Hewlett Packard(HP)はアジア太平洋地区における年末向けの新製品発表会「Big Bang 2008」を香港で開催。PC関連およびプリンタ関連の新製品を一同に集めた。 PC関連製品はすでにニュースリリースなどで公開済みだが、一部のPC、それにすべてプリンタに関しては今期初公開となる。なお、いずれの製品も、“日本で発売される製品はどのモデルか”、“日本でいつ発表されるのか”については、現時点で公開されていない。 PC関連では高品位な素材を用いてデザインを重視したHP EliteBookシリーズが初披露(海外では発表済み)され、ファッションデザイナーのヴィヴィアン・タム氏とコラボレーションしたミニノートPCのプロジェクトが初披露された。また、コンシューマ向けノートPCの中でも質感やデザイン、性能を重視したハイエンドラインとして追加される予定になっていたHDXシリーズも2機種が紹介された。 一方、プリンタ関連では5色の新インクシステムを用いたエンジンが投入された。キヤノンと同様にサーマルインクジェット式ながら2つのインク滴サイズ(1.3plと5.2pl)を使い分けることで、従来の5pl6色エンジンと同等以上の画質を実現したという。 それぞれを順に見ていこう。 ●ライフスタイルごとに異なるPCを提案
今年、HPのアジア太平洋・日本地区のパーソナルシステムグループ・上席副社長に就任したばかりのSee Chin Teik氏は「かつてPCは道具として高性能であれば良く、デザインやスタイルをメーカーが気にすることはなかった。しかし今、PCもっとパーソナルで生活に密着した製品になってきた。ユーザーが欲しい製品はどんなものなのか考え、 質感やデザインにこだわり、ライフスタイルの違いによって変化するニーズに対応していく必要がある」と話した。 昨今のHPは凝ったデザインの天板を採用したり、筐体表面の質感にこだわるなど、プロセッサやメモリやHDD容量といったスペック以外の部分に趣向を凝らしたPCを用意し、世界的に成功している。今年はその流れがさらに強まり、ノートPCの液晶を開けても、閉めても、あらゆる面のディテールやフィニッシュにこだわって開発しているようだ。天板だけでなく、デザインのコンセプトはキートップからヒンジ、ボタン類の配置にまで気を遣っているのが伝わってくる。
これらデザインコンシャスな製品が狙うのは、もちろん既存の個人ユーザーでもあるが、さらに突き詰めると、これまでPCを積極的に使ってこなかった潜在的な顧客層にも伝わるものだ。これまでもデザイン面からの訴求は行なってきたが、さらに一歩踏み出してデザイナーとのコラボレーションモデルを開発した。 「人口の約半分は女性です。しかし、調べてみるとインターネットにアクセスするコンシューマのうち66%が女性だとわかりました。さらにオンラインで買い物をする人たちのうち56%が女性なんです。家庭においては女性が購入時の決定権を持っていることが多いものですが、それだけでなくネットの世界では女性の存在感が非常に大きい」。 そうTeik氏は話し、そして中国系イギリス人デザイナーのヴィヴィアン・タムがデザインしたミニノートPCを紹介した。ヴィヴィアン・タムモデル「HP Vivienne Tam Special Edition」は、真っ赤なチャイナドレスを思わせるボディに牡丹の花模様をあしらったテクスチャが特徴。単純な外装テクスチャだけでなくキーボードや液晶パネルのベゼルなどまで含めたコーディネートがされており、付属品やパッケージデザイン、デスクトップのテーマに至るまで細部にこだわった特別仕様になっているという。 その詳細な内容は公開されていないが、おそらくHP 2133 Mini-Note PC、あるいはその後継モデルをベースにデザインしたと思われる。発売は来年、価格は未定だ。 もちろん、女性向けだけではない。今年のHP Pavilionはメタリック調の外装が施され、より高級感を引き出すデザインが与えられている。中でもハイエンドとなる「HP HDX Pavilion Premium」シリーズは、3Dゲームを始め高パフォーマンスを必要とするユーザー向けにあらたに追加されたシリーズだ。すでに日本でも発表されているdvシリーズの上位製品に位置づけられる。デスクトップPCの「HP HDX 900」、ノートPCの16型「HP HDX16 Premium」、18.4型 HP HDX 18 Premium」の3機種がある。
また企業向けハイエンド機のシリーズとなるEliteBookは3機種のラインナップとなる。従来機のタブレットPC、2710pが新たにEliteBookのサブブランドを配してラインナップに組み込まれ、これに12.1型WXGA LEDバックライト液晶パネル、200万画素カメラ搭載で2スピンドル機も用意するEliteBook 2530p、14.1型WXGA+(1,440×900ピクセル)液晶パネル搭載(LEDバックライトモデルはWXGA)のEliteBook 6930pの2台が新モデルとして発売される。 新製品の2機種はCentrino2プラットフォームに対応し、液晶裏カバーにはマグネシウム合金の計量フレームと傷に強い硬質アルマイト処理されたパネルを組み合わせた質感の高いパーツが使われ、各種セキュリティ機能、キーボードライトなどが装備されている。重さは14.1型モデルが最軽量構成で約2.1kg、12.1型モデルが同じく最軽量の構成で約1.2kg。14.1型モデルには標準の6セルバッテリに追加12セルバッテリを加え、18セルで24時間動作させることも可能だ。 Teik氏は「EliteBookは機能性と質感、デザインを融合させたビジネス機。HDXはファッショナブルかつパワフルなコンシューマ機。中のテクノロジはCentrino2だが、製品のコンセプトと開発の方向は全く異なるものだ」と話した。 個人的にはEliteBookのシリーズ展開に期待したい。Pavilionシリーズは従来の方針をさらに推し進めた新製品だが、EliteBookは“ビジネスツールとしてのノートPC”のあり方に一石を投じる製品になるかもしれない。ここ数年、ビジネス向けノートPCはコスト優先の製品が中心で、以前ほどコストをかけて品位を上げた製品が作りづらくなってきている。
