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インターネット エクスプローラー8、その音引き分の付加価値




 Microsoftが「インターネット エクスプローラー 8」の日本語版ベータを正式公開、予定されているすべての機能が実装されてのベータテストが始まった。かねてより予定されていた用語の表記ルール変更を反映した最初のプロダクトである。この次世代ブラウザは、新たに付加された語末の長音「ー」とともに、Windowsユーザーにどのような付加価値をもたらしてくれるのだろうか。

●OSとブラウザのチック・タック

 IEはOSと密接に関連しているといいながら、ほとんど常に、OSのリリースとは独立してメジャーなアップデートが行なわれてきた。最初のバージョンは、なんと有料で、Windows 95と同時にリリースされたMicrosft Plus!に添付されていたものだった。Windows 95そのものが、日本では半年遅れだったため、そのときにリリースされたバージョンは2.0となっていた。その直後、'95年の暮れ、Microsoftはシアトルにプレス関係者を集め、ビル・ゲイツがこれからはMicrosoftはインターネットを最重要課題として認識することを発表、以降の取り組みを表明している。

 Microsoftでは、業界標準への準拠とIE7との互換機能をベースに「速い」「便利」「安心」を提供するのがIE8の使命であるとしている。多くの便利機能を付加価値として追加実装しながら、セキュリティ面での積極的な防御機能を搭載し、それでいて各種処理が高速化されている。Vista上のIE7と比べても5倍高速化されているとのことで、それだけのことで、Vistaのもっさり感が解消されそうな印象さえある。

 そして、冒頭に記した通り、Microsoftの日本語版製品としては、初めて新たな表記ルールにしたがい「インターネット エクスプローラー」と語尾に音引き記号がつく。ファイルをダウンロードすれば「フォルダー」を指定しなければならないし、印刷には「プリンター」が必要だ。

 個人的には、用語ルールに関しては媒体ごとのルールにしたがってきたが、個人で出す単行本などでは'80年代から、新聞用語と同様にこのルールを使ってきた。わかっているつもりでも、実際にダイアログボックスなどで表示されると、ちょっと不思議な感じがするから勝手なものだ。

●ほとんどない見かけの変化

 インストールは簡単だ。Microsoftのサイトを開くと専用ページにリダイレクトされ、そこからダウンロードのリンクを開くと、ダウンロードセンターの該当ページに誘導される。

 それでダウンロードボタンをクリックすると、Vista版では13.6MBのファイルとして、IE8-WindowsVista-x86-JPN.exeがダウンロードされる。その「フォルダー」を開いて、「ダウンロードフォルダ」で、このファイルを実行すると、インストールが始まる。

 OSと密接な関係を持つため、IE7までは、目の前で起こっていることが、OSとIE、どちらの仕事なのか判別しにくかったのだが、用語ルール変更のおかげで、仕事の担当が明らかになる。しつこいようだが、この用語混在はWindows 7のリリースまで続く。Vistaを使い続ければ、あと10年くらいはそのままだ。どうせなら、SevicePackなどで一気に変更してしまった方が、混乱が少ないように思う。

 インストールを開始すると、EULA同意のあと、更新用ファイルのダウンロードが始まり、コアコンポーネントのインストール、言語環境のインストールなどが続けて行なわれ、インストールの終了後は再起動をうながされた。再起動を指示すると、ログオフ後、3つの更新がインストールされてシャットダウンし、再起動する。ここまで、時間として10分程度だろうか。そんなに重いインストールという印象はない。

 ちなみに、Microsoftによれば、IE7とは置き換えになるが、コントロールパネルからアンインストールすることで、元の環境に戻すことができるということだ。

 再起動しても何も起こらない。成功したかどうかもわからない。最初は、自分自身の手で起動する必要がある。スタートメニューからIntenet Explorerをクリックして起動すると、初回起動時のウィザードが、いくつかのステップで、各種の新機能の設定をどうするかを尋ねてくる。どうするも何も、新機能がどういうものなのか、いまひとつわかっていないので、ステップごとに推奨設定を選ぶことになる。ここは、現在のWindows Media Playerのように高速設定の指示だけで、全部推奨設定にしてしまえばいいんじゃないかと思う。

 起動したウィンドウは、よく見ないとIE8になっていることに気がつかないくらいだ。ちゃんと観察すれば、アドレスバーの右にボタンが増えていたり、コマンドバーに「セーフティ」が追加されていたり、新たに「お気に入りバー」と呼ばれるバーが増えていることがわかる。また、複数タブを開いている場合、非アクティブなタブは緑色になっている。

 これを見ても、もう、MicrosoftはWindowsにドラスティックなGUIの変化をもたらすことはできないだろうし、するつもりもないことがよくわかる。これを大きく変えてしまったら、コモディティとしてPCを使っている多くのユーザーが混乱するだろうし、それはMicrosoftにとっても得策ではないからだ。つまり、IE8は新しい環境をもたらすけれど、それを見ようとしなれば、今までと同じ環境を得られるという「互換」も提供するわけだ。

