り替えることで、前述のメインメニュー画面のアニメーション表示をオフにできる
メインメニューを「フォトメニュー」に切り替えた例 一括検索画面。ピンインやハングルでの検索も可能
文字サイズは5段階で可変する(コンテンツによっては3段階の場合もある)

 電池はリチウムイオン充電池を採用しており、ACアダプタ経由で充電を行なう。連続表示は80時間と、カラー液晶搭載モデルとしては非常に長い。ワンセグ電子辞書の現行モデル「PW-TC930」に比べると実に3倍の長さということになり、モノクロ電子辞書と比べても遜色はない。少なくとも、駆動時間の短さを理由にカラーモデルを敬遠する必要はなくなったと言えるだろう。

 後述するように、本製品はPCを経由したコンテンツダウンロード機能を装備しており、USB接続に対応するほか、SDカードスロットも装備する。本体内蔵メモリは100MBと、カシオ製品の50MBを軽々と凌駕している。SDカードは2GBまでの対応となる。

 このほか、手書き入力機能、音声出力機能、MP3再生機能などは従来モデルをほぼ踏襲しており、手書き入力用のスタイラスも付属している。キーボード手前の手書きパッドについてはバックライトも装備されている。

写真からの検索も行なえる 写真から検索を行なったところ。ここから項目にジャンプすることができる
動画からの検索も行なえる 動画を再生しているところ。ここから項目にジャンプすることもできる

●100コンテンツに加え「ブレーンライブラリー」から追加購入が可能

 次はコンテンツについて見ていこう。

 搭載コンテンツは100で、いわゆる生活総合モデル的なラインナップ。うち12のコンテンツでは画像が収録されており、名前が分からない植物や動物を写真から検索したり、地図からその土地の情報を検索するなど、カラー液晶モデルならではの使い方に対応している。

 冒頭にも書いたように、本製品の目玉として、コンテンツダウンロードサービス「ブレーンライブラリー」への対応が挙げられる。これは、PCを経由してインターネット上のサイト「ブレーンライブラリー」からコンテンツを購入し、電子辞書本体に転送して利用するという機能だ。コンテンツは語学や辞書コンテンツのほか、いわゆる電子書籍まで幅広くカバーしている。

 競合となるカシオでも、CD-ROMのコンテンツをPC経由で取り込んで利用する「コンテンツプラス」という機能が用意されているが、本製品ではコンテンツがインターネット上に用意されており、オンラインで購入できるという点が大きく異なっている。

 実際にいくつかのコンテンツを購入してみたが、PCを利用するユーザーであれば難なく利用できるだろう。これまでも青空文庫をダウンロードしてテキストデータとして読むことはできたが、単に「できる」というだけで、面倒さは避けて通れなかった。その点、この「ブレーンライブラリー」であれば、画面の案内に従うだけで容易にコンテンツを購入し、電子辞書本体に転送して閲覧することができる。

PCにインストールした「ダウンロードコンテンツ管理ソフト」を経由し「ブレーンライブラリー」を表示したところ。ちなみにPCとUSB接続する際は、並行してPC側ではソフトの起動、電子辞書側ではモードの切り替えを行わなくてはならず、かなり面倒 ライブラリーからコンテンツを選んで購入する。購入画面は一般的なショッピングサイトと比べて検索機能が弱く、こなれていない印象 購入したコンテンツの一覧。ここから電子辞書への転送を行なう

 また、電子辞書本体の一括検索機能やジャンプ機能はこれらの追加コンテンツにも適用されるので、デフォルトで搭載されているコンテンツと同じように使うことが可能だ(後述のマーカー機能などは利用できない場合が多い)。

 1つ難があるとすれば、「ブレーンライブラリー」のサイト構造だろう。検索が非常にしづらい現在のインターフェイスは、明確な目的となるコンテンツを探すことはおろか、コンテンツのついで買いを促すことはほぼ絶望的だ。ユーザーはいったいどのような切り口でコンテンツを探すのか、いわゆるユーザビリティの部分できちんと対策をしなければ、せっかくのソリューションも画餅に終わってしまうだろう。コンテンツのラインナップも今後の課題の1つだ。

 また、購入したXMDFフォーマットのコンテンツを、XMDFビューアを搭載した同じシャープの携帯電話で見ることはできないのは、少々疑問を感じる。ユーザーからすると、購入したコンテンツをさまざまなプラットフォームで見たいという欲求はあるはずで、せめて同一メーカーの機器間では見られるようになることを期待したい。

ライブラリの画面。ダウンロードしたコンテンツやカードに保存したMPデータなどはすべてこのライブラリから呼び出す。ちなみにこの画面はメインメニューからは呼び出せず、独立して存在しているため、初めての際はどこにあるのかやや戸惑う PCの「ダウンロードコンテンツ管理ソフト」から電子辞書に転送した電子書籍コンテンツの一覧。選択すれば本文が表示される XMDFビューアを使い、ダウンロードした電子書籍を表示しているところ。ルビの有無の切り替えなど、同社の携帯電話用電子辞書ビューアなどと同等の機能を持つ。動作はやや重く感じる場合もあり

●キーワードから会話文を探せる「会話アシスト機能」が便利

 本製品のもう1つのウリとして挙げられるのが「会話アシスト機能」だ。これは、会話の中心となるキーワード2~3語を入力することで、それらを含む英会話文の候補を表示し、合成音で発音してくれるという、海外旅行で非常に役に立つ機能だ。

