発売中 価格: アイリバージャパンの電子辞書「D5」は、カラー液晶を搭載したコンパクトタイプの電子辞書だ。33のコンテンツを搭載するほか、マルチメディア機能をふんだんに搭載しており、音楽や動画の再生が行なえることが特徴だ。 ●マルチメディア系機能を搭載したアイリバー初の電子辞書 アイリバー初の電子辞書となる「D5」は、スーツのポケットにすっぽりと収まるサイズのコンパクトな電子辞書だ。電子辞書としては珍しいカラーTFT液晶を搭載しており、音楽や動画の再生といったマルチメディア機能を利用できることが大きな特徴となっている。 国内の電子辞書市場は、これまで長らく新規メーカーの参入がない状態が続いており、カシオとシャープという2強をセイコーインスツル・キヤノンの2社が追撃するという構図になっていた。これら国産電子辞書メーカーの製品に1つ共通しているのは、シャープのワンセグ電子辞書のような特殊なモデルを除き、マルチメディア系の機能は部分的に搭載されてはいるものの、本格的な利用には厳しいという事実だ。 マルチメディア機能が中途半端である理由の1つとして、専用端末並みの機能を搭載してしまうと、学習を目的とした電子辞書のコンセプトから外れてしまい、結果として教育市場に対して販売できなくなる可能性が挙げられる。動画再生機能を搭載→授業中に動画を見る学生や生徒が増加→電子辞書そのものが利用禁止、といった事態は、メーカーにとって何よりの恐怖だろう。 また、ハードウェア的な問題もある。現在の電子辞書に採用されているCPUは、動画などのコンテンツをスムーズに再生できるほどのパワーは持っていないと考えられる。ただでさえコンテンツのライセンス料が原価を圧迫する中、ハードウェアのパワーアップを行なうことは、市場が求める価格とのバランスが取れなくなることを意味している。 今回アイリバーから登場した電子辞書「D5」は、こうしたジレンマに陥っている国産モデルとは一線を画し、音楽/動画・静止画データの再生や、FMチューナ機能、ボイスレコーダ機能、さらにアドレス帳や住所録といったPIM系の機能をふんだんに盛り込んだ製品だ。電子辞書としても33コンテンツを搭載するなど、相応のスペックを持っており、国産電子辞書メーカーの製品との差が気になるところだ。 モデルのバリエーションは豊富で、ボディカラーが「ホワイト」、「ブラック」、「ピンク」の3色で展開される。また、内蔵メモリは2GBと4GBの2種類が用意される。残念なのは、4GB搭載モデルはアイリバーのオンラインショップ限定モデルで、店頭では販売されないことだ。上位機種はオンライン限定というのは、よくある戦略だが、2GBモデル(39,800円)プラス5,000円という価格差と、店頭での値引きやポイント還元を考えると、モデル選択には悩むかもしれない。今回はブラックの4GBモデルを購入した。 ●手のひらサイズのコンパクトな筐体にカラー液晶を搭載 まずはハードウェアから見ていこう。 本体は文字通り手のひらサイズという表現が似合う大きさ。前回紹介したSIIの「SR-G7000M」よりも一回りコンパクトで、胸ポケットにも十分収まるサイズだ。ヘアライン加工を施されたガンメタルの筐体は、成型も丁寧で高級感がある。ちなみに重量は約133gと、電子辞書としては軽量ながらも、本製品のサイズにしてはずっしりと重い。 液晶は3.0型。携帯電話とほぼ変わらない画面サイズだが、カラー表示、かつ480×272ドットという高精細液晶の採用により、国産のモノクロ電子辞書と比べても画面の美しさは際立っている。透明感のあるアイコンやメニューのデザインは、MP3プレーヤーなどを手掛けている同社のノウハウが十分に活かされている。 キーボードは標準的なQWERTY配列だが、コンテンツを直接呼び出すためのファンクションキーは他社製品より少ない。また、ESCキーやBACKキー、MENUキーなど多用するキーが色分けされていないなど、使い勝手よりもデザインを優先した感が強い。キータッチそのものはしっかりとした感触があり、チープな印象はまったくない。キーサイズは約8mmと大きくはないが、親指で打鍵するのであれば妥当なサイズだろう。 音声出力機能はイヤフォンのみで、スピーカーは搭載しない。後述の音楽、動画、FMチューナといったマルチメディア機能を利用する際は、イヤフォンは必須となる。 本体左側面にボリューム、右側面に再生/一時停止/送り/戻しといったマルチメディアコンテンツの操作キーを搭載しており、上蓋を閉じた状態でも基本操作が行なえる。とはいうものの、専用キャリングケースに収納した状態では右側面の操作しか行なえず、左側面にあるボリュームの操作は行なえない。優れた機能だけにもう一工夫ほしかったと感じる。 