●大幅な高速化で快適インターネット

 セールスポイント通り、レンダリングのスピードはびっくりするほど速くなった。2台のVista環境にインストールして、半日ほど使っているが、クラッシュすることもない。新機能として、タブごとに独立したプロセスで動いているため、どこかのタブでクラッシュが起こっても、他のタブを道連れにすることがないはずなのだが、それを再現しようにも、クラッシュそのものが起こらない。Microsoftのベータ版としては、きわめて安定したものと評価していいんじゃないだろうか。

 個人的には、とりあえず、1週間ほど使ってみて、調子がよければ、比較用に何か1つを残して、全環境をIE8に移行してしまおうと考えている。Vistaも最初からSP1実装状態で、IE8であれば、ここまでひどく嫌われなかったんじゃないだろうか。そのくらいこのカップリングは快適だ。この組み合わせならVistaを見直すんじゃないかと思う。

 なお、インストール後、以前の環境が変更されてわずらわしかったのは、Webページのデフォルトフォントが強制的にMS P ゴシックに変更されてしまったことくらいだろうか。ぼくはページの表示が崩れることを覚悟の上で、視認性の高いメイリオに設定しているが、これまた互換性のためなのだろう。それ以外は、いわゆる最初に表示される「ホームページ」のアドレスもそのままだし、検索ボックスの検索プロバイダーも、以前に設定したGoogleのままだった。

 新機能の詳細は、製品紹介ページにまかせるとして、細かい使い勝手がずいぶん良くなっていることを評価したい。派手な新機能は目新しいのだが、普段の使い勝手は重要だ。

 たとえば、ウィンドウ右上の検索ボックスだが、アルファベットなら一文字ずつ、日本語でも変換を確定すれば、その単語で、検索プロバイダーや履歴のページタイトル、検索履歴などから選ばれた候補が表示される。これは便利だ。

 また、アドレスバーでも、英数字や日本語の入力でオートコンプリートや履歴などの候補が表示されるようになった。たとえば、アドレスバーにwatchと入れれば、インプレスの各watchが全部候補として出てくる。これは、ぼくがWatchの熱心な読者の一人でもあるからだ。検索プロバイダーからの候補が表示されるかどうかの違いだけとなると、アドレスバーは表示中のサイトのURLの確認だけに使い、通常は検索ボックスだけを使えばいいかもしれない。

 短時間での利用では、ウェブアクセラレータが気に入った。ページ内で何らかの文字列を選択すると、選択部分にアクセラレータ用のアイコンが付加された状態になる。それをクリックすると、各種のウェブサービスを呼び出せるのだ。

 たとえば、「東京都千代田区三番町20」という文字列を見つけて、それをドラッグして選択、アクセラレータとしてGoogle MapsやLive Mapsを指定すれば、その住所の地図が別のタブとして開く。あるいは、ページ内の興味深い単語を選択して、アクセラレータとしてGoogleを呼び出せば検索結果が別のタブで開く。これまでコピー&ペーストでこなしてきた作業が、マウスポインタをほとんど動かさずにできるようになったのはうれしい。この機能は、検索プロバイダーへの検索語と同様に、XMLのOpenSeachフォーマットで行なわれるとのことで、各種のサービスはその気になれば、今夜からでも対応できそうだ。

●ページデザインの功罪

 いずれにしても、個人的にPCを使い始めたころ、もっとも長い時間使うソフトはフロントエンドプロセッサとしての日本語変換機能だった。ぼくの場合はMS-DOSの時代からKTISを経てATOK一辺倒だが、そのくらい、PCは入力が主たる業務で生産のための道具だった。

 PCに通信という要素が付加され、通信ソフトを長い時間使うようになり、今では、入力している時間よりも、IEでページをブラウズしている時間の方が圧倒的に長くなってしまった。ブラウザーは、PCにとって欠かせない環境となり、そして、異なるデバイスで動く異なるブラウザーの規範となる使命も帯びてきた。

 勝手が許されないのは当たり前だ。ウェブページのデザイナーも、そのことを心してほしいと思う。少なくともデザイン優先で見かけはカッコよくても、肝心の情報が伝わらないようなページは自粛するべきだし、地図で場所を確認するために、ウェブアクセラレータどころか、住所をコピー&ペーストしようにも、それがカッコよくGIFで表示されていて、わざわざ手入力しなければならないような馬鹿なページは淘汰されるべきだろう。伝えることに優先されるデザインはありえない。

□IE8のホームページ
http://www.microsoft.com/japan/ie8
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0828/ms.htm
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0725/ms.htm

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(2008年8月29日)

[Reported by 山田祥平]


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