Hewlett-Packard(アジア太平洋/日本-APJ)が、香港において「HP "Engage. Excite. Experience" media summit」と銘打ったプレス向けのイベントを開催、コンシューマ向けのPC、および、プリンティングに関する新製品を一気に発表した。世界一のPCベンダーであるHPだが、最近は、コンシューマ市場への注力が特に目をひく。 ●今こそPCの外見を変えるとき 最近のHPは、以前はちょっと考えられなかったほど、PCのデザインに凝るようになってきている。製品のデザインに凝るのは日本のベンダーでは当たり前のことではあるが、HPは、ずっと無骨な質実剛健とした製品作りをしてきた印象が強く、その変貌ぶりには、古くからのHPファンはとまどいさえ覚えるくらいだ。 HP APJでPC関連事業を担当するPSGのシニアバイスプレジデントである See Chin Tek氏は、この動きについて、PCの外見を気にするユーザーが増えてきたことを挙げる。 「今こそ、外見を変えるときだと思います。PCがあまりにも急激に変わってきているのに、これまでは、外見がそれについてこれていなかったように思います。だからこそ、リフレッシュさせなければなりません。ユーザーも変わっています。これまでは、テクノロジーを気にして購入する製品を選んできましたが、それが変わってきているのです」 個人的には、この動きには、ちょっとした危惧感を持っている。うがった見方をすれば、外見がどんどんおしゃれになり、親しみやすいものになっても、中身はいわゆるPCだからだ。Windowsがインストールされ、いくつかの特別なアプリケーションが入っていたとしても、しょせんはPCであり、それでできることは、5年ほど前のPCと、そんなに大きく違うわけではない。 もし、コンシューマが、その見かけにつられて、新しいPCを購入したとして、使ってみたら、自分が以前に使っていたPCと何も違っていなかったとしたら、がっかりしてしまうことだってあるかもしれない。 たとえば今回、HPは、世界的に著名なデザイナーであるヴィヴィアン・タムとパートナーシップを締結し、彼女のデザインした天板を持つノートPCとして「HP Vivienne Tam Special Edition」を発表している。日本での発売は未定だが、牡丹の花をモチーフにした真っ赤なデザインについて「その幾重にも重ねられた花弁が、自分のスタイルで自分を表現することが上手で、同時にその豊かで多面的な生活の中にテクノロジーを取り入れることに長けている現代の女性に通じるものがある」とHPはアピールする。確かに、そのデザインは、これまでのPCとは明らかに違うし、きっと、多くの女性の興味をひくににちがいない。 こうしてカタチからPCを選ぶユーザーが増えてきているのは、昨今の廉価なNetbookのトレンドを見てもわかる。小さくてかわいいノートPCが、明らかにPCの市場を牽引しているからだ。PCのことをよくわかったユーザーが、2台目、3台目のPCとして、メインのPCよりも処理能力が多少劣ることを納得した上で、Netbookを選ぶのはいいと思うが、自分の持つ唯一のPCとして、Netbookを選んでしまったユーザーは、そのパフォーマンスに不満を感じることはないだろうか。 「ブランドというのはデザインとバリューの両面で構成され、それらがすべてブランドの中に含まれます。これまでは、女性がPCを持ち歩くなどということは、ほとんど考えられなかったわけですが、これからは、それも珍しくなくなるはずです。もっとも、われわれとしては、TPOに合わせてデザインの異なる複数台のPCを買ってもらうといったことがあれば、もちろん、大歓迎なのですが、まだ、そういうことは考えてはいません。女性には、ハンドバッグをたくさん買ってもらって、気分に応じて持ち替えてもらい、そのときに、他の中身といっしょに、お気に入りのPCを入れて持ち歩いてくれれば、それだけで、十分にうれしいことなのです」(Tek氏)。 ●顧客が本当にほしがっているPCとは Tek氏は、市場がイノベーションを求めていることは先刻ご承知だ。日本という国が先行して追いかけているトレンドを、たとえ後追いであっても、追いかけていかなければならないこともわかっている。