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不思議の国のAVCHD




 ソニーのハンディカム「HDR-TG1」を購入した。YouTubeに投稿するわけではないが、久しぶりにビデオを撮ってみたくなり、昨年暮れからいろいろ物色していたのだが、この発売を機に思い切ることにした。

●久々のビデオカメラ購入

 ビデオのことに関しては、僚誌AV Watchでおなじみの小寺信良氏に尋ねることにしていて、気になる新製品が出るたびに相談していたのだが、今回は「もう買ってもいいんじゃないですか」の一言で購入を決めた。

 ビデオカメラに関しては、'89年のソニー・ハンディカムCCD-TR55や、'95年のビクターGR-DV1など、マイルストーン的製品は購入して楽しんでいたが、ここ10年ほどは、デジタルスチルカメラばかりを追いかけるようになってしまい、ビデオからは遠ざかる一方だった。

 もくろみとしては、常時、ベルトにつけて携帯していた「Lumix FX33」に代え、HDR-TG1を携帯するようにして、気になるシーンに出会ったときに撮影してみようということを考えていた。

 さすがに重い。

 FX-33がベルトポーチ込みで180gだったのが、TG1は80gのポーチに入れると実測で計380gである。腰につけるとズシリと感じる。縦型の形状は10年以上も前に使っていたビクターの「GR-DV1」に似ているが、当時は、液晶ビューファインダーなどなかった。それでもフルHDカメラとしては世界最小・最軽量なのだからガマンしようという気になれるというものだ。

 使い勝手も悪くない。特に、起動が速いのがうれしい。初回の電源投入時はそれなりに待たされるが、液晶を閉じるとスタンバイ状態が維持され、5分間は1秒待つだけで撮影に入ることができる。5分間はデフォルトで、10分間または15分間を指定することもできる。

 画質等については、いろいろなレビューがすでに出ているので、ここでは詳しく触れない。個人的にハードウェアについては、インタビューする場合などに便利なように、マイクの入力端子くらいはついていてほしかったなと思う。

 このカメラでは、フルHD映像をMPEG-4 AVC/H.264で記録し、AVCHD形式でメモリースティック PROデュオに記録する。また、設定を変更すれば、MPEG-2でのSD映像の記録も可能だが、ぼくはフルHDを使うことにした。10年くらいたって見たときにも、それなりに鑑賞に堪えてほしいとの願いからだ。ちょうど10年前の'99年、ニコンのデジタル一眼レフカメラD1を購入したとき、最初のうちは、JPEGばかりで撮影していたのだが、今にして思えば、なぜ、RAWで撮っておかなかったのだろうと後悔している。手軽だからとMPEGで撮影していると、なんとなく10年後に似たような後悔をしそうな気がするのだ。

●謎が多いAVCHD

 このTG1をPCの観点から見たとき、どうにも気になるのがAVCHDという規格だ。この規格はファイル形式だけを規定したものではなく、どのような種類のファイルをどのようなツリー構造で配置するかということを取り決めたものだ。

 メモリカードのルートには、AVCHDという名前のフォルダが置かれ、その中にBDMVというフォルダが作られる。さらに、その中に、CLIPINF、PLAYLIST、STREAMというフォルダが置かれている。撮影した映像データの実体はSTREAMフォルダの中に、シーンごとに連番を振られたMTSという拡張子のファイルとなって記録される。

 一緒に記録される各種の制御ファイルによって、シーンの再生順序やサムネールなどの情報が得られ、カメラ本体での再生などで使われる。が、ぼくとしては、このカメラでの簡易編集にはまったく興味がないため、とりあえずは、映像データの実体であるmtsファイルだけを保存することにした。

 まず、再生に関しては、CorelのWinDVD9 Plusを購入し、mtsファイルに関連づけて、ダブルクリックするだけでファイルを再生できるようにした。TG1には、いくつかのソフトが添付されているのだが、AVCHD構造そのものを扱うようにできているために、どうにも使い勝手が悪い。メモリカードが半分くらい埋まった時点で、mtsファイルをPCにコピーし、メモリカードは初期化してしまうということを繰り返して使うことを想定すると、やはり、ファイル単体で管理するほうがラクだ。

 ところがそこに落とし穴があった。デジカメ写真のEXIFのように、撮影日時や撮影カメラなどの情報を見る方法がないのだ。添付ユーティリティを使えば、ある程度はわかるようなのだが、ファイル書き込み終了時のタイムスタンプをそのまま使っているようにも見える。ここは、うまい方法を考えないと、映像がいつのものなのかがまったくわからなくなってしまう可能性がある。