その中でデザイン、品質感、機能などを備えた上位機が用意されることは、選択肢の1つとして歓迎できる。 また、HPは独自に開発したソフトウェア基盤で簡単操作を実現するTouch Smartシリーズを展開しているが、このTouch Smartシリーズに25.5型液晶パネルを搭載したTouch Smart X800が追加される。フルHD解像度を持ち、Blu-ray Discドライブを搭載するX800は、Mini Pocket Media Drive(HP独自のスロットイン型USBドライブ)スロットが装備されるほか、日本市場向けにはTVチューナの内蔵を検討中だ。日本での発表を待ちたい。 ●シンプルにまとめたプリンタ群の意図
一方、個人向けプリンタに関しては、従来よりも一層、シンプルなモデル構成となり、フォトイメージング機能に特化した複雑なモデルは用意されていない。冒頭に述べたように今年はプリントエンジンが一新されたがインク数は5色。最小1.3plのインク滴で写真画質を狙いつつ、文字印刷向けには顔料系インクを用意することで普通紙へのにじみが少なくシャープで高コントラストの文書印刷を実現している。 この新プリントエンジンを搭載するのは3機種。複合機は「Photosmart C6380/C5380」の2機種で、前者の方が若干印刷速度が速い。印刷速度はC6380が最高モノクロで33ppm、カラーで31ppm(いずれもA4サイズ)、C5380がモノクロ毎分31ppm、カラーが30ppmだ。両製品ともに2.4型液晶パネル、無線LANが搭載され、CD/DVDのレーベルプリント機能を持つ(上記はいずれも複合機だが、単機能機のPhotosmart D5460も新プリントエンジンを搭載している)。 しかしなんと言っても驚かされるのはその価格だろう。発表されたPhotosmartシリーズのプリンタでもっとも上位となるC6380でさえ199ドルである。また、ワイヤレス機能を重視しており、139ドルの下位モデル「Photosmart C4580」にも無線LANを搭載していた。 全体にラインナップが絞り込まれ、よりシンプルに、しかし便利に、安価にプリントを楽しむという方向だが、しかし機能や画質といった面をあまり追求したように見えない点には、食い足りないという読者もいるのではないだろうか。実際の印刷結果を見る限り、むしろ6色インクシステムの従来機よりも、新しい5インク機の方がきれいではあるが、実際に印刷結果を見るまでは理解するのは難しい。
しかし、こうしたシンプルにまとめたラインナップには、HPなりの戦略意図があるようだ。というのも、HPは高付加価値のプリントはコンシューマ向けオンラインプリントサービスのSnapfishでカバーしようとしているからだ。SnapfishならばHPがデザイングラフィックス向け、あるいはDPE向けに開発したシステムを用い、高品位な印刷物のサービスを提供できる。 上位機を高機能化、高画質化していくよりも、普段使いの使いやすさやランニングコスト削減、本体コスト削減をめざし、それではカバーできない一部の領域をSnapfishでカバーするというわけだ。 これはユーザーが自分自身で印刷する頻度が下がることを意味している。言い換えればHP自身がプリンタで利益を挙げるチャンスを減らしているとも言えるだろう。しかし、Morgan氏は「確かに家庭内で写真を印刷する機会は減るかもしれない。しかしオンラインでの印刷や、印刷サービスを提供している店舗での印刷へとシフトするとしても、そのエリアでHPがソリューションを提供していれば、結局、それは我々のビジネスにとって同じことだ。ユーザーにとってどちらが便利なのかが重要。すぐに印刷結果が欲しいならばプリンタで、もっと多様なことがしたいならばオンラインサービスをと、ユーザー自身が選択すればいい。どちらにしろ、我々のプリンティングソリューションが用意されている」と話す。「つまり、プリンタビジネスから脱却し、プリンティングビジネスへと移行するということだ。プリンティングビジネス全体を支えることで、ユーザーの利便性や品質を維持しながらコストを下げることができる」(Morgan氏)。 同様の考え方は、中小規模事業者向けにも考えているようだ。社内出版物などのデザインや出力といった専門部署を持たない中小企業に対し、同じようなサービスが提供できるのでは、と質問したところ、Morgan氏は「たとえばロゴデザインや文書の整形などの付加価値サービスも含め、オンラインでサービスを提供するといったことが可能だろう。現時点では何も発表できないが、内部で検討はしている」と話した。 □Hewlett Packardのホームページ(英文) (2008年9月18日) [Text by 本田雅一]
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