そのために、日本に特別なチームを置いているくらいだし、最近は、そのスタッフの増員も考えているという。残念ながら、HPの日本における知名度は、世界一のPCベンダーとしては、今一つという結果になっているが、その日本のチームが、HPの製品作りにかなりの貢献をしているというのは、部外者であっても日本人としてうれしく思う。 「PCはすでに日常であり、単なるツールと化してしまっていました。それに徹して製品を作るのは簡単ですが、でも、それは、顧客が本当にほしがっているものなのでしょうか。違うと思います。だから、われわれは大胆な方向転換をすることにして、本当にパーソナルなPCを考え、そのデザイン、そして、ユーザー体験を変えようとしています。コンピュータが、パーソナルであることを強調したいのです」(Tek氏)。 Tek氏は、現在のコンシューマカテゴリが、子供が家の中を走り回っているような「ヤングファミリー」、常にトレンドを追求する「ユース」、すでにオンラインショッピングには男性よりも熱心であるまでになった「ウーマン」に分類し、それぞれに訴求する製品作りをアピールする。 「ある日、気がついたんです。世の中のほぼ半分は女性ですよね。なぜ、今まで、半分の人しかPCを持ち歩かなかったんだろうと。きっと、ハンドバッグに入るサイズ、そしてハンドバックに入れてもおかしくないデザインの製品を作れば、それがPCとそれがもたらす体験を変えるはずです。だからこそ、ビビアン・タムにお願いすることにしたんです」(Tek氏) ●消費者の購買行動を先取りしたソリューションの提供 HPは、ソリューションを提供する企業として、コンシューマの市場に対しても、ある種のアピールができるはずのベンダーだと思う。HPにとっては、PCのデザインに凝ることは、ソリューションの1つであると考えれば納得もいく。その上で、女性に限らず、PCを持ち歩くことが、どのように世界を変えるのかを、ソリューションとして提供することができれば、確かに、PCの世界は大きな変革を体験できそうだ。 たとえば、HPが企業向けに提供しているさまざまなソリューションがある。データを多重化したり、強固なセキュリティを確保したり、高速で安定したネットワーク環境などだ。もし、これらをコンシューマ向けに咀嚼して提供することができれば、きっとPCの世界も多く変わるだろう。まさに、HPならではのPCができそうだ。 このことは、HP APJ イメージング/プリンティング事業担当のシニアバイスプレジデントであるChristopher Morgan氏のコメントにも象徴されている。 「イメージングやプリンティングという事業は、何も、プリンタ機器やインクを売ることだけに集約されているのではありません。イメージング/プリンティングを取り巻く、さまざまなソリューションを、パートナー企業と協力しながら提供していくことで、常に変化し続けている消費者の購買行動を先取りし、常に期待に応えられるようにしていくのが、われわれのミッションです」 それこそが、まさに、ソリューションだ。HPは世界各国でオンラインプリンティングサービスとしてSnapfishを提供しているが、自宅でプリントするユーザーがいなくなってしまうんじゃないかと心配してしまうくらいにビジネスは好調だという。だが、彼らにとっては、ユーザーの選択肢を増やし、イメージングの世界における強固なブランドを確立するという点で、オンラインプリント市場の活性化は、プリンタを売るのと同じくらいに重要な要素なのだ。 ユーザーのニーズに合致した魅力的なソリューションを提供することができれば、必ず、新しいムーブメントが起こる。デザイン指向のPCやオンラインプリントサービスなどは、その皮切りにすぎない。かつて、IBMがモノとしての製品を提供する企業から、サービスを提供する企業に鮮やかな変身を遂げたように、今のHPは、明らかに、その舵を大きく切り直している。そのことが、如実に感じられたイベントだったように思う。
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(2008年9月19日)
[Reported by 山田祥平]
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