 AVCHD規格の詳細がよくわからないのだが、どっちにしても、将来的に、複数のクリップをつなぐような編集を加えた場合、特定のシーンの撮影日時を知る方法があるのかどうか、ちょっと心配だ。普通に考えれば、撮影開始日時さえ記録しておけば、画面に撮影日時をリアルタイムで表示/非表示するようなことは簡単にできそうにも思う。

●時間が生む新たなソリューションで過去のデータが生き返る

 8ミリビデオとminiDVのカメラを使っていたことは、冒頭に書いた通りだが、当時の撮影済みテープは、さすがに捨ててはいないが、何が何だかわからないような状態になっている。テープには、当然シーケンシャルにデータが記録されているし、ラベルをつけて内容の概略を書き込んでおかなければ、外見からは何もわからない。カセットをデッキにセットして順に見ていくしかないのだ。めんどうなのでファイル化もしていない。

 これは、手元にある現像済み銀塩フィルムも似たようなものだ。ただ、フィルムはリバーサルならサッと灯りにすかしてみれば、内容はわかるし、ネガだって、だいたいのことは把握できる。

 一方、デジカメ写真はどうかというと、過去に撮影したすべてのファイルを1台のHDDの中にフォルダ分けして入れてあるので、10年以上分の撮影済み画像が、たちどころに日付順に出てくる。フォルダ整理は乱雑だが、とりあえず気にしない。入れておけばなんとかなる。適当な名前のフォルダに入れることは、メタデータとしてタグをつけられなかった時代の名残りでもある。

 フォルダ構造にかかわらず、すべての写真を日付順に並べてくれるソフトとしては、著名なところでは、アドビのPhotoshop Albumが、その走りだったと思うが、今では当たり前のように各ソフトがこの機能を搭載している。適当に放り込んでおき、見るときにメタデータを使って抽出するというやり方は、とても便利だ。

 テープ保存の映像や、フィルムなどのアナログ情報は、古いものを見る機会がとても少なくなってしまうが、丸ごと1台のHDDにまとめてあるデジカメ画像は別だ。時間がたてばたつほど、いろいろなソリューションが提案され、過去のものを含めて鑑賞の機会が増えたりもする。また、過去のRAW画像が残っていれば、最新のレンダリング技術で高精細な画像に生まれ変わらせることもできるかもしれない。

 ビデオカメラがデジタル化されたことで、ビデオ映像もまた、デジカメ画像のように、メタデータをふんだんに持ったファイルオブジェクトとして扱えるようになったのは歓迎すべきことだ。でも、AVCHDという規格は、そのメリットをことごとく殺しているように思えてならない。なぜなら、せっかくファイルとして独立したはずのビデオデータを、物理メディアの枠の中に囲い込んでしまっているからだ。これじゃテープと同じじゃないか。

 実際、添付のユーティリティで、メモリカードからビデオを取り込むと、mts拡張子は、m2ts拡張子に変わり、さらに MODDという拡張子のサイドカーファイルができる。その中に、XMLとして各種の情報が保存されているようだ。しかも、このユーティリティ、仕様として、AVCHDのディスクイメージからしかビデオを取り込めない。あとで取り込もうと思ってメモリカードの内容を適当なフォルダに丸ごとコピーしておいても、そこから取り込むということができないのだ。

 また、ユーティリティはサムネール情報などを保存するサイドカーとして、MOFF拡張子のファイルも生成する。こちらはバイナリだ。つまり、オリジナルのmtsファイルだけでは情報が足りず、関連情報を別ファイルで残す必要があり、それはAVCHDの管理情報ファイルから持ってくるということのようだ。

 最終的に、1つのビデオクリップにつき、ファイルが3つ必要になるようだ。これは、とても使いにくい。3つのファイルで1つのクリップということで、MS-DOS時代の一太郎ドキュメントを思い出してしまった。この3つのファイル構成が、規格としてAVCHDを名乗るすべての製品で同じであってほしいがどうなろだろう。いずれにしても、動画ファイルにメタデータを埋め込むことは、MPEG時代にも積極的に行なわれてこなかったのだから、どうにも変な業界だとも思う。

 でも、フルHD映像は走り始めたばかりだ。デジカメ画像がそうであったように、これから、デジタルの強みを活かしたソリューションがたくさん生まれることを願いたい。それまでは、撮りためるだけで辛抱することにしよう。ためておけば、あとで何とかなるのがデジタルだからだ。スチルカメラデータの時代がそれを証明している。

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【4月9日】【EZ】ポケットサイズのハイビジョンハンディカム「HDR-TG1」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20080409/zooma353.htm

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(2008年5月23日)

[Reported by 山田祥平]


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