●Eee PCの長所であり短所であるSSD
現在のミニノートPCブームのきっかけとなったのは、今年1月に国内発表された初代Eee PC(Eee PC 4G-X)だ。SVGAにも満たない解像度(800×480ドット)、4GBしかないストレージスペースといった制約の一方で、5万円を切る価格、B5判より小さく1kgを切るサイズ、可動部品のないSSDの標準採用といった点が評価され、ベストセラーとなった。 その発表から半年後、わが国での第2弾として発表されたEee PC 901-Xは、初代で見られた弱点の多くを改良したモデルだ。CPUを強化すると同時に、ディスプレイサイズと解像度を向上、バッテリ駆動時間も2.5倍近くに伸ばし、Bluetoothを標準装備するなど、さまざまな改良が加えられている。そんな中、Eee PC最大の弱点であり続けているのがストレージキャパシティだ。 上述のように、Eee PCシリーズはストレージデバイスとしてNANDフラッシュメモリを用いたSSDを採用している。Eee PC 901-Xでは初代の3倍の容量になってはいるが、それでも12GBしかない。一般的なノートPCが、120GB~160GBのHDDを搭載しているのに比べて一桁違う。しかもEee PC 901-Xの12GBは、Cドライブの4GBとDドライブの8GBに分かれており、使いこなしを難しくしている。普通のノートPCのつもりで使うと、アッという間に破綻してしまうだろう。 この弱点を克服するために、Eee PCシリーズではユーザーによる使いこなしが求められると同時に、さまざまな手法でストレージを強化することが試みられてきた。大容量SDHCカードや外付けUSBメモリの利用はもちろん、Eee PC 901-Xでは使われていなかったZIFソケットを用いたHDDの内蔵まで試みられている。が、どれも決定版とまでは言えなかった。 ●バッファローから登場した901-X専用SSD
そんな折り、バッファローが興味深い発表を行なった。Eee PC 901-Xが搭載する8GBのSSD(デフォルトではDドライブとして利用)と置き換え可能なSSDを発売すると発表したのだ。しかも価格は32GB版(型番SHD-EP9M32G)が16,000円、64GB版(同SHD-EP9M64G)が32,000円(いずれもメーカー希望小売価格)とかなりリーズナブルである。 その一方で、どうしてより容量制限のシビアなCドライブ側(4GBドライブ)の置き換えドライブは製品化されないのかなど、いくつか疑問もわいてきた。というわけで、名古屋のバッファロー本社にお邪魔して、このEee PC 901-X専用SSDについて取材させてもらうことにした。 発表されたSHD-EP9Mシリーズでまず不思議に思うことは、特定のノートPC専用SSDというニッチとも思える商品が、バッファローブランドから世に出るようになった経緯だ。1.8インチや2.5インチといった標準フォームファクタと異なり、Eee PC 901-XのSSDは独自基板を用いたモジュールとなっている。他社のノートPC、ミニノートPCでは使うことはできない。 だが、バッファロー側からすると、この専用モジュール対応はそれほど意外なことではないらしい。確かに、現在でこそメモリモジュールといえばJEDEC標準互換のDIMMを指すくらいだが、ほんの15年ほど前までは、メーカー毎に異なるモジュールを使うことが珍しくなかった。そしてバッファロー(当時はメルコ)は、その時代から個別のメーカーに対応した互換メモリを商品化していたのである。 Eee PC 901-X専用のストレージといっても、実際に使われているのはフラッシュという半導体メモリであり、専用メモリモジュールと呼べなくもない。いわば昔取った杵柄というわけで、それほど奇異な話ではないらしい。ただし、固有の機種専用のSSDだけを手がけるつもりもなく、年内には標準フォームファクタ(2.5インチHDDサイズか)SSDの発売もしたいということであった。 それはともかく、Eee PC 901-X専用のオプションということになると、その製造・発売元であるASUSTek Computerとの関係が気になる。専用モジュールということで、開発に際して協力等はあったのだろうか。答えは意外なことに、ほぼ何もなかった、ということである。 ただし、Eee PC 901-Xの内蔵SSDに使われているNANDフラッシュコントローラ(PS3006-L)のメーカーであるPHISON Electronicsとは、以前から付き合いがあり、サポートを受けられた、という。実際、SHD-EP9Mシリーズに使われているコントローラは、純正と同じPS3006-Lだ。バッファローはUSBメモリなど、フラッシュメモリ関連製品も多数製品化しているので、馴染みのない世界ではないのだ。 ●形状が異なる2つのSSD