 例えば「頭」、「薬」と入力すると、これらキーワードを含んだ候補として「頭が少し痛いので薬をください」といった文の英訳が表示されるので、目的の文を選んで音声キーを押すと、発音が聞けるといった具合だ。英語以外に中国語にも対応しており、約8,000文例の候補を利用することができる。キーワードの入力においてはインクリメンタルサーチが採用されており、急いで候補文を見つけたい場合などに、全文を入力する必要がないので非常に重宝する。

 実際に使ってみた限りでは、候補文そのものは多くないものの、類推文が表示されることもあって非常に実用的であると感じられた。ただ、文そのものは類推してくれる一方で、キーワード単位での類語を表示してくれない点はマイナスだ。

 また、キーワードを追加で入力する方法が分かりづらく、画面下に表示されるガイド文がないと操作がおぼつかない。これらの操作方法がもう少しこなれれば、より使いやすくなるだろう。本製品は特に海外旅行用を大きく謳っているわけではないが、この機能だけでじゅうぶんな訴求力を持つと感じた。

キーワードを入力することで、適した会話文を表示してくれる「会話アシスト」機能。「あたま」「くすり」の2語から、「頭が少し痛いので薬をください。」という候補文を呼び出したところ。合成音声で再生することも可能

●カラー液晶ならではのさまざまな機能

 このほか、カラー液晶ならではのいくつかの機能を紹介しておこう。

 まず1つは「三色マーカー機能」だ。これは、コンテンツの任意の単語や部分に対して、マーカーを引くことができる機能だ。ちょうど教科書や参考書に蛍光ペンで印をつけるかのような感覚で利用することができる。マーカー部を隠してテストすることも可能なので、工夫次第で語学学習などに活用できるだろう。

 マーカー機能に関連して、音声で読み上げている箇所をマーカーで反転表示する「字幕リスニング機能」も搭載している。英語学習に便利な機能ではあるが、対応コンテンツを購入する必要があり、標準搭載が望まれるところだ。また、読み上げている箇所が行単位でしかマーカー表示されず、使っているうちに単語単位でのマーキングもほしくなってくる。機能としてはややニッチな部類に入るが、今後の進化が楽しみだ。

 「フォトスライド機能」は、SDカードに保存したJPEG画像を一定間隔でスライドショー再生するというもの。カラー液晶ならではの機能で、画面サイズこそ小さいものの、流行のフォトスタンドに近い使い方が楽しめる。ちなみに、内蔵電源で利用しているとオートパワーオフの設定が適用されてしまうので、途中で休止させたくなければACアダプタを接続して利用するとよい。

MP3再生機能を利用しているところ。SIIの電子辞書のように、ほかのコンテンツを利用しながらバックグラウンドで再生することはできない フォトスライドの画面。これはアルバムとして一覧を表示しているところ フォトスライド機能を利用しているところ。JPEG画像を1枚ずつ再生することが可能
三色マーカー機能では、文中の任意の箇所に蛍光ペンで書いたかのような印をつけることが可能 音声で読み上げている箇所をマーカーで反転表示する「字幕リスニング機能」を搭載。リスニング学習には役立ちそうだ

●コンテンツの充実と使い勝手のさらなる向上に期待

 ブレーンライブラリーを中心に、電子辞書のあり方に踏み込んで新しいソリューションを提案しようとしている本製品。特に電子書籍については、携帯電話並みの購入のしやすさを電子辞書に持ち込もうとしているところが興味深い。現在の電子書籍は専用ハードウェアが1つの障壁になっていることが多いわけで、電子辞書というプラットフォームを利用すれば、携帯電話より大きな画面で、携帯電話よりも大きなメモリ容量の中にたくさんのコンテンツを取り込むことができる。

 ただし、コンテンツの購入/転送にPCが必須であり、管理ソフトのインストールに手間がかかることは、まだまだ改良の余地があると感じる。例えば、電子辞書本体のマスストレージ領域を使うなどして、CD-ROMレスでインストールが行なえるようにするなど、インストール手順の容易化を期待したい。

 もう1つ、インターネットからコンテンツをダウンロードできることをアピールするのであれば、とりあえず現在オプションとして販売されているコンテンツカードのラインナップは、すべてダウンロード購入できるようにすべきだろう。まだサービス開始直後という事情はあるだろうが、現在のラインナップはお世辞にも充実しているとは言えない。このあたりの品揃えで、今後の評価が変わってくるとも言える。

 これまで長きにわたって電子辞書イコールPapyrusというブランド名を使用していたせいか、現在でも同社サイトの電子辞書のタイプ別一覧にBrainが掲載されておらず、バナー経由で専用サイトに行かなければ情報を入手できないといった混乱も見られるが、なにせネット経由でのコンテンツダウンロードを実現したのは、後世になって電子辞書という製品の歴史を振り返った時に1つのターニングポイントになると思われる。今回構築されたソリューションをベースに、さらなるコンテンツのパワーアップと、使い勝手の向上に期待したい。

【表】主な仕様
製品名PW-AC880
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5.0型カラー
ドット数480×320ドット
電源リチウムイオン充電池、ACアダプタ
使用時間約80時間
拡張機能SDカードスロット、USB
本体サイズ145×107.95×20.4mm(幅×奥行き×高さ)
重量約360g(電池含む)
収録コンテンツ数100(コンテンツ一覧はこちら)

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/brain/
□関連記事
【7月28日】シャープ、コンテンツダウンロード対応の5型電子辞書
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1211/jisho010.htm
【2006年11月16日】【山口】シチズン、健康関連の情報に特化した電子辞書(家電)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1211/jisho010.htm

バックナンバー

(2008年10月1日)

[Reported by 山口真弘]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.