機能の実現を電波に頼るデバイスは、特に指定しない限り、使っていないときにも自分が必要な情報を収集し続けていてほしい。少なくとも、ユーザーがそれを指定できるようになっていてほしい。携帯電話しかり、GPSしかり、無線LANしかりである。そして、そのことは、バッテリ駆動時間とのせめぎあいでもある。 ●GPS機能つきカメラ入手 久しぶりにコンパクトデジカメを購入した。入手したのはニコンの「COOLPIX P6000」だ。なぜ、このカメラを選んだのかというと、GPSユニットがついていることと、貧弱とはいえ光学ファインダーがついていることに食指が動いたからだ。おかがで常時身につけているカメラのストラップを含めた実重量が、それまで使っていたパナソニック「Lumix FX33」の158gから270gへと、100g以上増えてしまった。ポーチもそれなりに大きくしたので、重量増加はもっと大きい。これだと、一時期身につけていたソニーのハンディカム「HDR-TG1」とあまり変わらない。 一眼レフデジカメでは、以前にここでも紹介した「di-GPS」をかなり気に入っていっていて、撮影した写真にジオタグがついていることが当たり前のように感じるようになってきている。別にGPSロガーを持ち歩き、アプリケーションを使って撮影時刻との突き合わせで位置を推定し、ジオタグを付加するよりもずっとスマートで簡単だ。ぼくはほとんどの撮影で、保険のためにJPEGとRAWの両方を同時記録するのだが、RAW画像にジオタグを付加できるユーティリティが見つからなかったという理由もある。 ●始まったマイクロソフトとニコンの協力関係 カメラとしてのCOOLPIX P6000は悪くない。もともとニコンのカメラの操作性に慣れているということもあり、すんなりと使えるようになった。気になるところがあるとすれば、撮影時に背面の左側にあるボタンをつい押してしまうということくらいだろうか。 買ってから気がついたのだが、このカメラは、縦位置情報をEXIFに書き込まない。ファームウェアのバグだろうと思ってサポートに問い合わせたくらいで、先方も、最初は、ソフトが対応していない場合は縦にならないというコメントだったが、ニコン純正のViewNXで縦位置の写真が縦にならないというと、まさかという感じで調べてくれ、数時間後に「仕様です」という返事が戻ってきた。 また、このカメラではNRWという新しいRAW形式のファイルを生成する。従来のニコンの一眼レフデジカメが採用しているNEFとは異なるもので、今のところ、NRWを編集する手段は提供されていない。やっかいなのは、JPEGとRAWの同時記録を指定したときに、番号の連続したファイルが2個生成される点だ。ニコンの一眼レフデジカメでは、ベースネームが同じで拡張子だけが異なるファイルが2個生成されていたので、これには困惑した。そして、カメラで再生しても必ず同じ写真が続けて再生される。つまり、JPEGはRAWのサイドカーファイルであるという概念が、このカメラにはないのだ。 また、コンパクトデジカメなので仕方がないとはいえ、処理が遅すぎて、連続して写真を撮るということが、実用の範囲を超えている。これではシャッターチャンスを逃すことの方が多いので、同時記録はあきらめようと思い始めている。 ニコンが第二のRAWファイルを用意したのは、Windows Imaging Component(WIC)との関連だろう。WICは、Windows Presentation Foundation(WPF)を強化するフレームワークの1つとして提供され、アプリケーションが、個々のカメラ特有のコーデックを知らなくても、カメラのベンダーが、コーデックを用意するだけでアプリケーションから扱えるようになる。現在は、新たなカメラが出るたびに、アプリケーション側でそのRAW形式に対応していたが、WICに対応していれば、その必要がなくなるということだ。イメージとしては、PCに接続する各種デバイスの、デバイスドライバ的な位置づけと考えていいだろう。 ニコンとマイクロソフトは、特許のクロスライセンス契約を締結し、両社の協力関係を密接なものにしていくことを発表しているが、このカメラは、その動きの第一弾といえるものかもしれない。 ●実用上難があるGPS機能 さて、肝心のGPS機能だが、これがまたつらい。とにかく、衛星の捕捉が遅いのだ。天空の開け方にもよるが、都心での条件では5分たっても捕捉できないことが少なくない。いったん捕捉してくれれば、電源をOFFにしても、再捕捉は素早いのだが、それでも数十秒かかることは珍しくない。電源ON時には5秒に一度測位を続けるので問題はないが、電源をOFFにして飲食店に入って食事などをして、再び外に出てきたような場合の測位にはかなりの時間がかかる。地下鉄に乗って一駅も移動しようものなら、ほとんどコールドスタートに近く、数分かかるのは当たり前という状況だ。カメラの電源がOFFの場合でも、設定によって90分に一度の捕捉を続けるが、この間隔では実用にならない。バッテリの消費を覚悟の上で指定すれば、常時測位し続ける設定ができるようになっていてほしかった。 