電源はリチウムポリマーバッテリを採用しており、USB経由で充電を行なう仕組みになっている。駆動時間は辞書利用時で11時間、動画再生時で4時間と、決して長いとは言えない。携帯電話並みと考えれば十分だが、電子辞書として他製品と比べる場合は、どうしてもネックになってしまう箇所だろう。 ●電子辞書としての基本機能はほぼ網羅 次にメニューとコンテンツについて見ていこう。 メニューは縦方向のタブ切替方式。「国語系」、「英語系」、「会話」、「ビジネス」、「マルチメディア」、「電子手帳・設定」の6つのタブに分かれて配置されているが、このタブ切替の操作方法がややクセモノで、上下左右キーではなくMENUキーまたはPageUp/Downキーでタブを選び、タブ内のコンテンツを上下左右キーで選択するようになっている。これほどコンパクトな筐体であるにもかかわらず、コンテンツの選択が上下左右キーのみで完結せず、両手を使わなければいけないのはやや疑問だ。 もっとも、高精細液晶を生かした画面表示は非常に洗練されていて分かりやすい。バッテリ残量や日時のほか、現在できる操作がアイコンなどで分かりやすく表記されており、今の画面で何ができるのか直感的に把握できるようになっている。 画面は、リスト式、縦プレビュー、横プレビューの3種類に切り替えられるなど、細かなカスタマイズが可能。また、今日の電子辞書ではほぼ標準となっている、一括辞書検索、My辞書登録、履歴表示、単語帳登録、ジャンプ機能といった機能も一通り網羅しており、国産の電子辞書と比べても遜色はない。 コンテンツ数は33。いわゆる総合モデル的な構成で、新明解国語辞典や漢字源を中心とした国語系コンテンツや、ジーニアスやOxfordを収録した英語系コンテンツのほか、旅行会話、ビジネス向けコンテンツを収録する。ただ、全体的には広く浅くといった感じで、本格的な学習目的や、ビジネスユースにはちょっと厳しいのではないかと感じる。後述するマルチメディアコンテンツを中心に利用するならともかく、電子辞書として本格的な利用を考えるのであれば、購入前にコンテンツの内容は吟味するほうがよいだろう。
なお、電源周りで気になった点が2つ。1つは電源投入後、スタートアップ画面で10秒弱待たされることだ。国産の電子辞書のすばやい起動に慣れてしまっている身としては、この10秒という時間はかなり苦痛である。もっとも、いわゆる電子辞書の利用経験がなく、PDAなどデジタルガジェットの延長として本製品を使う場合はあまり気にならないかもしれない。 もう1つは、USB経由での充電中はまったく操作を受け付けないこと。バックグラウンドで再生していた音楽が停止するのはもちろん、辞書機能も利用できなくなってしまう。つまり外出先でバッテリがなくなり、その際に幸運にもUSB経由で充電できたとしても、実際の充電中はまったく利用できなくなってしまうのだ。駆動時間そのものも短いだけに、やや気になるポイントだ。
●音楽再生およびFMチューナ機能を装備。FMは録音も可能 さて、本製品はマルチメディア系の機能の多さがウリになっている。音楽再生/FMチューナ機能から順に見ていこう。 現在、国産の電子辞書に付属しているMP3再生機能は、あくまでも学習用途がメインである。ネイティブ音声以外のサウンド、つまり音楽を再生した場合は音質がよくなかったり、レジューム機能がなく電源OFF後に続きから再生できなかったりと、音楽プレーヤーとして見た場合は明らかに物足りない面があった。その点、本製品が備えるそれは、NORMAL、POP、CLASSIC、JAZZといった12種類ものイコライザーが利用できるほか、アルバムアートの表示にも対応した本格的な音楽再生機能である。 音楽は、添付のソフト「iriver plus 3」を用いてCDからリッピングできるほか、既存の音楽ファイルをエクスプローラ経由でコピーすることも可能。MP3のほか、ASF、WMA、OGGの各形式をサポートするなど、対応ファイル形式は幅広い。プレイリスト方式を採用しており、本製品側で新規にプレイリストを作って音楽を楽しむこともできる。辞書コンテンツを利用しながらの再生や、本体上蓋を閉じた状態での再生にも対応している。 また、音楽再生機能以外にも、FMチューナ機能が付属しており、録音まで行なえるようになっている。受信感度はあまり高くないと感じたが、自動チューニング機能など、一通りの機能は揃っており、通勤通学などのお供として活躍してくれそうである。ちなみに、イヤフォンコードをアンテナとして利用するため、本機能を利用する際はイヤフォンコードが必須だ。