さて、Eee PC 901-Xが搭載する2つのSSDのうち、Cドライブ用には高速で書き換え回数の多いSLC(Single Level Cell)チップを用いた4GBのモジュールが、Dドライブ用にはbyte単価の低いMLC(Multi Level Cell)チップを用いた8GBのモジュールが使われている。いずれもコネクタを介して取り外し可能なモジュールとして実装されているが、底面パネルを取り外すだけでアクセス可能なDドライブに対し、Cドライブは筐体を分解しなければアクセスできない位置にある。また、Cドライブ用モジュールは基板面積がDドライブ用の2/3程度しかない、という違いもある。 バッファローがCドライブではなく、Dドライブの置き換え用SSDを発売する理由として取材前に考えたのは、このアクセス性の問題だ。実際にはDドライブの交換に際しても、底面パネルを固定するネジをカバーする「Eee PC」のシールをはがす必要がある。が、Cドライブの交換となると、完全に底面パネル全体を外して、筐体を分解しなければならない。これはメーカー保証が受けられなくなる可能性が高い。 今回の取材で確かめたところ、このアクセス性の問題も間違いなくあるようだ。さらに、現時点でCドライブを置き換えるSSDの製品計画がない理由として、筐体を分解してまで交換したいというEee PC 901-Xのユーザーがどれくらい存在するのか、計りかねていることを挙げている。最低500人くらいいるのなら、ノーサポートの別ブランドを活用したり、限定販売などの手段も考えられなくもないが、せいぜい100人くらいではないか、というニュアンスだった。 しかし、Dドライブの置き換えドライブが製品化された最大の理由は、商品企画が国内販売されなかったEee PC 900でスタートしたことらしい。901-Xと異なりCeleron MベースのEee PC 900では、Dドライブだけがモジュラー構成で、Cドライブはオンボード実装だった。サードパーティが提供できる可能性があったのはDドライブだけだったのである。実際にはEee PC 900の国内販売は見送られ、国内2番目のEee PCとなったのはCドライブもモジュラー化された901-Xだったため、どうしてCをやらないでDなの、と思われるようになってしまった、というわけだ。 本稿執筆時点で、SHD-EP9Mの発売予定は9月中旬(その前にモニタ販売が行なわれる)で、Eee PC 901-Xの発表からは2カ月後のこととなる。製品企画がEee PC 900でスタートしたのなら、もう少し早く製品化できなかったのだろうか、とも思うのだが、どうやら本製品の企画は社内的に1回ストップがかかっていたようだ。台数の限定される特定ミニノートPCの専用ストレージという性質上、どのくらいの数が出るのか予測が難しいこと、ほかにもっと数量の見込める製品の企画が優先されたことが理由だ。危うくボツになりかねなかったわけだが、ゴーサインを出した甲斐があったと思いたい。いまのところ、予約状況は順調ということだが、発売後の売り上げも注目されるところだ。順調にいけば、海外市場への展開も想定しているという。 ●SLC使用のモジュールも開発中
なお、今回発表された製品2種は、いずれもbyte単価で有利なMLCチップを採用している。Eee PC 901-XのDドライブは、純正モジュールもMLCを採用しており、デバイスとしては同種ということになる。ただ、現時点でCドライブを置き換えるドライブについては、具体的な製品計画がない一方で、Dドライブの置き換え用にSLCチップを採用した16GB版の開発は進められている。 今のところ、発売時期、販売価格とも明らかにされていないが、単純にbyte単価から考えて、MLCの32GB版より高価になることは間違いないだろう。BIOSでCドライブとDドライブを入れ替え、16GB版からOSを起動する、といった用途には適していると思われるが、これまたどれくらいの需要があるのかは未知数だ。 バッファローでも、901-Xの市場価格が約6万円であることから、増設SSDへの投資は3万円ぐらいが適当だと考えているようだが、市場からSLC版への要望があるため開発を進めたそうだ。 こうしてSLC版がわざわざ用意されることでも明らかなように、性能面でSLCに優位性があることは間違いない。それは将来的にも変わることはないだろう。だが、本当にSSDが広く普及するには、byte単価で有利なMLCが主流になる必要がある。安価といわれるMLCでさえ、現時点ではHDDとはバイト単価が一桁以上違う。SSDがストレージの主流となるには、ムーアの法則による微細化に加え、現在主流の2bit多値から3bit多値、4bit多値へと記録密度を上げるなどして、少しでもbyte単価をHDDに近づけていく必要がある。 現在フラッシュメモリに使われているコントローラチップの多くは、製品単価の下落が激しいメモリカードやUSBメモリを前提に、低コストにウエイトが置かれている。しかし、SSDというアプリケーションが登場したことで、性能の改善を意識したり、エラー訂正機能を強化したコントローラチップも現れはじめている。特にMLCチップでも性能が出るコントローラが発表されているとのこと。今回の製品でも、USBメモリよりも高性能なコントローラが使用されている。 少なくともしばらくの間、性能、価格、信頼性、フォームファクタなど、SSDにはさまざまなバリエーションが考えられる。バッファローのようなサードパーティが活躍できるチャンスは十分ある、ということのようだ。 このところ、寡占化や標準化の進行で、変わった製品が登場することが少なくなった周辺機器分野において、今回のEee PC 901-X用SSDは、かなり冒険をしている製品といえる。SSD製品に限らず、周辺機器分野全般で面白い製品が出てくるためにも、市場で成功してほしいと願っている。 □関連記事 (2008年8月18日) [Reported by 元麻布春男]
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