いずれにしても、このGPS機能では、測位完了を待って写真を撮るということは実用上できない。衛星の捕捉を待っていては、確実にシャッターチャンスを失うだろう。それならオートパワーオフをしないように設定しようかと思ったら、最長30分ということで、パワーオフをしないという選択肢がない。液晶さえ表示しなければ、そこそこバッテリは持ってくれるだろうと思ったのだが、こういう状況では、せっかくの機能が使われなくなるのだろうなという印象を持った。 ●アプリケーションはそれなりに使える 発売は9月12日だったが、ぼくは前日に量販店から入荷の連絡を受けて購入した。その時点では、このカメラのRAW画像を見る方法はなく、また、ジオタグを処理できるアプリケーションも提供されていなかったが、10月上旬という約束通り、ニコンは「ViewNX」をバージョンアップし、地図と写真の連携機能を追加した。ViewNXは、ニコンのカメラユーザーのための画像閲覧ソフトで、ニコンが無償配布しているものだが、使用許諾書を見る限り、他社カメラユーザーが使ってはいけないという記述は見つからない。当然、サポートや保証はないが、実際、携帯電話で撮影したジオタグつきの写真もきちんと認識してくれる。 使い方は簡単だ。フォルダを指定して写真のサムネールを表示させると、ジオタグつきの写真には地球を模したマークがつく。その写真を選択した状態で、ツールバーのGPSマップボタンを押すだけだ。サムネールの右クリックによるショートカットメニューにも同様の機能が用意されている。写真はジオタグの有無に関わらず複数選択が可能で、GPSマップを起動することで、ジオタグのついた写真だけがプッシュピンとして張り付いた「Google Map」が開く。Google Mapを使う以上、必ずインターネット接続が必要だ。 マップのウィンドウはサムネールのウィンドウとは別に開くがモーダルで、地図表示中はサムネール表示ウィンドウを操作することはできないため、写真の追加等は不可能だ。ウィンドウの右側には選択された写真のサムネールが並ぶ。また、プッシュピンにポインタを重ねると、ウィンドウ上部にその位置の緯度経度標高、撮影日時が表示される。また、プッシュピンをクリックして選択し、もう1度クリックすると、サムネールがバルーン表示される。バルーンにはメタデータタブが用意され、より詳しい情報を確認することもできる。さらに、ウィンドウ右側のサムネールをクリックすれば、対応するプッシュピンの色が変わる。 決してスマートなGUIとはいえず、むしろダサダサだが、これはこれで使いやすい。また、完全手動となるが、地図上の特定位置をクリックするという方法で、ジオタグを書き換えたり、ジオタグのついていない写真に位置情報を書き込むこともできる。欲をいえば、すべてのサムネールを地図上に表示するモードも用意されていればよかったと思う。 なお、欠如している機能として、ジオタグの削除がある。与えられたジオタグを変更することはできても消し去ることができないのだ。したがって、ジオタグつき写真の位置情報を隠蔽したい場合は、太平洋のど真ん中を指定するなど、偽りの位置情報を書き込むしかない。賛否両論あるとは思うが、この点についてはどうにかしてほしいと思う。 ●物言わぬ写真とメタデータ デジタルカメラを使うようになって、すでに10年以上が経過したが、このデバイスが変えた世界観の1つとして、物言わぬ写真にメタデータという付加情報を与えた点がある。その典型的なものは、撮影日時だが、それに加えて、絞りやシャッター速度といった情報もあとで知ることができるようになった。これは素晴らしいことだ。そして、ジオタグは、さらに、どこで撮影したかという情報まで付加してくれる。 ぼくは、ほぼ常時、カメラを身につけているので、携帯電話で写真を撮ることはあまりないのだが、GPSつき携帯電話を使うようになって、再び、携帯電話で写真を撮る機会が増えた。手元のドコモP905iは、海外での位置情報取得が仕様上できないのが残念だが、日本国内だけでも、GPS機能が働くのはうれしい。 おそらく、今後は、携帯電話だけでなく、多くのデジカメにGPS機能が搭載されるようになるだろう。おそらく各社では、その将来を見据えた開発が始まっていると思うが、開発にかかわる方にお願いしたいのは、ユーザーの選択によって、カメラの現在位置を常に取得し続けるモードを用意していただきたいという点だ。バッテリ消費との戦いでもあるが、わかっていて使う分には予備のバッテリを持つなど、肝心なときに撮影できないというリスクを回避する方法はいくらでもある。 携帯電話を手に取れば、すぐにダイヤルできるのは、電話というデバイスが、常に基地局を捕捉しているからだ。それが当たり前である。機能を搭載する以上は、その機能をフルに発揮できるようなお膳立ては用意しておくべきだと思う。
□COOLPIX P6000製品情報
(2008年10月3日)
[Reported by 山田祥平]
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