●写真/動画の再生が可能。動画変換には知識が必要 続いて写真表示・動画再生機能について見ていこう。前述のように、本製品は2GBもしくは4GBの本体メモリを備えているおり、画像や動画のストックにも充分な容量を持っている。 まずは写真表示。これはJPEG、GIF、BMP形式の各画像を閲覧する機能だ。スライドショー機能のほか、壁紙として使う機能も付属するなど、なかなかPCライクである。電子辞書機能を使わない場合に、机の片隅に置き、フォトスタンドとして利用するというのもありだろう。 表示方式については、リスト+サムネイル、またはサムネイルで一覧を表示し、見たい画像をクリックすると拡大表示されるという流れ。ファイルサイズが数MBほどある場合、サムネイルの時点まではサクサクと表示されるが、全画面表示しようとすると途端に重くなるので、フォトアルバムとして利用する場合は、転送前にあらかじめリサイズしておくことをお勧めする。 続いて動画再生についてだが、MPEG-4形式の動画を本製品に転送し、再生することが可能になっている。ただし、エンコーディングにあたって非常に制限が多い上、添付のソフト「iriver plus3」が動画変換をサポートしないという、事実上のノンサポート状態であるため、動画エンコードの知識がないユーザが使いこなすのはまず不可能だ。 現状では、メーカーサイトのサポーターズコラムで紹介されている「MediaCoder」を用いた変換方法がおすすめだ。生成された動画データを本製品に転送するには、前述の「iriver plus3」を用いる方法もあるが、エクスプローラ上でドラッグ&ドロップしたほうが簡単だ。
いくつか動画を作って試してみたが、動きが多い動画でもコマ落ちなどはなく、快適な視聴が可能だ。画面サイズがそれほど大きくないことを除けば、レジューム機能にもしっかり対応するなど、いわゆる動画プレーヤーとしての主要な機能に不足はない。通勤や通学の際のパートナーとしてはぴったりだろう。 ●PIM系機能を搭載するも、漢字入力に非対応 このほかにも本製品は、さまざまなマルチメディア系の機能や、メモにアドレス帳、住所録といったPIM系の機能を搭載している。 「ボイス機能」は、本体内蔵のマイクを利用し、身近な音声をMP3形式で録音できる機能だ。ボタン長押しで録音スタートという操作系はやや独特だが、会議や授業などをちょっと録音するには便利な機能と言えるだろう。ただし録音中はほかの機能は利用できないので、授業で電子辞書を使いながら録音することはできない。 メモやアドレス帳、住所録、時間割、スケジュールといったPIM系の機能も豊富だが、本製品が漢字入力に対応していないため、平仮名およびアルファベット、数字での入力となる。機能の豊富さ自体は評価されてしかるべきだろうが、実用性はあまり高くない。ちょっと無理をしすぎた印象もないではない。
●電子辞書よりもむしろ携帯電話とバッティングする製品 ざっと見てきたが、電子辞書というよりも、割合で言うと「電子辞書5:マルチメディア機能5」くらいに感じられる製品だ。マルチメディア機能はそれだけ強力で、電子辞書というよりは、辞書機能を搭載したマルチメディア端末、といった表現のほうが正しそうだ。また、試用前に抱いていた印象に比べると、電子辞書機能も押さえるべきところは押さえており、致命的なウィークポイントは見当たらない。また、見た目のコンパクトさや高級感など、店頭で訴求できる要素も多い。 国語系の辞書コンテンツの弱さはいかんともしがたい上、CSD(Compact Shared Document)ファイルの再生機能のように具体的な使い方が提示されていない機能があったり、動画変換が本製品だけで完結していないといったマイナス面は存在するが、国産の電子辞書と同じ土俵で戦えるだけの力は十分に持っている。大学生協や書店など豊富な販売網を持つ国産の電子辞書といきなり良い勝負をするとは思えないが、本格的なマルチメディア機能を搭載できない国産の電子辞書と並べた時、消費者がどのように本製品を評価するかは非常に興味深い。 ただ個人的には、マルチメディア系の機能の多くが、携帯電話とバッティングしていることが気にならないでもない。昨今の携帯電話は、音楽や動画の再生機能、FMラジオなど、本製品にも搭載されている各種マルチメディア系の機能を網羅してきているほか、本製品にはないワンセグ機能を搭載しており、さらに通信機能がデフォルトで付属と来ている。画面サイズのアドバンテージがそれほどあるとは言えない本製品が、これら製品とどう戦っていくかにも注目したい。
【表】主な仕様
□アイリバーのホームページ (2008年8月4日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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